第46話:四神との戦い~朱雀~③
バフッ、と麗奈の顔に自身の手をぶつける。爪は立てずウリウリと軽く押す。それが終わればすぐにスタッと素早く頭の上に乗り、リラックスモードに入る白虎。体が小さくなっている白虎の見た目は、虎の赤ん坊並みになり巨大化はする気はないらしい。
そんな白虎はふっ、と勝ち誇る表情はぐぬぬぬ、と怒りを向ける風魔を自慢するもの。フィルにより抱き抱えられ「抑えて下さい」と注意するも怒りのオーラは簡単には収まらない。
『麗奈ちゃ~ん、君は動物に好かれやすいの?玄武も同じような反応示してたし』
「ど、どうなんでしょう。でも、家に帰る度に犬とか猫は勝手に付いてきてまいたし、ハトや雀も………しまいにはパレードで行われるような馬とかも来てましたね」
『動物園出来るよ、それ』
球体の結界に閉じ込めた事で呪いから解放され、元の力を取り戻した白虎。ぐったりしていたはずなのに、麗奈がその球体を持ち上げた瞬間すぐに起き上がり結界を突き破って甘えて来る。ハートを飛ばしているのが、誰の目から見ても明らかであり頭を撫でれば気持ち良さそうに体を預けている。
「でも、何で急に玄武も白虎も元気になったんだろう。あうっ」
『それは当然。朝霧家の人間だからだよ』
初代から脈々と受け継がれている霊力。特に麗奈はその初代と似ている部分が多い為に、四神達は呪いで力が弱まっていたとしても主として相応しいのならすぐにでも力は回復すると言う。
「主、ですか………わぷっ」
説明を受けながらも白虎は時々麗奈の顔や体に甘噛みをしたり、猫パンチをおくり戯れる。今も、白虎にむぎゅーと前足を顔に当てられ押し出そうとしてくる。破軍はそれを面白そうに見つめており、後ろに引っ付いているベールとキールを見る。2人は背後から抱き着かれており逃げたくても逃げられない。
「主ちゃん、誰なのそいつは」
「麗奈さん、また見知らぬ男性を連れ込んで………」
「つ、連れ込んでません!!!!」
「ですが、あのハルヒと言う子の婚約者なのでしょう?」
ピシリ、と空気が凍り付きギギギ、と破軍に思わず視線を向ければ『主、そんな事言ってたな~あはははは、大変だ~』と笑いながら扇子で口元を隠すがニヤニヤが止まっていないのは分かる。
「………前に聞いた無理矢理婚約させられそうになった、当主って彼の事ね」
「何の話ですか、それ」
「べ、ベールさん!!!次は南、南に行きますよ!!!」
「主ちゃん、ちょっと黙っててね?」
良いね?と、睨めば汗をダラダラと流しフィルの所に行こうとしたいのに、2人が離さないので動けない。そうしている内に、キールは麗奈達は元の世界に帰らない事、その原因とも言える当主同士の婚約、こちらに来なければ命が危険になりウォームによりこの世界に呼ばれた事。
それをほほぅ、と聞く破軍はずっとニコニコと麗奈の反応を楽しむ。彼女はずっと生きた心地がしないのか、後ろから突き刺さる視線に耐えられなくて下を向く。キールは普通に話しているがそれを聞いているベールは、目が笑っておらず絶対零度で麗奈を見つめていた。
「そうですか。そんな事情が………それは大変でしたね、麗奈さん」
「イ、イエ………トンデモナイデス」
白虎にうずくまるようにして視線から逃げるも、ベールからずっと冷たい視線を浴びせられ破軍からは『まぁ、お嬢さん可愛いもんね~』と何故か煽られる。キッと睨めば破軍は楽しそうにクスクスと笑う。
『可愛い子が何しても可愛いのよ~睨んでも無理無理』
「白虎」
『ぐほっ!!!』
麗奈の号令ですぐに、破軍のお腹へと突撃。そしてサイズを通常の虎へと変化し前足を器用に使って破軍を抑えつける。それにいい気味だと言わんばかりにベールとキールが笑顔で見ていた。
数分後。ランセにより救出された麗奈はフィルに預けて「で?」と未だに白虎からの攻撃を受け続けている破軍に向けて意見を聞く。
『で?とはなんですかね。いっ、いだだだ。こら、何でそんなに突撃ばかり』
【ガウ!!グアア!!】
『ちょっ、ちょっ。麗奈ちゃ~ん、白虎止めて。これ、君の命令で実行してるだけみたいだし』
「………最後に蹴って、戻ってきて」
『んなっ!!!!』
任せろ!!と言わんばかりに、思い切り後ろ足で蹴り背中に一瞬乗ればそのまま力に逆らう事無く地面へとぶつかる。褒めて褒めて、とすり寄る白虎に風魔と同じように抱き上げてお礼を言う。
