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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第2章:精霊の導き
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第56話:フェンリル

 全ての精霊はラーグルング、ディルバーレルの2つの土地から生まれたと言う。この2つの国から生まれる理由、大精霊アシュプとブルームと言う魔法を作った彼等が居たからだ。




≪お呼びですか、アシュプ様、ブルーム様≫




 精剣の贄となり自らの力を人間達に託した大精霊フェンリルは水と氷の力を有する精霊であり、その力で発展していきダリューセクと言う一大国家を作り上げた存在。そんな彼も、父親同然の者達、自分と同じ大精霊と言う名の付く特別な精霊達に姿を現した。




「おー、フェンリル!!元気にしておったか」




 パタパタ、と手を勢いよく振る小さな体を持ったアシュプ。白いロープを身に纏い長い髭を持った彼は誰がどう見てもおじいちゃん。しかし、その姿と持っている力は計り知れず怒らせれば誰も止められない、と噂されている。


 そんな彼はフェンリルが来た事でかなり喜んでおり、その嬉しさを表現するようにクルクルとダンスをするように回っていた。




「貴様、さっきからうるさいんだが」




 それを恨めしそうに見ているのはアシュプと対を成す大精霊であり空を作り、自由と言う言葉を生んだとされているエンシェント・ドラゴンのブルーム。大きな体は鱗を持ち、ドラゴンの祖とされているブルームは羽を上手く折り畳みうんざりしたように呟き欠伸をしていた。




≪それで父さま、我等を目覚めさせて一体どのような用でしょうか≫




 数百年の間、魔族と人間は何度か戦いを起こし戦争にまで発展した事があった。精剣が作られて100年ほど経ったある日、突如、魔王サスクールがラーグルング国を襲った。

 その事態に精霊達は土地を守ろうと死闘を繰り返した。魔法の祖、全ての精霊の祖とも言えるアシュプが居なくなれば魔法の概念を崩され世界から魔法を無くすことが可能だったからだ。

 その国の者も、同盟を組んでいた国々も魔王との死闘の末、同盟を組んでいた3つの内2つは落とされてた挙句に乗っ取られ陸路を絶たせられる。同盟国であり同じ魔法の祖を守護としているディバーレル国は、その頃から急激に魔法を扱う事に障害が生み始めていた。


 サスクールが作った封じの陣がブルームの力を削いでいたからだ。契約者がいなくとも力を振るい国を守って来たアシュプも気付きもしていなかった事態。




 気付いた時、ブルームからその事を聞いたアシュプは酷く落ち込んだ。自分が麗奈と契約をしたのは偶然だったが、今回はその偶然が功をそうしたのだから。




「あぁ、アシュプがかなり落ち込んでいる間に精剣であるお前達に呼びかけをしたんだ。だが……来れたのはお前だけのようだなフェンリル」

≪……他の大精霊は≫

「恐らく長く使われなかった事と使い手が居なかった事が起因しているのだろう。もしくは何重にも封印されていて、呼びかけに応えたくとも出来なかった、とも言えるな」




 国の象徴、誇示と使い方は様々でありながら本来の魔族を倒す為の武器からはかけ離れた使い方をされてしまった精剣。大剣に埋め込まれている水晶は大精霊にとっての住処である為、普段の精霊達の達のように自分の合った土地を探したりするなどの旅も行えない。


 精剣の為の生贄。


 傍から見ればそのように映ったかも知れない。しかし、彼等はこの国の人間が苦しめられる事に我慢がならなかった。無残にも命を奪われ、蹂躙され続けている事に力を貸したくなった。人間達も世界の一部であり、彼等無くして世界の繁栄もないと見て来たからこそ言える持論。


 しかし、そんな彼等も精霊であることに変わりはなく、使い手がいなければその力も存分に振るわれない。



 

