113 パライソ王国
ゾーリン商会を辞した俺達は二手に分かれた。女性陣は旅に必要な物の購入へ、俺だけは教会で女神と雑談だ。
俺の異常に長い祈りの時間が女神からの指令を受け取る作業だったことにエリカは納得していたけど、本当はオタクっぽい雑談をしていただけです。なんかすみません。
教会では司教様やシスターさんに『また来たよ、こいつ』って感じで見られたけど、仕方ない。寄進をはずむので祈らせてください。
『ゾーリン商会で聞いたアルトンヴィッヒ共和国のことで質問があるのでしょう?』
ええ、国民の名前が日本風で、通貨単位が「モン」というのはいったいどうなってるんですか?
『あの国が共和制になる前の国名をご存知ですか?』
いえ、学校では習ってないですね。
『パライソ王国です。パライソとはポルトガル語で「天」とか「天国」を意味する言葉ですね』
え?ポルトガル語?ポルトガル人の転生者が建国したのですか?
『違います。初代国王の名前はトキサダ・シロウ・マスダ。日本からの転移者ですよ』
転移ですか?転生ではなくて?
『そう、380年前の魔物暴走を止めるため、異世界から召喚した勇者が初代国王となった。それがパライソ王国なのです』
あれ?召喚した勇者は侍じゃないって言ってませんでしたか?益田、いや増田かな?時貞?時定かな?いずれにしてもそんな名前の武将は聞いたことがありませんけど。
『益田四郎時貞ですよ。不勉強ですね。かなりの有名人ですよ。日本人で知らない人はいないというくらい、ビッグネームのはずですが…』
うーん、聞いた覚えがありません。日本史はそんなに苦手じゃなかったんだけどな。
江戸時代の初期だよね。うーん、分からん。益田で思い浮かぶのは島根県益田市くらいだよ。
『もっと有名なほうの名前で言うと、天草四郎ですよ。これなら知ってるでしょう?』
はぁ?天草四郎って島原の乱の?あれ?彼は原城で討ち死にしたはずでは?
『ほう、さすがですね。でもね、幕府は四郎の顔を知らなかったので、四郎の母親に討ち取った少年兵達の首を確認させたのです。四郎の母親がこれは息子の首だと言えば、それだけで死亡確認されたのですよ』
なるほど。実際はこの世界に転移させていたってことですか。それでどのくらいチート勇者だったんですか?
『剣術・槍術・弓術・火魔法・水魔法・風魔法・土魔法・治癒魔法・鑑定・アイテムボックスの【恩恵】を与えました。魔力量も増しましです。まさに俺TUEEEですね』
そ、それは、それは…。世界征服できるくらいのレベルじゃないですか。あ、そうか、キリシタンだったから宗教が異なるのか。
『ええ、パライソ王国の宗教は耶蘇教。信奉する神の名はデウス。偶像として崇めているのは聖母マリア像ですね』
…ってことは通貨の「モン」は「文」ですか?
『その通り。でも、会話や文書で使う言語は大陸共通語なので、意思疎通に関しては心配無いでしょう。日本語の単語や漢字も多少は残っていますけどね。なにしろ、四郎には【言語翻訳】の【恩恵】を付け忘れたので…』
うわっ、ひでぇ。言葉の分からない異世界にいきなり放り込まれたってことですか。しかも、魔物暴走の直前に?
『うう、ちょっとしたミスですよ。結局、なんとか切り抜けられたんだから良いじゃないですか。そう、結果オーライ、うふっ』
四郎さんに同情するわっ!
あれ?ちょっと待って。女神を祀ってないってことは、10歳で貰える【恩恵】ってどうなってるんですか?
『耶蘇教の教会には【恩恵】の間がありませんから、当然誰にも【恩恵】は与えられません。私を信奉していない人間に【恩恵】を与えるほど、私は寛大ではありませんから』
あー、まぁ、分かりますけどね。そういうところ、人間っぽくて俺は好きですよ。
『す、好き?それは告白ですか?どうしましょう、神と人間の恋…地球のゼウス神には人間の愛人がたくさんいたそうですけど…』
そういう意味の好きではありません。てか、ゼウス神って本当にいるんですか?
『さあ、どうでしょう?それは秘密です』
ああ、深く突っ込まないほうが良さげな話題だよな。宗教関係は怖いからね。
あ、そうだ。もう一つ質問。
パライソ王国が共和制に移行したのは、なぜですか?
『革命により王制から共和制になるのなんて、圧政以外無いでしょう。70年前に市民革命によってアルトンヴィッヒ共和国に変わりました。一応、議会制民主主義という政治形態なので、ターナ大陸の中では先進的な国ではありますけどね』
ほうほう、なかなか面白いな。しっかし、過去に魔物暴走を止めた英雄の国の末裔が、今度は魔物暴走を誘発する側になるなんて、なんかの因縁を感じさせるよね。巻き込まれた俺としては、たまったものじゃないけど…。
ここからはスピード感を重視して、一日3回(0時、12時、16時)更新していきます(毎回2話ずつ)。
よろしくお願い致します。




