111 告白
教会を出た俺はいったん宿屋に戻ると、宿の人にゾーリン商会のことを聞いてみた。
割と名の知られた大きな商会のようで、すぐに店の場所を教えてくれたよ。いや、そんな大店が非合法なことをやってるってのが意外だけどな。
おそらく危険は無いと思うが、出向く前に一言でもエリカかアリスに事情を伝えておきたいところだな。何かあってからじゃ遅いし…。ただ、宿の人に伝言しておくというのを考えてみたのだが、やはり大事をとって明日出向くことにした。全員一緒に行ったほうが良いだろうしね。
今日はもう一日のんびりと過ごそう。そう考えて、宿の1階にあるロビーで寛いでいると、エリカ達が帰ってきた。
「あれ?マーク、なに黄昏てるのよ」
「マーク、ただいま。この国の教会はどうだった?」
「マーク兄ちゃん、お腹減った」
皆、一斉にしゃべらないでくれ。あと、黄昏てません。
「エリカお嬢様、ロビーで寛いでいただけです。アリス、教会はなかなか大きくて立派だったよ。リズ、俺も腹が減ったから、皆で昼食に行こうか?」
その後、俺達は宿に併設されている食堂で簡単な昼食を摂り、食後は各自の部屋へと戻った。そして、30分後に俺の部屋に集合してもらったよ。ゾーリン商会の件を説明するためだ。
俺が密入国の手段について説明したあと、エリカが言った。
「あんたがどこの誰からその情報を得たのか、すごく気になるところだけど、どうせ秘密なんでしょう?」
「ああ、そうだね。それで明日は全員でゾーリン商会へ行こうと思う。各人の偽の身分証を作らないといけないからね」
全員、特に異存は無いようだ。よし、これでなんとか目途はついたな。
ここでエリカが真剣な顔になって、俺に言った。
「ねえ、マーク。いい加減、あんたの秘密を打ち明けてくれても良いんじゃないかしら。そんなに私達が信用できない?」
うーん…、確かに命を預け合うパーティーメンバー同士に秘密があるのはよろしくないか…。前世の記憶があることは秘密にするとしても、女神の使徒であることはそろそろ言うべきだろうか?
「分かった。ほかの人には秘密だよ。実は、以前のアリスの推測が正解ってことになるんだよね」
「え?それってマークが女神様の使徒様だってこと?」
アリスが驚きで目を見開いている。
「ああ、不本意ながらそういうことになっている。俺の上司は女神様なんだよ」
「すごいや、マーク兄ちゃん。兄ちゃんって人間じゃなくて天使様なの?」
ふむ、リズの疑問はもっともだな。
「いや、俺はただの人間だよ。女神様の命令で動いてるだけの平凡な人間なんだよ。別に無敵ってわけじゃないから、死ぬときは死ぬしね」
「そうだったの…。あ、身体強化の技術は女神様から教わったのね?」
「その通り。あと、武器の強化である『魔力付与』も教わった。木刀の異常な切れ味は、その技術を使ったからなんだ」
「国王陛下や大司教猊下の態度も、それで腑に落ちたわ」
「これを言いたくなかったのは、言えば俺のことを特別な目で見るだろう?俺としては、できれば今まで通りの態度で接して欲しいんだよ」
「マーク兄ちゃんはマーク兄ちゃんだよ。おいら全然気にしないよ」
ありがとう、リズ。まぁ【鑑定】のせいで、リズだけにはとっくにバレてたんだけど。
「そうね、マークが使徒様だからって、マーク自身が偉いわけじゃないし」
そうですね、エリカさん。これで多少は、ツンデレのツンが治まってくれると嬉しいです。
「いえ、使徒様は偉いと思いますよ。でも、マークは貴族だったときでも偉ぶらなかったですものね」
いや、別に偉くないよ、アリス。それに口調が敬語に戻ってるよ。
とにかく、使徒の件を打ち明けて、少しは肩の荷が軽くなったような気がする。告白するには良いタイミングだったと考えよう。




