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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第7章 大陸暦1153年
125/160

125 狩猟依頼

 風呂は温泉…ってことはなく、普通の薪で沸かす風呂だった。でも(ひのき)風呂だったので、大満足だ。

 とりあえず夕食を宿で()ることにして、四人分の食事を女性達の部屋に準備してもらった。和食かな?醤油や味噌もあるかな?あと、米!めっちゃ楽しみだ。

 んで、結論から言うと、パンと肉とスープの極めて一般的な食事だった。和食じゃなかったよ、残念…。まぁ、普通に美味(おい)しかったけど。

「それで、これからの方針は?どうやって未開拓領域への侵攻作戦を中止させるの?」

「あー、実は何も考えていない。作戦開始時期も不明だし…。まぁ、成り行き任せかな」

 エリカ(アヤメ)の問いに答えると、(あき)れた顔で見られた。

「とにかく、首都にいれば何か街の噂話なんかの情報が入ると思うよ。特に、冒険者ギルドには情報が集まるはずだしね」

「サブロウ兄ちゃん、おいらも街で【鑑定】を使いまくって、侵攻作戦に影響を与えそうな人がいないか探してみるよ」

「ああ、ありがとな。要するに街の観光をしたり、冒険者ギルドで依頼を受けたりしていれば良いんじゃないかってことだな」

 俺達は政府にコネも無ければ、教会にも協力を要請できない。要するに、できることは限られてるし、だったら今できることをやるしかないのだ。


 翌日、俺達四人は街の観光も兼ねて、徒歩で冒険者ギルドに向かった。

 30分くらい歩いたけど、宿の選定に後悔は無いよ。畳とその上に敷かれた布団は最高だ!

 ギルドの一角には大きな掲示板があって、そこには様々な依頼書が貼り出されていた。俺達がそれらを眺めていると、後ろから声をかけられた。

「サブロウじゃないか。ちょうど良かった。ギルドに伝言を頼もうかと思っていたところだ」

 『白狼』リーダーのイチロウさんだった。

「イチロウさん、おはよう。俺に何か?」

「ああ、自称傭兵団の盗賊達だが、あいつらの馬や鎧、武器なんかを売り払った代金をうちの『白狼』と君達の『めがみん』で山分けしようと思ってな」

 それなりの量だったから結構な金額になったのかもしれないね。まぁ、俺達は別に分け前はいらないんだけど。

「どのくらいの金額になった?」

「聞いて驚け。200万モンだ。ざっくりとした内訳は、馬1万モン×50頭、鎧や剣、弓矢等の武具が3万モン×50人って感じだな」

 えぇ、それはすごい。2000万エン分か。


「本当はこれに盗賊退治の報奨金なんかもあるんだが、まだ査定が終わってないそうだ」

「なるほど」

「でだ、一度うちのメンバーと君達のメンバー全員で分配の話し合いをやって、そのあと飲み屋で打ち上げでもやらないか?」

 実力のあるパーティーと親密になっておくのは、新人冒険者としては願っても無いことだね。

「じゃあ、俺達の宿屋でどうかな?ここから半()ほど離れているけど、()の国旅館っていう平屋建ての建物だよ。知ってるかな?」

「もちろん、知ってるとも。ニッポン風の宿屋だよな。その近くにちょっと高級な食事(どころ)があるから、俺のほうで夕飯7人分を予約しておくよ」

 他人の口からニッポンという単語を聞くと、なんだか感無量になるね。

「ありがとう。それじゃあ、話し合いはそんなに時間はかからないだろうし、夕方5時くらいに宿のほうへ来てくれ。それまでには俺達も宿に戻っておくようにするから」

 こうしてイチロウさんは去っていった。多分、パーティーメンバーのゴロウさんとエマさんに今の話を伝えるためだろう。


「さて、それじゃ、俺達はどうする?夕方まではかなり時間があるけど…」

 まだ、朝の8時くらいだからね。

「サブロウ兄ちゃん。なんか簡単な依頼をやってみたいんだけどな、おいら」

 リズ(キク)が言うと、エリカ(アヤメ)が一枚の依頼書を指さした。

「だったら、これなんかどうかしら。多分5時間くらいあれば達成できそうよ」

 その依頼書を見てみると、野生の牛の狩猟依頼だった。この世界、畜産技術が発展していないので、食用の肉は野生のものを仕留めるしかない。牧畜をやっていないからだ。

 なので、この国では冒険者が狩猟を()()う形になっている。フルルーフ王国ではそれを狩人(ハンター)が行うんだけどね。

「首都郊外への往復に2時間、狩猟に3時間ってところか。早く発見できれば狩猟時間はもっと短くて済むかもね」

 お手頃で報酬も割と良い。野良牛一頭を仕留めるだけで3万モンの報酬だ。これは肉を解体して、人が背負って運ぶ(または馬に乗せて運ぶ)手間が大変だからだ。労力を考えると3万モンは安いかもしれないね。

 しかし、俺達にはマジックバッグがある。血抜き、解体なんかを現地でやる必要もなく、丸ごと一頭を収納して持ち帰れば良いというお手軽さ。なにしろ、バッグの中は時間経過無しだから、超新鮮な状態で納品できるよ。

 群れでいたりしたら2、3頭くらい狩っても良いよね。


 俺達は依頼書を掲示板からはがし、受付に持って行った。てか、長い列の最後尾に並んだ。

「牛の狩猟依頼ですね。6級冒険者ではうまく倒せるか心配ですね。さらに倒せたとしても解体できますか?解体しないと運べませんからね。あと、荷運びを専門に行うポーターを手配しますか?」

「解体せずにそのまま納品しても良いですか?」

「はぁ?…ああ、失礼しました。ええ、それでも大丈夫ですが、できないことは言わないようにしてくださいね」

 若者は仕方ないなぁ、馬鹿者かよ…って感じの目で見られたよ。美人受付嬢の(さげす)んだ眼差(まなざ)しは、一部の人達にはご褒美かもしれないね。あ、俺は違うよ。


 俺は受付に身を乗り出し、受付嬢の耳元に(ささや)いた。

「これは内緒にしてほしいのですが、俺はマジックバッグを持っています」

 受付嬢のお姉さんは両手を口に当てて、叫び出すのをなんとかこらえているようだ。

「牛一頭が丸ごと入ると?」

 50立米(りゅうべい)(立法メートルのことね)と言っても通じないような気がする。えーっと、一斗缶(いっとかん)がだいたい1才(ミカン箱のサイズ)よりちょっと小さいくらいだから、容積的には、50立米(りゅうべい)は2000()くらいかな?…ってことは、200(こく)か。

「ええ、およそ200(こく)ほど収納できますよ」

「そ、そんなに?だったら、できれば5頭くらい狩って持ち帰っていただけると助かります。食肉は常に不足気味ですので…」

「ええ、もし運良く群れでも見つけられれば、多めに狩ってきますよ」

 終盤の会話は周りに聞かれないように、お姉さんとめっちゃ近い距離でこそこそ話していたため、周りの野郎どもからの嫉妬の視線を浴びまくった俺だった。つ、ツライ。


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