≪召喚士の数も減っているこの状況。俺達の声も段々と聞こえなくなってきているのかも知れないですね≫

「………だとしたらアシュプの所は異常だな。3人居たはずだぞ、召喚士が」

≪3人も、ですか!?≫

「しかも魔王のランセが居たはずだが」

≪まっ、え、魔王が!?≫




 思わず大声で叫んでしまった。

 魔王とも戦った事があるフェンリルは驚いた。人間に味方をする魔王が居る者だろうか、それは本当なのだろうかと思わず凝視ししてしまった。




「アシュプが気に入ってるんだろう」

「ん?ランセか。あぁ、アヤツは良いぞ。お嬢さんに優しいし陛下にも優しいしのぅ…………少なくとも今の人間よりも優しい王様だぞ」

≪(人間、よりも………)≫




 その言葉に思わず待ったを掛けたくなったが、フェンリルの考えがあるようにアシュプにも考えがあるだろうと思い、口に出しかけた言葉を飲み込む。そして自分が呼ばれた理由を聞けばこの陣の破壊が出来る人間が居るから必ず生かせ、と言うものだった。




≪陣……≫




 そう言ってブルームとアシュプの周りを囲み逃がさないようにしている紫色の檻を見た。檻の形を形成しているのは四方に散らばっている大きな紫色の水晶。その水晶から魔力を感じられない事から、魔力を込めて作り出される魔石(ませき)とは違うものだと読み取った。

 その水晶に近付こうとしてブルームに止められる。




「触れれば魔族に感知される。今、お前を呼んでいるのも感知されていないのも助かったんだ。……早まって我等を消すな」

≪申し訳ありません、ブルーム様≫

「いや、お前の説明がないんだからフェンリルを責めるな」

「うるさい奴だな!!!」




 下でウンウンと納得しているアシュプにブルームは声を荒げる。聞けばこれは魔力そのものを封じる為の封印術らしく、このまま行けば自分達の消滅に繋がると話せば自然と怒りが込み上げてきた。




「加えてこの術式は同属性でしか破壊が出来ない。我等は七色の魔法を扱う。過去、その魔法を扱えたものは誰もいなかった」

≪そんな………≫




 では、このままではフェンリル自身も消えていく。精霊の祖である彼等が消えるのだから、その子供の自分達も消えて行くのは道理。しかも、触れれば消滅を早めるのだと知り何も出来ない自分に呆然となる。




「だが希望はある。アシュプがな、異界の女と契約を果たしたんだ」

≪……それは、聞いていましたが≫




 精剣と自身が目を覚ましたと同時に聞かされた事。七色の魔法を扱える人間がこの世にたった1人存在出来た事、その事実に驚きながらも呼ばれて来てみれば消滅の危機に晒されていると言う2重の意味で驚かされてしまった。




「本当ならその女はここに居る筈なんだが………転送位置がかなりズレた」

「お前が何も言わずに飛ばすからだぞ。あれは仕方ない!!!」




 と、言いながら蹴りを繰り出すも固い鱗に身を包んでいるブルームには関係がなく話を始める。聞けばその少女はフェンリルを呼んだと同時に呼び寄せ、護衛をする予定だったと言う。しかし、転送の直前に邪魔が入った事により飛ばされた位置がここからかなり離れていると言うのだ。

 邪魔が入った、と言うのはラウルとキールが咄嗟に麗奈を掴んだからであり、何も言わずに飛ばしたブルームが悪いとずっと言っていた。




「悪いがお前にはその女の護衛を頼みたい。よりにもよって、魔物が多く居る所に飛ばされるなど……しかも、その近くには魔族が居た。上級クラスの奴がちらほら居たから用心しろ」

≪上級、ですか………≫




 魔族の中でも魔王と匹敵する力を持ったのが上級クラス。魔王との差は明確に示されていないが、上級は下級と違い力に固有の魔法が扱えて来ると言う。闇属性は共通だが、それ以外で炎、水、風、雷、土など魔法師が扱うものと同じようになり倒すのが難しくなる。




