第68話:再会
首都の近くを見張れると言う意味で、キールが魔法で加工し簡易的なキャンプを作り首都に何度か入り様子を窺う事数日。
ドーネルが送り出した騎士達がもう戻らないだろう、と宰相の息子であり今は彼と共に行動を起こしているギルティスに報告をしに離れている。時間にして夕方になり(少し肌寒いな)と吐く息で指を温めながら麗奈はふとそう思った。
「くしゅん!!!」
うぅ~、ともっと焚火に近付く麗奈に「ダーメ」とキールに言われてそのまま後ろから抱き込まれてビクッと体が動かなくなる。恐る恐る後ろを振り返れば端正な顔が目と鼻の先にあり、思わず逃げようとするも……そんな事が出来る訳もなくズルズルとなされるまま。
「寒いなら人肌で温めれば良いじゃない?」
「……………」
「主ちゃんあったかいね~♪」
「キールさん、今すぐにどかないなら斬りますよ?」
「主ちゃん毎斬るのかな、ラウル」
「ご安心を。麗奈には絶対に、当てないので」
「…………ブレないね、君」
(暖かいのに寒い。………何で、何でなの?)
焚火の近くに居て尚且つキールにより抱きしめられている。にも関わらず背後が物凄く寒い。しかも、キールがぎゅっと抱きしめる力が強くなると連動して後ろの寒気が倍になって感じられる。
ラウルの睨みで滲み出た魔力による気温低下。麗奈が振り返らないのは声で、ラウルなのが分かり自分が関わるのはもっと状況が悪くなる。と言うのが最近学んで分かった事。
「………君等、飽きもせずによくやるよね」
クスリと笑うドーネルは何度見てもこのやりとりが、面白くて止めない1人。思わず麗奈が助けを求めるも「うん、怖いから無理」と速攻で断られてしまった。
(ゆき………早く来て‼)
「主ちゃん、何考えてるの?」
「ガロウ」
≪ガウガウ!!≫
「きゃっ」
ブワッ、と麗奈だけを器用に影に連れ出し驚いている内にガロウは麗奈にスリスリと寄っている。ランセは呆れにも似た表情で「君等、見ない間に凄いことしてるね」と言い放つ。
「っ、ちょっ、ま、待って、あはっ、あはははは、くすっぐたい!!!くすぐったいよ、ガロウ」
≪ウゥ、ガウガウ♪≫
「ちょっ!!!!服はだけてる、止めろガロウ!!!!」
「「…………」」
ふいっ、と顔を逸らすキールとラウルにランセはガロウを引き剥がそうとするがどんどん被害が大きくなる。
「お前等、いちいち騒がしいんだよ!!!!」
そこにリーファーが怒鳴り声をあげ、麗奈も含めた全員が怒られる羽目になった。
========
場所は変わりディルバーレル国の城内、王の間。
外はいつもと変わらない。今日も何事もなく昼が終わり、これから来るのは夜であり姿を変える。
「ねぇ~君の術式、まだ~~」
「うっさい、発動したくとも出来ないんだよ」
君みたいに力だけで終わらせられる訳じゃない、と怒ればラークはつまらなそうに文句を言っていた。コツン、コツン、と足音を鳴らしてやってくるのはリートでありここを任せていた魔族のユウトに報告をした。
「キメラの数が減ってきているな」
「そうか………上手く使えれば、とも思ったんだけど」
うーん、と思っていた報告が違うのだなと内心で思えば試しに自身に闇の力を集中させる。ボウッ、と炎にも似た力を呼び出して使うもいつもより発動に時間が掛かる事から未だにダメージが残っているのだと思い、あの時に大賢者を殺せなかった事が悔やまれる。
(流石は英雄と言った所か)
数百年に1人の確立として現れる大賢者。
戦った事はない上、自分達に苦手な力を使ってきた事で思った以上に手こずったなと思いなかなか面白い、と笑みを浮かべた。
「ん~あと少しなんだけどその少しがな………。でも大精霊のブルームの力が確実に落ちてきているのは確か………もっと確実に血を取るにはここの住人を殺せば良いか」
「足りる?ってか、何すんの儀式って」
「ここの住人全てを殺しても足りそうなのか?」
「ギリギリって所。足りれば良いけど、出来ればもっと確実に確保しときたいんだよな」
だからへルギア帝国の要塞に居る連中から潰したんだけど、と考え込む。彼は黒い髪を持ち濃い紫色の瞳を宿していた。黒の着物、裾、長着を身に付け闇に紛れれば殆ど姿が分からない。
見た目も服装も、麗奈とハルヒが来ているような陰陽師に着るような恰好であり西洋系に近い顔立ちよりも日本寄りの顔立ち。目を閉じれば自分と似たような力を探知できるが、その周りに居るのがどれも厄介だなと内心で舌打ちする。
(………ラークの言う女の子を狙えば、ラークに殺されるよな)
彼から嬉々として聞かされた女。
