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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第3章:平穏のその裏で……
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第75話:小さな出会いの恩返し②

 アルベルトと共に麗奈と誠一は再び観光を始めた。その中で、彼は荷物に揺られる中で寝てしまい気付いたらあの場所にいたが暗い上に上手く自分の体がすっぽりとハマってしまい動けなくなった、と説明をしてれた。


 その間、ずっと「クポ、クポポポ!!」と鳴き声に近かったが、麗奈と誠一にははっきりと言葉として聞こえている為に問題はなかった。




「しかし、その小さな体で一体何処に行く気だったんだ?」

「クポポポポ」

「………攫われた仲間を、探す為に1人で旅をしていたのか………偉いな」

「クポー」




 麗奈の手の平の上で、アルベルトはちょこんと座っており、大人しくしている。誠一が器用に指先を使い彼の頭を軽く撫でる。痛くないかと思ったが、彼は気持ち良さそうにしているのでよしとした。




「じゃあ、アルベルトさん。ここまでは馬車で移動を?」

「クポ!!!」

「歩いて!?」

「クーポポ!!!!」




 ウンウン、と頷くアルベルト。

 麗奈はその体で何処から歩いて来たのだろうか?と聞くと彼は空を指さした。誠一が「鳥に………運ばれた?」と言えば、答えが正解なのだろうブンブンと首を縦に振る。




「クポポポポ!!!!!」

「……鳥に、餌と間違われて来た。ってアルベルトさん!!!」




 辛かったねと悲しそうにする麗奈に、アルベルトは「ポー!!」と元気と示すように胸を張る。最初、微量の魔力を感じた麗奈は精霊の類だと思ったがすぐに違うと判断した。何故なら……




「ニャー、ニャニャ!!」

「ポポポ、クポポポ!!!」




 猫に遊ばれているアルベルト。釘抜きをブン、ブン!!と振り回すも当たる事はなく上から押さえ付けられている。




「グポ、ポポポ……」

「ほらあっちにいけ」

「ニャー!!」

「すり寄るな!!!あ、こら、俺で遊ぶな!!!」




 今度の遊び相手として、誠一に狙いを定めだ猫達は一斉に飛び掛かった。




「クポォ……クポォ……クポォ………」




 猫に遊ばれ体力を奪われたアルベルトは、ヨチヨチ歩きで麗奈の元へと向かって歩いてくる。水をすくい上げるような動作で助け出し、改めてアルベルトの事を見る。



(妖精のように羽はないから違うって事だもんね。しかも周りに()()()()())



 チラリと周りを見る。

 妖精なら召喚士と言う麗奈以外では見えないが、アルベルトは「クポ」と小さい声で言いながらも、動く彼の事を不思議そうに見ており特に珍しいと言った好奇の目にはさらされていない様子だ。




======


 ラーグルング国で魔法について学んでいた時、麗奈はキールに精霊以外に何かいるのかを聞いたら「妖精、ドワーフ、エルフ、獣人だね」と言い彼等について説明をしてくれた。


 まずは妖精。

 羽が生えてた小人で女の子は可愛らしいワンピース、男の子は半そで短パンといった元気で活発のある子達だとか。

 

 彼等には魔法は扱えないと言う。出来る事は精霊との対話、精霊の気配を辿れると言った感じであり、召喚士と言う言葉や体現でいる者達がいなかった時までは彼等がその役割を担っていた。

 しかし、ある時から彼等は、精霊と同じ召喚士がいないと視覚化が出来ないようにした。()()()、と言った方が良いか……とキールが視線を送ったのは麗奈の傍でのほほん、とお茶を(すす)るウォーム。




≪なんじゃ、ワシの事なんか気にするな≫

「いや、無理でしょ………」

「ウォームさん、何か知ってるんですか?」

≪…………お菓子、くれ≫

「あ。はい」

「ちょっと………」




 呆れるキールに構わず麗奈はウォームにクッキーを渡した。講義を受ける時でも、自分は受ける側だからと言う事で必ずお土産を作っていく。お菓子作りが得意な麗奈は、日ごとにクッキーやパウンドケーキなどを作り新作が出来る度に九尾に取られ、リーグに取られ………何故か城の中でその噂が広まった。


