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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第2章:精霊の導き
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第57話:死神

 フォルムの実を取りに出て行った麗奈とラウルにドーネルは寝ているキールに視線を向ける。ここから見れば、誰が見ても寝ているだけの、女とも見間違える程の綺麗な顔立ちの男性。




(フェンリルが、あの子に力を貸すか)




 間違えてなければそのフェンリルと言う名前は、ダリューセクにある精剣に宿る精霊の名前だと自分の奥底の記憶を呼び起こす。そしてその精霊を始めて見た事から麗奈と言った子が召喚士であるのは明白だった。




(……七色のあの現象も、あの子が引きこしたものなのだろうか)





 キールの傍に向かい、目を覚ましそうな彼は穏やかだった。だからこそ、彼がこの3日以内に亡くなるのだと言われても実感が湧かない。なのだが、診察したのはラーグルング国の薬師の中で霊薬に詳しいラーファーであり多くの魔力欠乏症を治してきた。キールのこの状態も、初めて見た様子ではない事から彼の前に同じような症状を見た事があり、その人物は死んでしまったのだと思った。




(キールが大賢者って言うのも驚いたけど……ホント、色々と驚かしてくれる国だよねラーグルングは)




 密かに笑った自分に驚き思わず固まった。


 自分が笑うと言う行為をしなくなったのは母親達が亡くなってからだ。だと言うのに、今の自分は確かに……笑ったのだと分かり寝ている彼に視線を向ける。彼の首元に掛けられている首飾りを見て思わず前のめりになった。


 見覚えがあるもの、いや、これは忘れる筈のないもの。 

 ラーグルングから来たと紹介を受けた女性が付けていた印象的な首飾り。様々な色の石が埋め込まれているその美しさに惹かれた記憶があるからだ。確か、その女性の名前は――




(ユカリさん。………今もラーグルングに居るのかな)






=======


「いただきます」

「いただきます!!!」




 森に入ってすぐの事だった。ぐぎゅうううぅ、とお腹の音が鳴った。ラウルは目をパチパチとしフェンリルはその音に思わず足を止めた。青龍は知らないとばかりに視線を逸らし黄龍はニヤニヤ顔をして麗奈の事を見ていた。




「………………」

「そう言えば、全然食べてなかったな」

≪近くに川がある。魚でも取って食したらどうだ?≫

「ではお願いします」

「あ、あうぅ………」




 自分の知らない間に会話がどんどん進んでいく。言い訳をとも考えたがポン、と肩に手を置いた黄龍からは『無理だから』と、とどめの一言を貰った。

 フェンリルが案内した川で魚を取り黄龍の火の陣で焚火をし魚を焼く。その焼かれる様を見ていた麗奈はコクリコクリと何回か眠りそうになり、青龍に肩を揺さぶられる。


 はっとなり起きれば、青龍から焼かれ串刺しになった魚を手渡されラウルと共に食事をとった。ドーネルからおにぎりを渡されていた、とラウルが取り出し焚火に揺られながら焼きおにぎりの完成を待つ。




「あっ。黄龍、もう腕は平気なの」

『平気だよ。今更なんだね』




 ほら、とヒラヒラと手を振る黄龍を見てほっとなる。青龍はこちらは気にするなと言うも麗奈の表情は晴れない。




「……やっぱり、手足斬られるのとか……慣れないし。ランセさんも魔王なのは分かってるけれど、青龍に腕取られたのだって……まだ、慣れない、し」

『………』

『す、すま、ない………』




 ぎこちなく答え、黄竜からの睨みに青龍は謝罪した。


 青龍を含め自分達は死んでいる身だし、自分の霊力でどうにかなるから、と言う理由だった。本来ならラウル達にも姿を見せなくて良いのだが、麗奈が心配だったから見えるように加工したとも説明された。




「そう、言えば……2人はどうやって私の居場所が分かったの?」

『あの時にも言ったけど、主の霊力を頼りに探し当てたんだよ。そしたら、魔族に襲われてたからね………青龍が容赦なく蹴り飛ばしてくれたし、私は魔物相手に発散したし、ね』

『すまない、次は殺す』

「う、ううん。助けに来てくれてありがとう。青龍も……あんまり物騒な事いわないでね?」

『気にしないで♪呪いを解いてくれたし、陛下さんに掛けられてた寿命を削るのも無くなったしね』

『俺達は、元々……朝霧家に忠誠を誓い、初代の願いを叶えてきただけ』





 初代にはあの国を守るように、とお願いをされた。にも関わらず、呪いにより変質させてしまった事、王族の寿命を縮めると言うも副作用により苦しめられてきたのを、麗奈とハルヒが助けてくれた。


