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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第5話:邂逅



 異世界に移動してから数時間後の事。

 夕食を食べ終え、宰相のイーナスは麗奈に事情を聞きたいからと言って彼女を連れて出て行った。ちょうど食べ終えたラウルも、彼に目配りをし付いてくるようにと暗に言われて共に出て行く。


 ゆきは思わず食事を止め、出て行った3人を見る。

 リーナはそれを見つつ「平気ですよ」と声をかけた。




「え」

「宰相のお仕事ですから。貴方にも行った事をするだけですよ」

「そ、そうですよね」




 麗奈が目覚めるまでの間、ゆきもイーナスから事情を聞かれていた。


 何処から来たのか。

 どうやって来たのか。

 その時の自分達の状況はどうだったのか。


 最初はどう説明をしていいのか迷っていた。ただ、ゆきも覚えている事は少ない。

 自身が大蛇によって一時的に操られていた時の事は記憶に殆どない。ただ、必死で助けてくれたのは麗奈達だと言う事は分かっている。


 それに、彼女達が扱う力—―陰陽術については知らない。

 結界を作る、または固定して相手を封じ込め消滅させることで怨霊と戦ってきた。

 だが、術の構成は分からない。だから、知らないと言うのが彼女の答えだ。




「……」




 思わず手を止め周りを見る。

 さっと顔をそらす者。無関心な者。反応はそれぞれなのは彼女にも分かっている。

 彼女は既に理解していた。

 ここが自分達の居た世界とは違う世界であること。重症に近い傷を一瞬で治したあの力が、魔法だと言う事を……。




(麗奈ちゃん、知らないだろうなぁ)




 幼い頃から共に暮らして来たから分かる。

 麗奈はこういうファンタジー系のものを知らないし、そういった本も読まない。読む暇があるなら術の完成度を高める、もしくは指南書を読むのが日課の麗奈に青春と言うものは存在しない。




(大丈夫だよね)




 知らず知らずの内に手を握る。

 麗奈の返答によってはここから追い出されるかも知れない。だとすれば、どこか落ち着ける場所にでも行かないといけない。


 ライトノベルで読んだ知識でどこまでいけるのかは分からないが、全く知らないのと比べれば幾分かマシだろう。とにかく、ここは自分達の言葉が通じる上に料理の味も普段食べているものと変わらない。


 それが知れただけでも、ゆきのは十分すぎる収穫だ。



======


 

「お疲れ様、ほら水だ。少しは気が紛れるだろう」

「す、すみません」




 ぐったりとしたように、ソファーに沈むのは麗奈だ。

 既に疲労が見えるような顔色で、疲れ切っているのが誰の目から見ても明らかだ。

 ラウルはそんな麗奈に水が入ったコップを渡す。

 それを受け取り、煽るように飲み切りほっとしたようにまた沈む。




(ま、あれだけ質問攻めにされればな……。誰であっても疲れる)




 見る先にはイーナスが楽し気に書類をまとめている。

 彼は宰相と言う仕事柄、彼女達の素性を調べる必要があった。それを報告する義務も彼には発生している。


 だが、ゆきから得られた情報はあまりにも少ない。

 自分達が怨霊と呼ばれるモノに襲われたが、麗奈はその怨霊を倒す者—―陰陽師と言う職業の人間だと言う。




(陰陽術、か。俺達の使う魔力とは違ったな。それに団長と斬り合っても一歩も引かなかったから、戦闘には慣れているって事か)




 つまり麗奈は刃物の扱いには慣れてる。しかも、命のやり取りをしているのだ。魔物を相手にしている自分達のような、騎士団にも似た役割を。


 取り押さえた兵士達を雷で気絶させ、ヤクルの炎を防ごうとした力。魔力を練る感じが無かった事、なにより2人から魔力を感じ無かった事を考えれば警戒されてしまう。


 


(処分する気なのか、宰相は)




 リーグは興味本位で彼女達を保護したのかも知れないが、副団長のリーナの事を思うと同情しかない。




(今頃、色々と考えているんだろうな……。後で甘いものを渡すか)




 同じ副団長だが、彼は色々と慌てる上にリーグの制御に日々頭を悩ませている。可能な限り相談には乗っているが、斜め上の行動をするリーグに毎回の如く振り回されている。それが可哀想に思い、気付いたら溜め息を吐いていた。




