124 旅館
ロデアに着いてから隊商リーダーさんはすぐに治療院に送られ、犯罪者は官憲に引き渡され、『白狼』の皆さんは冒険者ギルドで依頼達成報告があるとのことで、俺達と別れた。俺の旅にはなぜ平穏という言葉が当てはまらないのだろう?なにかしらのトラブルが発生するのは、俺が『女神の使徒』だから?もはや呪いレベルと言っても良いような…。
まぁ、気を取り直して、とりあえずは拠点となる宿屋を探そう。風呂にも入りたいし…。あ、大量の馬達は商会の人が引き取ったんだけど、エリカをここまで乗せてきてくれた農耕馬もついでに引き取ってもらったよ。
ロデアの街はこの国の首都だけあって、かなりの賑わいだ。道幅の広い大通りの左右には3階建てや4階建ての建物が建ち並び、かなりの都会であることが分かる。
その中にちょっと異彩を放つ建物があった。平屋の日本家屋だよ。思わず吸い寄せられるように近付いていくと、表の看板には日本語で『肥の国旅館』と書かれていた。
「皆、宿をここに決めたいんだけど良いかな?」
「ここって宿屋なの?看板には変な記号しか描かれてないわよ」
「大丈夫、ヒノクニ旅館って書いてるから」
またもやエリカさんにジト目で見られたけど、嘘じゃないよ。
旅館の中に入っていくと、玄関先には『靴を脱いでスリッパに履き替えるように』という立て看板が置かれていた。いや、それは良いんだけど、その文字もまた日本語だったよ。はたして読める人はいるのかな?
「皆、ここで靴を脱いでね。代わりにこれを履くように」
俺は全員分のスリッパを玄関先に並べてあげた。
そこへ旅館の人がやってきた。
「お客様方、申し訳ありません。少しこの場を離れておりました。あれ?すでにスリッパを履いている?よく看板の文字が読めましたね」
「ああ、すみません。勝手にしてしまって。四人でとりあえず一週間ほど泊まりたいんですが、部屋の空きはありますか?男女別で…」
てか、スリッパって四郎さんの時代には無かったよね?別の転生者か転移者かな?
「はい、女性の方々全員で一部屋でよければ大丈夫ですよ。男性の方のお部屋は少し狭くなりますけど」
「一泊の料金はいかほどになりますか?」
「女性のお部屋が一泊4000モン、男性のお部屋が2200モンになります。なお、申し訳ありませんが、食事は別料金となります」
おお、高いな。四人で一泊6200モン、つまり6万2千エンか。一週間だと約43万エンだね。でも俺はここに泊まりたい。なぜなら部屋には畳がありそうなんだもん。畳の上で寝っ転がりたい!
「それで構いません。一週間分を前払いしておきます。43400モンですね」
「ああ、でしたら43000モンにさせていただきます」
俺はすぐに宿代を支払い、部屋へと案内してもらった。そして、歓喜に打ち震えることになる。
部屋の入口でスリッパを脱ぎ、俺は畳の上へとダイブした。仲居さんは女性達のほうへ行ったので、こちらは俺だけなのだ。思う存分、畳の上をゴロゴロと転がって、ふと気付くと部屋の入口からエリカが覗いていた。…うう、気まずい。
「あ、あー、これはだね、畳の上での作法と言うか、そう、礼法小笠原流なのだよ」
はい、もちろん嘘です。小笠原流の皆様、ごめんなさい。
「そのオガサワラ流というのが何なのか知らないけど、あんたが嘘を言ってるってことは分かるわ」
魔法を使わずに見破られたよ。さすがです、エリカさん。




