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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第2章:精霊の導き
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第69話:闇に堕ちた者

『主!!』




 パキン、とガラスが割れた音が響く。

 何もない所に亀裂が入る。空間が裂け、霊獣が主の元へと向かう際に用いるものだ。


 姿を現したのは黄龍と青龍。首都に導かれた麗奈とハルヒ、2人を追おうとして何故か力が抜けて動けなくなっていた。長い間、主と離れていた事に嫌な予感を覚えた。




「………黄龍、さん」

『陛下さん……呪い以来だね。主は無事?』




 姿を見て安心したい、その一心で辿り着いた。そしたらラーグルングの陛下であるユリウスが居たのだ。彼は麗奈を大事そうに抱えており、見に行けば気絶していても幸せそうな表情に安心した。

 フラフラ、とへたり込むようにしてうずくまる黄龍に青龍だけで無くユリウスも慌てだした。




「あ、あの」

『良かった………本当に』




 心からの、自分でも気付かない程、安堵し涙ぐむ。泣くような性格ではないと思っていたが、彼女と触れると色々とダメだなと認識させられる。




『互いの主が無事でなによりだ』




 そこに第3者の声が割り込む。


 破軍が傷付いていたハルヒを抱えていた。麗奈に青龍を預けすぐに、駆け付けフリーゲから渡された薬草を練りこんだ薬を渡す。




「水はなくて平気です。口に入りさえすればそのまま溶けるように出来ているって話ですから」

『そう………凄い進歩だな、魔法とやらは』




 自分が居た所は薬を買うのにかなり値が高かったのにな、とポツリと言いながらハルヒにゆっくりと飲ませる。それ以上、ユリウスは言う事が出来なかった。


 破軍からは静かな怒りが滲み出ており、話かけるのを躊躇させた。




『……アイツが生きてたよ、日菜。土御門優斗(ゆうと)。魔族になってた』

『なっ!!!』




 思わず青龍を見た。

 本当かと声を荒げば黙ったまま頷かれる。舌打ちし予想が当たらなければ良かったと思いながらも、その片鱗は見当がついていた。




『(あの要塞の建てられた位置………龍脈を利用していた)』




 青龍が壊した時も、自分が破壊した時に感じた気の流れ。魔法を扱うマナと呼ばれる見えないエネルギーを阻害するような、力の流れが逆流されるような仕組み。


 その術式はなくとも、感じた気の流れに妙な胸騒ぎを感じていた。だから、ユリウス達にここに来るまでに要塞を潰しに掛かるようにお願いした。何かしらの術式があった場合、発動までの時間を遅らせる……その為に。




『(………同じ陰陽師だとは思っていたが。まさか、優斗が生きていた。いや転生に近いやり方か)』

「あの、魔族……知り合い、何ですか」

『……うん。私と主と同じ土御門の名を継ぎ、私と同じ次期当主として育てられた男の名だ。………そして、もっとも嫌いな男だよ』




 吐き捨てるように、嫌悪と憎悪を滲ませるような声色。 

 破軍のそんな表情は見たこともなく、うっすらと意識を取り戻していたハルヒ。




(なんだ……あんな表情、するんだな………)




 いつもニコニコと人の事を馬鹿にしたような態度。

 その言動にいつも振り回されるハルヒは、いつも眉間に皺を寄せ破軍が良からぬ行動に出たら速攻で締め上げる。


 そんな彼の別の一面を垣間見た。


 今の破軍は静かに怒りを露わにしながらも、表に出さないように抑えている。しかし、抑えきれないのがピリピリと肌を刺すような空気になりユリウスはそれ以上は言えないでいる様子だ。





(れいちゃんが、無事なら……良いか、な)




 あんなに感情を露わにしたのは自分の所為なのに、何故かハルヒは嬉しかった。いつも仮面を被るように、表情はニコニコとあまり動かない。そんな彼の、初めて見る怒りに……人間なんだな、と実感させられる。



 嬉しいような、複雑のような、なんとも言えない気持ち。意外に自分は破軍の事が気に入っているのだな、と分かりそのまま静かに目を閉じた。






======



 一方、首都へと辿り着いたセクト達はキメラが空を、都を埋め尽くすような数が縦横無尽に駆け回っていた。すぐに馬を離れた所へとくくりつけ、様子を伺った。




「あの魔物……城の時は1匹しか居なかったが、あんなに居たのか」

「キメラと言う魔物です。巨体が殆どでスピードもあります。ラーグルングには魔法を無効にしたのが来たんですよね?」

「そうそう。あん時は嬢ちゃんが倒したんだよ」

「流石ですよね」

「魔法を!?」




 思わず声が上がったワクナリは慌てて口を塞ぎ周囲を見渡す。幸いにもキメラは気付かずにおり、ほっと胸をなで下ろす。セクトの話によれば、魔法が完全に効かない訳ではなくある程度は効くらしい。