それを聞いて(まさかな……)とも思った。そして、今、自分の術式にかなりの弊害が出てきている。あと少しで完成と言う所を邪魔し、力の半減を術の効力を減らそうとするこの動き。
(邪魔する気か………土御門)
だとしたら急がないといけないな、とすぐに住民達を殺す準備に取り掛かった。取り出した札に魔力を込めキメラを呼び出し命令を下した。
======
「た、大変、大変なの!!!!」
「キールさん、首都が」
買い物から戻って来たゆき、ヤクルは大慌てで戻って来た。その後ろでは2人を追ってドーネルとギルティスが「下れ!!」と全員に言い放つ。
「エクレール・ラム」
頭上から来た何かにキールが手を掲げて、放たれた雷の魔法。ゆきを含めた全員を守る様に刃が魔物に放たれる。絶叫が聞こえるも消滅していく魔物に安堵するゆき。
「ドーネル、やはり危険だ」
「今更でしょ。それに首都から次々と魔物が出て来て、喰らい始めてるんだ。流石に目の前で死なれるのはね」
「…………」
薄い水色の長髪を一本に結び、カチリと眼鏡を掛け直すのはギルティス・ルーベント。彼は薄紫色の上着をマントで羽織り、灰色のズボン、腰に下げている剣を握りしめる。
「首都の防衛をする気か」
「一応は、育った場所だし……ね」
表情を読み取らせないでいるドーネルに覚悟を決めたギルティス。キールがゆきとヤクルから魔物が影から湧き上がる様にして出現していると聞き、ランセはピクリと反応を示しガロウがすぐに突撃する。
「ソルダート」
ランセの影から次々と形を成す兵士。麗奈達を囲うようにしながら、魔物を次々と倒していく。
ハルヒは咄嗟に麗奈の手を取る。嫌な気を感じ、ただ事じゃないと思ったからだ。
そして、気付いたら2人は知らない場所へと移動させられてた。
「なっ……!!!」
「っ、ハルちゃん」
状況を読む前にジャラリと鎖に手をまかれる。自然と引き離され、ハルヒは地面に叩きつけられる。
「ぐうっ」
すぐに起き上がるも今度は蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。
意識を失わないように結界を張り、破軍と誰かがぶつかる音が聞こえる。
麗奈の方を見れば手首と口に黒札を貼られ、意識がないのかぐったりしていた。次に気付いた時、その札はハルヒの手首に貼られており――意識を保つのが難しくなっていった。
『お前、何で生きている!!!』
対峙している破軍からは焦りがあった。驚きの表情を浮かべるも、倒れそうになるハルヒを見て不味いと悟った。
「お前。見ない間に変わったな」
破軍を知っている様子の相手は、黒札を何枚も投げつけ結界を形成され檻に閉じ込められている。
『ちっ』
「間抜けな主だが、保険として使わせてもらう」
(れい……ちゃん……)
ハルヒの意識はそこで途切れた。
やがてハルヒの霊力で、具現化をしていた破軍も四散していった。
========
馬を走らせて行く内に流れ込んでくる血の匂いに思わずワクナリは顔を歪める。同じようにベールも嫌な気分をしているのか止まるようにユリウス達にお願いをした。
「……本当に平気か?ワクナリ」
「は、はい……すみません。私の所為で」
「血の匂いか」
「えぇ。恐らく首都で、何かが起きているんです」
顔色が悪いベールにセクトがフリーゲから渡された薬でもと言うが本人からは拒否をされ「慣れれば平気です」と断られてしまう。ベールはユリウスに転送魔法で首都まで向かおうと提案してくる。
「俺とベールのだと反発されるぞ」
「ですから、私が今休んでいる間に貴方は先に行くんです。……貴方ならすぐに飛べるはずです」
ベールが居ればゆきと同様に反発される為に今まで転送魔法を使わなかった。反発する使い手と離れれば、今なら影響はないのではと考えたからだ。それに思わず「良いのか」と確認してきた。
「早く行くべきです。私達に合せていたら、いつまでも会えませんよ」
「………分かった」
木に馬をくくりつけ、走り去っていく。ルーベンは「どうか、したのか?」と不思議そうにフーリエ達を見ておりワクナリも同じような反応を示している。
「いや、ちょっとな」
「彼には彼の用事がありますから」
「「?」」
======
テレポートを使い闇の力を強く感じた所へと導かれる。
最初に感じたのは鼻をつんざくような嫌な臭いと赤い床。ゾッとなりすぐに剣に手を伸ばして、何が来ても良い様に深呼吸をしてすぐに前へと進む。
(ロウソクでしか明かりが確認できない………でも、この感じは城の中か?)