 ラウルが積極的に九尾とリーグの妨害を開始し、安全に作れた今日はキールと自分に力を貸してくれているウォームとの分をと持って来ていた。



 パクパク、と自分よりも大きいクッキーを食べ満足気な表情に作った麗奈は微笑ましそうにそれを眺めていた。やがて、食べ終わりお茶をズズズ、と飲み≪ふぅ≫と余韻に少しだけ浸り彼女の質問に答える。




≪何か知っている、と言うよりはワシが彼等の姿を見えなくしたんだ≫

「見えなく、ですか………」

≪召喚士と言う言葉も体現者もいない中、彼等だけは精霊の声を聞く事が出来る存在として重宝したがな……中にはそんな彼等を見世物として金を儲ける輩もいたんだ≫



 妖精は人の心に敏感であり、悪い心があれば逃げると言われている。しかし、ウォームに見えなくなるまでは逃げの一手しかなく捕らえられるのは簡単。

 悪い心はやがて妖精にも影響を及ぼす。凶暴性を生み、それ等が魔物となるのも珍しくない。それらが原因で妖精と人間との間に不和が生まれていき妖精は簡単には人を信じなくなり、ウォームの手助けもあって今ではその姿を見る事は召喚士だけとなっているとか。




≪召喚士でも純粋な者しか妖精は見えんよ。心が綺麗でないと見えないと言う奴だな≫

「なら主ちゃんは全然平気だね」

≪うむ、お嬢さんとゆきお嬢さんは全然問題ない。むしろ好かれるぞ≫

「そう、ですか?」

(天然記念物、だしね)

≪そう言う点でお嬢さんは好かれるぞ♪≫




 頭を撫でられる麗奈にキールが思った事は言わず、お茶を飲み「エルフとドワーフ、獣人は――」と続けて説明をした。




 エルフ。

 風と聖属性の魔法を扱い、透き通るような金髪と深緑の瞳を宿し尖った耳が特徴の美しい人達。人間の前に出る事は殆ど姿を現さないが、人と暮らすエルフの里があると噂されている。




「エルフの王族は金の髪と何かしら混ざったような色だって聞いたことあるかな。まぁ、そんな人達が身近にいる訳ないし無視して良いけど」

「確かに……そんなに美形ぞろいならすぐに噂になりますよね」

(主ちゃん、そこなのね、注目するところは………)

≪ならドワーフはもっと遭遇率が低いな≫




 ドワーフ。

 文献により彼等の身長は様々である。1メートルも満たない者、妖精のように小さい者、2メートルを超す程の大男と彼等だけ情報が様々だと言う。しかし、それらと違い共通の認識は、ドワーフは鍛冶職人であり魔力を帯びた魔石の武器造りは天下一品だと。

 扱われる属性の魔法は土属性の力、無属性の身体強化だと言われている。




「ドワーフさんの事、あまり良く分からないんですか?」

「彼等、臆病だしね。人の前に現れる事も無いって聞くよ。私も色んな所に行ったけど彼等と会わないままだったしね」

「ランセさんは知ってるんでしょうか?」

「知ってても言わないかもね。彼、質問されないと答えない主義っぽいし。獣人は……人型の姿が風魔達そっくりだからね」

「そうなんですか!?」

≪うむ。人の姿で何処かしらに獣としての特徴を引き継いでいる、それが獣人だな≫




 麗奈はそこで納得した。

 九尾や清が人の姿をするのは城の中だけに留めるように、とイーナスから言われていた事。風魔も戦う時以外では殆ど子犬の形態で、いる事から何かしらの理由があるのだと思っていた。