『いててて、霊力で具現化してるけど一応ダメージもあるんだが。容赦ないな』
「それだけの事した自覚を持って下さい」
『はいはい、悪かった悪かった。今、5つある柱の内2つは封印に成功してる。これで呪いの進行もかなり遅らせられる。ニチリは3つだったから、1つ封印するだけでかなり良かったからね』
「神霊のニチリ………そちらもここと同じ状況だと?」
『けどここは5つ。やっと半分減らしたと見て良いし、ここの王族にも多少なりとも変化はあるはずだ。ニチリは平気だ。主とで全部解決してきたし』
「………では、国が違うのにここに来たのは」
『ん?あぁ。主がここに行くって突然言い出したからな~。それを救った姫様が自分も行く、とか言い出して家出みたいに飛び出したし~』
ん?と、ランセは破軍を見る。家出?では、今その人達は一体何処に?と、聞いてみた。
『ん~~~~。確か、船で来てたからその辺に止まってるんじゃないかな。先に偵察出した式神からの連絡で、そのまま飛び出してきたし……あ、怒ってるかもな』
ちなみに空間が妙な感じになってたから、無理矢理入った~とパタパタと扇子を扇ぐ。イーナスの仕事が増えたな、と思い他国からの介入が後々問題にならなければと強く思うランセだった。
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一方、ハルヒが飛び出してから既に3時間程は経過している。取り残されたアウラはむくっーと、頬を膨らませ何度目かの「ハルヒ様のばか~~~~!!!」と大声て上げてゼェ、ゼェ、ゼェ、と荒くなる息を何とか整えようとしている。
「…………姫様」
飛び出していった隊長にも驚いたが、姫が国を家出の如く飛び出したのも驚き、ラーグルング国へと向かっていた事にも驚き……何度目かの驚きでもう考えるのを止めた。本来であれば自分がここをまとめあげるのが仕事であるが、あくまで仕えているのは隊長であり、副隊長としている自分の役目は姫の護衛。
「あ、あの………良かったら、お茶とお菓子をどうぞ」
「すみません、そちらの確認も取らずに急に来てしまい」
ゆきは姫と呼ばれたアウラの分、傍に控えている副隊長、そして出口付近を警護していると思われる2名の隊員。計4名分の冷たい麦茶と即席で作ったクッキーを持って用意していた。
(ニチリ………。ハルヒが降り立った国で、私や麗奈ちゃんみたいに保護してくれた所)
大体の話はハルヒから聞いていたが、つい姫と呼ばれた自分と同じような年齢の女性をチラリと見る。置いて行かれたのが余程ショックなのか、今だにじっと柱がある方向を睨み付けている。
ゆきは麗奈と同じ黒い髪である事も驚いたが、よく見れば副隊長と呼ばれている人も護衛をしている人も自分達と同じ黒髪か茶色の髪である。違うとすれば瞳の色が黒や茶色ではない事。姫と呼ばれた人は自分達と同じ黒い瞳を持っているので思わず、彼女も自分達と同じ世界から来たのでは?と間違う程に自分達と容姿がよく似ていた。
「失礼します、イーナス宰相の代わりに自分が貴方方の対応をさせていただきます。イディール・レグネスと申します」
そんな事を思っていると、入って来たイディールはニコリとそう言い頭を下げていた。その声にアウラは振り返り「いえ、自分達がいきなり来たのにここまでの丁寧な対応、誠にありがとうございます」と、すぐに気持ちを切り替えてそう答えた。
ハルヒが飛び出して途方に暮れていたが、予定通りラーグルング国に辿り着いたアウラ達。辿り着いてから彼を追えばいい、と思っていたがいきなり来た木造の船に村人達は目をパチパチと瞬きをし、思わず見回りをしていた兵士に知らせた。
本来であれば陛下や宰相が対応しているはずだった。だが、その陛下は呪いの影響でまともに動けるような状況ではない上、その宰相はその呪いを解くために朝早くから対応に追われている。しかも、いきなりニチリから来たと言う彼女達をどう対応すればいいのか、と見張りの兵も考えが浮かばない内に声を掛けてきたのは4騎士ベールとフィルの父親、フィナント・ラグレス。
2人と同じ深緑の瞳を持ち、美しくも綺麗に整えられている白い髪を一つに結ぶその様は2人の子持ちの父親と言う風には見えない位に若かった。その容姿なのか、それとも圧が凄いのか慌てて敬礼を取る兵士はつい早口で報告をする。
「フィ、フィナント様っ!!か、彼等はニチリから来た使者だと言う事です」
