Trans4869
この作品は過去に「少年少女文庫」に投稿した作品になります。
そちらの方では編集ができないために二重投稿の旨が書けませんが、盗作ではないことをここに記しておきます。
とりあえず、短編ですが、気が向いたらシリーズ化するかもしれません。
ガラガラガラ——と、教室のドアが開き、先生が入って来る。
日直の生徒が、「起立、気をつけ、礼、着席」と、号令を掛ける。
「皆さん、おはようございます。今日から、このクラスに新しい仲間が増える事になりました」
と、先生が言い、廊下にいる私に合図を送る。
私は、黒板の前に立ち、自己紹介をする。
「始めまして、神奈川高校から転校して来た霧崎 綾です。皆さん、よろしくお願いします」
「と言うことだ、仲良くしてやれよ! それじゃ、霧崎さんはあそこの席に座って貰えるかな」
私は先生の指差す方を確認すると、その席に向かい、そこに座る。
「始めまして、私、高山 かな、『かな』で良いよ」
高山 かな、彼女は私の幼馴染である。とは言っても、真の時のだが……。
そう……あれは一昨日の土曜日の出来事であった。
俺は、オープンしたてのトライアルランドに、かなを誘って遊びに行っていた。
時刻、午前11:30。
かなは言った。
「ねぇ、真。あそこに入ってみよう?」
「真・お化け病院、これで真夏の暑さを吹っ飛ばせ! 確かに、真夏には持って来いの代物だな」
俺が答えるとかなが言う。
「じゃ決まり」
決まってしまった。
俺は仕方なしに入る事にした。
中に入ると、スタッフの方がいて、入場券のチェックをしている。
俺たちが来ると、スタッフは入場券の提示を要求した。
俺たちは、言われるがままにその要求に応えた。
すると、スタッフが扉を開け、中に入れてくれた。
中は、薄暗くいろいろなセットが設置されていた。
俺たちはそこをゆっくり進んだ。
「怖いね……」
「なぁに、俺が付いてるんだ、心配するな」
「べ、別に心配なんかしてないわよ!」
俺たちが痴話喧嘩をしていると、突如と後ろから何者かが襲って来た。
俺たちは驚きながら逃げた。
「うわーっ! お、お前何なんだよ!?」
そいつは、俺の言葉を聞きもせずに逃げる俺たちを追いかけてきた。
その時だった。
「きゃああああ!」
女性の悲鳴が聞こえてきた。
最初はお化け屋敷に入った女性が驚いて悲鳴を上げただけなのかと思った。
だが、それは違った。
後で分かった事だが、それは殺人事件が起こった事を意味する悲鳴だった。
「こ、殺しだー!」
と、誰かが叫んだ。
俺たちは、逃げるのをやめ、叫び声の聞こえた方に駆けつけた。
「すいません、殺しって何があったんですか?」
俺はその場にいた男性に声を掛けた。
男性は、彼女と一緒に歩いていたら、偶々遺体を見つけたという。
「当時の現場の状況を教えて下さい」
男性は答えた。
「あれは、俺と美智子が歩いている時だった。現場は薄暗く、今にも何か出るんじゃないかと言う雰囲気でした。そして、辺りを見回すと、人が倒れているではありませんか!」
「人が倒れていた? おかしいですね。現場は薄暗く視界が悪い。 そのような状況下ですぐに人だと判断できたのですか?」
男性は言葉につまる……。
「あ、いや、それは、近づいて……」
「成る程、それなら筋は通ります。それで、他に気づいた事はありますか?」
「特に何もありませんでした。それに、さっきも言ったように現場は薄暗く視界が悪かった。例え、現場に犯人がいたとしても気づくはずが無いですよ」
「そうですか。では、最後にあなたのお名前を教えて下さい」
「良いけど、自己紹介って普通は自分から名乗るのが礼儀ってもんだよ」
