第45話:四神との戦い~破軍~②
セクト達はつい足を止めてしまった。目の前で繰り広げられている事が理解出来ないのと、何が起きているのかが全く分からないからだ。ただ、色が違う玄武が互いの体をぶつけていく度に水柱がおき、既に街を村をおも飲み込む濁流となって被害を広げている。
足を止めている間に水位が上がる事で、はっとなりすぐに木の上へと急ぐも水の勢いは止まらない。魔法で防ごうとした時、自分達に結界が張られそのまま空へと上がっていく。
『ほいほい、お待ちどうさん。これで良いか?』
「前みたいにさっさと片付けてよ」
『うわっ、ひど!!!』
『こんな重労働酷いわ~』と、腰を叩きワザとらしくする破軍にハルヒは再び睨む。麗奈はハルヒの腕から逃れようと動くが何故か離してくれないし、離す気は無いのだろう。そのまま抱き留められてなすがままだった。
『…………独占欲強過ぎね?』
「振られたんだからこれ位良いでしょ。ねっ、れいちゃん?」
「よよよよよ、良くない!!!全然良くない!!!!」
『(あぁ、あの子が好きな子も………独占欲強いのか)』
慌てる麗奈の様子から破軍はそう考えて可哀想に、と視線を投げかけるも彼女にはその視線を受けている自覚はない。そして主としているハルヒはその事を知っているのだろう。ワザと彼女にとって恥ずかしい思いをさせているのが分かり『(性格わるっ!!!)』と口に出せない事を思った。
『お~し、頑張れ分身!!!元に戻ってこの国助けようじゃないか!!!』
呑気な声と共に札で強化され式神としての力を発揮する玄武は、蛇を使い体に巻き付く。風魔が突風を起こしグラリと体が揺れた。それを利用して、一際大きな水柱が引き起こされ、玄武をひっくり返す。
『壱の型・水牙滅人』
パチン、と扇子を閉じる音が綺麗に聞こえたかと思ったその時。玄武に向けて結界を作り閉じ込めた。暴れ出す力が凄いのか、結界越しからでもビリビリと空気が揺れ衝撃波としてセクト達に襲い掛かる。
「っ、なん、なんだよ、これ」
結界の中に居ながらも、衝撃波が襲い掛かり思わず目を閉じるセクト。ラウルはじっと玄武同士の戦いを見ながら、ハルヒの事を睨み付けている。すると、場に似合わない呑気な声が聞こえてくる。
『まだまだ行きますよ~。それ!!』
刀を振るうように扇子を振れば、一直線に衝撃波と同じ風の刃をぶつけ相殺させていく。扇子を消し握られている刀を改めて握り直し、閉じ込めた玄武向けて一刀両断。
ピシリ、と音を立てて崩れるは黒い玉。それは玄武の体から飛び出しており破軍はそれを狙って切り伏せる。合図とばかりに刀から扇子に切り替え『主~』と呼びかける。
「封印術・神落とし」
水色の札と黒い札を数枚だし、瞬時に霊力を込める。水色の札は玄武に黒い札が分身の玄武に向けて放ち力を解放する。破軍もそれに合わせて扇子を振るい自身もハルヒと同じように霊力を込める。
『んじゃ、主。教えた通りにやってくれよ』
「言われなくても分かってる!!」
同時に放たれた霊力に苦しむ玄武。水色に輝いていた札はのたうち回る玄武に力を吸収するように水を吸い込み、そのまま黒い札へと移り分身としている玄武に注ぎ込まれていく。
黒い玄武に変化が生まれていた。色が黒から分身と同じように紫色へと色が変わっていく。吸収されている玄武の体が段々と小さくなっていき、球体に収められた玄武はその結界でポカポカと出てこようとして暴れている。
『おーし、終わった終わった。ほら、朝霧の当主。これで封じたぜ』
「あわわっ!!!」
ポーン、と結界に閉じ込めた玄武を麗奈に向けて放り投げて来た。慌てて受け取り未だに暴れている玄武は、ピタリと麗奈を見て動きを止める。首を傾げていれば何故か同じような動きをする玄武。
「…………」
風魔と同じように覗き込み見つめる事数秒。可愛い、と思わず衝動で抱きしめており尻尾でフリフリするのを必死で追う玄武にもう色々とダメだ、と悶えている。
「あ、ダメやっぱり可愛い♪」
『止めてやれ。後ろで殺気出てるのが居るから、流石に切られると防がないといけないんだが』
そんな姿の麗奈を見て同じく癒されるハルヒは思わず抱きしめる。ラウルが剣を抜こうと戦う態勢なのを必死で抑え込む兄のセクト。呆れる破軍は止めろと言わんばかりにペシペシと主であるはずのハルヒをひっぱたく。
