序
部屋の大きな窓が開け放たれた。室内へと吹き込む心地いいそよ風が、少女の頬を撫でる。
目の前には赤銅色の屋根が連なる城下街が広がり、下は庭師たちが丹精込めて世話をし育てた様々な草木や花が花壇を飾り、庭を彩っている。少女が窓の縁に手をかけた。後ろを振り返り、部屋を見回して扉を見る。
誰も来ていないことを確認し、少女は身を乗り出す。計算では下にある芝生や草の塊がクッションになる。───はずだ。
「……っ…」
少女はゴクリと固唾を飲み込む。一か八かだが、前に一度草の塊の大きさなどを確認したところ、問題はなかった。
下を見つめ、心のなかで葛藤する。軟禁に近い生活に嫌気がさしたのは本音だが、このまま飛び出してもいいのかと躊躇しているのも本音だった。
少女は知識に飢えていた。ここにある全ての本を読みきったが、本に書いてあることが全て本当のことであるかどうかはわからない。
だから確かめに行きたい。空を仰ぎ地を踏みしめ、彩り溢れる本当の世界を見てみたい。
少女にとって、今まではこの部屋が、この城が世界であり、全てだった。だが月日が経ち、少女が成長していくにつれ、この世界は少女にとってとても狭いものと化し始めたのだ。
立場上、外に出してもらうことは許されない。だが少女は外の世界への憧れを捨てきれなかった。諦めきれなかったのだ。
すぐそこに世界は広がっているのに、自由に飛び回ることは許されない。そんな自分は、まるで鳥籠の鳥だと自嘲する日々を送り続けてきた。
だが、そろそろ我慢の限界だ。
「私は、鳥籠の鳥じゃないもん…」
少女の体が、宙を舞った。