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車輪の無い世界へ転生した男  作者: 双月 仁介
第0章 プロローグ
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001 異世界転生

 俺は疲労困憊(こんぱい)で交差点に立っていた。歩行者用信号機が赤に変わったばかりなのだ。

 毎日足を棒のようにして歩き回っても営業成績はさっぱり上がらない。また上司からの叱責(しっせき)嫌味(いやみ)を受けるのか…。会社へ帰る足取りも重くなるってものだ。

 (うつむ)き加減で溜め息をつく俺の耳に周りから悲鳴が聞こえた。

 ふっと顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは、一台のプ○ウスだった。俺も最近ローンで購入したばかりの馴染(なじ)みのあるフロントグリルと、その上にある驚愕しているお爺さんの顔。

 あれ、ブレーキペダルを思いっきり踏んでいるつもりで、アクセルペダルを踏んでるよね、絶対。さすがはプ○ウス、プ○ウスミサイルの異名は伊達じゃないぜ。てか、俺もしかして死ぬんじゃね?いや、死ぬだろ。顔を上げてからここまで0.1秒の超高速思考。

 そして、そこで俺の意識は途絶えたのだった。


 目覚めた。朝か…。

 あれ?俺、なんで寝てたんだっけ?てか、ここはどこだ?

 はっ!そうだ車にはねられて…。てことは、ここは病院?意識が戻るにつれて、直前の記憶が蘇ってくる。

 34年の人生で初の交通事故被害者だよ。あ、加害者にもなったこと無いけど…。それよりあの爺さん、任意保険に加入してるだろうな。頼むよ、無保険車が最近多いって話を聞いたことがあるし。


「ごきげんよう、私の世界へようこそ」

 いきなり女性の声で話しかけられた。俺は身体を起こして周囲を見回した。って、あれ?なんか違和感が…。

 自分の服装がいつものよれよれのスーツのままだ。しかも車にはねられらたとは思えないほどピンピンしている。身体も全く痛くない。


「混乱していることと思いますので、まずは状況を説明しましょう」

 声だけしか聞こえない。しかも耳からではなく、直接頭の中に声が響いている。気持ち悪っ!

 てか、『私の世界』だって?まさか異世界転移か。事故直前に神様的な存在が俺をここへ転移させたのか?


「察しが良くて助かります。ただし、転移ではなく転生です。あなたは以前の世界では天寿を(まっと)うしましたので…」

 ええぇー、俺の人生ってもともと34年で終了だったのか。てか、交通事故死まで決まっていた?し・か・も、『彼女いない歴=年齢』で?

 運命というか、アカシックレコードというか、自分の人生が決められたレールの上を走っていただけってのはへこむな。努力は無駄ってこと?


「地球のことはよく知りませんけど、私の世界では運命は自分で切り開くもので、努力が無駄になるようなことは絶対にありませんよ」

 うーん、それって暗に地球はそうじゃないって言ってるようなものなのでは?

 俺は勉強も仕事も人一倍努力していたつもりだったんだけど、結果が全く伴っていなかった。それもこれも全て運命だったってことかよ、(くそ)が。

 まぁ良い。異世界転生ってことはその世界で無双できるってことだろうしな。俺TUEEEEできるはずだ。


「日本人の魂を引っ張ってくるのは本当に楽ですね。詳しい説明をしなくてもすぐに納得してくれるので」

 俺は女神様(?)から『私の世界』に関する説明を聞いた。それによると人間の居住する惑星の名前はアースト、公転周期は自転周期の360倍(つまり、1年は360日)、地軸が傾いているため地域によっては四季が存在する。惑星は磁気を帯びているためヴァン・アレン帯が発生、これによって宇宙線の影響から守られているのは地球と同じとのこと。

 ただし、月のような衛星を持たないので、潮汐力(ちょうせきりょく)が働かず、海水面の高さは常に一定だ。まぁ、惑星の自転に伴う海流は発生するので、どんよりと(よど)んでいるわけではないらしい。


「あのー、一つ質問良いですか?」

「何でしょう?何でもお聞きください」

「地球の神様的な存在からちゃんと了承を得たうえでの転生なんですよね?」

「もちろんですよ。地球は人口が増え過ぎているため、少し減らしたいそうです」

「いや、だったら少子高齢化の日本から転生させるよりも、人口増加地域から転生させたほうが良いのでは?」

「もちろん、そういう所からも転生させますが、日本人は特に人気の魂でして神々の奪い合いなんですよ。結果的に日本の少子化が進んでいるようですが」

 って待てい!少子化の原因は他の世界の神々のせい?そりゃ、政府の対策も(みの)らないわけだ。

 まぁ異世界転生する俺にはもう関係ないけどな。


「で、俺TUEEEEするための転生特典はいただけるのですよね?」

「もちろんですとも。すぐに死なれてはこちらも困りますし。まず前世の記憶を留めておくのは当然として、あなたには車輪を生み出す能力を与えましょう」

「は?すみません、よく聞き取れませんでした。もう一度お願いします」

「だから車輪ですよ、しゃ・り・ん」

「えーっと、すみません。意味が分かりません」

 俺の混乱をよそに女神の説明は続いていく。


「私の世界にはまだ車輪が無いのですよ。交通事故死した魂ばかりを集めてきたもので、無意識のうちに車輪を発明するのを避けているのかもしれません。きちんと記憶は消しているのになぜでしょうね」

「いや、俺に聞かれても…」

「とにかくあなたには車輪を生み出してもらいます。それを見た人が『車輪の再発明』をすることになれば、きっと文明も進むことでしょう」

 なんとなくだが、『車輪の再発明』って言いたいだけとちゃうんかい。問いたい、問い詰めたい、小一時間ほど…(以下、略)。


「そろそろ時間ですね。それでは良い人生を」

 えっ?まさか車輪生成能力だけ?嘘だろ…。

 遠のいていく意識の中で俺は女神に悪態をつき続けたのだった。


 前作『転生した女性SEの異世界魔法ライフ』とは全く世界観の異なる作品です。

 理不尽に最強ってわけじゃない主人公が女の子たちにもてる話を書きたかったのです。男のロマン(笑)


 毎日2回(0時と16時)更新を目指します。

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