「はい、これ。初代と会って作った封印の札。あと3枚は一応、れいちゃんに渡しておく。その玄武、僕が一時的に使ってもいい?」
「………使うって、この玄武を?」
ラウル達からは死角であり、抱き付いているようにしか見えない。実際、ハルヒはそこまで計算して行動を起こしている。自分が麗奈の婚約者だと言って、殺気を出した1人であり他2名の男性も凄い迫力だったなと思い出す。
(ここに来てかられいちゃんは変わった。僕が変えられなかったものを………悔しいけどここが君の居場所と言うのなら仕方ない。でも、いじわるはするし、からかうのは絶対に止めないけどね♪)
チラリとラウルを見てふっと鼻で笑った。ざまみろ、と目で語ったのがラウルにも分かったのだろう。今すぐにでも襲い掛かる勢いを必死で止めている兄と魔道隊の面々。
「そう。彼等は元は人間で朝霧家の人間。この世界に、死んでからも柱としてこの国を守って来た影響か既に精霊としてこの世界では認めて貰っている。とはいえ、彼等は魔力を扱う概念はないから、あくまで僕等と同じ霊力を扱う。
陰陽師ならだれでも扱える訳じゃない。霊力の高い人間で尚且つ、束縛の力が強い人でないと力に振り回されて最悪、死ぬ」
「…………」
「不安げに見なくても平気。そこの破軍もれいちゃんの霊獣も、高い霊力が無いと扱えないものだしね。ぐうたらだけど、力が強いのは今ので分かったと思うけど」
『ぐうたらは余計だ』
「生意気の初代だけど」
「えっ、初代様なの!?」
ビックリして見ていると『そうそう♪』と、目の前に現れ『よろしく~』と頭を撫でられる。聞けば彼もこの世界に来た事があり、朝霧家の初代、優菜と何度か顔を合わせたとか。
土御門家の自分が国を作ったのが神霊の国、ニチリ。朝霧家の優菜が助けて貰った人達と作り出したのがラーグルング国。とんでもない事実に頭が付いていけずに居るとペチリと扇子で叩かれる。
『待て待て。俺達のはあとでいい。ニチリもラーグルング同様に呪いで苦しめられてきたんだよ、王族達がね。全部解決した俺と主を褒めて欲しいね』
「ニチリの……王族の人達も同じ、状況?」
「そうそう、姫のアウラがここの陛下と同じような状況だったんだけど数が少ないのと破軍だけでゴリ押しした」
『意外と攻撃寄りで驚いた。まぁ、防御は朝霧家の方が強いんだから仕方ないんだけどさ。いや~あれは辛かった。でもここが一番辛いんだけど』
ガクリと肩を落とす初代様。その間にも初代様は、あれが忙しいこれが忙しい、人使いがいやいや式神使いが酷いのか、とエピソードを話している間にもハルヒは話を続ける。無視しろと言わんばかりに麗奈を自分に引き寄せて耳打ちする。
「その玄武を使って僕は武彦さんの所に行く。れいちゃんは、どの方角の四神に行く?」
「お父さんは雷を扱うから多分、東の青龍に居ると思う。だから西の白虎に行って封印してくる。終わったら東に行くよ」
『それが終わったら四神の束ねる黄龍相手だ。奴は気を付けろ。全ての気を使って来る。ちょっと、顔貸して」
「へっ………」
気付けば随分と間近にある顔。キスされる、と思い目を瞑った麗奈。しかし、初代は額同士を合わせ封印のやり方を直接脳へと伝える。ダイレクトに来る情報量に意識を持って行かれそうになり、何とか踏みとどまっていると心配そうに自分を見るハルヒと視線がぶつかる。
「………破軍」
『いやいや、酷い酷い。やり方教えるならこれが一番。殺気込めるなって』
「い、いえ。お陰で分かりました。ありがとうございます」
『………そう素直に言われると、うん。色々と困る』
えっ?と目をシバシバと瞬きを繰り返す。ガン、ガン、と結界を蹴る玄武に視線を向ければ蛇が南の方向へと指し行かせろ、とせがんでくる。玄武にハルヒと協力が出来るかをお願いすれば、任せろと言わんばかりに大きく頷いで見せた。
「お願いね、玄武。ハルちゃん、お爺ちゃんの事お願いね?」
「平気だよ。武彦さんには約束もあるし、お世話になったんだから借りは返さないとさ」
そう言った麗奈達の行動は早い。風魔に乗り西へと向かう麗奈、ハルヒは結界に閉じ込められた玄武とラウル達を連れて南の柱へとすぐに向かった。
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西の柱。
