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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第2章:精霊の導き
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第47話:四神との戦い~土御門家と朝霧家~④

 朱雀は玄武に向けて大きな火の玉を打ち放つ。玄武はそれを自身の甲羅を上手く使って防いでいく。そんな攻防をしている間にも、蛇が朱雀の足を掴みそのまま地面へと引きずり落とす。




「グキャアアア!!!」




 耳がつんざくような声が広がるが、玄武が朱雀を包むように水の檻を作り出す。ハルヒがその檻に向けて緑色の札を掲げて解き放つ。




風刃(ふうじん)!!」




 数枚の緑色の札が淡く光り出したかと思えば、そこから突風が生まれ朱雀を押し出していく。その風に乗せるように水柱が放たれ朱雀と柱との距離を離すと同時に、ヤクル達から引き剥がすのを成功出来たのを確認。すぐに広範囲の結界を張る為に、白、赤、緑、黒、水色の札を一気に取り出し霊力を素早く込める。





結界方陣(けっかいほうじん)!!」




 

 ラーグルング国と同じように建てられた柱と同じように札を配置させて、結界にとって安定する形を作り出す。設置が完了したのを見届けてから、玄武と共に飛ばされた朱雀へと向かう。


 あの結界でなら暫くは休憩は出来るはずだ。少なくとも朱雀を柱から遠ざけた事であの周辺を支配していた熱は遠ざかっている。それだけでも、あの騎士団達にとっては良いはずだ、と考えてすぐに切り替える。




「っ、ぐぅ………!!」




 ドクンッ、ドクンッ、と自身の心臓の音が響く感覚に意識を持って行かれそうになる。朱雀の封印の後には、青龍、次は全てを束ねる黄龍が居る。


 最低でもあと2回はぶつかる。それまでに自分の霊力が持つのかと言う疑問が出て来るが気にしてはいられない。技術や初代から教わった術を用いていても、それで分家の当主としていても………霊力は麗奈の方が上だ。

 どんなに努力しても、血のにじむ様な事をしても、死にかけたとしても、酷いイジメに合おうとも、自分には守るべきものがあった。


 今も、それはある。彼女に無理はさせたくない、と言う気持ち。




「まだ、だ。分かってた………ニチリよりも数が多いんだ。こうなるのは、必然………」




 体力が奪われていくのと同時に急速に霊力が無くなる。玄武の行使と立て続けに行った術の影響。ニチリでの時よりもそのスピードは早く一瞬だけ式神の姿が形成しなくなる。

 それに気付きすぐに霊力を込め直す。一瞬の浮遊感を味わい、あのまま落ちたら……と、考えずにはいられない。




「破軍との、距離を……間違えたか……」




 息苦しさはまだ続くが、ここで倒れる訳にはいかないと強く自分を保つ。今も、朱雀は柱へと向かおうと羽ばたこうとしているのを玄武が抑えてくれている。柱が1つでも黒く染め上がれば、呪いを封印していた所も連鎖反応を起こすように呪いの力が取り戻される。


 そうなれば、回復に向かっていたユリウスは急変して最悪そのまま亡くなる。その力は封印を行った自分達に何かしらの影響を与えるはずだ。彼と同じく、自分達も死に向かうのか。もしくは死ねない呪いをこの身に受けるかも知れない。




(負けるか……。れいちゃんに会えたんだ。ゆきにも会う………まだ2人と話す事がある。ここで負けていられるか!!!!)




 その時、玄武とは違う水が上下左右同時に放たれた。目を見張ったハルヒは誰の仕業かと辺りを見渡す。




≪主の友人からの贈り物。私はルネシー。水の大精霊と呼ばれる存在。力を貸すわ、ハルヒとやら≫




 そこに現れたのは美しい水の女性だ。青い髪と同じ瞳を持ちながらも、神秘性を纏うその姿は人間と呼ぶには明らかに違い過ぎていた。それに、その美しさに呆けていると『主~』と自分を呼ぶのどかな声が聞こえる。




「破軍。なんでっ」

『いやいや、麗奈ちゃ~んが行ってってお願いされて♪』




 てへっ!!とワザとらしい笑顔に本気で殺意が湧いた。するとそれを感じ取ったのか『待て待て!!』と慌て出しハルヒの額に自身の手を乗せ力を送る。




「っ………」




 すると、さっきまでの苦しみが嘘のように無くなっていた。息苦しさも、霊力と体力が急速に奪われる感覚も今は感じずに済んでいる。水の大精霊と名乗ったルネシーと、玄武で朱雀を抑えに掛かる。さっきまでの熱風はないが、ジリジリとする暑さに頭が働きが鈍くなりそうになる。


