118 宿屋にて
門の中に広がる街並みは我が国のものとそんなに変わっていない(ように見える)。夜で街灯も少なく、良く見えないってのもあるけど。
10時を過ぎても喧騒はそれなりで、酒場なんかがまだまだ賑わっているようだ。
俺達は一頭の馬を引いて、通りを歩いているんだけど、エリカには馬から降りて歩いてもらっている。目立つからね。
大通り沿いに宿屋の看板を見つけたので近付いていくと、なかなかの規模の宿屋だった。外から様子を伺ってみると、1階は食堂みたいで、この遅い時間帯でも大勢の人が酒盛りをしていたよ。
馬の手綱を宿の外の馬止めにくくりつけ、四人で宿の中へ入っていった。
酔っ払い達の内の数人が俺達のほうを見たんだけど、何人かが思わずピューと口笛を吹いていたよ。まぁ、分かる、美少女揃いだし。
「お嬢ちゃん達、こんな時間に子供が出歩いちゃダメだぞ」
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた酔っ払いが近づいてきたので、俺がそいつの前に立った。
「おい、なんだ、お前。俺はお嬢ちゃんに声をかけたんだ。男はお呼びじゃねぇよ」
「おじさん、飲み過ぎじゃないの?俺達は宿に泊まろうと思ってるだけなんだけど」
「うるせぇ、そこをどけ!」
酔っ払いが俺に手を伸ばしてきたので、手首の関節をひねって床に優しく転がした。
「ほらぁ、おじさん。酔っちゃって大丈夫かい?倒れるまで飲むと身体に悪いよ」
俺は笑顔をキープして、あくまでも優しく忠告してあげた。手首の関節は極めてるけどね。
俺はまだ人を殺したことがないので、殺気を放つのは苦手だ。でも、陰茎切断の作業を思い出しながら、ちょん切っちゃうぞ(ハート)ってな感じで酔っ払いに迫ると、何か不穏なものを感じたのだろう。一瞬で酔いが醒めたようになって、謝罪し始めた。
「おお、すまんすまん。酔って転んじまったぜ。ありがとな、坊主。それじゃ、俺はこれで」
シュタッと右手を上げて自分のいた席へと戻っていった。騒ぎにならなくてなによりだ。
ただし、そこかしこから不穏な会話が聞こえてきたけどね。
「おい、ゴンゾウのやつ、軽くあしらわれたぜ。何者だよ、あの小僧」
「ああ、あれ自分で転んだんじゃないぜ。あの荒くれ者を怖がってないだけでも大したもんだってのに、逆にゴンゾウのほうが小僧を怖がっていたように見えたぜ」
あーあー、聞こえません。目立つのはご法度だってのに、こんなんじゃ先が思いやられるよ。
「サブロウ、あまり目立たないように」
「はい、アヤメお嬢様」
エリカに釘を刺されてしまったよ。絡まれないためにも、殺気や威圧なんかを放つ訓練をしたほうが良いだろうか?