「まっ、効くのは強力な魔法か光、聖属性の魔法位だと思う」




 その時、頭上からドシャ!!と何かが落ちて来た。


 あと数メートル、自分達に近かったら降って来たものによって自分達は死んでたな、と思う。なんせ降って来たのは半身だけのキメラなのだから。




「なーんだ……君等なの」




 キメラの横に降り立ったのはキールだ。

 その表情はつまらなさそうに、不機嫌にしていた。四方から襲い掛かるキメラに目もくれず、彼を中心にして黒い球体が同じく4つ現れる。

 



「邪魔」




 その一言で、球体はキメラへと飛び掛かる。攻撃しようとも、スライムのように体がドブンと沈んでいきそのまま消滅。新たなキメラが襲い掛かるも、今度はその頭上から黒い雷が落とされた。




「あれ……ここまで追って来たんだ。全員、無事?」




 ストン、と空から普通に着地したのはランセだ。

 その後ろでは今も襲い掛かかろうと飛びかかるキメラを、ガロウ、黒騎士とでせめぎ合いぶつかり合っている。そこに炎と雷、風が合わさった竜巻がキメラに襲い掛かり焼かれていく。



 ヴォルト・フレイム。



 キールにより作られた複合魔法の1つ。

 反発する風と炎が雷により統合された攻撃魔法。反発する力は生まれる力も絶大な分、暴れ狂う魔力を自分の制御下に置けるかが鍵だ。




「え、なんか勝手に出来たよ。……そんなに難しい?」

「…………」




 雷を扱うイーナスがその魔法の強力さにどうやって出来たかを聞いたら、今の回答だ。ムカついて雷を落としたのは間違っていない、悔しいとか出来て当たり前な態度が更にイラつかせた、とかそんな理由で人には向けない……はずだ。


 キールは例外だと言わんばかりに、せっせと追い付こうとしたイーナスが懐かしくてつい微笑む。




(懐かしの思い出したな………)




 指を鳴らし更に膨大に魔力を注ぎ込む。

 ランセがそれに合わせるように闇の力を引き出し、一旦下がらせたガロウ達と合わせキメラを四散させる。背中合わせに佇む2人は恐ろしくもあり頼もしくもある。



 キメラを狩つくように、邪魔者を排除するような動きにセクト達が入る隙間などなかった。




(忘れてたけど、ランセって魔王だったな………)




 今更ながらに彼が力を貸している、と言う異例な状況にセクト達は同時に思った。ユリウスや麗奈に優しく、また自分達にも気遣い普通にしているからつい忘れてしまった。



 ランセは魔族であり、その魔族を統べる王………魔王であると。



 


「君、力強すぎ。もっと優しくやりなよ」

「ランセも同じようなもんじゃん」

《どっちも、一緒………》

《ガウ、ガウ》

「「どこがなの!!!」」




 そういう所、と黒騎士が再度言えば同意したようにガロウが思い切り頭に答える間もなく姿を消したベール。

 テレポートを使って同じ属性が扱える者が居る所へと飛んだのだ。見ればキールの姿も居なくなっており、彼が行動を起こすと言う点で分かりきっていた。いや、分かってしまった。




「嬢ちゃん大好き人間かお前等はーーーー!!!!」





=====

 


「………」




 自分に感じる暖かさに意識を覚醒しつつある。抱えた人物は、視線が合うと「平気か?」と優しく、けれどしっかりと聞こえる声に涙ぐむ。




「……ユリィ………ユリィ、なんだよね?」

「遅くなって、すまない………もう大丈夫だからそんなに泣くなよ」

「泣かせてるのは誰の所為?」

「………俺、だな」




 互いに見つめ合う事、数秒間。

 ぷっ、と吹き出し張り詰めていた空気が緩んだように思える。


 泣きそうな表情は自分よりも傷付いたように見えた。触れてくる手が優しく、どこまでも自分を気遣うような、自分がよく知るものだと気付き安堵する。




『はいはい、その辺にしてねー』

「「………」」





 思わずピタッと止まる。


 少しだけ気まずい空気になりながらも『主ー♪』と後ろから抱き上げそのまま連れ去られる。ポン、と青龍に無言で肩に手を置かれ「憐れむな」と言ったのは間違っていない。




『もう~心配させて、いけない子だね』

「す、すすす、すみません!!!!」

『うん、許さないよ』




 『だからぎゅーだね♪』と、よく分からない理由により抱きしめられる。その間、ユリウスの機嫌はどんどん悪くなるのが分かり麗奈は「い、今はダメ」と言えば黄龍はそれにニヤリ、と意地の悪い顔を浮かべる。