 すると『ほいっ』と、破軍がハルヒの周囲に結界を張り暑さを軽減する。体感的に涼しくなったような気になり、感謝しつつも彼を睨めば観念したように話し出す。




『いや~彼女の方に付けって言う主の言いつけ守りたいんだけどさ~………主をないがしろにしないで、って泣きそうな目されちゃって。それに負けてこっち来たって訳。

それに俺の事、長期的に使う予定も向こうだと、殆どなかったろ?いきなり使ったら、そりゃあ疲れるし霊力の減り方も尋常じゃないしな』

「…………へっぽこ」




 感謝していいか分からない内に口は動いていた。素直じゃないのは昔から。だから、麗奈とゆきの前では自分は本当に素なのだと心の中で思うも改める気は無い。




『何とでも言え。俺は既に死んでる身だ。本当なら術式組んだ俺にも責任ある。まっ、今は主であり力を使いこなしている土御門ハルヒって言う奴の式神だ』




 笑顔で言い切る破軍にイラッとなるのは何故か。初めてニチリで使った時はまだ平気だった気がするのに……。




『あ、そうそう麗奈ちゃーんね。白虎の事封印して、青龍の所に向かってる。白虎が彼女にメロメロで何度俺に、対して暴力を振りかざしたか……』

「あ、そっ……」

『え、なに。白虎に嫉妬?今度会ったら言ってよ、苛めるなって』

「言わない。むしろ、そのまま殴られてろ」




 白虎の封印は麗奈なら当然と思っていたハルヒは別に心配していない。彼女の方が自分よりも力はあるのは理解している。どんなに死ぬ物狂いに修行しても、隣に居たいと思っていてもハルヒの霊力と麗奈とではかなりの差がある。


 そう、破軍から聞かされた。麗奈の霊力は、初代と似ているではなく先祖返りによる霊力も関係しているものだから、自分と差があるのは当然だと。



======



『俺等、土御門家は陰陽師の祖である安倍清明の子孫としての家。まぁ、貴族の者って言っても、この現代の日本ではあまり意味をなさないし、関係ないしな。朝霧家は巫女の一族であり、霊力の大きさなら陰陽師のそれと遜色ない力を持っている、元々特異な存在なんだよな。だが、龍神との子供を産んだことで全部狂い出した訳よ』



 以前、破軍から聞いた話。


 神様の声を聞き、巫女として仕えるはずの一族だったはずだ。それが神様のきまぐれなのか、奇跡とも言えるのか。竜神の子供は単に、役に立とうと人の願いを叶えようとしてくれていたのかも知れない。

 怨霊により世の中が狂い、人が死ぬのが当たり前の世の中となった。その助けをしたくて使った陰陽術は、その時に力のなかった朝霧からしたら魅力的だったのかも知れない。



 そこから陰陽師として名乗りを上げ、今の代まで続いて来た。

 当然、土御門家以外にも陰陽師として名を上げて来た家名からは認められるはずもない。元が巫女の一族なのに、何でいきなり陰陽師として名を上げるのか。理解もしたくない、と言う事から周りからは厳しい声を聞かされた。




『あれはー、キツかったなぁ。周りからの反対聞かなきゃだし、俺は俺で面白いから別に認めても良いなぁーって思ってたし。あんな堅苦しい会議とかは嫌いだからさ』

(何で、こんな適当な奴を当主にしたんだよ………。選んだ奴、頭おかしいでしょ)




 当時12歳のハルヒは思っていた。いきなり、目の前に現れて出て来た男性。社会の授業で習った奈良時代のような服を着込み、扇子を広げて上品に話すような仕草。嫌いな教科だと夢にまで現れるのか、と心底冷めきった目で見ていた。




『あ、これ気にしないで♪俺が気に入った奴に一方的に話しかけてるだけだから。君、私と話したって言う記憶にすら残らないんだよねー、多分』

「迷惑、消えて」

『うわー、ひでーな。俺、これでも土御門家って言う大変な使命を背負ってたんだよ?』

「人の夢に入り込むな、変態、不審者って言うんだよ」

『………そんなに勾玉あげた女の子の事、想ってんの?』




 ピクリ、と僅かに反応を示す。何で、その事を知っているのか?と、睨めばワザとらしく『綺麗な顔なのに、怖いわ~』と扇子を広げながら言う。




『可愛いよね~、麗奈ちゃんだっけ?』

「何で名前知ってるの………」

『主が生まれてからずっと見て来たんだから当たり前。こうして、面と向かって話すのはこれが初だけど。……だから、君が周りからどんな扱いを受けて来たのかも知ってるし、それを変えてくれた彼女達の事も知ってるよ』