「村人達から報告を受け、自分達が対応させていただきました!!」
「………そうか、ニチリの使者。すまないが、遠路はるばる来た所申し訳ないが今そちらに対応するのが難しくてね」
「知っています。陛下の呪いを解く為に動いているのでしょう?」
ピクリ、とフィナントの表情が変わった。それだけでビクリ、となる兵士は人を呼ぶべきか互いに視線を合わせていると豪快に「良いじゃないか、事情を知っているのなら」と歩いてきたのはファウスト・リーベル。
「ファ、ファ、ファウスト様!?」
「どういうつもりだ、ファウスト」
「どうもこうも、そのままの意味だ。………確か、ニチリは神の声を聞ける神子と呼ばれる者が代々王族としてまとめていたはずだ。彼女は事情を知っていると言ったのならその予言でこちらに来たと見て良いだろう」
「…………」
睨むフィナント。彼は嘘であった場合の事を見越して睨んでいる。陛下は動けず、戦力の大部分は全て呪いを止める為に皆動いている。騎士団も全て行けている訳でなく、彼等は国境付近で魔物が出現した場合の迎撃も担当している。無論そこには魔道隊の面々も含んでいる。
外は彼等に任せるとしても、中での守りがあまりにも手薄。だからファウスト達が見張りとして巡回をしていた。だと言うのにこの男はそれを入れろ、と言うのだ。
「ん?」
その時、北の柱から水色の光が放たれた。一直線に伸びたその光はそのまま、中央にある柱へと吸い込まれていった。今の反応は?と、目を見開く彼等を他所にアウラは告げた。
「今のは北を守護する玄武の封印がなされた光。ハルヒ様が私に行ってくれた行動と同じです」
「封印………」
「この国の陛下の呪いは、私にもあった呪いです。私も早くて20歳で亡くなる予定でした。ですが、ハルヒ様がそれを救い呪いを解いてくれました。なら、同じ苦しみを、私と同じような呪いを受けているこのラーグルングの陛下の呪いも解けます。
私達は侵略しに来たのではありません。ハルヒ様がここに友人が居ると言う事で、その方の願いを叶える為に危険を承知でここまで来ました」
だから、私達もそれにご協力したいのです。と、真剣に目を逸らさずに話すアウラに傍に控えていた者達は同時に膝をつき頭を垂れ武器を置いた。自分達には敵意はないと、侵略の意思はないと言うように態度で示していた。
「ここまでさしといて帰れはないだろ」
「………違った場合の責任はどうする気だ」
「違うなら私が一気に転送すればいい。違うかい?」
その声に振り替えればセルティルが居た。協会で理事をしているはずの彼女が何故?と疑問に思えば「宰相から一時的に国に戻れとうるさくてね」と、ある条件込みで戻されていると言う。
自分が居ない間の国の対応をお願いするよ、とイーナスは彼女に伝えていた。ユリウスが協会に来た時に渡してきた封筒の中身には、陛下の呪いの進行とそれを解くのに陰陽師の彼女達だけでは難しいと言う事をまとめたもの。恐らく自分も対応に追われるだろうから、少しの間だけでも代わりの宰相をするようにとお願いを言い渡されていた。
最初は渋ったセルティルも、麗奈が陛下の呪いを解く為に既に動いていた事。だらだらとしていたはずの息子が、主に仕える魔法師として活動していた事から仕方なしに了承した。
「レグネス家は宰相として名を上げている。貴方方にはここでの巡回を中心に行ってくれれば助かるよ」
「おぉ、セルティル、久しいな。随分と女らしくなったな」
「それはどうも、ファウスト。アンタも相変わらず妻を大事にしているようで助かるよ」
「………身内での話はあとでしろ」
「変わらず固いな。よくそれで嫁が貰えたね」
「…………貴方には関係のない話だ」
好きにしろとばかりに、フィナントはすぐに離れていきファウストとセルティルの2人が対応すると言う事ですぐに城へと転送された。陛下の回復を務めていたゆきはその時に、セルティルに引っ張られアウラ達の対応を任された。
そんな経験ないのに!!!と、訴えるもいつも通りにお茶とお菓子を用意して出せば良いと言われとりあえず即興で作った星形とひよこのクッキー、喉が渇いているからと言う理由で麦茶を提供しドキドキした表情でアウラ達の対応に追われる事となった。
「………この小鳥さん、食べるのが勿体ないです」
「っ、す、すみません!!すぐに新しいのを」
「あ、いえ………。作って頂いたのに食べないのはいけませんね」