「僕は、霧崎 真。探偵です」
「た、探偵!?」
「あの……お名前を……」
「あ、俺は川崎 亮。弁護士だ」
「弁護士ですか……。それで、そちらのお嬢さんは?」
「あ、彼女は俺の連れだ。美智子、彼にさっきの事を証言してやってくれ」
すると、しゃがみこんでいた女性が立ち上がり、こちらに近づいて来た。
「始めまして、小野 美智子と申します。」
「それでは小野さん、当時の現場の状況を教えて下さい」
小野は、疑問を持った顔で聞いてきた。
「あの、探偵さん? それって、亮が話したはずですよね? なら、私が話す事は無いわ」
「という事は、川崎さんの証言に間違いは無いんですね?」
「はい、間違いありません」
俺は亮の証言に間違いないと判断すると、遺体の方を調べた。
遺体はまだ少し暖かい。
死後三十分って所だろうか……。
死因は後頭部強打による頭蓋骨陥没。
「真、あんな事言ってどうするのよ?」
「あぁでも言わねぇと、話しが聞けないだろ。それに、あの人との約束もあるし……」
「へ?」
「いや、何でも無い。あ、そうだ。警察に電話しないと……」
俺は携帯を取り出すと百十番に電話をした。
電話でこれまでの出来事を話すと直ぐに向かうと言う事になった。
数分後、パトカーのサイレンが聞こえ、警察が現場検証の為に入って来た。
警察の調べによると、遺体は俺が調べた通りの結果だった。
警察は、一通り調べ終わると、現場にいた俺達四人に事情聴取を始めた。
「で、第一発見者は誰だね?」
「あ、それは私ですけど……」
と、小野は言った。
「では、遺体発見当時の現場の状況を教えて下さい」
刑事の質問に対して、小野は川島が俺に話した事と同じ事を話した。
それが終わると、一人の刑事が声を掛けた。
「警部、被害者の身元が判明しました。害者は遠藤 悟、25歳の無職。住所不定。周りではかなりの恨みを買われていたと言う事です」
「成るほど、恨みを買われていたのか」
「あ、あの……僕、川島と言う者ですが、被害者の事知ってます」
「それ、本当ですか!?」
「ん、君は?」
「僕は、霧崎 真、探偵です」
「あそ。それで、川島さん。その事についてお聞かせ下さい」
「あれは、半年前の美少女連続殺人事件の法廷だった。彼は、その事件の被告として証言台に立った男。勿論、私は彼を無罪にしました。その後、半年程して彼から連絡がありました。あの時のお礼がしたいと言う事でしたので、私は待ち合わせの日に彼に会いました」
「それは何時の事ですか?」
「昨日の晩の事です」
「要するに、昨日が最後に見た日ですね?」
「はい」
川島の証言が終わると、刑事は俺達の取り調べを行った。
俺達は、事件当時の状況を話した。
「そうか・・・この件、君たちには関わりは無いな……。それと、さっき探偵とか言ったが、これは警察の仕事だ。余り現場をうろちょろするんじゃないぞ?」
そう言うと、刑事はその場を後にした。
去り際になにか言いかけていたが、特に気にもとめなかった。
そして、俺は現場を再調査した。
すると、遺体のあった付近に赤く染まった何かが落ちていた。
(石?)
俺はそれをハンカチごしに取り上げ、良く観察をした。
その石には血痕がこびりついていた。
恐らく、これが凶器だろう。
俺が、他に手がかりになる様な物は無いか辺りを見回すと、亮が何かをポケットに仕舞った。
気になった俺は、なんとしてもそれを手に入れたかった。
俺は亮に近づいて世間話を始めた。
俺はその隙に、亮がポケットに仕舞った何かを抜き取った。
「ありがとう。おかげで暇を潰せました」
と言ってその場を離れた。
俺は先ほど抜き取った物を確認した。
(手紙か?)