森林が濃く、他の柱よりも暗い印象を与える場所。北と同じく黒く染められた柱に白虎はすぐに辿り着く。しかし、それは巨大な黒い壁により阻まれ一気に押し出される。
白虎は玄武と違い体は大きくなく、通常サイズの白い虎。その分、駆け抜けるスピードは速く通常の虎よりも厄介な上風を纏った突進は、簡単に木々を薙ぎ倒していく様に、直撃を受けたらどうなるかと言う事をまざまざと見せられる。
「ちっ」
唯一。その白虎のスピードの付いていけているのは魔王ランセ。大ぶりな鎌では戦いに不利だと考え、今は剣を使って相対する。キン、ガキィィイン、と金属と爪がぶつかる様な音が聞こえるもどちらの姿はない。
人間の目では追えないスピードで展開されている戦いだからなのか、音が聞こえても姿が見せないのでは援護のしようがない。ベールが剣を握る手を強くし、フィルはすぐにでも援護が出来るようにと弓を構え直す。
(動きを封じたくても、どちらも姿ない。いや、風で所々に起きているのは分かってもかすっただけでも大怪我並みのもの。下手に動けない)
手をこまねいでいるのはキールも同じ。だが、魔力を練り瞬時に罠を張ろうとする頭はある中で突如、空から降り立つ風魔の姿が見えた。彼は犬の姿としてではなく子供の姿で麗奈を抱えていた。
『いや、いや君は力持ちだね。その姿だと不便じゃないか?』
『力はあるから平気。主、ちゃんとご飯食べてる?軽いよ』
「食べてるから平気。風魔が力持ちだからそんなに感じないだけ」
『女の子に体重の話は禁句だよ~』
『え、何で?』
分からない、と視線で訴えるも破軍は『あははは、何故かね~』とはぐらかして答える気はない。そんな話をしていれば自分達を中心に竜巻がおき、風の刃が麗奈達を襲う。破軍が扇子をパチン、と閉じた音と何かが吹き飛ぶ音が重なり木々が倒されていく。
『さて、主は君が傷付くのが嫌だからと言う理由で私を君に預けた訳だけど………あ、名前教えて。朝霧の当主』
「えっと、麗奈です。朝霧麗奈」
『麗奈、麗奈、麗奈………』と数回言葉を繰り返し、ウンウン、と1人で納得し覚えたよ。と、怪しく笑う初代にビクリとなる麗奈と殺気を隠さない風魔の反応を見て『お、面白い』と扇子で口を隠しながらも、笑う姿は恐ろしさを醸し出している。
(か、からかうのは………この初代あってのハルちゃんか)
何だか面白い玩具を見付けた。とばかりにキラキラとこちらを見る初代に、身震いをして自身の体を抱きしめる。その時、ゾクリと背筋が凍るような視線に思わず上を見上げた。
『こっち来てね~』
「ちょっ!!!」
麗奈を引き寄せれば、麗奈と風魔が居た所がめり込んでいた。風魔は気配を察知してかすぐに離れており破軍は麗奈を引き寄せ、念の為に周囲に結界を張った。麗奈は一瞬だけ、そこに白い虎がこちらを見ているような錯覚になり【我等を、頼む………】と男性の声が聞こえ「えっ………」と、疑問に思いながらもも自分を呼ぶランセの声に我に返る。
「麗奈さん、こっちに来て平気なの?」
「あ………ランセさん。す、すみません、何だかご迷惑をお掛けして」
『…………』
「で、彼は何?」
訝しむ目を向けるランセにニコニコと『どうも~破軍って言います。主の術式で具現化してるだけだから~』と、もがもがと苦しそうに動く麗奈をさらに自分の方へと抱き込む。
「………彼女苦しんでますよ?あんまりイジメてると、後ろから魔法で殺されますよ」
『平気平気。それも分かっててやってるし』
「性格悪いんですね」
『ほらほら、君白虎に付いていけてるんでしょ?頑張って補足してね~』
「…………少しムカつきますね」
そう言って自身の影を大きくしていき、こちらに向かって来る白虎と衝突する。風と闇のぶつかり合いで地面が、森が悲鳴を上げていく。キールが防御魔法を展開して、ベールとフィルを守りながらもこのメンバーだけで良かったと心底思った。
(人数が自分と合わせて3人。魔道隊やベール達の騎士団が居たら何人かは危なかった)
白虎の纏う風は魔法としての純度が高い。淀みない魔力、純度の高い力はそれだけで力の余波が今のように暴力となって周りを破壊していく。麗奈の傍には知らない男性が居るが涼しい顔でそれらの余波を、ぶつかり合いの傍に居ると言うのに結界が壊れる様子もない。