『じゃあ、2人きりなら良いんだね?』

「そ、そういう意味じゃ」

『はーい、陛下さん。主を返すよ』

「お、おう………」




 やけにあっさりと解放される。もう少し拘束すると思っていたのでなんだか、拍子抜けのようにも思えた。




「…………うぅ」




 一方の麗奈は顔をうな垂れ、穴があったらそこに入り一生出たくない、と言う気持ちでいた。とんでもない事を約束してしまった……と後悔しユリウスには絶対に言えない気持ちが先立ち顔を合わせる事が出来ないでいる。




「麗奈………平気か?」

「あ、うん………うん、平気」

(平気じゃないな)




 すぐにそう結論付け、ぐぐぐ、とうな垂れる麗奈。


 その表情は少しだけむくれているようであり、これでは頑なに答えないなと思い抱き抱えていた麗奈を降ろす。破軍はそれを何処かぼーっとした様子で見ており、その側にはハルヒがスヤスヤと眠っている。




『(薬の効果が効いているようだ………良かった)』




 ほっとする。

 心の底から、本心から破軍は安堵した。魔法の力を信じていない訳ではなかった。しかし、自分達の扱う力とは違う未知の力に彼でなくても警戒するのだから。




『(傷は後で治して貰うとしても………まずは安全確保か)』




 今のハルヒは薬の効果で眠っており痛みの作用はない状態だ。眠りから覚めた場合、彼はこれを行ったあの魔族に対してやり返しを実行する。どんなに傷が深かろうがやり返したい気持ちで実行に移すだろうと予想はつく。




「破軍さん、ハルちゃんの怪我治しますよ」




 考え事に集中していて、麗奈とユリウスが傍まで来ていた。

 麗奈は魔法を扱う事が出来る様になり、さらにはここには居ない回復役にもなれる。思わず頼もうと言いかけてそれを止めた。




『(治して元気になったら突っ込むよな、どう考えても)』

「破軍、さん?」




 返答をしない破軍に麗奈は不思議がり、怪我を治そうと手をかざす。

 しかし破軍に手を掴まれ止めるように言われてしまう。




「え、で、でも」

『やっぱりいい。治したら……これ以上の大怪我をするに決まっている』

「………やっぱりあの魔族にやり返しを」

『君は見ていて感じただろ?主はね、気に入らな相手には容赦ないし態度も隠す気も無い』




 同じ家の者なら尚更だ、と言えば麗奈は驚いて言葉を発せなかった。思わず黄龍と青龍の方へと目を追ってしまい、答えを聞くも彼等は揃って頷き、肯定だと言う意思表示をする。




「まさか、ハルちゃんを傷付けた魔族は………私達と、同じ陰陽師なんですか?」

『そうだよ。隠していてもいずれバレるだろうから、言ってしまうけどね。しかも同じ土御門家の元・人間だ』




 家での不始末は同じ家の名を継いだものが排除する。


 口に出さずともそう読み取れた。その覚悟に、麗奈は何も言えず思わず俯き悲しそうにする。黄龍はこちらに手を振る死神のサスティスに思わず声を出しかけて押し止まる。





『(主はともかく、陛下さんと破軍の主の前では言えないな)』




 青龍に目配りをし少しの間、姿を消し自分を呼ぶサスティスの所に向かう。傍にはザジが控えており「わりーな」とふてぶてしくも、謝罪してくる態度にわず『何があった』と言ってしまう。




「あ、やっぱり気付いた?ザジの奴ね、色々と変わったんだよ」

「うっせー。さっさと話し進めろよ」




 はいはい、と仕方なく進行するサスティス。

 そこで黄龍は思わず、彼等に聞いた。死神がここまで介入してきていいのか?、と。




「こっちも魔法がなくなるのはさけたいからね」

『君等にも魔法が扱えるの?』

「んー。私は扱えるよ………力はそんなに強くないんだけど」

『そう………』




 サスティスの言葉に黄龍は目を細め真意を探る。彼はそれを知ってか知らずか「上司が関われってうるさくてね」と話を進めて行く。


 彼等はブルームとアシュプの居る場所へと案内をしてくれる、と言うものだ。死神からしても魔王サスクールは排除すべき存在だと認識した故の行動だから、気にしなくて良いとさえ言った。




