第36話:初デート①
麗奈は魔力を持たない、ユリウスは闇の力を持つ。魔力を持つ者と持たない者の反応は違うはずだ。だが、彼等2人の示したのは一瞬であろうとも虹色を示し、ユリウスが触った側には黒い反応を、麗奈の方はそのまま変わらずに無色だった。
2人が触ったのは魔法師達が魔力を特定し登録をするものと同じ。だから、それが簡単に割れる所はレーグも見た事が無かったしキールは驚きながらも予想が当たっていた。同時に、今まで存在が感知できなかったものが感知し始めたのだ……彼女、朝霧麗奈が来てから変わったのだ。
「2人が示したのは珍しいと言うより大発見に近いよ。なんせ、原初の精霊とエンシェント・ドラゴンの魔力と同じものが反応として現れたんだしね」
「原初の……精霊?」
「エンシェント・ドラゴン………」
首を傾げながらもキールは傍に居るであろう精霊に呼びかける。ウォーム、と。それに麗奈達は首を傾げるも「フォフォフォ」といつも聞く声が響き渡る。
「ウォームさん」
「ほほう、やっーと気付いたか今代の大賢者よ」
風が巻き起こるも突風ではなく優しい風。フワリ、と麗奈の頭の上と言う定位置に現れる。若い姿ではなく麗奈と最初に会った時に見たあの体の小さなおじいちゃんとして。
「大賢者……。え、師団長が!?」
「なに。今更」
大賢者。聖属性、闇属性以外の属性を網羅し、尚且つ召喚士と言う精霊の声を聞き力を行使出来る存在。過去、何百年経っても召喚士と言う人材は希少価値のある存在であり精霊も同様だ。
大賢者は戦争を終わらせる存在として、英雄視されている。過去の出来事で賢者、大賢者が居た時代では大きな戦争が多くありそれを止め又は同盟を行う担い手としてエルフ、ドワーフ、獣人と言う人間とは違う種族とも同盟を組むように動いていたと言う。
そうして出来上がったのが精剣。召喚士、または大賢者と言う多くの命の犠牲に成り立たせ作り上げた魔族を倒す為だけの武器。それをウォームは「あれの製作には反対だったんだ」と怒りを滲ませた。
「精霊が犠牲になるからですか」
「それもある。が、召喚士、大賢者まで犠牲にする必要があったのか?」
「そこまで人間は追い込まれていた。精霊、私達召喚士や大賢者の命を削らないといけない程……追い込まれていたんだと思う。でないと、今の私達はここには居ないんだし」
そうじゃな、と悲しそうに言い麗奈に「すまんな、お嬢さん」と向き直り一気に魔力が溢れてくる。周りにあった水晶は全て虹色に染まり周辺を明るくしていく。
「我が名は、原初と呼ばれる精霊。名はアシュプじゃ……正解に辿り着くのが遅いな」
小さい体は大きくなり2メートルはあろうかと言う程の長身。白いローブを身に包み、木の杖を持ち長い髭と同じくらいの白髪の髪。表情はいつもののほほんとした笑顔をしている。纏う雰囲気は周りを圧倒するようなプレッシャーがヒシヒシと感じ、ランセと同じ雰囲気で圧倒する様にキールは冷や汗をかいた。
「……初めまして、ですね」
「んふふ、お前さんの慌てふためく姿が見れただけでも大満足じゃがな」
「どうも。これで2度目だと言えば良いですか?」
ブワッ、と虹色から一気に黒い反応へと変わる。黒い空間から気配無く現れたランセは膝をつきアシュプに挨拶を交わす。その隣には黒騎士、狼のガロウがそれぞれ頭を垂れていた。
≪初めまして≫
≪………ガウゥ≫
「フォフォフォ、お前さんもまさか魔王と契約をしてくるとは思わんかったぞい。ランセ、お前さんと会うのはもう何百年ぶりかね」
「もう覚えてないですね……仲間も家族も失った時から時を数えるのは止めましたし。それ位は経ったんでしょうけど」
「なんじゃい、嘘を言いおって。………最近、また数えてたんじゃないのか?」
「さあ、どうでしょうね」
互いに表情を読まさないようにてくるだけなのに、何故こうも空気が重いのかとユリウス達は思う。そんな中、麗奈はおずおずと申し訳なさそうに手を上げる。それにウォームが「どうしたんじゃ?」と声を掛けて来る。
「……ごめん、なさい。原初の精霊って言うのは……ウォームさんはウォームさんじゃ、ないんですか?」
しばしの沈黙。麗奈を見れば誰も反応を示さない事で、間違った事を言ったのかと顔を青くするが『主~♪』と、ポン!!と麗奈にダイブする風魔。今も犬ではなく子供の姿で抱き着いており『何の我慢大会なの?』と勘違いをしたまま聞いてくる。
「が、我慢大会じゃ、ないよ?」
『でも黙ってるし……あの狼だって頭下げてるしおかしいよ』
「あ、あの、風魔。ちょっと、待って今」
「フォフォフォ!!!やっぱりお嬢さんは面白いな、アハハハハハ」
