久しぶりの再会
大賞に出す予定です!
「久しぶり、ゆっくん」
小学生の時に転校して行った幼馴染と高校の校舎裏で再会した。
僕、朝霧優人は晴れて県立板北高校に入学した。入学動機は勿論ある程度の進学校で、家から近いからだ。
(ここで僕は新たな青春を過ごすのかあ)
とワクワクしていた。
(部活、恋愛、友達作り。楽しみだなあ)
とは言っても、友達作りや部活とは違い恋愛関係には特に進展は無かった。
そして入学して二ケ月も経つと、隠れて週刊漫画雑誌を持って来る男子がちらほら出てくる。
「可愛いよな。霧島凛香ちゃん」
「分かる、分かる~」
クラスの男子達が鼻の下伸ばしながら同意し合う。
どうやら青年雑誌の表紙のグラビアを見ているらしい。
僕はあまり表紙の女性を見ないのであまり知らない。しかし、名前ぐらいは聞いたがことあった。
霧島凛香。最近人気上昇中のグラビアアイドルだ。顔はまだ知らない。
「朝霧見てみろよ~」
「良いって。別に……」
「まあ、良いから良いから~」
中学からの友人の真中健斗が半ば強引に見せて来た。
見ると確かに可愛い。しかしふと思う。
どこかで見たことあるような……。
僕はその表紙を眺めていると、チャイムが鳴った。
「おい、先生が来るから、返してくれ」
こうして真中に本を返した。
次の日。学校に登校すると、靴箱に一通の手紙が入っていた。
(なんだこれ?)
なんかラブレターっぽかった。
(ええ、まじで)
急いでトイレの中に入り、手紙を読んでみた。
『昼休み、校舎裏にて待つ。
M・K』
(おお、遂に僕にも青春の一ページがあああああ)
僕は朝からテンションマックスになり、昼休みになるまで時間が長く感じた。
そして待ちに待った昼休み。真っ先に校舎裏に行き、まだ誰も居なかった。
ふんふんと鼻歌を歌っていると、足音が聞こえて来た。
(誰か来た)
ドキドキしながら待っていると、そこに現れたのは少しぼさぼさ髪を一本に束ね、メガネをかけている子が来た。いわゆる地味子である。
(え?)
僕は少しがっかりした。これから告白されたらどうしようと思った。
「久しぶり、ゆっくん」
「え?」
「覚えてない私の事?」
「いや、急にそんなこと言われても……」
「私よ。私」
(新手のオレオレ詐欺か?)
僕は少し警戒していると、これじゃあ分からないか、と彼女は言って、
「河野美登よ。覚えてない?」
「河野……?」
僕が不思議そうにいると、
「ほら、小学校の時大阪に転校した」
「え? もしかして小学校の時によく遊んだみっちゃん⁉」
「そうそう、思い出した?」
「思い出したけど……」
あれ? こんな顔だっけ? 結構可愛かったような……。
「なんか雰囲気変わったね」
「そうかしら? そうね、見た目は変わったわね」
「そう……なんだ」
「どうかした?」
「いや、その……。昔と大分印象が変わった気がするから……さ」
「ああ、それは……」
しゅるっと縛っていた髪を解こうとしたら、奥から声が聞こえて来た。
彼女はびくっとして急いで結び直し、歩きながら僕を呼んだ。
「ゆっくんはあまり変わってないわね」
「そうかな?」
「ええ。小学校の時とそんなに変わってないわ」
「男はそんなに変わらんさ」
「ふふ、そうかもね」
「けどそれにしても懐かしいな。六年ぶりかな」
「そうね、小四の時に引越ししたから」
「どうしてこっちの高校に?」
「こっちに戻って来たからよ」
「親御さんの事情で?」
「うーん。ここが忘れられなかったからかな?」
「なんだ、それ?」
「何でしょう」
彼女はふふふと笑った。しかし、まあ小学校の時とは事情が違う。子供の頃は男女関係なく仲良く遊んだりするが、思春期を過ぎると女性を性の対象として意識してしまう。
とは言っても、彼女を恋愛対象には見れないが……。
「今何組にいるんだ?」
「えーとね、八組」
「へえ、すごいなあ。特進クラスじゃないか」
「勉強も頑張っているから」
そうか。八組とはほとんど接点ないから知らなかったのか。……いや、彼女から言われなかったら、ずっと気づかなかったろう。
「じゃあ、ご飯食べるから教室に戻るね」
「あのさ、ゆっくん」
「ん?」
「いいえ、何でもないわ……」
僕は何だろうと思いながらクラスに戻った。
部活は弓道部で肉体練習だから疲れた。へとへとになって自転車で帰っていると、
「ゆっくーん」
後から声が聞こえた。見ると、みっちゃんだった。
「みっちゃん。どうしたの?」
「私も帰りこっちなんだ~」
「そうなんだ」
「ゆっくんは何部入っているのー?」
「弓道部だよ。みっちゃんは?」
「私は部活には入ってないの」
「そうなのか」
勉強で忙しいのかな?
「大学はどこ目指してるの?」
「もう大学の話?」
彼女は苦笑いをする。
「いや、そんなに勉強しているんだったら、どっか目指してるのかなあと思って」
「うーん。流石にこっちの大学かな?」
「そっか。大阪じゃないのか」
「うん」
自転車を漕ぐ音や、周りから学校帰りの生徒の声が聞こえる。
「ゆっくんは中学の時どうだったの?」
「えーとねえ……」
みっちゃんが昔の話を色々訊いてくるので、答えられる範囲で答えた。
「あ、家こっちだから。またね」
「え、あ、うん」
僕の家の手前の道で彼女と分かれた。
(帰り道ほとんど一緒だな……)
少し驚いたが、気にせずそのまま自宅に帰った。
僕はまだ知らなかった。我が家と彼女が曲がる道との近さが偶然ではないことを。
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