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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第3章:平穏のその裏で……
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第77話:企て

 土御門 ハルヒ。


 陰陽師家の中で権力が大きく、また陰陽師協会ともつかず離れずと言った関係を築いていた。しかしそれは本家の土御門であり、分家である彼には本家ほどの情報を与えられていない。




「おい、お前、気持ち悪いんだよ!!」

「何で目と髪の色が違うんだ」



 汚らわしい、と言われ言葉の意味も分からないながらも、自分に向けられる視線に態度に。それが嫌いだと言われているのは幼いハルヒには十分すぎる位に分かり、心を傷付けた。




(………何で、なんでなの)

『…………』




 まだ幼い彼には、親の加護が必要だ。しかし、その両親は既に居ない。1人ぼっちでいたのを、土御門家の人間が引き取りに来て安心した。両親はいないがこれで最低でも1人ではないのだと、それだけでも安心できたのだ。



 しかし、入ってみれば毎日奇異な目で見られ罵倒される。


 自分の見た目が、彼等と違うから。


 彼等の目と違う目を自分は持ったから、こんなに言われるのか。




 しゃがみ込んだハルヒに音もなく近寄るのは破軍の土御門行彦(ゆきひこ)。彼は死んだあと、自分の霊力に合った者の魂を拠り所にして生み出す術式、破軍としてこの土御門家を見守って来た。


 行彦は強力な霊力を用いていた人間だった。だから、自分を扱えるだけの霊力を有し行使できる人間を探していた。いつか、自分の力が誰かの為になると信じて……。




『何が汚らわしい、だ。お前等の方がよっぽど汚らわしいよ』




 憎々しげに言った言葉が届いたのかは分からないが、ハルヒは傍に立っていた破軍を見る。まだ幼いが、力としては十分な素質を持っており、土御門家を変えるいいきっかけになると思った。


 だから、と彼はまだ見えないであろうハルヒに話しかける。




『君、もし……私の声と姿が、見える様になったら契約しておくよ。力になるよ、君の力に………主として君に仕えよう』




 夢の中で、会えたなら。とそう優しく言う破軍は触れる事が出来ないと分かりつつもハルヒの頭を撫でる。




「……………」




 誰もいない、なのに自分に触れて来る何か。

 気持ち悪い感じはないし、逆に心地が良い感じがした。だからハルヒは見つめる。居ない筈の存在に、いつか自分の力になると言った破軍に………親に撫でられているような感覚にいつまでも、いつまでも安心しきった表情をしていた。




=======



「あのままいけば陰陽師として働く前に、子供本来の心を無くす。そうでなくても戦力として必要なんでしょ?」




 問いただし殴り込んだのは朝霧 由佳里(ゆかり)

 巫女の家系の一族が、竜神と言う神の子を卸し陰陽師としてなり上がった異端な家系。何代目かの土御門家の人間はそんな朝霧家に協力的であり、力になったと言うのだから歴史は分からないのだと思わされる。


 それに息を吐いたのは本家の土御門家の面々。

 彼等が頭を悩ませたのは異人の子供であるハルヒの事だった。日本人の家系で固めていた彼等に、いきなり外国人の子供が入って来た。それだけで陰陽師としては衝撃を受けたが、それだけならまだ良かった。



 幸いと言えるべきか、彼の両親は既に他界している。

 父親は確かに土御門家の人間ではあるが、かなりの遠縁であり遠くにやればいいと思っていた。母親も彼を生んでから亡くなっており、その後のハルヒは児童養護施設にと預けられた。




(とてつもない霊力だったから迎え入れたが、まさか異人の子供か)




 土御門家は少しずつだが衰退の一途を辿っていた。

 霊力の強い子供が生まれなくなっており、土御門家に煮え湯を飲まされた他の陰陽師家で陥れようと画策する動きが活発になっていた。そんな時、強い霊力を秘めている子供が土御門家の人間だと分かり、すぐにでもと引き取り蓋を開ければ外国人との子供であるハルヒだったのだ。



 今の時代、別に外国人が珍しい訳でもない。寺や忍者に珍しがり外国人が来日するのも珍しくない。外国人は日本の文化に触れでそのまま移住するなんて事も、珍しくもなんともない。


 だから別に陰陽師家でも同じなのだ。シャーマンとして様々な形に触れ、また海外では精霊や妖精の類の話は残っている。それらがファンタジーと言う言葉を生み、文化としているのも………。

