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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第7章 大陸暦1153年
122/160

122 傭兵団

 この国でも街道上の宿場町は整備されているみたいで、野宿することもなく、旅は極めて順調に進んでいる。野宿だと夜中に交代で不寝番を務めなきゃならないため大変だけど、出発してから二週間、その心配はない。もう、半分以上は進んだかな。

 俺達は『白狼』の人達とすっかり仲良くなっている。特にリズ(キク)は人気者だ。宿屋の裏庭で夜寝る前に剣の稽古をつけていると、イチロウさんも一緒になって指導してくれているよ。ちなみに、剣の流儀は俺が父上から学んだものと、この国の剣術では微妙に違っていた。俺としてもすごく勉強になる。

 エマさんはエリカと魔法師同士打ち解けていて、話が合うみたいだ。

 ゴロウさんはアリス(ボタン)を何かと気にかけている。最初はロリコン疑惑もあったけど、どうやら故郷に歳の離れた妹がいるらしくて、アリス(ボタン)に自分の妹を重ね合わせているみたい。ロリコン野郎じゃなくて安心した。てか、ゴロウってことは五男だよね。しかも妹までいるって、どんだけ子沢山(こだくさん)な家族だよ。


 俺はトラブルエンカウント率が異常に高いと自覚している。しかし、今回はどうやら何事もなく首都ロデアに着けそうだな…と思っていました(過去形)。うーん、そう思うこと自体がフラグを立てる行為なのか?要するに、またもやトラブルが発生した。

 俺達の行く手に軍隊が出現したのだ。ざっと見て50人くらいか?全員が騎乗している。

 指揮官らしき人間が進み出て、隊商(キャラバン)のリーダーさんに話している。

「臨検を行う。おとなしく指示に従え」

 どうやら積み荷の検査のようだ。

「何事ですか?あなた方は本当に正規の軍人なのでしょうか?臨検を許可する書類を提示していただきたい」

「これが書類だ」

 そう言うと抜剣(ばっけん)して袈裟懸(けさが)けに剣を振りぬいた。は?いきなり斬り捨てやがった。

 血しぶきをあげて隊商(キャラバン)のリーダーさんが倒れると、軍人(?)達は俺達を包囲するように馬で左右に展開し始めた。

 人数的にはとても勝ち目はない。まぁ、俺達がいなければ…だけど。

 イチロウさんが進み出て指揮官に言った。

「お前らは盗賊団ってことで良いんだな?もし引くのなら、見逃してやっても良い。それとも官憲に捕まりたいのか?」

「はっ!この人数差で勝てるつもりか?俺達はリュウゾウジ傭兵団の者だ。ここにいる全員を皆殺しにするから捕まる心配はねぇな。おっと女がいるじゃねぇか。女だけは殺さずに俺達で可愛がってやるぜ」


 圧倒的な戦力差なんだけど、『白狼』のイチロウさんもゴロウさんもエマさんも(あせ)っていない(ように見える)。さすがは2級と3級の冒険者って感じだ。

「ボタンとキクそして俺は、アヤメの周囲に展開して輪形陣をとる。絶対に突出して陣に穴を開けるな。アヤメは降りそそぐ矢に対して魔法で防御。とにかく、最初は守備的に戦い、敵の数が減ってきたら随時攻撃に転じる。良いか?」

「「「了解!」」」

 正式に護衛依頼を受けていたら商会員達を守ることを優先すべきだけど、俺達が考えるべきは、足手まといにならないように、あと、捕まって人質にならないようにすることだけだ。

 とにかく『白狼』の人達の足を引っ張らないこと。それだけを考えていれば良い。なにしろ6級の新人冒険者だからね。


 2級の冒険者の剣技は凄まじく、イチロウさんと対峙した敵兵があっという間に三人倒れ伏した。

 ゴロウさんの弓矢も敵後方の弓部隊を的確に射抜いている。

 エマさんの火魔法による火球が発射され、敵兵を数人まとめて火だるまにしている。

 ここまでは冷静に観察できていたんだけど、俺達のほうへも敵がやってきたため、『白狼』メンバーを気にしている余裕は無くなった。

 俺の身体強化の活動限界は10分(できれば筋肉痛にならない5分以内で片付けたい)、リズ(キク)は身体強化ができないので、俺がフォローしてあげないといけないな。アリス(ボタン)は、まぁほっておいても大丈夫だろう。俺より強いし…。

 魔力付与を行った木刀をふるって、敵の鎧ごと斬り捨てる。信じられないものを見たような顔で敵兵が後ずさっていく。まぁ、木刀だしね。

 組みしやすしと見たのか素手のアリス(ボタン)のほうへ向かう敵が多いけど、そこが一番の強者(つわもの)ですよ、皆さん。掌底で鎧の上から衝撃を内部へ浸透させているよ。…って中国拳法じゃん。通背拳(つうはいけん)かよ。


 リズ(キク)だけが短刀という真剣を構えているので、子供だってのに敬遠されているね。ほとんどがアリス(ボタン)と俺のほうへ向かってくるよ。一人の男がリズ(キク)の短刀を(はじ)き飛ばそうと剣をふるったけど、なにしろリズ(キク)は目が良い。なんなく(かわ)して、男の(ふところ)に飛び込んでから鎧の隙間に短刀をねじ込んだよ。

 ちなみに、矢が敵の後方から降りそそいでいるんだけど、俺達にも商会員達にも『白狼』メンバーにも全く当たらない。エリカ(アヤメ)さん、さすがです。


 しばらくすると、立っている敵兵は30人くらいになったので、俺は指示を変更した。

「俺とキクはアヤメの護衛、ボタンは残敵掃討で敵集団に突っ込んでくれ。アヤメはボタンの支援をよろしく」

 リズ(キク)はまだ子供だし、体力的にそろそろきついだろう。俺は身体強化のタイムリミットが迫っている。…ってことで、アリス(ボタン)さんに頼ろう。

 防御的な戦い方ではストレスが溜まっていたのか、アリス(ボタン)が嬉々として敵陣へ突っ込んでいった。まさに鬼神のごとき動きだったよ。一秒ごとに敵が一人ずつが倒れていく様は、見ていて気持ちが良かったな(遠い目)。

 ちなみに、『白狼』メンバーもアリス(ボタン)の動きを呆然と眺めているだけだ。

 最後に残った指揮官が馬首(ばしゅ)を返して逃げ出そうとした。その瞬間、アリス(ボタン)の姿がかき消えて、次に現れたのは指揮官の横の空中だった。飛び蹴りで指揮官を落馬させ、地面に叩きつけたよ。うむ、圧巻です。

 最後に美味(おい)しいところを全て()(さら)っていったアリス(ボタン)だった。


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