 言ったろ?気に入った奴に一方的に話掛けてるって、とニヤニヤしながら言い放ちその反応を見守る。夢だからと言う理由で、思い切り殴り飛ばせば『ひで~』と言いながら何処かに消え去っていく。

 ガバッ、と起き上がり自分が寝ている布団、起床時間を見て一安心する。いつもの5時に起き、いつもの服に着替え座禅を組むのが日課。


 それが終われば引っ越し先でお世話になっている人達に挨拶をし道場に向かう。先客が居るのを確認すれば、ピリッとしたいつもの雰囲気になる。




「………いつも思うが早起きは慣れているのだな」

「はい。以前、お世話になった所では初めに慣れさせて頂きましたから。それにいつも霊獣である狐さんがうるさかったので、この位の時間にはどうしても目が覚めてしまうんです」




 本家から言われてハルヒが来たのは、土御門家の遠縁にあたる陰陽師家の1つ。土御門(つちみかど) 稲雪(いなゆき)。彼は麗奈達の居る町とは隣同士ではあるが、朝霧家とは殆ど交流はない上、本家からも関わるなと言われている。


 彼が当主として勤めているこの家では、住み込みで働く者も含め、また陰陽師として修行中の者達も含めてハルヒには優しく接して貰っていた。最初は、本家からの命令で仕方なく上辺だけのものだと思っていたが、稲雪から言わせれば違うと最初に怒鳴られた。彼は本家の者達が嫌いらしく、面倒後とは全てこちらに押し付けてくるやり方に憤りを覚えていた。




「君の扱いは私が決める。だが、霊力が強いのはすぐに分かった。………まぁ、堅苦しいのはなしだ。自由にして貰っていいよ」




 最初にそんな事を言っていたからなのか、ハルヒはすぐにこの家に馴染んだ。雰囲気が朝霧家でお世話になった時と被るからか、自分が居た所では殴る蹴るの事が日常茶飯事でマイナスイメージが強すぎた。それを察した彼がすぐにでも殴り込みを開始しようとしたのを、周りが止めるので必死だった。それでハルヒが警戒心を解くには早く、この家にも馴染むのが早かった理由だ。




「……そうか。霊獣が自由に動き回るのか。まぁ私達は皆、霊力がハルヒ君よりも少ない。霊獣を扱えるだけの者はこの家にはいないしね」

「……すみません」




 つい、謝ってしまった。稲雪の家は土御門家の中では最弱と言う評価を貰っている。だが、皆はそれを悲観する事無く黙々と陰陽師として街に蔓延る怨霊を退治している。最弱であろうと関係なく、怨霊を倒すのが陰陽師として、この家に生まれた者としての責務だと初めにハルヒに言った。 




「気にしなくていい。霊力が多ければ出来る事は増える。少なくても出来る事はあるんだ。それは才能だよハルヒ君………ここで学べる事があるのは今でも不思議に思うんだが」




 そう言って優しそうな表情を浮かべる稲雪に、恥ずかしく思い下を向く。そうしていると、慌てたように「ご、ごめんなさい遅れました!!!」と入ってくる一人息子の幸仁(ゆきひと)。ハルヒとは5つ上であり、優しく世話好きで周りからは兄弟のようだな、と和やかに言われる。




「では始めるぞ」




 揃った所で弓を絞りいつものように的を射る練習を開始する。これを続けてもう6年程になり、今では怨霊退治をする際にも用いるようになってきた。

 幸仁は部活で弓道に入るよう勧誘をしているが、夜中には怨霊退治をするの上、準備もあるのでバイトだと断わり続けている。どうも、部長が幸仁が入ればウチは強くなる!!!と変な気合をし部員を使って毎日勧誘をされているので困った、と愚痴をこぼしていた。