自分の住んでいる城にも隠し扉や通路などがあり、子供の時によく兄と鬼ごっこをしていた。よく城の人達と追いかけられたり、説教を聞きたくない為によく隠れ家にしていた。
その時も明かりは最低限にしかなく、風が通る音が響き石造りの通路。似ている部分が多い事から自然と、城の隠し通路に来ているのだと理解した。自分の足音がよく響く分、自分の居場所も分かるが相手の居場所もすぐに分かってしまう。
自然と剣を握る手を強くなっていく。
「ぐああああっ」
「!!」
誰かの響く声、それに思わず足を止め息を殺し声のした方へと向かう。コツ、コツ、コツと歩く足音で自分の居場所が知られるかも知れないと思いながらもそれよりも大きく聞こえてくるのは苦しむ声。
それは聞いた事のある声だと思い、ドクン、ドクン、と嫌な汗が流れそうなのを必死に抑え込む。
(ハルヒ………ちっ、何が起きてるんだ)
ジャラ、ジャラと聞こえてくる鎖の音。
それをギリギリの所で見て思わず駆けだしそうになった。けど、出来ない。ユリウスに気付いたハルヒに睨まれたからだ。
彼は宙吊りにされていた。両手両足を鎖により繋がれ、黒い札を張られ地面につかないギリギリの所に止められている。
対峙している男性を見たユリウスは、一瞬だけ麗奈達のようなと同じ異世界人なのかと思ってみていた。
(っ、違う………魔族だ)
纏う空気が人のそれと違う。ハルヒを自身の爪で引っかき、楽しそうにしている雰囲気が異様に映る。
「我慢するね………やっぱり、彼女から傷付けた方が早いかもな」
「や、めろ………」
「まっ、お前でも足りるか………一応、彼女は保険扱いだ。ラークの奴がお気に入りのようだし、間違って殺す訳にはいかないしね」
お前で我慢してやる、と続け様に振り下ろされる風の刃。ズタズタにされ血が飛び散るのを見て、ユリウスは我慢出来ずに前へと進む。
「待った」
「!!!」
その寸前。
ユリウスの背後には誰かが立っていた。だが、その相手から殺気も無くただ先に行くようにと言われる始末。振り向きたくとも動かずにいると、今度は勝手に足が進んでいく。
(っ、なにがどうなって……!!)
動く体に訳が分からず後ろを振り向きたくとも出来ないまま。何か見えない力により、自分が抵抗出来ないまま走り続けられている。
「さーて、私達がこんなに干渉していいのか疑問だけど………ザジのお願いだからね」
パチン、と指を鳴らせばその音と連動するようにして鎖が壊されハルヒが崩れ落ちる。ハルヒが見たのはエメラルドグリーンの綺麗な髪をした誰か………それが、彼が意識を保てた最後だった。
=======
「くぅ……」
体は未だに走る。
城の構造なんて知らないのに、まるで知っているように動く体。自分の体なのに、気味が悪くなる。暫くしてプツリと糸が切れた人形のように、思うように動くようになった。
「あ、れ……」
何度か手足を動かし、自分の意思で動かせる事に安堵する。すぐにでも、ハルヒの元へと行こうとして――。
「お前はこっちだろうが、早くあの女の所に行けっての」
「うえっ、ちょっ」
今度は投げられているような感覚。
訳が分からないと思って受け身も取れないまま、ゴロゴロと転がり落ちる。打ち付けた頭を押さえ、ふと前を見る。
「っ、麗奈!!!!」
思わず駆けだした。痛がる体も無視して、見えない力に引っ張られて導かれるようにして連れ出された場所。
そこにユリウスが探していた人物が居た。見間違えるはずもない、自分が追い求め謝らなければいけない人。彼女は気絶しているのか呼吸してるのを確かめようと胸に耳を近付ける。
規則正しく上下する体に生きているのだと安堵し、黒い鎖に繋がれている麗奈を剣で切り捨てて助け出す。抱き寄せて頬を軽く叩く。
「麗奈………頼む、起きてくれ麗奈」
少しでもいい、少しだけでも良いから声を、目を自分に向けて欲しいと焦る気持ち高まる気持ちに思わず力が入る。ふっ、と少しだけ目を開けた麗奈と視線が交じり「………ユ、リィ?」とユリウスを確認するように何度も名前を呼ぶ。
「あぁ、俺だ。ユリウスだ。悪い、遅くなって………悪い、本当に」
出て来るのは謝罪の言葉。
ずっと謝りたかった。危険な目に合わせて、巻き込ませて……自分の手で守りたくてもなかなか守れなくてと何度も泣きそうになる自分。すると、ユリウスの頬を、髪を、腕の感触を確かめる様に1つ1つ大事に、壊れ物を扱うように優しく触れて来る麗奈に思わず目を見張った。
「謝らないで………私は、平気………」
良かった……と消えそうな声を発しそれに安堵したのか再び目を閉じる。
やっと、やっと触れられたぬくもりにユリウスは優しく抱き寄せて、自分の大事にしているものを、大事にしないといけないものを確かめる。
ふっ、とそれを見て笑うザジ。彼は麗奈を助ける為にユリウスをここへと導き、ハルヒをサスティスに任せ見届けた。見張りを頼まれたとはいえ、干渉するなとは言われていないと思い勝手に行動を起こした。
「良かったな………お前が大事にしてるもん、ちゃんと触れられてよ」
死神のザジとサスティスの介入により、ユリウスと麗奈はやっとの思いで再会出来た。目的の1つはこれで達成したと言っても良い。
あとは、魔法を無くさせない為にブルームとアシュプを救う。やる事はそれだけだ、それが終わったら皆で帰ろうと強く強く思い、麗奈が目を覚めるのを待った。
長くなりましたが、やっとの再会。うぅ、長くなってすみません!!!