≪獣人に家族を奪われた人間も多いし、その逆もあるからな。お嬢さん達の扱っている霊獣と呼ばれる存在はここでは獣人とほぼ同じ特徴だ≫




 獣人。

 人の姿を取りながら、扱える魔法の属性は無属性の身体強化のみである事。それ以外での魔法を使った事はないらしいが、元は炎を司る力を保有していたとされている。その分、人間よりも素早く力が強い事から積極的に彼等に対して戦いを仕掛けていないとされている。




「彼等は総称して亜人と呼んでいるんだけどね。彼等は一括りにされるのは嫌いみたいだから、分けで言わないと機嫌損ねるみたいだし」

「キールさんも、獣人に会った事があるんですか?」

「うん。人当たりが良い人達だよ。風魔達を見てると時々彼等を思い出すよ」




 じゃ、講義はこの位かな?と、お開きするキールに麗奈はお礼を言い、ウォームと共に再びお菓子作りにと厨房を借りに行く。それをニコニコと見送るキールは魔法の研究をしに自分の屋敷に戻って行った。




========



 ふと、キールとの話を思い出した麗奈は自分の手の平で座り「クポポ?」と自分の事を見上げるアルベルトと視線が重なる。




「………アルベルトさん、何か食べたい物ってあります?一緒に観光しましょうよ」

「クポー、クポー」



 途端に嬉しいのかその場で踊り出すアルベルトに、ニコッと答え頭の上に乗せ遊ばれている誠一を助けに猫を追い払う。




「まったく、あの猫達め………」

「まぁまぁ。お父さん、アルベルトさんも混ざって観光しようよ」

「クポポポポゥ」

「………君が嫌でないなら良いんだが。嫌ならすぐに言って良いからな?」

「クポーポ!!!」




 ペコリ、と頭を下げるアルベルトに誠一は「頭の上で良いのか?」と聞けばここが良い!!と主張する。少し考え自分の胸ポケットを指さし「気分転換したいならここでも良いぞ」と、言えば途端にアルベルトが「グポッ!!」とショックを受けた様子。




「………クポ、クポポッ」

「あ、いや、気分転換だ。そんな真剣に悩まなくても………」

「クポポポ、クポッ、クポッ」

「聞いてないよお父さん………」




 結局、店を回りながらアルベルトが変わりたい時に行き来を繰り返してく。麗奈の頭の上も落ち着くがポケットの中でもと、新たな選択がでできた。

 本気で悩み始めたアルベルトに「なんか、すまん」口にする誠一に麗奈はクスクスと笑う。





「アルベルトさん。いつまでここにいます?」

「クポポポ」

「そう、ですか……すぐにでも発つんですね。あ、ちょっと待って!!お父さんアルベルトさんの事お願い!!!」

「え、あ、お、おい!!!」




 頭に乗せたアルベルトを誠一に預けて麗奈が駆け足で入ったのは小物売り場のお店だ。娘を待つか……と店の付近で待っていると、アルベルトが突然武器を扱うか?と聞いて来た。




「いや。俺も麗奈も扱わないが………お世話になっている人達なら剣を扱っていたな」

「クポ?」

「ほら、あそこだよ」




 首都の中心に建てられた大きなお城。

 大きな3つの塔の様な造りで、それぞれ渡り廊下が駆けられている。その中で一際大きな真ん中の建物、その塔の先端には7色に光を発している大きな魔石がある。


 魔物除け、守護防壁として機能する。

 これはブルームが居い力を発する為に今回の一件では力を存分に発揮する事は叶わずじまいだった。守護の力を逆手にとった術式を組まれ、力は逆流するように細工されたがここで暮らす首都の住人達には自分達が危険な目に合ったと言う記憶はない。



 ドネールの即位式でも、病に伏せられ親兄妹が原因不明の病で亡くなったと悲しみに暮れたが、まだドーネルの父親が奮闘していた。そう誤認させ、ここの住人達を飼い殺しにしようとしていたユウトは最後に術式を完成させようと国民に手を出そうと考えた。


 ドーネルが倒れなければ、傷を負わなければ姿を消して別空間で集めていた住人達を殺していただろう。それをさせずに今も生きているのは、たまたまとはいえドーネルがユウトの攻撃を受けた。