慌てるゆきはアウラのその言葉におずおずと従う。しかし一向に小鳥のクッキーを見つめ何回も表と裏とひっくり返し、物珍しいのかずっと食べないで居る彼女に密かに見張りをしていた隊員は思った。
(可愛んだけどアウラ様。頼む食べてくれ)
(でないと、俺達何も食べれないし何も進められない)
仕草がいちいち可愛い事に悶えるが、今だにクッキーに手を付けないアウラに未知の食べ物を食べたい葛藤と早く食べて欲しいと言う願望を乗せた眼差を送るのだった。
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酸素が薄く、自分が立っているのか倒れているのかが分からない。意識が朦朧とする中でバタリと倒れるのは騎士団の兵士。
「っ、ぐぅ………」
ガクリ、と膝を折りながらも目の前の敵を見据える。南の柱に移動させられた時に感じた熱風。炎と相性が悪いのは水。なら何故、ここに水を扱える者が誰も居ないのか。
南の柱は炎を扱う者達にとって恩恵がある。自身の魔力が上がったような、自身の力が底上げされたような感覚。同じ力で対応しなければいけない理由。それは目の前に炎をまき散らす朱雀と呼ばれるものも、柱の力の恩恵を受けているからだ。
同時に朱雀は南を守護し、その恩恵を受ける量はヤクル達の非ではない。それが分かっていたからこそ、麗奈達は各柱に力を抑える術式をいくつか組んで裕二がその調整を行った。北と西の玄武と白虎にはそれは通じていた事もあり、早い決着を付ける事が出来た。だが、この朱雀は抑える術式を全て跳ね返す程の力を有し最初に攻撃を加えたのは地面を高温で燃やし尽くした事。
(くそっ、自分の体が焼かれるような感覚。下からの高温と、周りを包む炎の所為でどんどん酸素がなくなっていく)
高温の中でもそれなりに動けるのは武彦の結界の力が働いているからだ。自分達に薄い膜を張る様なイメージで器用に1人ずつ、瞬時に行いながらも清が炎を操り朱雀から放たれる巨大な火の玉を逸れさせるも息が上がっている。
『(っ、やっぱりこの位の差はあるか。妾は九尾と違って攻撃系統の術はあんまり持ち合わせていない。精々、幻術と炎を操る力しか備わっていない。主様も、防御の方が得意な分、損な役回りをさせられているな)』
ちっ、と珍しく舌打ちする。この高温の中で唯一動けているのはフーリエだけであり、火柱が襲い掛かるのをギリギリの所で避けて行く。何度か朱雀に対して攻撃を仕掛けるも空へと飛び立ち有効打撃を加えられていない。その時、急に温度が下がり冷たい風がこの場を流れた。
「グラセ・エクスプロージョン!!」
火柱を瞬時に凍らせ、その場で爆発が起きる。続けざまに朱雀の上からセクトが槍を構え真下に振り下ろす。炎と水がぶつかり蒸気に辺りが包まれる。ドオン!!ドオン!!と、火柱に負けないくらいの水柱が周囲に起き何が起きたのかとヤクルが周りを見る。
「炎にはやっぱり水だよね。玄武、暴れろ!!!」
球体に閉じ込めていたはずの玄武がハルヒにより再び解放される。北の柱を襲った時と同様に、体長20メートル程にまで大きくなりそのままのしかかる。灼熱の大地だったものが一気に冷やされ、元の地面の温度へと戻ると同時に、酸素が満たされているのが分かり実行した相手を見る。
「武彦さん、倒れるのにはまだ早いですよ?ここは僕が引き受けますので、引き続き結界の方をお願いします」
「すまんな、ハルヒ君」
まだクラクラとなる頭を無理矢理に叩き起こせば、ラウルがヤクルを支え「遅くなってすみません」と謝罪とばかりに額に手を当てられる。ひんやりと自身の体温が下がっていくのが分かり、段々と覚醒していく頭。
「ムカつきますけどあのハルヒと言う者。実力は本物です。実際、あの玄武を封印して今では使役していますから」
「良かった~見直してくれたんですね」
「実力以外は一切認めていないから安心しろ」
「うわっ、酷い……そんなにれいちゃんと仲良くしてたのが嫌なの?」
「いきなり現れて婚約者だと言われて、良い気は持たないさ」
「…………はいはい」
ホント人気者だな~、と思いながらも朱雀を見据えて次の封印へと準備を進める。相対するのは巨大な炎の鳥。今は玄武の攻撃を逃れ上空へと逃げていながら、旋回を続けこちらを様子を見ている。
鳥の式神を作り玄武の傍に移動するハルヒ。彼は封印術の札を用意しながら玄武に命令を下す。
「北の守護神の玄武よ、朱雀を抑え込め!!!!」