『仮にも神の名を持った君達なのに……処罰的なものは受けないのかい?』

「受けても上司だけでしょ」

「なら、存分に受けて貰おうじゃねーか。ガンガン、好き勝手に動くか」

「あぁ、良いね。痛い目見ても反省なんてするような奴じゃないし、罰を受けて日ごろの行い正せよって言おうか」

『………何だか大変なんだな君達も』




 何だかノリ気の死神に嬉しいような複雑な気持ちになる黄龍。すると、ベールとキールがこの場所に同時に現れ「主ちゃん!!!」、「麗奈さん!!!」とユリウス達に押し迫る。




「無事だから良いだろ」

「あ、居たんですか陛下」

「ぶっ飛ばすぞ、ベール………」

「おや、機嫌が悪いようでなによりです」




 どこがだよ、と睨み付けるも彼は無視して麗奈の方へと向かう。キールが魔族の気配がないのを確認し、脱出を促そうとして自分達の居場所が変わっている事に気付く。




(空間が変わった気配もない。これは一体)




 ロウソクの光だけで照らされているその場所。

 キールは麗奈達に動かないように言い、調べる為にとりあえず真っすぐ歩く。感触がぬめりとし、異臭が発している事に気付き思わず口に手を当てる。




(そう言えば、死体があるとか言っていたか………まさか、既に行きついているのか?)




 サスティスが麗奈の方へと近付き、耳元で「契約している精霊の所、連れて行くよ」と言い驚いている隙に音も気配もなくその場から居なくなる。




「はい、これで彼等の居る場所へと移動させといたよ」

『やるなら事前に言ってくれない?』

「あ、あのっ」

「安心しろ。アイツ等にはお前が居たって言う認識をさせたままだ。暫く姿がなくても平気だ」

「ザジ!!!え、もしかして」

「そう。君達に協力するんだ」



 ほら、見えたよとサスティスが指を指す。その指先から光が導かれ、線となって麗奈の目にはっきりと見えるようになる。紫色の檻に閉じ込められ、大きな体を持つブルームはぐったりしており、傍にはフラフラとなりながらもこちら手を振るアシュプ。




≪お、お嬢さん………≫

「今、行きます。ウォームさん」

『待て』




 止まるように言う青龍。黄龍は結界を張り、四方へと放たれた雷を弾き返す。誰かが拍手する音が聞こえ「まさかここがバレるとはね」と自分達に姿を現すのはユウト。


 非道な術式を編み出し、絶縁させるまでに至った土御門家の汚点。


 破軍自らが制裁を加える者として殺してはずの男。それは黄龍にとっても同じ認識。ユウトは黄龍の姿を見て舌打ちし、納得したように目を細めた。




「ふん、術の効力が弱まった原因はお前か」

『効力が弱まって何より。お陰で間に合った訳だな』

「………それが、君等の主ってこと?」




 青龍が麗奈を守る様にして前に立つ。ザジとサスティスは姿が見えないのを良い事に既にブルームとアシュプの方へと向かっている。





「同じ陰陽師家の血が必要なんだよ。君、提供してくれない?」




 怪しく光るその目は、麗奈の背筋を凍らせるには十分なもの。

 震える体を、手を抑える。同じ陰陽師の者が行った事なら、土御門だけの所為には出来ない。


 自分も、覚悟を決めなければならない。そう実感したのだ。




「断ります。………同じ陰陽師の人間なのに。優しい破軍さんが大事にしてきたものをハルちゃんを傷付けた貴方を許す事は出来ません」





 家の人間が片付ける。しかしそれは家でなくても、同じ陰陽師ならと一括りにすればいいものを、破軍はワザワザ土御門と限定してきた。ハルヒや自分に背負わせない為の言葉だとしても、人を助ける筈の陰陽師がこんな非道な事をしていいはずがない。




「ブルームさん達を解放します。邪魔をするなら容赦しません!!!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 陛下と麗奈の人目をはばからない、 平常運転な、いちゃつきぶりに、 ほっとしますね。 [一言] まさか土御門の者が魔族に堕ちているとは、 予想外な展開でしたね。 人間、精霊、神、魔族、と複…
2020/05/29 08:13 退会済み
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