「すみません、ラウルさん。付き合わせてしまって」

「いや。何でもない……すまない」




 ため息を聞かれたか、もしくは表情に出ていたのか心配させてしまった。

 不安げに麗奈に見られ、安心させる為に頭を撫でればビックリした表情で固まった。そんな麗奈の反応に、キョトンとしているとイーナスは目を細めて声を掛ける。




「君にしては珍しいね。女の子、嫌いだと思ってた」

「人並みには好きですよ。それより――」

「お姉さん!!!」




 扉を破壊しながら入って来たリーグ。麗奈は驚いて声が出せず、イーナスは無言で睨みラウルは「落ち着け」と宥めようとしていた。

 しかし、リーグはラウルの言葉を無視して麗奈を連れ出そうとする。




「待て。彼女は今、疲れているんだ」

「だったら余計にだよ。我慢してそっちに合わせたんだから、今度は邪魔しないで!!!」

「え、え、あの……」




 戸惑う麗奈をリーグはサッと連れて行く。

 嵐が去ったような静けさにラウルはイーナスへと視線を向ける。彼は怒りもせずただ舌打ちをした。ただただそれが怖い。余計な事に巻き込まれる前に出て行こうとして――呼び止められる。




「ラウル」

「団長に許可とって良いですか?」

「君は頼み事されたら断れないだろ?」

「……変な事、頼まないで下さいよ」




 面倒だが、断れない性格なのを見抜かれている。

 面倒事を頼まないでくれと思いながら、イーナスに頼まれたものがとんでもないものであった。思わず引き攣った顔で対応してしまうのは、仕方のない事だった。



======



 一方で、リーグはイライラしていた。

 食堂を案内してから図書館、自分の居る騎士団と色々と紹介した。

 ゆきは驚いたように目を輝かせたりテンションが上がっていた。嬉しそうにしてくれるだけで、紹介して良かったと心底思う。




(なのに、邪魔ばっかりして)




 まだ会って間もないが、ゆきの反応を見ていると凄く嬉しい気持ちになる。

 そして、それを見ているリーナもいつもより暖かい視線を送っており、更に好きに行動をしてみた。やはりと言おうか、慌てて止めるリーナの声が響く。


 これなら、目を覚ました麗奈にも同じ景色や場所を案内しよう。そう思っていたのに、宰相と共に連れ出された麗奈。リーナには時間を見て誘う様に言われてしまう。リーグとしては楽しませる計画を台無しにされた。


 その事に腹を立て扉を破壊した。少しスッキリした気持ちで歩くと、ふと麗奈が止まっている事に気付く。




「……夜なんだね」

「そうだよ。お姉さん、あの人に酷い事されてない?」

「イーナスさんの事? 大丈夫だよ、質問をされてただけだし」




 卒業式から様々な事が同時に起きた。

 怒涛のような展開に麗奈も未だに落ち着いて考える暇もない。時間が取れると思った矢先に、宰相からの質問攻めだ。




「麗奈お姉さん、もう寝る?」

「ううん。私はまだ平気」




 そう言いながらも、頭の中では心配に思う事が幾つもあった。


 大蛇は多分封印出来たと思うが、あの後の祐二達がどうなったのか。

 皆は無事に生きているのだろうか。


 確かめる術もない。

 不安な気持ちが出ていたのか手を強く握っていた。その手に重なる様に、別の手が乗せられる。

 見ればリーグが不安そうに、泣きそうな表情を麗奈へと向けていた。




「ゆきお姉さんから大体は聞いてる。家族の事心配なんだね。僕、よそ者だけど。それでも皆優しくしてくれるし……良い国だよ、ここ」

「そっか」

「不安になるなって言うのは無理だけど僕は協力する。お姉さん達の不安になってる事、これからの事も含めてね。……アイツには邪魔されたくないし」

(アイツ……?)




 誰を指しているのか分からず聞こうして止めた。その時のリーグは表情は読みにくいが、纏う雰囲気が殺気に近く聞くのを躊躇させたからだ。


 だが、それもすぐに収まりリーグが「あっ」と思い出したように麗奈に聞いて来た。




「あ、お姉さん。このまま寝ないなら秘密の場所を教えるよ。僕がよく寝てる場所で意外に皆知らないんだ♪ 行こう、行こう」

「え、でも……」




 答えに迷っている内にどんどん先に行かれてしまう。リーグに必死で付いて行く。そんな2人を追うのはラウルだ。

 その視線に気付いたのか、リーグはすぐに振り向き誰も居ない廊下を睨む。




「リーグ君?」

「ん。なんでもない。気のせいだったかも」




 ふいっと方向を変える。

 例え追ってきたとしても、リーグは構うものかと行動を起こした。イーナスに何か目的がある様に、リーグにだって目的がある。


 麗奈達の事を構う理由が彼にはあるのだ。


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