海外では悪魔祓いなどと呼ばれる者達もいるのだから、別に海外の子供でもいいのではと考える由佳里だが、この土御門家の人間はそうはいかない。



 頭が固い。昔の栄光にすがる愚かな人達。



 それが由佳里が抱く土御門家の印象だった。

 陰陽師の始祖とされる安倍清明。

 そこから様々な形で術が生み出されては消えていく。それらを繰り返しながらも、怨霊に立ち向かいそこに住む人達の平穏を守るのは自分達の役目ではないのか、と憤るも答えようともしない彼等に由佳里は怒りを爆発させた。




「もういい!!!子供の世話が出来ないような家は必要ない!!!!彼は私達、朝霧家で引き取ります!!!!」




 こうしてハルヒは由佳里により、朝霧家に迎え入れられた。

 彼はそこで家族の暖かさ。自分が触れても良いのだと言う不思議な感覚になった事。そして、初めて一目惚れをした………それが、朝霧麗奈。


 朝霧家の1人娘にして由佳里の自慢の子供だ。




========



「その後、れいちゃんと過ごして遠縁の稲雪(いなゆき)さん達に育てられて。君と同じ高校に通う事になって、告白して撃沈して………まぁ、それでも身代わりにゆきが告白を受けたって芝居して貰って助かったけど」

『でないと主あのまま、真っ赤にして過去最大に恥ずかし事してんもんな』

「……お前も普段の口調にしてよ、疲れる」

『あーはいはい。()()()()。………いやー私とか疲れるんだけど、ほら当主として居る時って威厳示さないといけないでしょ?』




 だから肩凝るんだよねー、と首と肩をコキコキと鳴らす。

 ハルヒに「死んでるのに関係ある?」と言われ『気分だ気分!!!』と反論する破軍につい笑みを零す。




「じゃあ、破軍さん幼い頃からハルちゃんの味方だったんですね」

『生意気の主だけどねー』

「僕も君が嫌いだから安心してよ」

『うわっ、ひでー。俺が居ないと色々と危ないのに』

「そうだね、あの時もそうだったわけだし」

「あの時って……」

「うん、あの日……大蛇が復活した卒業式の日だよ」




======


 


 学校で話そうと考えていたハルヒは、卒業式の後でどのように誘うかと考えていた時だった。ゆきにはこの3年麗奈と知り合いである事、幼い時の約束までは言えなかったがそれ以外では気さくに話していた。



 ゆきが咄嗟に身代わりになったという事で、すぐに謝ったが彼女も気を使ってなのか「麗奈ちゃん、色々と忙しいしね」と言えば「陰陽師だからね」と答え驚かれた。




「え、し、知ってるんですか!?」

「………あ、えっと………」




 言ってしまえば隠すなんて事が出来ない。

 そこから少しずつではあるが、自分の陰陽師家の人間であり朝霧家とは少なからず縁があると言いそれを聞いたゆきは目をキラキラと輝かせて「麗奈ちゃんと同業者なんですね!!!」と迫られそこから仲良くなった。


 そこからではあるが、暫くほとぼりを冷めるまでに恋人のフリをし、もう一度麗奈に言おうとも思っていたが撃沈された心が再び起き上がるのに時間は凄く掛かった。




『結局、3年話しかけるのも躊躇するとか………くくくっ、主は意外に純情だよな』

「黙れ!!!」




 すぐに霊力で作り出した矢で攻撃をするが、破軍の結界に阻まれ攻撃は当たる事はない。主であるハルヒの事をバカにしてはいるが、大事に思っているのは事実なのも麗奈は知っている。

 だって、あの時、ユウトに傷付けられた時の破軍は凄く怖かったとユリウスから聞いていたからだ。



「ったく、アイツは………」





 気を取り直して、ハルヒは続きを話す。

 とりあえず陰ながら麗奈とゆきを見守る事を決めた彼は、そこから3年間。2人に近付く者は徹底的に排除にかかると決めた。その頃から、朝霧家に同業者である者達が近付く事が多くなったという。



 そんなある日、ハルヒの元に本家の人間から来たと言う伝令役の人間がやってきた。今までこちらとの干渉をまともに行わなかった事、自分を厄介者扱いしてきた彼等はハルヒにとっては排除対象でもあった。




