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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第7章 大陸暦1153年
107/160

107 クレイジーベア

 いくらトラブルエンカウント率の高い俺でも、そうそう盗賊団なんかに出会うこともなく、旅は極めて順調だ。街道が森のそばや森の中を通っている場合は、魔物の出現に気を遣うけどね。

 馬のために途中で数回休憩をはさむんだけど、水源が近くに無い場合は生活魔法のウォーターで桶に水を入れることになる。商会の人達は全員生活魔法が使えるようで、エリカの乗る馬のためにも桶に水を出してくれようとしたんだけど、俺が辞退した。俺がウォーターの魔法陣を使って桶に水を入れていると、隊商(キャラバン)のリーダーにスカウトされたよ。

「君、すごい量の水を出せるんだね。うちに転職する気は無いか?それだけの魔力があればどこの商会でも引く手数多(あまた)だぞ」

「いえ、俺はお嬢様にお仕えする身ですので」

 ちなみに、アリスも魔力は豊富なんだけど、生活魔法は使えない。魔力移動を練習してないからね。

 なお、尾籠(びろう)な話だが、トイレは森の中や草むらの中で行うことになる。女性三人はお互いに見張りを立ててやってるみたいだけど、俺は関与してないからよく分からん。そういう点でもリズを同行させたメリットはあったな。


 王都を出発して二週間後、まだマイフォーディア王国内だけど、行程は全体のほぼ半分だ。順調にいけば、あと10日ほどでテトレドニア公国の首都に到着するだろう。

 街道は高い木の()い茂る山の(ふもと)を通っている。そこに熊が出た。

 人間にとって熊は危険生物だ。隊列の前に四つ足でのそのそと現れた熊は、俺達を見ると後ろ足で立ち上がった。でかい、でかすぎるよ。3mくらいあるんじゃないか?

 隊商(キャラバン)リーダーが叫んだ。

「こいつは熊じゃない!魔物のクレイジーベアだぞっ!」

 フルルーフ王国では現物を見たことが無く、学校で知識として教えられただけだったので、気付かなかった。

 隊商(キャラバン)リーダーと商会員の三人が、剣を抜いてクレイジーベアと対峙した。戦える人も隊商(キャラバン)のメンバーに入っていたんだね。…って、そりゃそうか。

 俺達は隊列の最後尾なのでまだ安全だけど、戦況次第では加勢しないといけないかもしれない。

「アリスはエリカの護衛、リズはエリカのそばを離れないこと。俺はちょっと前へ行ってくる」

 俺はクレイジーベアとすでに戦闘を開始した四人のもとへ急いだ。まだ身体強化は発動していない。普通に走っていっただけだ。


 俺は木刀を腰に差し、左手にはスリングショットを持っている。

 戦いの状況を観察すると、若干人間側が不利っぽい様子だ。四人の連携は見事で、致命傷は避けているものの多少の怪我は負っているようだ。そしてクレイジーベア側に怪我や疲れは見られない。

 敵はとにかくでっかいので、頭さえ狙えばスリングショットの滑車弾を味方に誤射する恐れは無い。俺は直径1インチの鉄の塊(滑車)をクレイジーベアに次々と放った。

 固い毛に覆われた皮膚にはあまりダメージは通っていないみたいだけど、うっとおしそうに腕を払っているから、その分、味方への攻撃が減少することになる。その隙を狙って、リーダーの剣がクレイジーベアに少しだけ刺さるが、大したダメージは与えられていないようだ。うん、攻撃力(貫通力)不足だな。

 仕方ない、間接的な支援だけでは(らち)が明かないようなので、俺は木刀を構えた。

 味方の人達が俺の木刀を見て言った。

「おい、君、そんな木の棒で何をするつもりだ?危険だから下がってろ!」

 逆に俺はほかの人に言った。

「俺が倒しますので、皆さんは攻撃を控えておいてください」

 返答を待たずに、俺は『身体強化』と『魔力付与』を発動し、一瞬でクレイジーベアの(ふところ)に入り込み、その場で2mほどジャンプしてから木刀を心臓と(おぼ)しき位置に突き刺し、すぐに引き抜いた。すると、両腕を振り回して暴れていたクレイジーベアの動きが止まった。

 俺は着地したあと、すぐに後ろへ飛びのいた。ゆっくりとクレイジーベアの身体が倒れていき、ドーンという大きな音とともに仰向けに倒れたのを見てホッとしたよ。なんとか一撃で倒せたみたいだな。


「は?なんで?俺の剣が通らない相手に木の棒が刺さっただと?しかも踏ん張りのきかない空中で?これは夢か?ああ、きっとそうだ、夢に違いない」

「えっと夢じゃなくて現実です。刺さったところがちょうど弱点の位置だったんじゃないですかね」

 戦っていた人も傍観していた人も全員が唖然とした表情になっていたのもつかの間、我に返ったのかすぐに大歓声が沸き起こった。まぁ、怪我人は出たけど、死者が出なかったのは良かったよ。ちなみに、殺さず追い払うだけにしておきたかったんだけど、クレイジーベアはその名の通り、狂化状態になってしまうと自分か相手が死ぬまで攻撃をやめないという厄介な魔物であるため、せめて苦しませずに即死させることを狙ったのだ。すまん、成仏してくれ。


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