110 女神の神託
翌日は女性陣が首都を観光している間、俺だけが教会へ行くことになった。この国の教会も首都にあるだけあって、なかなか見事な大聖堂だったよ。良かったね、女神様。
『ようやくここまで来ましたね。クレイジーベアには気の毒でしたが、あなたがたの旅費に変わったと思えば良しとしましょう』
そうですね。殺したくは無かったんですが…。
『あれは仕方ないです。それに見た目が「くまモン」みたいだったら罪悪感も半端ないですが、凶暴な熊ですからね』
熊本県のゆるキャラを引き合いに出す女神に、ツッコミが思いつかない。
まぁ、それはともかくとして、最終目的地であるアルトンヴィッヒ共和国の情報が欲しいのですが…。なんか不穏な噂もあるみたいですし…。
『あの国は現在、西側のテトレドニア公国との国境及び東側のラトネシア皇国との国境の両方を厳重に封鎖して鎖国状態になっています』
はぁ?だったら入国できないじゃないですか。マイセン商会の人もそんなことは言ってなかったですよ。
『ふっふっふ、そこはこっそり密入国してください。陸路は無理としても、海側からならいけます』
女神自ら犯罪を唆すとは…。世も末だな。
えっと、広い海岸線を全て監視できていないってことですか。てか、通貨の「エン」が使えないんですよね。あの国の身分証も無いし、たとえ入国できたとしてもすぐに詰むのでは?
『この国の裏組織で密入国斡旋業者がいます。そこで偽の身分証の作成や「エン」の両替もしてくれますよ。ゾーリン商会という店を訪ねて、店主にこう言いなさい。アルトン・ゴー』
ポケ○ンGo(一部、伏字)みたいな語感ですね。てか、無理やり笑いをとろうとしてませんか?
『失礼な。ゾーリン商会長が決めた合言葉なんだから仕方ないじゃないですか。まぁ、私もちょっとどうかと思いますけどね』
ですよね~。まぁ良いです。この国に滞在する期間は少し長くなるってことですかね?
『そうなるでしょう。密入国の手配には時間がかかるはずですので…。あ、そうそう、この国の北側にはセントレーア山脈と魔物が多く生息する未開拓領域が広がっているため、たまに魔物達が人里に降りてくることがあります。そのため、この国の軍隊には対魔物の訓練を行っている精鋭部隊がいるのですが、魔物暴走が発生すると対応しきれないことも起こりえます。一応、気に留めておいてくださいね』
えええ?なんかフラグ立てっぽい。やめてくださいよね、伏線を張るのは。
『くっくっく。さてどうでしょう?見事切り抜けてごらんなさい』
おいおい、実はこの神って邪神ってオチじゃないのか?本当に創世神なのか?怪しい…。
『冗談です。魔物暴走なんてそうそう起こりませんよ。前回はおよそ380年前に起こったっきりですから』
ほんと俺をからかうのは止めて欲しい。それで380年前はどうやって対処したんですか?
『異世界から勇者を召喚しました。ただ、江戸時代の初期だったので、事情の説明には苦労しましたよ』
もしかして有名な侍だったんですか?
『いえ、無名の男性でしたね。陸奥圓明流とか名乗ってましたが…』
はい、嘘確定!漫画じゃん。
『ふふ、よく見抜けましたね。やはり私の見込んだだけのことはある』
あ、まさか、俺の転生って、オタクだったからというオチじゃないですよね?いや、まさか。
『さあ、どうでしょう?真実はいつもひとつ』
…って、コナン君かよ。はぁー、もう良いですよ。
いつものことながら女神との雑談は疲れるけど、前世との繋がりを感じられて、俺的にはそんなに嫌じゃない。もっとも、そういう感情自体もマルっと見抜かれてるのかもしれないけどね。