『主がその気なら、俺は……力を貸すぜ。今の土御門家に復讐するのもありだし、本家もろとも壊すのもありだ』




 破軍とは12歳の時に色々と教わり、勉強であろうとも就寝しようとしている時でさえ邪魔をしてくる。しかし、土御門家に何か思う所があるのか彼は協力するよと言ってくれたのだ。




「………なに、これ」




 渡された手紙の内容に思わずハルヒは怒りを込めた。

 卒業式の時、朝霧麗奈を土御門家に嫁がせる。表向きは分家の人間だが、実際は本家の人間に嫁がせ幽閉する。

 断れないように実家を壊すと言うものだった。伝令としてきた者は早々に出て行き、その場にはハルヒと手紙の内容を覗いている破軍のみになった。





「………ふざけるなよ。自分達に勝手な都合で、れいちゃんを………ゆきを巻き込もうって言うのか本家の人間達は!!!!」




 ボッ!!と手紙を燃やしそのやり口に、やり方に憤りと吐き気を感じたものに、やり場のない怒りを込める。破軍は『大蛇か………ちょっと様子を見て来る』と気配を消す。




(れいちゃんの逃げ場を無くす為に、家を破壊する為に………街を破壊するかも知れない程の力を秘めた大蛇を復活させる、だと。腐ってる!!!!)




 裏で手を引いているのは陰陽師家を管理すると為の組織である、陰陽師協会の面々。朝霧家の排除を表立ってしようとしても、今の時代ではすぐにネットに流れ噂が広がるのは速い。



 協会の存在も、陰陽師という存在も、知られる訳にはいかないからだ。



 なら、街を破壊しうる大蛇を復活させそれに巻き込まれて実家は壊されたと言う筋書きを行おうと言うのだ。怒りに燃え、そんな計画を自分に知らせて来た連中にはバカだと言いたいなと思った。


 だって、ハルヒは元々土御門家が大嫌いだ。


 家族と言う温かさを教えてくれた朝霧家の面々を、傷付けるような行動をすると分かっていながら誰が言う事を聞くものか。



 本家に恥をかかせるいいチャンスだと思い、この計画を知りつつも大蛇に対して対策を立てる為に、武彦には内密に連絡を取る必要があるなとこれからの事を考えた。




 そうして迎えた卒業式。

 誠一の実家である井波家は既に兄の反逆と言う形で決着を付けながらも、大蛇を解き放ち街を破壊しようと動く面々。


 それが上手く行くことは無かった。

 1つは麗奈が大蛇を学校の裏山で抑え込み、街に向かう事無く討伐した事。

 2つ目は、ハルヒが怨霊の討伐をしながらも、密かに式神達を使い様々な形で妨害をし本家の人間も含めた連中を取り押さえ裏山に行かせなかった事。



 これらの事が原因で、朝霧家を潰す事は叶わないまま。しかも、霊力が強かった麗奈まで死なせる結果となり、土御門家と協会の双方にもダメージを受けた事。

 ハルヒは邪魔をした罰として、卒業の翌日に遠征に行かせられたと言う。




======


ーディルバーレル国ー




「まぁ、そのお陰でれいちゃんとゆきにまた会えたからね。今だけはあの連中に感謝だね」

「………………」




 大蛇の復活は、朝霧家を潰す為。


 霊力が高い事で目を付けられ、逃げられなくする為の………無理矢理に言う事を聞かせようとした協会の企て。


 土御門家の本家はそれを協力する形で、再び陰陽師家としての名の格を上げる為。




「それ………ゆきが狙われたのって」

「ゆきは怨霊に襲われても生き残った貴重な人材。実験体にされたんだよ……連中の身勝手な考えでね」

「………それで、お父さんはお兄さんと戦う事になって、別れて………私とゆきは、命からがらラーグルングに着いて………」





 グルグルと思考が固まらない。


 最初、ラーグルング国の王の間に突然現れて、殺されそうになって……試験を受けされられて、魔物の大軍が国を襲い、魔王が狙っていると言われ、魔族に襲われかけてと、今まで起きた事を振り返る。




 自分達が大蛇に襲われなければ、と思った事もあった。しかし、それでは何の解決にもならない。最初から狙われていたのは自分だ。


 そう思ったら、体が震えていた。ゆきを巻き込んだのも、お父さん達を巻き込んだのも………全部、自分の所為だと、改めて自分がいる事が罪だと言われているような感覚に、麗奈は怖くなった。




