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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第38話:イディールの興味

 リーグとアリサの歓迎会を行われていた同時刻。セルティルはまた遊びに来ると言ってくれたリーグの表情に、仕草に妹のミウレウを重ねてしまった。



(………助けられなかった)




 金の腕輪は獣人の奴隷の印。

 本来、それを付けて居ればまた獣人に会った場合また引き戻されさらに酷い目に合わされるのは分かっていた。しかし、それでも腕輪を外さない理由がセルティルには想像できていた。


 それは目印になる腕輪を外したくはなかったからだ。自分と同じように、誰かに助けられてたのなら……きっと探しに来る。自分よりも要領が良い彼女は、次の領主として相応しいとさえ、周りから言われていたのを子供ながらに覚えがある。


 一時でもそれで妹の事を嫌いになった自分が今では恨めしい。少しだけ、と言う興味で出てはいけない場所を超えてしまった。いつもの狩りのように素早く逃げれば良い、両親にバレなければ良いと甘い気持ちがあった。



 そこから地獄のような日々が始まったのだ。自分はラーグルングで国王に助けて貰い、知識を、魔法の扱い方を学んだ。だが、それでも妹の探索を諦めた事はなかった。他国に移動しながら、色んな人に妹の特徴を言い探して貰う事をして貰った。

 ギルドにも捜索願いと言う依頼で貼らせて貰った。様々な国に、里に、村に、港町に。手を尽くせる事は全てやったが、それでも妹の痕跡すら見付からず死んでしまったのかと何度も暗い方へと考えた。




「セルティル。また考え込んで………君の悪い癖だよ、そうやって自分を追い込んでいくの」

「…………」



 ニコリ、と息子の笑みと被る印象の変わらない優男。息子の笑みは父親似、過激に動き人を遊ぶのが好きな性格は母親似ととんでもない性格になっているが、それを知っているのは幸いにも母親と自覚している息子のみ。




「私は分かっててやるからね。ほら、主ちゃんってからかうと面白い反応するし見ていて飽きないし。そういう点で言えばフリーゲもイーナスも、陛下も同じなんだけどねぇ~………やっぱり主ちゃんの方が反応が面白すぎなのかいけない」




 ウン、ウン、と頷きながら自己完結して言い放つキールに最初は呆れていたが自分も同じ気持ちなので親子だと実感させられる。何処で彼の教育を間違えたのかなど今更考える気もないし、考えても無駄なのを知っているので諦める。




「こらこら。またそうやって考えてたら寝ないだろ?今日は色々と起こり過ぎたんだからゆっくり休む………良いね?」




 確認の意味で言っているのに、最後は脅す様な言い方で頷かなければいけない、と体が分かっている。そういう部分はしっかりとキールに受け継がれているのを彼等は知らず、イーナスや親友のフリーゲが見れば口を揃えて「恐ろしい家族だな」と太鼓判を押してくれるはずなのを知らないのは不幸中の幸いか。




「分かった分かった。言う事聞くから止めろ」

「そう言って出て行かせようとするのは無駄だよ。自分の部屋に行くまで見届けさせて貰う」




 今日はいつにも増して強硬な手段を行うイディールに不思議に思いながらも、無理矢理に近い状態で部屋に行かされそのまま就寝させられ朝を迎えた。




======



「わざわざありがとうございました。協会も復興して間もないのに……出迎えも出来なくて申し訳ないです」




 イディールから貰った資料は、アリサの住んでいたバーナントについて。そして協会に来ていたとされる者からの伝言の分も含んでおり、その内容を軽く見ていた。




「気にしないでよ。……あれから随分と苦労させられたと聞いたよ。助けられなくてごめん、全部遅すぎて本当にすまなかった」




 宰相の執務室には、朝早くからイディールがイーナスを訪ねていた。歓迎会と言うイベントに、見張りの兵士、騎士団の面々以外は潰れるのが早かった。食堂で大騒ぎする麗奈達の声を聞きながら、イーナスは少しだけ参加した後で執務に戻り今までの事を整理していた。

 キールには今日くらいは気を抜けと言われたが、ランセもいつも通りに国境の防衛をしに行ったのに自分だけ騒ぐ訳いかないだろ、と思いそれを無視。兄代わりになるんだから、キールは気楽にしてろと言えば驚いたように目を見開かれたのは良い気分だと思ったのは内緒だ。




「協会の理事を任されたのなら、こちらに手が回らないのは当たり前ですからね」

「…………」




 その言葉に驚いたような、面を喰らったようなイディールに思わず見つめ返す。おかしなことを言った記憶はない、と思案していると今までならそうは言わなかった、と言う。




「今までのイーナス君なら……言わないような台詞だ。前の君は……何と言うか、必死になり過ぎて無理をするのが当たり前って言う感じで、労わる様な言葉は聞かなかったかな」

