108 戦いの後処理
「あんたねぇ、せめて剣で戦いなさいよ。木刀で魔物を倒すのは異常よ」
クレイジーベアの死体に黙祷を捧げていた俺に、馬から降りて歩いてきたエリカが言った。
「お嬢様、脅威は排除致しました。ご安心ください」
お嬢様と従者ごっこは依然継続中だ。
「はぁー、もう良いわ。とりあえず熊の死体はあんたのマジックバッグに入れておきなさい。確か大きな街では買い取ってくれるところがあるはずよ」
エリカの指示で、俺はクレイジーベアの死体をマジックバッグに収納した。熊の胆(熊胆ともいう)は高級素材だもんね。
「ちょっ!それはマジックバッグか?容量は?いくらで買った?」
隊商リーダーが興奮して俺にせまってきたけど、おっさんから詰め寄られても嬉しくない。
「50立方メートルくらいですよ。値段は秘密です」
てか、無料で貰ったんだけどね。
「50!それは国宝級だな。羨ましいことだ。商人にとってマジックバッグは垂涎の的だぞ。それ一つあれば大儲けできるからな」
まぁ、そうだろうね。馬一頭とこのマジックバッグが一つあれば、この隊商で運んでいる荷物くらいは十分に運べるわけだからね。
余談だけど、50立方メートルは、才数(容積の単位の一つ)では1800才になる。1才は一辺が約30cmの立方体で、だいたいミカン箱くらいの大きさを思い浮かべてもらえば良い。つまり、ミカン箱が1800箱入れられるってことだね。10トントラックのロングボディ(道を走っている一番でかいトラックをイメージしてもらえばOK)がだいたい1800才くらいなので、そのトラック一台分と考えてください(10トントラックって重量ベースで考えると1000才くらいなんだけど、マジックバッグには重さは関係ないので…)。ほんと、どうでも良い話だな。
「それはともかく、君のおかげで本当に助かった。俺達全員の命の恩人と言っても過言ではない」
「いえいえ、俺はエリカお嬢様の身の安全を図っただけですから」
「それでもだ。俺達が救われたのは確かだからな。それにしてもその木の棒、何か仕掛けがあるのかい?」
いや、ただの木刀ですよ。なんなら森の中に落ちている木の枝なんかでも同じことができます。てか、どう答えよう?
「この者の秘密はむやみに明かせないわ。それより先を急ぎましょう。日が暮れる前に次の宿場町に着きたいわ」
エリカが助け舟を出してくれて良かったよ。ただ、なんか含みのある言い方をしたせいで、俺への視線がちょっとだけ恐れを抱いたものに変化したような気がする。別に、元暗殺者とかじゃないよ。
エリカとともに隊列の最後尾に戻ると、アリスが馬の手綱を取って待っていた。その近くにいたリズが興奮して俺にまとわりついてきたよ。
「マーク兄ちゃん、すっごいなぁ。木の棒で熊を倒すなんて信じられないよ、おいら」
「実は俺はちょっとした剣豪なんだよ。本名もムサシ・ミヤモトって名前なんだ」
「へぇー、ムサシ兄ちゃんだね。ねぇねぇ、おいらにも剣術を教えてよ」
「そうだな、時間があれば俺の二天一流を伝授しよう」
木刀と言えば巌流島での宮本武蔵だよね(実際は、舟の櫓を削ったものだけど)。
俺とリズが馬鹿話をしているとエリカから冷たい言葉が浴びせられた。
「マーク、その名前も流派も嘘っぱちよね?リズをからかうのもいい加減になさい」
「えええ?兄ちゃん、嘘なの?酷いや」
「名前と流派は冗談だけど、剣術を教えてあげるのは本当だよ。【剣術】の【恩恵】を持つ俺の父親から、子供の頃に基礎的な技術を学んだからね」
今、その教えがとても役に立ってます。ありがとう、父上。