「……ハルヒ君、今日は精度がかなり落ちているね。何かあったのかな?」

「いえ、そんな事は…………」

「でも、いつも精密なのに………外しまくってますけど」

「…………」




 今朝見た変な夢の所為だな、と思っていたハルヒ。だが、ずっと的を射る度に集中しようとする度に、目の前に居て扇子を広げたり変顔をしてきたりと……邪魔をしてくる変な男性。夢で見た奴が何故か、自分の目の前に居る上にずっと邪魔をしてくる。


 空を睨むように見ているが、実際は外しまくるハルヒを見てニヤニヤ顔が止まらない奴の所為。霊の類なら稲雪と幸仁にもそれなり反応を示せるはずだ。なのに、彼等2人には見えずハルヒしか見えない正体不明の男性。




(………何で邪魔するんだよ、夢で出て来るんじゃないのかよ)

『にっししし、言ったろ?生まれた時から見てるんだから、出て来るタイミングは俺が決めるの。自由な俺の今の生きがいは邪魔する事!!!!どうだ、良い趣味してるだろ』

「最低な趣味だな………」

「「えっ………?」」

「…………気にしないで下さい」




 良い笑顔で言い切るハルヒ。

 夢で話した男がムカついたからなのか、元からイライラしていたからなのか会話をしてしまった。そして、それをキョトンとした表情でハルヒを見る2人に上手い言い訳が出来るはずもない。




(消えろ!!!)




 目の前で面白そうにしている男に向けて、霊気で矢を作りとして射貫く。いなすように流れるようにして、それを躱しながらも笑う男にムキになったハルヒは止めるのも聞かずに道場を穴だらけにしてしまうと言う行為に至ってしまった。




「つまり、その男の霊が君を邪魔する挙句に私達にも感知されないほどの力のある者が今目の前に居る、と?」

「……はい。本当に、申し訳ありませんでした」

『くくくっ、ダッセー』


 


 思わずキッと、睨むもその男性の後ろには稲雪が立っている。傍から見たらハルヒは稲雪を睨んでいると言う図なのだが、息子の幸仁はそれが怖くて口には出せないでいた。




「……名前も言わない失礼な人に、遊ばれるのは迷惑だ」

『はいはい、言えば良いんだろ?俺は土御門 行彦(ゆきひこ)、だ。覚えたか?ゆ・き・ひ・こ・な?』

「………ゆき、ひこ?」




 その名前にピクリと反応を示したのは目の前に立っている稲雪のみ。幸仁ははその名前に首を捻り始めていれば、妻である朝里(あさり)が「朝食出来ましたよ~」とハルヒ達を呼ぶ声が聞こえて来た。




「………土御門行彦は、忽然と消えた天才陰陽師であり異端な陰陽師だった男の名だ。当主としてあまりに短すぎる程の方だったよ」

「え」




 道場を出る間際、そう言い放つ稲雪に思わず振り返るハルヒ。それを複雑そうに聞く行彦は、ふっと自虐的な笑みを浮かべ『ま、そうこった』とワザと明るく言った。

 

 その日の夜。

 稲雪から渡されたある記録らしきものを見せて貰った。何でも、土御門家が出来た頃の記録や、歴代の者達の名前、土御門家と協力関係にあった陰陽師家の名が連なるもの。


 しかし、保存状態がよくないのか所々でしか見える事が叶わず稲雪もこれを本家の人間からいきなり渡されたと言う。使う理由がないのか、もう用済みと思われたのかは分からないが遠縁としているこの家に色々と押し付けているらしい。  

 



「あと渡されたのはこれくらいか。また、本家から色々と送りつけられてここを倉庫代わりのように使われるのだろうな。良ければこの資料を自由に読むと言い、もしかしたら彼の事が分かるかも知れない」

「ありがとう、ございます……ありがたく、使わせていただきます」




 そう言って案内された蔵。ホコリ臭いと思ったが、毎日掃除をしているのか離れにあるとは思えない程綺麗に保たれており「誰も入らないとは言え、誰も手入れしないのは可哀想でしょう?」と、朝里が今も欠かさずに行っていると言う。




「私もたまに使うんだよ。蔵の鍵は妻に預けているから、好きに使って構わないよ」

「はい、何からなにまで本当にありがとうございます」

「気にするな。家族なのだからそんな事を気にする必要な無いよ」




 家族、とはっきり言われてその言葉にすぐに言葉が出て来ず黙ってしまった。それに気にした様子もなく稲雪は蔵から出て行き、静かに戸を閉めた。何かお礼をしなければ、と思いながらもまずは今、自分の疑問に思っている事を解決する為に読み漁る。




