第3話
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「ど、どうしてボクがキミと同室なんだ……」
アルトレーザ様が部屋に入るなり、頭を抱えて部屋に備え付けの椅子に座りこむ。
うん。ソレ、俺も聞きたい。
や、だって、田舎の男爵家の庶子が、エストレア王国一の大貴族で在らせられるバルセロス公爵家のアルトレーゼ様と一緒の部屋だなんて、俺の胃がキリキリと痛むんだけど。
つか、公爵家なんだから寮に住んだりしないで、もっとプライベートなお屋敷に住んでろよ。
「あのー……」
「何だ!」
おおう、すこぶるご機嫌斜めのようだ。
だが、ここは一つハッキリさせておかないと。
「ベッドは上と下、どちらを利用されますか?」
「ベッド? 決まっている、ボクは上だ!」
アルトレーザ様は二段ベットの上を指差しながら、高らかに宣言する。
成程……アルトレーザ様は上のベッドだって決まっている、と……何でだよ。
「分かりました。じゃあ私は下のベッドに……」
俺は旅の疲れと前世を思い出したことによる頭痛もあって、ベッドでゴロン、と横になる。
すると。
「まままま待て! シ、シーツを交換って、あああああ!?」
「?」
アルトレーザ様、何で頭を抱えてるんだ?
「ええと……アルトレーザ様?」
「ふあ!? い、いや、やっぱり何でもない! 何でもないが……絶対にシーツの匂いを嗅ぐなよ! 絶対だぞ!」
「は、はあ……」
俺は訳が分からないまま、とりあえず頷くけど……そんなこと言われたら、匂いを嗅ぎたくなっちゃうよな。
ということで。
「スー……」
ん? 何だかすごくいい匂いがするぞ?
「ふああああ! 匂いを嗅ぐなと言っただろう!」
「かかか、嗅いでません! 嗅いでません!」
俺はガバ、と起き上がり、両手をバタバタさせながら全力で嗅いでないアピールをした。
「本当だろうな! ウソだったら、ただじゃおかないぞ!」
「ほ、本当ですー!」
すいません、ウソです。
と、とりあえず話題を逸らそう。
「そ、そういえばアルトレーザ様は、どうして寮に住んでいるんですか?」
「ふあ!? ボ、ボクがどうして寮に住んでるかって!?」
オウム返しをするアルトレーザ様に、俺はコクコクと頷いた。
「え、ええと、その……あ、あれだよ! 英雄エルシド様にあやかって、ここに住もうと思ったんだ!」
必死で訴えるアルトレーザ様……怪しい。
「いえ、普通は公爵家とかでしたら、学園の外にある別邸から通うのが一般的なんじゃないかって思いまして」
「ふああああ!?」
お、俺のツッコミがアルトレーザ様にクリティカルヒットしたみたいだ。
だけど……うん、公爵家だからってビビッてたけど、アルトレーザ様はいい人だ。
頭痛で倒れた俺を医務室に運んでくれたし、道に迷ってた俺に声を掛けて寮まで案内してくれたし、こうやって少し軽口? を叩いても、『不敬だ!』と激高することなく、ツンしながら相手してくれるし。
だから。
「はは、アルトレーザ様、これから卒業までの三年間、どうぞよろしくお願いします」
俺はそれが嬉しくなって、つい笑みを零しながら手を差し出した。
本来だったら大変失礼な行為ではあるけど……なぜか俺は、アルトレーザ様にはこれが正解だって確信があった。
「っ! うん! こちらこそよろしく!」
ホラ、やっぱり。
アルトレーザ様は満面の笑みで、俺の手を取って握手してくれたし。
何というか……やっぱりメルザたんと同じ、不器用なんだなあ。
えーと、父上、母上……俺、この学園で知っちゃいけない世界に目覚めちゃうかもしれないけど、許してください。
◇
「え、ええと……コレ……」
夕食の時間になり、俺とアルトレーザ様は食堂へと降りてくると、テーブルには所狭しと美味そうな料理の数々が並べられていた。
「はい。今日は入寮されたジルベルト様のお祝いとして、ご用意させていただきました」
おお……まさか俺のためだったなんて……やべ、ちょっと泣きそう。
「フン、入寮したくらいでわざわざこんなことしな「ちなみに、発案はそちらのアルトレーザ様です」ふああああああ!?」
おっと、アルトレーザ様がツンを発揮しようとして、むしろイザベルさんに後ろから撃たれたぞ。
「そ、その……アルトレーザ様、ありがとうございます!」
「ふあ……う、うん。ま、まあ、せっかくだから楽しむといいよ……」
俺が心から感謝の言葉を伝えると、アルトレーザ様は耳まで真っ赤にしながらも、顔を背けてそんなことを言う。
つかアルトレーザ様、何一つツンできてないんだけど。
「ふふ、では料理をお取り分けしますね」
そう言って、イザベルさんがテキパキと給仕してくれるんだけど……。
「え、ええと……この料理ひょっとして、私達二人分、です、か……?」
「? はい、そうですが……」
俺が尋ねると、イザベルさんにキョトンとされてしまった。
というか……。
「あのー……ここの寮にいる他の学生には振る舞ったり、その、しないんですか……?」
「「?」」
今度はアルトレーザ様も一緒になって首を傾げた。
え? え? どういうこと?
「ジルベルト……この寮に入っているのは、キミとボクしかいないぞ?」
…………………………は?
「ええと、私のように地方から来ている貴族もたくさんいるはずですが……?」
「ん? ああ、他の学生達は、学園の外にある“新館”に入寮しているけど……?」
…………………………へ?
アルトレーザ様、そんなの俺知らないんですけど?
「そ、その……ではどうして、私はこちらの“エルシド寮”に入ってるんでしょうか……?」
「え? それはジルベルト様が自らお選びに……」
…………………………え?
俺、選んだ覚えはないんだけど?
「あ、あの、それでしたら、なんで私とアルトレーザ様は相部屋なんですか? ほ、他にも部屋が余ってますよね……?」
「……イザベル、どうなんだ?」
俺とアルトレーザ様は同時にイザベルさんを見ると。
「それは、学園側からの割り当てられたものですので、私はなんとも……」
「「…………………………」」
俺とアルトレーザ様は互いに無言になる。
なんだかコレ……仕組まれてる気がしてならないんだけど!?
すると。
「そ、その!」
突然、アルトレーザ様が大きな声を出した。
ど、どうしたんだろう……。
「ジ、ジルベルトはこの寮はイヤ、か……?」
アルトレーザ様は少し泣きそうな表情をしながら、上目遣いで俺を見る。
う……その顔、反則だと思います。
「ま、まさかあ! むしろ貸し切りみたいで、嬉しいなあ! あ、あははー!」
俺はガシガシと頭を掻きながら愛想笑いをする。
つか、この状況で新館のほうがいいだなんて、言えるはずがねー。
「ほ、本当か!」
「うお!?」
俺の答えを聞き、最高に嬉しそうな笑顔を見せて俺に詰め寄るアルトレーザ様。
や、近い近い。
「ほ、本当ですとも!」
俺はやんわりとアルトレーザ様の身体を遠ざけながらコクコクと頷いた。
「う、うむ! な、なら何も問題はないな! さあさあ! せっかくの料理が冷めてしまってはいけない、早く食べようじゃないか!」
ああもう、本当に嬉しそうにしやがって……。
チクショウ、なんでアルトレーザ様が女の子じゃないんだよ!
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は今日の夜投稿予定です!
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