手紙にはこう書かれていた。
俺はそれを読んだ。
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久しぶりだな、川島。
半年前の裁判の時は今も忘れていない。
本当にありがとう。
そのお礼に良いことを教えてやる。
あの美少女連続殺人事件の真犯人はこの俺だ。
そして、第一の被害者はお前の妹、川島 優子だ。
彼女の死に際は非常に楽しかった。
殺さないで殺さないでの連呼。
五月蠅いから殺してやったよ。
お前のおかげでまた連続殺人が楽しめるよ。
今度の被害者は誰にしようか。
川島、お前にしようか。
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それは、半年前の美少女連続殺人事件の告白分と殺人予告だった。
だけど、これだけでは彼を真犯人だと決めつける事は出来ない。
だが、他に証拠が無い。
一か八か、状況証拠だけでやってみるか?
俺は、皆に犯人が解ったと言う事を伝えた。
「は、犯人が解ったって本当ですか!?」
「本当に解ったのかね!?」
「えぇ、解りましたよ。先に言っておきますが、犯人はこの中にいます!」
「何だって!?」
「何ですって!?」
「……………………」
俺は、推理した事を全て話した。
「先ず、犯人は遺体発見の30分前に被害者を現場に呼び出し殺害。恐らく、凶器は現場に落ちていた赤く染まったこの石でしょう。そして、犯人はそこの非常口から抜けだし、ある人の所へ戻る。そのある人と言うのは、貴方ですよ、小野 美智子さん。そうですよね、真犯人の川島 亮さん」
「ま、待ってくれ! 俺は美智子といたんだ。この俺に殺せる筈が無い!」
「それは、遺体発見時の時であり、遺体発見30分前の事ではありませんよね。恐らく、貴方は30分前に美智子さんにトイレに行って来るとでも言い残し、現場に行った。その時に被害者の遠藤さんを殺害したのでしょう。そして、貴方は何喰わぬ顔で美智子さんの所へ戻った。川島さん、そうなんでしょ?」
「俺が殺したと言う証拠はあるのか?証拠があるのなら見せてみろ。ま、どうせ見つかる訳無いだろがな」
「ありますよ、ちゃんと。」
「何だって!?」
俺は、ポケットから一枚の手紙を取り出した。
「証拠はこれです。この手紙は、美少女連続殺人事件の真犯人の事と殺人予告が書かれています。警部、これを読んで下さい」
俺は警部に手紙を渡した。
警部は手紙を読んで青ざめた。
「こ、これは!?」
「何時の間にそれを!? ふふふ、巧く行ったと思ったんだけどな」
川島は笑いながら答えた。
「全て認めるんですね?」
「ああ。奴を殺したのは俺だ。全て認める。殺害動機はその手紙に書かれている通りだ。後はその探偵さんの言う通りだよ」
川島が全て告白すると、刑事は川島に手錠を掛け、連行していった。
「いやー、お手柄だよ。まさか本当に事件が早く解決してしまうとは驚きだ。これからも、協力してくれるかな?」
「勿論ですよ。難事件があれば、この名探偵、霧崎 真にご依頼を!」
事件を解決した俺は、かなと残りの時間を満喫した。
そして、閉園時間が迫り、俺達はトライアルランドを後にした。
「今日の真凄かったよ! 普段はボケっとしてるのに意外に頭良いんだね。」
「意外は余計だっ!」
その時、俺は見た。
現場にいた小野 美智子を。
小野は黒いフードを被り走り去って行った。
一瞬だったが、持っていた紙袋に拳銃の様な危ない物が見えた。
俺は、小野 美智子を追ってみる事にした。
「かな、先に帰っててくれ。すぐ追いつくからよ」
「あ、ちょっと、真? 何処行くのよ!?」
かなはこの時、感じた。
俺がもう二度とかなの前に現れないんじゃないかと……。
「待たせたわね。金は用意出来ているのかしら?」
「はい、この通り……」
男は持っていたアタッシュケースを開いて見せた。
(何だ、あの札束!? 10億はあるぞ)
俺は使い捨てカメラを取り出し、その取引をカメラに納めた。
「探偵ごっこは、そこまでだ!」
ボグッ!