『……良い人達に巡り合えたな』

「邪魔するなら出て行け」

『え、なにそれ酷い扱い!?』




 隣で嘘泣きを始める行彦を無視し、ハルヒはその日から蔵で寝泊まりする事となった。そこで、朝霧家と土御門家の関係や、自分達分家の役割も記されてたものを見付けた。

 最初に朝霧家について話を聞かされていたので最初にそこから読み始めた。それによれば、朝霧家は独自の術を用いて反対してきた者達を黙らせたと言う。今まで札での攻撃手段でしかなかったものに、自身の血を用いる力は札での攻撃よりもダイレクトに霊力が伝わり、一度に殲滅できる怨霊の数は計り知れなかった。


 そして、霊獣と言う式神の上位の力を持つ彼等との契約。これの原型を作り出した朝霧家は、他の陰陽師家とは格が違うと見せつけた。


 土御門家は、そこから朝霧家を見張ると言う名目で家同士の繋がりを持つ事になった。その時の朝霧家を抑えられるのは、霊力としても申し分ない土御門家しかいないと言う判断だと言うもの。土御門家も、本家と分家に分けられ分家の者達に朝霧家の見張りと雑務を行い逐一報告を漏らさないようにと、今までの朝霧家との繋がりを知った。




『ん~面白い術だから良いと思うんだがな。頭の固い連中はこれだからいけないな』

「黙って、集中できない」

『だから酷い!!!!』




 うわーん、と子供のように駄々をこね始めパチン、パチン、と扇子でハルヒの頭を叩く。あまりに煩いので札を用いて縛り上げ、口を塞ぎ手足を動けなくして資料を読み漁る日々が続いた。


 15歳になったハルヒは街に戻る決意を固め、本家の人間に進言をした。朝霧家を就いた麗奈も高校生になる為、見張りをするのにハルヒを使う事を決めていたからなのか簡単に通った。

 この家で過ごす時間が、朝霧家と同じ位に過ぎて行き楽しくもあり寂しくもあったが目的の為には仕方ないと決めた。




「また辛くなったら頼るといい。既に家族なんだから」

「はい。お世話になりました」

「……っ、ぐすんっ、ハルヒちゃん。向こうでも、元気でね?」

「……はい、今までありがとうございました。朝里さん」

「寂しく、なるね。……ホント、可愛い弟がもう居なくなるのか」

「今までありがとうございました、幸仁さん。就職頑張って下さいね」

「……あー、うん、頑張る、頑張らないとね」




 微妙に顔を合わせない幸仁。社会人になってからも陰陽師として続けている人は少ない。殆どは家を継ぐと事を理由に成人してからも続けて行ける。しかし、この街にはそれほど怨霊の数はおらず、何故か麗奈達の居る街へと流れている事もあり、この地域の陰陽師で家を継ぐと所は少なくなっていた。




「じゃ、ハルヒ君。駅まで送るから荷物貸してね」

「すみ、ません……幸仁お兄さん」

「参ったな、今、それ言う?」




 自分も我慢したのに、と言葉に破出さず足早になる幸仁。ハルヒもそれを追うようになり、最後に2人にお辞儀をして駆け出す。

 朝里は「寂しくなりますね」と、言いながら後片付けをしに家に入る。稲雪はふと隣に居ると思われる人物に話し掛けた。




「彼の事は頼みます。幸彦さん……ここでは破軍と言った方が良いですかね?」

『おーっと、気付いてたの?』

「いえ。……貴方がワザと見せてくれているのでしょう?」

『ふふっ、どうかなー?』




======



『さーて、仕事だ、仕事!!!』




 扇子を振りかざす。霊気を込めればそれは刀へと姿を変え、玄武同様に呪いの元である黒い球に狙いを定める。自身が死んだ影響か、目に見えない力の流れが見えるようになった。




『苦しいんだろうが我慢しろ。麗奈ちゃーんがきっちり救ってみせるからな!!!』




 黒い球体を切る。

 ビシッ、と亀裂が入る音が聞こえそこから赤い光が漏れた。天を突き抜けるような強い光が周辺を包む。その眩しさにハルヒは暫く目を瞑った。光が止み手に何かが握られる。




『ほい、主にプレゼント♪』




 その手には、赤い球体に閉じ込められ体を丸まった朱雀の姿があった。驚いているハルヒを無視して破軍はそのまま粒子となって消えた。


 残る封印は、青龍。四神をまとめる黄竜のみとなった。






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