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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第7章 大陸暦1153年
129/160

129 女神降臨

 次の日、エリカ(アヤメ)アリス(ボタン)は冒険者ギルドへ、俺とリズ(キク)は耶蘇教の教会を訪れることにした。

 冒険者ギルドでは、俺達の冒険者ランクがどうなるのか、あと侵攻部隊への参加条件なんかを聞いてもらう。俺とリズ(キク)兄妹(きょうだい)(よそお)って、教会の大聖堂で祈りを捧げさせてもらうつもりだ。

「サブロウ兄ちゃんとデートだね。そういや、アヤメ姉ちゃんとボタン姉ちゃんのどっちと結婚するの?」

「おいおい、妹よ。いきなり何を言いだすんだね。そうだな、キクはどっちが良いと思う?」

「両方!」

「はは、両方かぁ。それはハーレム展開ってやつだな。その場合、一夫多妻制の国に移住しないといけないな」

 フルルーフ王国は一夫一妻制だけど、ターナ大陸の中には一夫多妻制の国も多夫一妻制の国もあると学校で習ったよ。

「はあれむてんかいってのがよく分からないんだけど、できれば、おいらもそこに入れて欲しいです。ダメかな?」

 顔を赤らめて、もじもじしながら発言するリズ(キク)に俺も真顔で返した。

「良いとも。キクも今では俺の大事な家族だからな。祖国に帰るときには一緒に連れていくつもりだぞ」

「ありがとう、サブロウ兄ちゃん!」

 満面の笑みでスキップし始めたリズ(キク)を見て、ほっこりした俺だった。あれ?今のって『ハーレムの一員に入れて』って意味じゃないよね?いや、まさかね。


 耶蘇教の教会は、まさにカトリックの大聖堂って感じで荘厳な建物だった。

 俺達は教会の中に入ると、そこにいたシスターさんに尋ねた。

「お祈りをしたいのですが、誰でもできるのでしょうか?」

「もちろんですよ。偉大なるデウス様は来るものを(こば)んだりは致しません。どうぞご存分にお祈りを(ささ)げられてください」

 俺は、大きな十字架とその前にある聖母マリア像と(おぼ)しき女性の像の前に(ひざまず)き、両手を組んでから目をつぶり頭を下げた。リズ(キク)は、その俺の仕草を見て真似(まね)ている(ような気配がする)。

 普通ならすぐに女神が話しかけてくるんだけど、何も反応が無い。やはりダメかな?諦めかけたとき、遠くからとても小さな声らしき音が聞こえてきた。その声は少しずつボリュームが大きくなっていき、ついには聞き取れるくらいの音量になった。


『久しぶりですね。ちょっと信じられないことですが、あなたの声が聞こえてきましたよ。どうです?私の声も聞こえていますか?』

 ええ、聞こえています。ちょっと泣きそうです。

『まさか耶蘇教の教会を経由して意思疎通できるとは、この世界の創造神である私も知らなかったですよ。いや、ほんと驚きです』

 やっぱ、残念な女神だわ。なんで知らなかったんだよ。

『いくら全知全能とは言っても知らないこともありますよ』

 それって「全知」ちゃうやん。ああ、こういうツッコミも懐かしい。俺の周りにはボケ担当がいないから、ツッコミができなくて寂しく感じていたのだ。

『それって私をボケだと言ってませんか?ほんと失礼な使徒ですね』

 こういう雑談をしていると、思わず涙が出てくるよ。


 それはともかく、アルトンヴィッヒ共和国の首都に到着しましたよ。俺達はこれからどうすれば良いんですかね?

『侵攻作戦はすでに議会で可決され、動き出しています。もしも王制や帝政、独裁国家だったらトップを暗殺するか脅迫するかして、侵攻作戦を止めることもできるのですが、この国では無理ですね。大統領や首相を暗殺しても、作戦は実行されてしまうでしょう』

 …って、また女神のくせに不穏な発言をしてやがりますね。暗殺とか脅迫とか…。

『一人を殺すことで100万人が助かるなら、当然殺すことへの正当性が生まれますよね。「カルネアデスの板」の法理です』

 あー、緊急避難の考え方ですか。まぁ、確かに魔物暴走(スタンピード)を暗殺で止められるなら、俺の手を汚しても良いかなって気にはなりますね。

『まぁ、それは無理なので、魔物暴走(スタンピード)はほぼ100%発生します。もはや、この未来は変えられません』

 ああ、ということは俺がこの国まで来た意味も無くなったということですか。我が国にも魔物暴走(スタンピード)は到達しますかね?

『まずは大マイゼン川に沿って南下し、スターディアという街を蹂躙したあと、海岸線まで到達した魔物達はそこから東西に分かれます。東のラトネシア皇国、西のテトレドニア公国を蹂躙したあと、その勢いは止まらず、あなたの祖国であるフルルーフ王国まで進むことでしょう』

 380年前のように勇者を召喚できませんか?

『無理です。前回の召喚からの期間が短すぎて、召喚するための力が溜まっていません。せめて、あと100年後だったら勇者召喚できたのですが…』


 ・・・


 そうですか…。それじゃあ仕方ないですね。俺が大きな鉄製の車輪を生成して、それをバリケードに魔物暴走(スタンピード)を止めますよ。止まるかどうか分からないけど。

『いや、それだとあなたが死にますよ』

 俺一人の命で100万人が助かるなら、そうすべきだと思います。別にヒロイズムに(ひた)っているわけじゃありませんよ。ただの自己満足です。

『ある程度の勢いを()ぐことは可能ですが、魔物暴走(スタンピード)自体は食い止められないでしょうね。何億もの魔物の圧力は人ひとりの力で止められるものでは無いのですよ。勇者は別として…』

 そうか、無駄死にになるかもしれないのか…。それでもやれることがあるなら、やっておきたい。俺は諦めが悪いんだ。

『逃げても良いんですよ。ここまで来たら、もはや手遅れですからね。あなたへの使命はキャンセルします』

 それじゃあ、使命とは関係なく俺の意思で食い止めますよ。ただ、心配なのがエリカとアリス、それにリズですね。彼女達を死なせたくないのですが、自然に俺から離れていくような良い方法って無いですかね?

『ハーレムの(ぬし)が何を言ってますか。無理に決まってるでしょう。あなた自身が逃げるか、彼女達も巻き込んで全員死ぬかの二者択一です』

 くっ、それはツライな。究極の選択ですね。

『陰茎切断と睾丸潰しの二択よりはずっとマシですけどね。ふふふ、あれ、私も見てましたよ』

 あのツライ去勢作業をせっかく忘れかけてたのに、思い出させんな。てか、なぜシリアスの神様は常駐してくれないのか…。すぐにコメディの神様が割り込んでくるんだけど…。

『まぁ、まだ時間はあります。すぐに結論を出さずにゆっくり考えなさい。彼女達とも相談するのですよ』


 俺は顔を上げて祈りの体勢を解いた。どうやら知らず知らずのうちに涙が流れていたようだ。心配そうに俺を見つめるリズ(キク)やシスターさんに微笑んで、心配ないことをアピールした。俺は10万モンをシスターさんに渡して言った。

些少(さしょう)ですが、寄付としてお納めください。また寄らせていただきます」

 10万モンって100万エン分だからね。かなり気前の良い敬虔(けいけん)な信者だと思われたことだろう。


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