 恩を返すのは普通だろ?と、青龍にしては珍しく麗奈に微笑みかけながら話した。




「う、うん。ありがとう♪初代のお願い通りに上手くいったのなら良いんだ。青龍って優しいね、嬉しい」

『優しい、かは分からないが………貴方がそう思うなら自由だ』




 えー、優しいよー。と青龍の頭を撫でようとしたら麗奈の隣に座り大人しかった。そのまま、ワシャワシャと髪を撫で「これからよろしくね」と言う麗奈に肯定するように頷いた。




『…………』

「…………」




 青龍の反応に絶句し扇子を落とした事にも気付かない黄龍と、信じられない表情をしたラウル。フェンリルがその扇子を拾い、【平気か?】と問いかけられた事ではっとなり頭を抱えた。




『なんだ、人の事を珍妙な感じで見て』

『……笑顔な青龍、気持ち悪いなって。白虎達が見たら引くよなーって』




 ピシリ、と。

 寒くもないのに、空気が悪くなるのを感じた。麗奈はゆっくりと青龍に視線を向ければ、彼は無表情に徹していたが纏う空気はフツフツと怒りが滲み出ているのが分かる。




「あ、あの、青龍……?」

『消えろ』

『えっ、ちょっ!!』




 スゥ、と立ち上がりそのまま黄龍を蹴り上げる。結界で足場を作り受け身を取るも今度は雷を当てに来た。慌てる麗奈にラウルは氷の串に差した焼きおにぎりが出来たと言って渡す。




「じゃなくて!!!」

「喧嘩ならすぐに止めるだろ。ただのじゃれ合いだから気にしなくて平気だ」




 そ、そうなの?と、聞けばコクリと頷く。魔法で加工してあるという理由で冷えているようにも見える焼きおにぎりをじっと見る。




(持っても焼きたての熱が伝わってる……凄い。氷だから熱で解けるともないみたいだし……)

「………どうか、したか?」

「ううん、何でもない」




 熱は伝わるのに、火傷はしないと言う不思議な感覚。心配そうに聞いてきたラウルに麗奈はなんとないと言うように焼きおにぎりを頬張る。


 モグモグ、モグモグと食べる姿はリスを思わせていたのかラウルはずっと見てしまっていた。




「………」

『どうした』

「い、いや。何でもない」




 少し顔が赤い気がしたが、気のせいだと判断し無心になる。青龍は『ふむ』と言って黄龍を蹴りに戻る。それを静かに見ていた黄龍は蹴りを避けながらもじっとラウルの事を見ていた。





(……可愛いのは認めるが………っ、何を考えている。俺は、騎士だ。麗奈の、騎士なんだ……)




 騎士は主君の為、その身を捧げる。

 なら、何故……自分の心は、彼女を見て満たされたような気持ちになるのか。その謎に不快感を覚え、未だにモグモグと楽しく食べる麗奈をあまり見ないようにして早く過ぎるようにと願った。





======



『………』

『青龍、どうした。さっきから後ろを気にして』

『いや……何でもない』




 そうは言っても少し間が空いたら、空を気にし後ろを気にしているので何でもないは嘘だろ……と言いたくなった黄龍だが、言って喧嘩する可能性があるので黙る事にした。




≪これは……≫




 泉が黒く染め上げられていた。それは時々、ボコッ、ボコッ、と下から気泡が上がり綺麗で澄み切っていたはずの姿ではなくなっていた。

 毒の泉とも表現出来るそれに、フェンリルは思わず声を荒げた。




≪っ、何故だ……泉の精霊フォンテールが居たはず。彼女の領域ならこのような事態には決してならないのに……!!!≫

(………ここまで動物を見てきていないが、一体何処に避難したんだ)




 案内している間、夜中と言う事もあり動物達の遭遇はなかった。が、夜行性の動物も居るにも関わるず虫の音も聞こえていなかった事に疑問に感じたラウル。青龍と黄龍も周りを見ながら魔物待ち伏せがないか警戒を始める。


 麗奈も泉まで近付き、黒く変色した水を取る。と、少しだけビリビリと電気が走ったように体に走り思わず顔をしかめる。




(っ、水が……痛い?)