 その父も、病気の為に亡くなったと国民達に知らせ残った自分が王として即位すると宣言したドーネルは、凄く様になっていたとユリウスから聞いてた。


 こうして、何事も変わらずの平穏を得られるようになったのは彼のお陰。傷を負い死にかけたが、麗奈のお陰で助けられたと話す誠一にアルベルトは口を挟む事無く黙って聞いていた。




「すまない、初めて会った君にこんな事。………何だろうな、君とは良い関係を築けそうな気がするよアルベルトさん」

「クポポ」

「え、呼び捨てで……いい?」




 コクリ、と力強く頷かれ自分を見るアルベルトに困り顔になりながらも名前を呼べば嬉しそうにしている。

 その空気に耐えきれないでいると麗奈が店から出た所。「何か買ったのか?」と話題を変え、落ち着かせる。




「うん、ユリィ達にお土産。………それと」




 大きな袋から小物用の袋を取り出し、アルベルトに差し出したのは銀色のリングに緑色の宝石が埋め込まれた装飾品。

 それを暫く見つめるアルベルトに麗奈は「これでも、小さいサイズなんだけど」と自分の小指程の大きさだが、それでもアルベルトにとっては大きく移動するには邪魔になってしまう。





「……迷惑、だよね」

「クポポ!!!」

「え、あ、アルベルトさん!?」




 装飾品を奪い、シュバッと走り出してお店の屋根へとポンポンと身軽に飛びそのまま帰って来なくなった。




「………やっぱり、迷惑って事?」

「いや、あれは嬉しいんだよ」

「ポポ」




 シュタッ、と何事も無かった様子で2人の前に降り立ったアルベルト。そして、2人に自分の腕にキラリと光るものを指さし、自分に合うようにと腕輪として作り直したと言う。




「え、えええええぇ!!!!」

「凄い、早業だな」

「クポポポ」

「ほぅ、特技なのか。それはそれは」

「え、でもっ。え、え………」




 自分の小指ほどの大きさのリングを数秒で自分に合うような腕輪として作り替えた。言葉で言うには簡単だが、実行するとなると早すぎる。

 驚いてしゃがみ込みアルベルトを見るも、彼は嬉しそうに腕輪をスリスリし「一生の宝物にする」と意気込んだ。




「………リングをそのまま、腕輪にしたんだ」

「クポポポ!!!!」

「そうか。もう行くのか?」

「クポッ!!!!」




 やる事が出来た、とメラメラと燃えるアルベルトに麗奈と誠一は一瞬、寂しそうにしていると「また、会えますか?」と知らず知らずの内に言っていた。それに彼は、コクリと大きく頷き「クポーーー!!!」とまたシュバッ、と店の屋根から屋根へと移り駆けて行くのをずっと見つめる2人。




「また会えるなら、今度はラーグルング国を案内すればいいだろ。あの国なら喜んで受け入れそうだ」

「そうだね。………うん、そうなるといいな」




 涙ぐむ麗奈に肩を叩き、また再会をするのを心待ちにしお城へと向かう。

 

 翌朝、ドーネル達の扱う武器も含めユリウス達の武器が全て綺麗に研ぎ直されていたと、不可思議な事が起きていたのだ。



 それを聞いて麗奈と誠一は誰がやったのかを理解し2人で笑い合う。ゆきが「何かあったの?」と聞けば2人して同じ返答をした。




「「内緒」」

「えーーーーなにそれ、ずるい!!!!」




 教えてーーー!!と言うゆきに、麗奈と誠一は絶対に言わないと固く決めたのは黙り込んでしまう。

 むすっとなるも、すぐにやり返しをする事にピンっときたゆきは思う。




(覚えててよ麗奈ちゃん。教えなくても良いよ、その分イタズラするから!!!)




 ゾクリ、と。

 背筋が凍るような感じに思わず麗奈はゆきを見る。


 勝ち誇るような表情をした親友に、嫌な予感がしたのは言うまでもなかった。

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