と、音がした。
俺は背後から近づいて来た男にバットで殴られ気絶をしてしまった。
「こんなガキに付けられやがって」
「こ、この子は!?」
「知っているのか?」
「トライアルランドで亮が起こした事件の時にそれを解決した子よ。どうする、バラすの?」
「今はまずい。亮がバカやったせいで警察がうろついている。これを試そう。組織の開発した毒薬をな。こいつは、Trans4869と言って、服用すると変死体で見つかる毒薬だ。しかも、こいつの凄いところは、検死で毒物反応が出ない。まだ人間には試していないが、丁度良い実験台になって貰おう」
男は気絶している俺にカプセルを飲ませた。
暫くして薬の効果が出てきた。
(くっ、熱い! 体が、溶けているみてぇだ!)
そう思いながら、俺はもう一度気絶してしまった。
「おい、誰か死んでるぞ!?」
(死んでる?そうかぁ、俺、死んじまったのか)
「いや、まだ息がある」
(生きてる? そうか、あの薬は人間には効かなかったんだな。丁度良い。さっきの奴らの悪事を全て暴露してやる)
「立てるかい、お嬢ちゃん?」
(お嬢ちゃん? 俺は男だぞ? それとも、他に誰かいるのか?)
俺は起きあがり辺りを見回した。
しかし、俺以外には誰もいなかった。
やはり、お嬢ちゃんと言うのは俺のことか?
「今、救急車を呼ぶからな。じっとしているんだぞ」
じょ、冗談じゃない!
そう思った俺は、急いでその場から立ち去った。
走っていて解ったんだが、胸に快感を覚えている事に気付いた。
いわゆる、女性が胸を揉まれると、気持ち良くなると言うあれと同じ現象だ。
俺は自分の体に何が起きているのか解らなかった。
暫くすると、ショウウィンドウがあった。
ショウウィンドウには、走っている俺の姿が反射していた。
俺は、立ち止まって、ショウウィンドウに反射している自分の体を見た。
「か、髪が長い!?」
思わず発した言葉は、以前の俺の声では無く、甲高い女性のモノだった。
「お、俺は一体、どうしちまったんだ!?」
こんな所に立ち止まっていてもらちがあかないと思った俺は自宅に帰る事にした。
自宅には、親はおらず、俺と弟の大輔と二人暮らし。
好都合だと思った。
俺は自宅まで走った。
家に着くと、俺はインターホンを鳴らした。
すると、ドアが開き、弟が出てきた。
「お姉ちゃん誰?」
俺は大輔にこれまでのいきさつを全て話した。
ま、小学生に理解できるとは思わないが……。
「ふーん。お姉ちゃん警察行こう?」
「何で?」
「だって、お姉ちゃん怪しいもん。そう言えば、この間、人間は手術しないと性別は変わらないって真兄ちゃんが言ってたよ。それに、うちにはそんな手術をするお金なんか無いよ」
「だから、言っただろ? 俺はトライアルランドからの帰りに、二人組の奴に変な薬飲まされて女性になってしまったって!」
「じゃぁ、今日の晩御飯は何?」
「俺が今朝作ったカレーだ」
「そんな事、真兄ちゃんから聞いただけでしょ?」
「お前、カレーを食べたばっかりだろ? 口の周りにカレーの跡が残っているぞ。それに、この服にこびりついたカレーも真新しい。どうせ、食べてる時にこぼしたんだろ?」
「し、真兄ちゃん!? こんな事を見抜けるのは真兄ちゃんしかいないよ!」
「初歩的な推理だよ、ダ・イ・ス・ケ・ク・ン。」
「やっぱり真兄ちゃんだ!」
大輔は、俺を暖かく迎えてくれた。
これから俺はどうなるのやら……。