109 首都到着
そのあとは特に問題も無く、マイフォーディア王国とテトレドニア公国の国境を越えて、隊商の目的地であるテトレドニア公国の首都に到着した。マイフォーディア王国の王都を出発して25日目のことだった。うん、予定通り。
「君達が一緒で本当に助かったよ。本来なら運賃を全額払い戻しすべきなんだろうが、俺の一存では決められないんだ。すまんな」
隊商リーダーからお礼と謝罪の言葉を受け取ったけど、俺としては全く問題ない。
「いえいえ、大丈夫です。それよりクレイジーベアの死体を売却した際のそちらの取り分ですが、戦闘参加者5名の頭割りで良いですかね?俺が5分の1をいただくということになりますが」
「おいおい、あの死体は全て君のものだぞ。君が全額受け取ってくれ。それにマジックバッグが無ければ、死体を運ぶことすらできなかったわけだからな」
「いえ、そんなわけにはいきませんよ。俺一人が戦ったわけじゃないので、報酬は分配すべきです。これはお嬢様からも厳命されておりますので」
面倒なのでエリカに投げちゃえ。本当は何も言われていないけど。
「うーん、だったらせめて君達が半分、うちの商会が半分にしてくれないか。これ以上は譲れないぞ」
「分かりました。では、それで。あと、魔物の死体を買い取ってくれる商会をご存知でしたらご紹介いただけますか?」
そう、俺達には売却の伝手が無いのだ。マイセン商会ならきっと良い買取業者を知っているだろう。ちなみに、異世界モノでよくある冒険者ギルドで魔物素材の買い取りを…ってのは、この世界には無い。冒険者という職業すら無いからね。
んで、結局、クレイジーベアの死体はかなりの高値で売れたよ。なにしろ(心臓一突きのため)ほとんど傷が無く、(マジックバッグの時間停止で)新鮮な状態を保っていたからね。なんと、総額300万エンになった。俺達の取り分はその半分で150万エンだな。マイセン商会側もこの臨時収入には驚きつつも大喜びだったみたい。
「君達がここにどれだけ滞在するか知らないが、マイフォーディア王国へ戻る際にはぜひうちの隊商を利用して欲しいんだがな。もちろん、無料にするぞ」
隊商リーダーから帰路の同行を提案された。
「あー、すみません。俺達はこのあとアルトンヴィッヒ共和国の首都を目指すんですよ。ですので、またの機会に」
「そうか、残念だな。あとアルトンヴィッヒ共和国はあまり良い噂を聞かない国だから気を付けてな。まぁ、君の強さなら大丈夫だと思うが」
えええ、なんだか嫌な情報だな。正直、行きたくねぇ。
俺だけが忙しく動いている間、その他のパーティーメンバーがどうしていたかというと、宿屋でお風呂に入りたいって言いながら大急ぎで去っていった。おーい、俺も風呂に入りたいんだけどな。約一か月間も風呂に入っていないどころか、シャワーも浴びていない。生活魔法の水で身体を拭くくらいはしたけど。
まぁ、彼女達の事情も分かるけどね。ちょっと臭かったし…。あ、これは絶対に言えない。いや、ジョンソン家の護衛のダンだったらきっと言うだろうな。そして、エリザベス様にぶん殴られるのだ。
勝手にエリザベス様に殴られるダンを想像しながら歩いていると、今日泊まる予定の宿屋に着いたようだ。
「マイセン商会の人に紹介されたマークと申します。先発としてエリカ、アリス、リズの女性三人がすでに来ていることと思いますが?」
「はい、いらっしゃってますよ。すでに一人部屋を四室ご予約いただいております。女性用のお風呂につきましてはご用意させていただきましたが、マーク様はいかがなさいますか?男性用のお風呂の準備が必要であれば別料金となりますが」
「そうですね、お願いできますか」
とりあえず、長旅の疲れを風呂で癒したい。日本人だからね。…って、違う違う、フルルーフ人だった。
風呂上がりの俺が自室に戻ると、そこには女性陣三人が寛いでいた。あれ?ここ、俺の部屋。
「マーク、待ちくたびれたわよ。さぁ、食事に行きましょう」
エリカに続いてアリスやリズも発言した。
「マーク、疲れは取れた?私達だけ先に宿屋に来ちゃってごめんね」
「マーク兄ちゃん、ご飯のあとは剣術を教えてよ」
俺を気遣うアリスに天真爛漫なリズ、そして(確証は無いけど)内心の優しさを隠すかのように振る舞うエリカさん。うん、良いパーティーだな。
「そうだね。少し早いけど夕食を摂って、今日は早めに休むことにしようか。あ、剣術指南だけど、リズさえ良ければやっても良いよ」
この宿屋の裏庭には洗濯物を干したりするスペースがあって、鍛錬にはちょうど良い広さなのだ。もちろん、宿の人には許可を取らないといけないけど。
「あ、そうだ。これからもエリカお嬢様と従者三人という設定は継続だからね。それでは、お嬢様、食事に参りましょうか」
実家のカーチス家にいた執事さんを真似て、恭しく一礼した俺だった。あ、教会に行くのを忘れてた!