ふと、その男性と目が合ったような気がした。ただの気のせいなのかも知れない。しかし、彼ははっきりとキールを見てニヤリとし、抱き抱えている麗奈を強く愛おしそうに抱きしめており何か話をしている様子。
(………主ちゃん、お仕置き足りないって事だよね。どうしよっかな~)
「…………」
キールとベールは揃って冷たい笑顔で抱き着いている男性を睨んでおり、それを横目で見ていたフィルは静かにため息を漏らす。この後、麗奈が危ない目に合わされるのが想像でき自分が止めなければ、と決意を固めた。
一方、その視線を当てられていても涼しい顔で居る破軍と、ピリピリと何かに睨まれて不安そうにキョロキョロと周りを見る麗奈。ふふふっ、と意地悪が成功したような表情を隠すために扇子で口元を隠しながらも目が常に笑顔。
『君の霊獣は凄いね、あの白虎のスピードに付いていけてる。補足は彼にも出来そうだね』
「え、あ、は、はい!!風魔、凄く頑張ってくれて、自分には勿体ない位です」
ふにゃっと、自慢しているのに可愛く見えるてしまう。ハルヒが気に入るのも良く分かり、意識しないで居るのであろうその仕草。それを満足気に見た後、耳打ちする。
『玄武での封印は見たね?君は束縛が強い力を発揮する朝霧家の当主、優菜と同じだ。姿が完全に見えれば、動きは封じられる』
出来るな?と、視線で訴えればそれを受け取りコクリと頷く。力強い目で出来る、と訴えるのはハルヒと同じであり目的を持って行動するなら人間は凄い力が出る。それをヒシヒシと感じ、自分が死ぬのがまだ早かったな……と自虐的な笑みを作り『君等は揃いも揃って期待出来る子達だ』と、息子娘を自慢するような優しい笑みとなりすぐに結界を作り出す。
『陣風・方陣魔風場』
緑色の札を数枚散らばし力を送る。その札から竜巻が生まれて行く。小さなそれは回転を増すごとに段々と大きくなりぶつかり合っていたランセと風魔は、一瞬だけそちらに目を向けた。
同時に対峙していたはずの白虎がその竜巻に引っ張られるように、ジリジリと引きずる様にして札で作られた竜巻へと招かれるようにして行く。封印をされると感じたのか必死で逆の方向へと歩く。その度に、バチバチ!!と電撃が白虎を襲う。浴びながらも放たれた方向を見れば、破軍が勝ち誇ったような表情をしていた。
「神縛り!!!」
白虎の足元に鎖が放たれた同時に自身の纏う風が封じられていくのを、信じられない目で麗奈を見る。続けてハルヒから渡された封印の札である緑色の札を掲げこちらに何かを発している。
「今、助けます!!!痛いですけど我慢して下さい!!!」
封印術・神落とし!!と、ハルヒが行ったやり方を真似ていき初代から教わった霊力の注ぎ方で札から強い光を発する。
【グ、グオオオオオオオ!!!!!】
地面を強く叩き、その衝撃で自身の動きを封じる風を相殺。姿勢を低くし、鎖に繋がれているにも関わらず突進しようとする構えに風魔がすぐに麗奈の前へと移動。ランセがその鎖と重ねるように影を引っ張り出して地面へと、再び繋ぎ止めようとする。
【ガアアアアアアアア!!!!】
通常サイズの虎からいきなり巨大になる。それに目を見張った瞬間、襲い掛かる爪に麗奈は呆然と見つめそして引き裂かれる。やった、とばかりに封印出来る人間がこれで居なくなった。と安堵した瞬間。
『蜃気楼って知ってるか白虎?』
【!!!】
ユラリ、と引き裂いたはずの人物が霧となって消えて行く。その場に居ないのを、引き寄せられ騙されたと理解した時には全てが終わっていた。
「封印術・神落とし!!!」
既に風魔に乗り空へと逃げていた麗奈が告げた言葉。白虎に向けられた札は逃げようとするのを、既に鎖で動きを封じていた事とそれに気付かないままみっともなく転んだ。
起き上がった瞬間、札を全身に張り付けられ強い光が白虎を包んだ。西の柱が完全に黒く染まる前に緑色に光りだし首飾りからも同様に同じものが放たれる。
コロン、コロン。と玄武と同じように球体の結界に閉じ込められてた白虎はぐったりとしてた。黒く染め上げられていた体は今では、白と緑色の光を放ちながら本来の力へと戻っていく。
北と西を守護する四神の内、玄武と白虎を封印する事に成功し残るは南と東、そして中央の柱のみ。強い力で意識を奪われていたユリウスは、ピクリと指が動いた。
彼を蝕む力は、確かに徐々にではあるけれど確実に回復へと向かっていた証拠でもあった。