「……………」




 その言葉に思わず驚かされた。イディールはあまり思った事を言わない。その分、はっきりと言う時には意外にも心を抉る様な言葉を吐く。顔に似合わず毒を吐くが本人にその自覚があるのかを笑顔で読ませない辺り、自覚ありだとイーナスの中で改めた。




「では相当追い込まれたんだと思いますよ。だから、今後協力は惜しまない、だろ?」

「……ははっ、そうきたか。そっちの方が君らしいね、イーナス君。丁寧な口調は息子に影響されてかい?」

「えぇ、その息子の所為で宰相に祭り上げられたので、こうなる負えませんでしたしそれしか選択肢が無かったのでね」




 思わず素の言葉で言えば相手は読んでいたのか、それともイーナスの素の部分を見れたのが嬉しいのかさらに笑みを深くした。それだけで部屋の温度がさらに5度下がったような空間に、執務室の前で見張りをしていた兵達はビクリ、と体を震わせる程の反応を示した。

 しかし、部屋の外で起きている事を中で話をしている2人には分かるはずもなくこのままピリつく空気になるのかと冷や汗をかく。どっと疲れるのを覚悟した。




「これは痛い事を言われてしまいましたね。………雰囲気が少し柔らかいのは彼女の影響ですか?」

「何でそこで麗奈ちゃんの名前が出て………」




 言った後ではっとなり、口を手で覆った。しかし、それで今の言葉が消される訳もなく、恥ずかしさでふいっと顔を逸らす。そこに麗奈がコーヒーと軽食を持って執務室に入り冷えた様な空気に思わず、入るタイミングを間違えたとまた出直そうとして、イディールに呼び止められる。




「おはようございます、麗奈さん。丁度あなたの話をしていたんです」

「お、おはようございます、イディールさん。………あの、何で私の話題?」

「………気にしないで麗奈ちゃん」




 イーナスの方を見れば机に顔をつけ表情を見られないようにしている。目を丸くする彼女に、イディールはクスクスと笑いイーナスの表情がどうなっているのかが分かる。

 彼は今、誘導尋問をされたような錯覚に陥ったのと自分が話題に出した人物がタイミングよく現れてしまった。それだけで自分の弱点を晒されたような、気持ちがかゆい感じになるように顔が赤い。でも、それを彼女に見せれば絶対に聞いてくる。だから答えないでいたのに………




(人を使って遊ぶのは親子だな)




 彼の中でキール親子は警戒する相手、決して心を許す訳にはいかない。それはユリウスも同じ見解を持っており、後日キール家族について本気で対策を考えようと動く事になろうとは知らない。




「へぇ、コーヒーって言うんだね。初めて聞いたなぁ、この苦みなら眠くても起きようって気になる。………セルティルに渡す訳にはいかないな」




 また不規則な生活に戻るな、と美味しいと言っているのに睨むような表情に麗奈は不思議に思いつつもおかわりを2人分注いでいく。イーナスは小腹が空いたかも、と思いながらもいつ食べようかと思案していた時に救世主のように現れた麗奈。

 見張りをしている兵士達にも軽食としておにぎりと水を渡した。無言で食べ進め、気持ちを切り替えたイーナスは最近麗奈が料理を振る舞うようになった理由を聞いてみた。




「え、えっと………自分の居る世界では全然出来なくて。かなり不規則な生活でしたし………」




 ここに来てからは規則正しい生活を送れて嬉しい、と言う彼女にイーナスはさらに切り込んだ。それだけが理由ではないよね?と、他にも理由があるよねと言う無言のプレッシャーにぎこちなく顔を逸らすも耐える事数秒………ユリウスに負けたから、と白状した。




「だ、だって。陛下なら執務の仕事とか、ランセさんの魔力操作の修行してるのに………時間はないと思ってたのに、あんなに美味しく出来るなんて悔しいじゃないですか!!!」

「…………」

(あぁ、彼女は知らないんだったね。陛下は自分でできる事は何でもする、変わった方だと)




 理由を聞いたイーナスは笑顔で停止、イディールは微笑みながら陛下の知らない面を知った麗奈の反応を楽しんでいた。両親を亡くし、兄が自分にとっての育ての親だと思ってからのユリウスは、自分で出来る事の最低限度はやろうと心に決めていた。

 掃除、洗濯、食事。普通ならメイド達に任せるような仕事も、自分の仕事をしながら奪える技術、真似が出来るようなものは隠れて行い兄を実験として決行した。それを面白く見る兄に、止められる者はおらず大臣達は見て見ぬふりをし兵士達は卒倒しかけた。