≪フォンテールの気配も泉の状態がこれでは感知しずらい……すまない。他の泉もこの状態ならフォルムの実も……≫




 泉の付近にあるとされるフォルムの実。泉の付近にある紫色に淡く輝く花の蕾が実になっている様からフォルムの実と名付けられており、その蕾を煎じれば万能薬にもなり、それを売ればかなりの高値で取引される。


 条件として泉が綺麗に保たれなければならない。そして、その泉の殆どは獣道で人が入るには装備が十分でないとそのまま迷い込み出ることは叶わない。


 泉の精霊、フォンテール。


 森にある全ての泉を管理し、動物達に慈愛と面倒見の良さから昔から住む人達には守り神として崇められている。





≪(彼女の気配が感知しずらいのも問題だが………空気が妙にピリピリする)



≪………け、た………≫



「フェンリルさん、呼びましたか?」

≪いや……俺は何も言ってないが≫




 誰かの声が聞こえた麗奈に隣で泉を凝視するフェンリルに声を掛けたが、彼は違うと首を振る。あれ?と不思議がる麗奈に目を見開き警戒を促す。



≪守りを固めろ!!!≫

「え」


≪……見付けた、上質な魔力≫


『主!!!』





 音もなく振り向く間もなく、動きを封じるように手足を水の鎖が巻き付きそのまま黒い泉に引きずり込まれる。ラウルが手を伸ばすよりも早く、青龍とフェンリルが後を追う。




「っ、麗奈!!!」




 それに続けとばかりに、ラウルは泉に入る。しかし、ジュワッ、と服が溶けズキリ、ズキリと痛む足を構う事なく突き進む。




『止めろ!!』




 膝下まで浸かり、痛むのを無視したラウルに黄龍が怒鳴る。それをギロリ、と睨むラウル。来るなと目で訴えるが、胸倉を掴みそのまま陸へと投げ付けた黄龍は冷めた目で見つめ返した。




『あのまま行けば足が無くなる。毒みたいな作用なんだから近付くな。普通の泉でない事くらい分かるだろ』

「っ、俺よりも麗奈だろ」

『勘違いするなよ。主は好きだが、悲しませる真似をする訳ないんだ。仲間が欠けたら泣くに決まってるんだ』





 人の死には人一倍敏感なんだよ、と小さく呟く黄龍。欠ける、と言う事でラウルは少しだけ冷静になり自身の足を見る。火傷で赤くヒリヒリとする痛みに顔をしかめ、黄龍からの叱責に肩を落とす。




「つぅ……」

『今頃に痛み出すとか、どんだけ前しか見ないんだか』





 バカだね?、と一層冷たい視線を向けられ何も言い返せないラウルは溜息を漏らす。頭を抱えこんな姿を麗奈には見せられないな、と反省した直後に辺りを睨む。




「………」

『良かった。気付いてるなら良いよね、団体客のお出ましだ』




 今まで静寂だった森がざわめき出す。泉の周りに突如、魔物達が出てきた。ここまで接近されていた事、それ程自分は周りを見ていなかったのだと突きつけられているようで、心をえぐらる感覚だ。




『君、足やられてるんだから座ったまま中距離で魔法を放ちなね』

「……分かった」




 自分達を取り囲むように迫る魔物達。黄龍は結界でラウルを守り、同時に札を複数枚取り出して炎と雷を打ち払う。




『さーて、久々にやるから手加減ないけど……魔物相手なら別に良いか!!!』





======



 重い瞼をゆっくりと開ける。

 冷たい感覚、地に足がつかない事から吊されている、と思った。意識が段々と覚醒していく麗奈はぼんやりと前を見る。




(青龍……フェンリル、さん………)




 声を発したい、体を動かしたい、そう思った。そう行動を取りたかったのに、体は重く瞼がまた閉じられようとしていた。




『主!!!』




 閃光が辺りを包み、その眩しさで目を開ければ次には抱きかかえられていた。龍の手は雷を纏い、左手のみで麗奈を抱えた青龍はすぐに距離を取る。




『寝てはダメだ。魔力を奪われ続けて永遠に眠らさせられるぞ』




 だから起きろ。と、青龍に促されるもフワフワとなる頭ではその言葉も上手く飲み込めない。すると、横からフサフサした何かが顔をくすぐる。




「………んぅ?」




 しまいには前足を置かれ≪今、魔力を送る≫と、フェンリルが麗奈に譲渡する。自分に流れ込んでくる暖かい力に、ウォームと契約した時の事を思い出す。




(暖かい……)