≪(その上級に、狙われているのか)≫




 世界初の七色の力を有する人間。

 魔族から見れば脅威でしかなく、人間から見れば精剣同様に神格化される存在になる。しかもそれが異界からの者であればさらに様々な人から狙われやすくなってしまうと思い自分に課せられた事が重要なのを示していた。


 過去、異界の人間がこの世界に関わりを持った事は多くあった。役目を果たして元の世界へ帰る者、この世界に残った者、魔物、魔族に狙われて亡くなった者など戦いの中心に居た事が多くあった事から大国では彼等の保護が優先されていた。


 大国の王族は保護を優先したが、貴族達は己が欲の為に彼等を使おうと試みた。過去、それで戦争が起きた事も数回ありそれを止めたのも同じ異界から来た者や賢者達のお陰であり、異界から来た者は必ず丁重に保護をすることを各国に約束させ、その象徴で精剣が大国へと渡った経験からフェンリルはその異界の者の特徴を聞いた。




「黒髪に黒い瞳の女だ。あとは……まぁ、会えば分かる。空気が違うからな」

≪空気、が………ですか?≫

「そうじゃそうじゃ!!お嬢さんは、何と言うか……そう、太陽のような子でな笑顔も仕草も可愛くてしょうがないんだ。もう、可愛いのなんの!!!!」

「お前が自慢してどうする………」




 これ以上聞くとアシュプが変なスイッチが入ると感じたブルームは、ガシリと前足を使って押し潰す。ダメージはないが、こうしないと口を開けば麗奈の自慢しかないので黙らせたのだ。




「悪いが、その女をここまで連れて来てくれ。陣を見れば破壊方法は自然と分かるはずだ。特異な術の使い手だから、恐らくこの不可思議な力の事も誰よりも分かるはずだ」

「良いか、お嬢さんに傷一つ負わしてはいかんぞ!!!!」

「無理だろ、それは!!!!」

≪善処させていただきます≫




 言い合いになるブルームとアシュプに悪いと思いつつ、フェンリルは目を閉じその異界の者の魔力を探知しようと集中する。七色の魔力はすぐに感知でき、姿を消して駆ける。


 既に夜になっていた場所は懐かしく自分の生まれ育ったディルバーレル国の領土内。自然と笑みが浮かべるが、すぐに自分のすべき事をと切り替えて突き進む。



 小屋に居るのを感じ密かに様子を見ようとしていたら、魔法師が危険な状態である事。助ける為に霊薬であるフォルムの実が必要である事、それがへルギア帝国の独占により手に入らないものである事を聞き気付けば人間の前に姿を現していた。


 めったに人の前に姿を現さない精霊のフェンリルだったが、この時ばかりは体が勝手に動いた。そして、ブルームとアシュプの言う人物が目の前に居る女性であると気付き自然と協力を申し出ていた。



 フェンリル自身、驚きの行動を連続していたがアシュプが言うのも頷けると思わせた。確かに、太陽のようなそれでいて儚く守りたいと思わせた彼女に悲しむ表情は見たくないと強く思った。


 ただ、笑顔で居て欲しい。


 大精霊が行動を起こした理由はたったのこれだけだったのだから。



========



『結局、付いてくるんだねあの狼』

「協力してくれるのにそんな事言わないの!!」




 これでキールさんを助けられる、と安心した様子の麗奈はほっとなる。しかし、次の瞬間には首を振り頬を叩く動きは気合を注入する為のもの。こうしている間にもキールが危険になるのが分かり、急いで身支度をする。と、そこで動きを止める。




(………服、どうしよう)




 ピタリ、と動きを止めて思った。今の自分はここの人達が使う寝間着を貸して貰っている状態で麗奈が来ていた服は既に洗濯中、そう下着も含んでいる。




「……………」

『主、どうしたの?』

「ひゃい!!!」




 耳元で呼ばれて驚いていると、後ろから抱きしめられてすっぽりと黄龍の腕の中だ。寝間着一枚と言うのを今更ながらに思い出し、慌てて逃れようとするも分かっていた黄龍は逃がさないようにしっかりと抱いている。