「つまりはユリウスに負けたくないから料理の技術を上げようと。最近見張りの兵や騎士団の人達に手料理振る舞ってるんだったよね」

「………………何で知ってるんです?」

「キールから聞いたのと、何故か報告と自慢をして来るリーグのお陰かな♪ホント似た者同士と言うか、行動が同じだから笑えない」




 その割には嬉しそうに言うイーナス。それが恥ずかしいと感じた麗奈は部屋を出て行こうとするも、彼に捕まり抑えつけられる。器用に軽食を口にし「これから麗奈ちゃんに担当して貰おうかな」と、言われピタリと動きが止んだ。




(からかいたい気持ちが分かりますね)




 微笑むイディールを他所に、イーナスは麗奈に条件を次々と提示していき最終的に執務室に毎朝宰相の生存確認も含めて、軽食、必要な時には朝食を作るように約束をした。


 書類に囲まれその整理と確認の印として判をしながら、変わった報告があれば騎士団に頼み調査へと派遣させる。寝ている隙間があるのか怪しい為の生存確認と言う名の食事の受け取りだと、麗奈に説明している。彼女はずっとコクリ、コクリ、と頷きながら懸命にメモをとっている。




(イーナス君、半分遊んでいるんですよね………彼女、絶対に気付いていない)







======



「ほぅ、それは大変じゃったな」

「そうなんですよ!!!あの後、イーナスさんから逃げるの大変だったんです」

「ん、うんまい!!」




 イディールが「また来るね。楽しそうで何より」と、意味が分からない事を言いながら帰って行き、それを見送りと言う口実で逃げられたので助かった。その後、自分の事を呼ぶウォームに今までの話をしていた。無論、精霊である彼にも軽食としておにぎりを渡し……楽しみながら、おにぎりを見て目をキラキラと輝かせていたウォームに心が痛んだ。




(次に持ってくる時はもっと上手くなろう)




 と、心に決めた麗奈。そんな彼女に気付かず、ウォームは持ってきたおにぎりを完食させ小さい体が、ポコリと膨らむその姿に微笑ましそうに見ている動物達。妖精に関しては、不釣り合いな体に大笑いをし「ボールだ!!!」とウォームを蹴ろうとするので慌てて止めた。





「んー、ワシ等は味覚もあるのは人の基準だな。辛いのは好きだぞ」

「えっ!?舌………ヒリヒリしません?」

「お嬢さん、苦手なのかい?」

「苦手、ですね………」

「よし、今日からワシの嫌いな物リストに辛いのを」

「好きなもの減らさないで下さい!!!」




 麗奈は必死で頭を下げ、ウォームの言おうとしているのを必死で止める。自分の所為で好きな物まで減らされるのは、心が痛い所ではなく急所を突かれるような勢い。流石に、それが分かったのかウォームは冗談だと言い次に持ってきて欲しい物を頼み込む。




「お嬢さん、ここに来て後悔はしてないか?」




 ふと、ウォームにそう言われ首を傾げる。後悔…?一体何に、と色々考えるもウォームの言わんとしている事が良く分からない。だから後悔は一切していない、ときっぱり言えば驚かれたような表情をされてしまう。




「………そうか。後悔はないか」

「はい。ここで初めて魔法を見ましたし、危険な事もありますけど、自分にその……好きな人が出来るとは思わなくて………向こうだと話しかけるのも大変だった気がしますし」

「確かに。お嬢さんは自ら進んで……1人になっていたな」

「え………」

「実はなお嬢さんと会ったのは………最初の時と合わせると3回会ってるんだ。と、言ってもワシが一方的になんだがな」

「3回………?そんなに会ってたんですか」




 そうじゃ。と頷き、ウォームは覚悟を決めた様な目で麗奈を見る。何やら真剣な雰囲気に自然と正座になり、彼の言葉を待つ。



「………お嬢さんとゆきお嬢さんを、この世界に呼んだのは、ワシだ」

「えっ………ウォーム、さんが」




 目を見開き、口の中が渇いていくのが分かる。絞り出し何とか言えたものは、声が小さくなり最後まで消えない。




「元凶は全てワシにある」




 突然の告白に、麗奈は時間が止まったようにしかし、周りのう動きが短く感じられた。頭を下げた精霊の父とも呼ばれている存在のウォーム。彼から紡がれた言葉に麗奈はただ、ただ静かに聞くのみだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 妹の事を思い、心を痛めるセルティルを、 優しくも厳しく労わるイディール。 イーナスにからかわれる、麗奈。 麗奈や、ゆきたちのおかげで、 王国の人々の心が癒されて、 雰囲気が柔らかくなってい…
2020/04/22 18:55 退会済み
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