「れいちゃん」




 フワリと。

 そんな思考を遮断するように。ハルヒが抱き寄せて来た。


 あやすように、ポンポンと背中を叩き「ごめんね」とハルヒが謝って来た。思わず顔を上げれば次に来たのは、頬を引っ張られると言う予想外な出来事。




「大蛇はれいちゃんが倒したし、あっちは土御門でなくても強い連中は居るんだし気にするなってのが僕の意見。分かる?」

「ふへへへ」

「うん、何言ってるか分からないけど離す気は無いよ」

「ふぇ!!!」

『うわー、それ酷いね』




 と、言いつつも止めない破軍。隣で『がんばれー』と棒読みに言われ思わず睨めば、つねる力が強まり思わず「ふへっ!!!!」と痛いと訴える。




「ここに協会の連中は居ないんだし、戻る方法は探す必要はないよ。ってか、君等が死亡扱いにされてるんだから僕も同じような手続きされるんだろうしね。……しなくても戻る気はないんだけど!!!」

「ひへへへ!!!!」

『痛いってさ。主』

「うん。知らないよそんな事」




 その発言にポカポカ、と叩けば「痛くない痛くない」とバカにされて、さらに強めに叩いても同じように返される。




「もうあっちの心配なんかしなくいいって僕は言ってるの。ここの世界に引っ張られたならこっちでの生活を堪能すればいいの」




 魔王に狙われていても、今のれいちゃんは自由だよ。




「…………」




 その言葉に、そんな魔法みたいな言葉に瞬きを繰り返した。


 父の誠一から言われた。

 陰陽師でなければ、普通の生活を送っていただろうと。友達と話し、長電話で夜更かしをし、カラオケに行って、勉強会をして………そんな当たり前の日常を、自分は全部捨てて来た。




「れいちゃんが向こうの事に、自分達が居た世界にまで背負う必要はない。非情でもなんでもいい。だって僕達が既に向こうでは死んだとされているんだよ?勝手な都合で、身勝手な理由で」




 だったら、僕達だって身勝手にしていいじゃないか、と。


 散々、こき使うみたいに働いたのだから少しは休ませてくれたっていいじゃないか。色んなものを背負ったって、出来る事なんて限られてくる。子供の自分達でさえ、大人でいる人達でさえその限られた中から選択をしているのだ。




「君、ずっとゆきを巻き込んだ事、お父さん達の事、自分の所為だと責めたでしょう?ずっと苦しそうに、胸に何かつっかえたようにしてる………そんな表情、暗い顔のれいちゃんは似合わない」




 僕は笑った表情のれいちゃんが好きだから、と。

 綺麗に笑うものだから、顔に熱が集まる。でも、頬を引っ張る力は一向に緩めないのだからきっと変な顔になっている。そんな表情も含めて、楽しんでいるハルヒに諦めていればやっと手を放してくれた。




「土御門家に復讐する気でいたけど、れいちゃんの変顔見てすっかり毒気抜かされたよ。ふふふ、面白かったからゆきには秘密にしておくよ。……破軍と3人だけの秘密にしておくか」

『良いよ。面白いから乗った!!!!』

「止めて!!!!」





 その日、麗奈はハルヒを追いかけまわした。

 今まで抱えていた不安。自分が思っていた事をハルヒは言い当て、残酷であろうと自分達は好きにこの世界で生きてもいい、と。


 叶えられないでいた普通の日常。陰陽師としていながらも、自分と言う存在を求めている。求められていると、思ってもいいのだと麗奈は思った。




「悔しいけど、僕が変えられなかったれいちゃんを変えたのが………一国の陛下だなんてすっごく、すっごくムカつけどね」




 自分が変えられないものを変えた男、ラーグルング国の陛下、ユリウス・アクルス。




 次に麗奈を泣かせたら、今度は殴るだけでは済まさない。そう強く思ったのがユリウスにも届いたのか、嫌な悪寒を感じ思わず剣に手を掛ける。そこには誰の姿も無いのに、何故かユリウスは誰のものかを理解した。




(………ハルヒの野郎………何の恨みがあるんだよ!!!)

胸につっかえていた不安、言って欲しかった言葉をハルヒに言って貰いました。

少しずつですが、成長していく主人公達を見守っていて下さい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ハルヒの境遇は、とても酷かったのに、 由香里さんに救われて、麗奈に救われて。 色々頑張ったのに、すでに麗奈は、他の人と恋仲で。 ここまで不遇なのに、それでも前向きに麗奈を、 支えようとする…
2020/06/07 17:49 退会済み
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