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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第7章 大陸暦1153年
115/160

115 船旅

 今、俺達四人は船に乗っている。漁村への道中も、船への搭乗に関しても特に問題は生じなかった。

 船は帆船だが、想像していたよりもずっと大きな船だった。乗組員は8名で、感じの良い20代くらいの若者達だったよ。見た()的には女性に乱暴するような男達には見えないけどな。

 船には質素ではあるが掃除の行き届いた客室があり、俺達はそこへ案内された。予定では三日後にアルトンヴィッヒ共和国へ入国できるそうだ。

 食事係の持ってくる食事はうまくもまずくもないって感じだったけど、特に一服盛られるということもなく二日間が経過した。てか、普通に飲んだり食べたりしているけど、それはリズの【鑑定】があるせいだ。毒入りまたは薬入りなら【鑑定】で見破れるからね。もちろん、見破れるかどうかは事前に実験済みだよ。


 三日目の朝、食事係が持ってきた食事が客室のテーブル上に並べられ、その男が退室して俺達四人だけになったとき、リズが言った。

「エリカ姉ちゃん、アリス姉ちゃん、今日の朝ごはんもおいしそうだね」

 リズの人差し指が一本、(ほほ)に当てられている。

「マーク兄ちゃん、早く食べようよ」

 今度は人差し指、中指、薬指の三本の指を立てている。なるほどね。


 食事のあと、エリカを筆頭にアリスやリズまでもが苦しみだした。身体がしびれて自由が()かなくなっているようだ。

 俺は急いで客室のドアを開けて大声で船員を呼んだ。

「おーい、誰か来てくれ。お嬢様達が大変なことになっている。食中毒かもしれない」

 俺の呼びかけに対して、船長を先頭に船員達がどやどやと客室に入ってきた。うん、全員いるな。

 そのタイミングで俺は、胸をかきむしり苦しみだした。熱演です。

「お、俺も食事に(あた)ったみたいだ。な、何か薬をくれないか」

 しかし、俺の懇願に男達はにやにや笑っているだけで、手を差し伸べようともしない。

 そこで、俺は苦しみつつも息も絶え絶えに言った。

「お、おまえら、まさか毒を盛ったのか?」


 船長が苦しむ俺を見て、嘲笑(あざわら)いながら言った。

「くっくっく、今頃気付いたか。そうさ、おまえは毒で死んどけ。ああ、安心しろ。女には毒じゃなく、しびれ薬を盛ったからな。女どもは俺達が楽しんだあと、奴隷商人に売り払うからよ」


 ・・・


「ふーん、だそうですよ。エリカお嬢様」

 俺は苦しむ演技を()めて、エリカに言った。

「全員、有罪ね」

 倒れていたエリカ、アリス、リズが起き上がって、戦闘態勢をとる。アリスは手袋を付け、リズは短刀を(さや)から抜いた。

 船員の男達は全員、驚愕の表情に変わっている。

「おまえら、何で?飯は食ったはずだろ」

「いや、食うわけないだろ。何か仕込まれているのはすぐに分かったからな」

 【鑑定】持ちのリズが指を一本立てたら「しびれ薬」、二本なら「睡眠薬」、三本の場合は「毒薬」という合図だったからね。客室が盗聴されているおそれがあったから、あらかじめ符丁を決めておいたのだ。なお、食事は全て各人が自分のマジックバッグに収納した。余談だが、リズには俺が昔使っていたお古のマジックバッグを貸してあげている。


 船長はなおも勝ち誇った顔で、俺達に向かって言った。

「ま、まあ良いさ。人数はこっちのほうが多いんだ。おとなしくしとけば殺しはしねぇよ」

 俺はアリスに目で合図を送り、すぐに身体強化を発動した。俺が四人、アリスが四人を一瞬で倒せば良いだけだ。

 一人目は先頭にいた船長で、鳩尾(みぞおち)を拳でえぐり、続けて二人目、三人目も同様に倒した。四人目にかかろうと思ったら、すでに立っている者はいなかったよ。

 あー、アリスが5人ほど倒したみたいだね。俺3人…。あのー、アリスさん、四人ずつ倒そうって打ち合わせしましたよね?

 リズはエリカの前で短刀を構えているけど、戦闘には参加していない。あと、エリカの魔法を使うまでもなかった。こいつら屈強な船乗りのはずなんだけど、どうにも弱すぎたみたいだ。

 俺とアリスは手分けして船員達をロープで縛り上げた。さて、ここからはいつも通りの尋問タイムだね。


「船長さん、今までもこういうことを繰り返してきたのかい?」

「てめえ、ふざけんな。縄をほどきやがれ。俺達になめた真似(まね)してると船は動かねえぞ」

 どうにも今の立場が分かってないみたいだね。俺は船長の右手の小指を手の甲の方向へ折り曲げた。身体強化を使うまでもなく、ポキッと簡単に折れたよ。

「俺の質問に答えてくれる気になったかい?」

 女々(めめ)しく悲鳴を上げている船長に低い声で問いかけた。今度は左手の小指を握ると、船長が慌てて反応した。

「ま、待ってくれ。もう折らないでくれ。聞かれたことには答える!」

 ここでエリカが動いた。

「拷問しても本当のことを言うかは分からないわ。面倒だから私にまかせなさい」

 エリカの右手が船長の頭に置かれた。いつものやつだな。

 しばらくしてエリカが言った。

「こいつら全員、救いようのない悪党よ。殺してしまっても良いくらいだわ。まぁ、私は寛大だから、二つの選択肢から選ばせてあげましょう。陰茎を切断するのと、睾丸をつぶすのとどっちが良い?」

 うわぁ、どっちも嫌だな。竿(さお)をちょん切るか、玉をつぶすかって、そんなの究極の選択じゃん。てか、エリカさん、陰茎とか睾丸なんて単語を平気で口にする貴族令嬢ってどうかと思いますよ。


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