『あぁ、今更自分の服装の事思い出したの?遅すぎだよ』




 ペロリ、と耳を舐めればビクッと硬直し顔を赤くした麗奈と目が合う。それをクスリと見た後で胸を軽く揉めばまたも驚かれた反応をしめし「ちょっ、ちょっ……」と困ったように見上げる。




『クス♪反応が可愛いね………』

「っ」




 低温ボイスに頭が沸騰しフラフラとなる。やり過ごす為に目を閉じているとドサリ、と地面に寝かされ驚きで目を見開くとニヤリとする黄龍。すぐさま蹴りが飛んできてぶっ飛ばされるも受け身を取り『なんだ、邪魔するんだ』と青龍を見る。

 青龍は自分の上着を麗奈に被せた後で抱き抱え『貴様っ』と声を荒げておりその声に反応するように周囲にパチパチと雷が鳴っている。




『いやー主のあまりの可愛さについ………ね♪』

『何がつい、だ。………貴様、どういうつもりだ』

「麗奈、そっちは………」




 と、睨み合う黄龍と青龍の中ラウルが様子見とばかりに来た。彼も同じ灰色のズボンに黒の上着、茶色のローブに身を包み剣を腰に下げてやってきた。

 そこで涙目の麗奈に少しだけ乱れた寝間着、少し考えた後で笑顔で抜刀し「アンタ、何したんだ!!!!」と黄龍に向けて斬撃を繰り出す。続けて青龍の蹴りが放たれる。足に纏った雷がそのまま黄龍を襲い氷と相まってぶつかる。それを涼しい顔しながら結界を張り『わぁ、嫉妬だ~』とニヤニヤしたままだった。




≪今の内なら問題ない。俺が影になっている≫

「…………」




 フェンリルから渡されたの白い大きな袋。その中身は灰色のズボンに白いシャツに似たものと黒の上着、その上に収まるように茶色のローブが渡された。加えて麗奈の着ていた下着と似た様なサイズを女の騎士が用意していくれたらしく、白の下着一式が渡されていた。


 どうしてフェンリルが持って来ているのか、と聞けば≪あの、騎士から渡されたんだが≫と困ったように言い着替える麗奈をラウル達から見えないようにしていた。




(止めよう、好意で持って来てくれたんだ。………ラウルさんに、やましい気持ちなんてない。………ないもん!!!!)




 半ば無理矢理に納得している中で『主、今着替えてるかもね♪』と楽しそうに言う黄龍に青龍とラウルの怒声が響いた。恥ずかしい気持ちを抑えながら急いで着替えて、目的地であるリートル山へと向かう事にした。



 フェンリルが庭のようにして駆けていた山であり、神聖な泉がある事で魔物も近寄り辛い山。へルギア帝国がこの山に着いていないなら早めにこの山へ入り、紫色の蕾が特徴的な霊薬を取りに行く。



 フェンリルに跨った麗奈とラウルは急ぎその山へと向かう。ドーネルにキールの事を任せ自分達は霊薬を取り必ず3日以内に戻ると約束を取り付けた。山の入口へと麗奈達を転送した所を見ていた影があった。



 2人組のその影は手に大鎌を持っていた。

 ジャラリ、と鎖が鳴るもその鎖は地面に吸い込まれ先が見えない。ただ、鎖が繋がれた先の鎌だけが姿を見せポタポタ、と血が流れていないにも関わらず何故かその音が聞こえ響く。




 大精霊にも、黄龍達にも感知されていない彼等は……はたして敵か、味方か。新たに現れた魔族なのか………この先の事は誰にも分からないままだが、今の麗奈達にそんな事を考える余裕すらなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フェンリルは、ウォーム爺ちゃんたちに呼ばれて、 麗奈を守りに来たんですね。 彼女を守ろうとした二人が手を引いてしまったばかりに 余計にピンチになってしまったのは、皮肉ですね。 またまた忍び…
2020/05/17 19:15 退会済み
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