 太陽に包まれたような、優しくも力強い力。意識もはっきしり瞬きを繰り返せば、青龍からは安堵したようなほっと笑みを静かに見せた。




「………ごめん、なさい。ご迷惑をお掛けして」

『気にしなくていい。主の……貴方の役に立てているなら俺はそれだけで十分だ』

「フェンリルさんも、ごめんなさい」 

≪平気だ。魔力を奪われて意識がなかったんだ……同族がすまなかった≫

「同族……?」




 自分は引きずり込まれる前、確かに聞いた女性の声。青龍が指さす方向を見れば苦しそうに蹲り息を荒げる綺麗な女性。半透明な水色の髪に白い肌、ワンピース姿の女性はギロリとフェンリルに対して怒りを向けていた。


 精霊が苦しそうにいている後ろでは、水の膜に守られている動物達の姿があり、幾つか固まっていた。その一部が突き破られたような穴があり、そこは麗奈が居た所だと説明を受ける。





≪っ、よくも………よくも、邪魔を!!!≫

『主を犠牲になどさせてなるものか』

≪彼に同感だ。彼女を死なす訳にはいかない。それに、貴方のその魔力の変異………闇に囚われたな≫

≪黙れ!!!!人間などと言う愚かな種族に力を貸す。そんなお前こそ精霊の面汚しめ!!!!≫




 激昂するにつれて魔力が膨れ上がり、感じ取れた魔力は闇の力そのもの。いつもの清涼感があり傍に居て癒されるような魔力でないことにフェンリルはショックを受け、見つめ返す目は哀れみでも同情でもない……’敵’を倒すと言う明確な意思。





≪(俺を覚えていない時点で………貴方は、もう知っている貴方ではない)≫




 麗奈を救出するまでに何度かぶつかり、思い感じて来た事。同じ土地に生まれ、同じ属性の水と言う共通点から意気投合するのは早かった。フェンリルの力が大精霊へと昇華していった時も自分の事のように喜ぶ彼女は……フェンリルにとっては母親のような温かさがある精霊だった。


 


≪うあああああああっ!!!≫




 黒い霧に包まれていく泉の精霊に、もう元には戻れないと悟ったフェンリルはせめて自分の手でと魔力を込める。


 フラリ、と両者の間に黒いローブに身を包んだ何かが割り込んできた。




「っ、ダメ!!!!」




 嫌な予感を感じた麗奈は思わず走った。青龍が、フェンリルが、止めるのも聞かずにただ夢中で駆け寄った。このままではいけない。止めなければ、と強く思うも早く振り下ろされた赤黒い色の大鎌により精霊の首が……消し飛んだ。




「っ!!!」




 ドシャ、と倒れる精霊に人間の様な血はなく綺麗に切り取られた体だけ。間に合わなかった事を後悔しながらも、2撃目を繰り出そうと振り上げる人物が目に入る。

 咄嗟に止めるようにと突撃した。




「なっ……!?」




 それはあまりにも軽く、人にしては下手をすれば女性よりも軽いのでは思う位。思っていたものと違うからか共に転がっていく。

 まだ体と頭が重くなるも構わずに「もう止めて!!!」と泣きながら懇願する。鎌を放り投げ相手を見れば自分と同じ黒の瞳と朱色の瞳だ。


 赤い首輪を付け、麗奈の事を驚愕した様子で見つめる人物は男性だ。

 黒の上着と黒いズボンという闇に、溶け込んだからほぼ分からない恰好をしていた。




「っ、何でお前………()()()()()()




 男性は驚いていたが、同時に麗奈も驚いていた。


 フェンリルが言っていた死者の魂を集める彼等とよく特徴が似ていたからだ。血と似た色の大鎌に、赤い首輪を付けた人物達はこの世界に住んでいる者なら子供ですら知っている。

 その存在は恐ろしいとされ、悪さをしたらよく彼等の名前を使って叱りつける。



 “死神”と呼ばれる存在。



 ジャラン、とその死神がしていた手首にある紫色のダイヤが怪しく光る。そんな様子を水晶から見つめていた人物はクスリと笑いながら言った。




「あーあー、会っちゃったか………」




 言葉とは裏腹に、その口元は楽しそうにしていた。会うべくして出会った2人。そうなるように仕組んだ人物は、実に楽しそうにその光景を見ていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お腹が鳴っちゃう麗奈。 最早、最初の頃の凛とした彼女は、 欠片も残っていないですね(笑) 麗奈に撫でられてニヨニヨしちゃう青龍と、 それを揶揄う黄龍。大喧嘩が始まっても、 冷静に焼おにぎり…
2020/05/18 07:27 退会済み
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