大笑いをするアシュプ。すぐに元の小さいおじいちゃんになり、麗奈の手の上に乗せて貰い「これで良いかなお嬢さん」と、ニコリと微笑み空気が一気に軽くなる。
「うぅ~ウォームさんはやっぱりこれです!!威圧感たっぷりなのはなんか似合いません」
「主ちゃん、似合わないって………。彼、精霊の父親みたいなもんだし、力も強いんだけど」
『えぇ、父親なの!?うわ、見えない』
「悪かったの。お前さん、主一本なのはいいがあんまりブツ切りにするなよ?」
『はーい……?』
いつもの雰囲気になるウォームに、ランセはクスリと笑う。ユリウスとラウル、レーグはふぅと静かに息を吐き落ち着かせる。レーグは師団長であるキールが大賢者と言うだけでも驚きなのに、麗奈は原初の精霊との契約を果たしている事にさらなる驚きを抱かせた。
(……異世界から来た、と言う特権だからか)
自分達と違う世界から来た少女2人、そしてその父親達。聞けばここよりも文化は豊かであり、殺伐とした世界ではない平和な世。そして、ゆきから大体別世界から来た場合だと特殊な力とかが出たり、発見されたりするみたいですよ?と前に聞いた事がある。
異世界から来たからか、ここでの常識も少しズレている。そのズレがもしかしたら原初の精霊に気に入られた要因になるのか、とふと考えていると「それもあるが少し違うのぉ」と別の声が入る。
「……え」
「全部口に出してたよ、レーグ」
「え、うそ………」
「本当だ」
ラウルにポンと肩を叩かれ、あーーーー、としゃがみ恥ずかしくて顔が上げられない。もしや、自分は知らず知らずの内に声に全部出していた?何で誰も教えてくれないんだ、とショックを受ける。
「ワシがお嬢さんと契約が出来たのはな………条件にこの世界の人間でない事が含んでいる」
「……無条件で異世界の人しか扱えない、と」
「いや。異世界の人間と言う理由なら彼女の親友にも当てはまるだろうよ。だが、親友の方には魔力がある。だから無理だ」
「……異世界で尚且つ、魔力を持たない人間でないとダメって事ですね」
ランセが答えを導き出し、大きく頷き「流石、魔王だ」と言い軽く杖を振る。虹色の小さな玉が浮かび、その色を見た麗奈は「あの薔薇と同じですね」と言いまた疑問が浮かんだ。
「麗奈、薔薇って……」
「うん。城に咲いてて、リーグ君に教わったんだ。そう言えばリーグ君も誰かに教わったって言ってたけど」
「俺が教えた。夜にしか咲かない花で、俺も不思議に思ってたんだけど……ウォームさんの属性なんですか?」
「そうじゃよ。これを扱えるのはブルームの奴とワシだけだ。あとは我らの力を介して使えるお嬢さん位だな」
「………」
ユリウスは一度自分の剣に視線を落とした。あの時、魔族を倒した時に出した色は虹色だった。ではあの声は……と、ウォームの事を見る。
(……次に会う時は遊んでやる、か)
ドラゴンがどういった姿なのかは分からないが、あんな挑戦を突き付けられて挑まない訳にはいかないな、と思いこの事は彼だけの中に収めた。そう考えている間にも話は進んでいた。
今回、アシュプが麗奈に契約と言う枷は行わず彼が勝手に力を貸していると言う。それにキールは溜め息を吐き「これだから、常識破りの精霊は……」と怒りにも似た言葉を滲ませていた。
「じゃあ、本当に主ちゃんとはただの協力関係な訳?」
「うむ。そうじゃよ?だから自分の魔力は自分でちゃんと補ってるしな。お嬢さんには嫌われたくないしな~」
「まぁ、魔力提供出来ないんだから自分で補うしかないよね。それに彼女と契約したら本当に様々な者達から狙われるしね。魔族じゃなくて人間からも」
「………?」
心配そうに見るランセに麗奈は首を傾げキョトンとなる。キールから珍しいものは人間であれ魔族であれ、命も狙われるし売られると言われ「えっ……」と思わず風魔を抱き抱える。
「魔族は無論、倒す存在は徹底的に殺しに掛かるし。人間の場合は……立場を脅かす存在は消したいんだよ。例え善意で行動してもね」
「……そう言った者も居るからな。初めて契約出来た彼女に迷惑も掛けたくないしな。着かず離れず、じゃな。孫のような彼女に悲しい思いはして欲しくないしなぁ」
と、麗奈を撫でる様はおじいちゃんと孫のようでほわ~となる。あの水晶は弁償しなくていいよ、と笑顔でキールが言えば「「えっ」」となりお金で支払うようなものじゃないし、と理由も言っていく。
「まぁ、あの水晶は魔力の塊で作ったし……あれは相当古いものだけど、貴方なら治せるんでしょ?」
「ほいほい」
割れた水晶を杖で触れた瞬間、何事もなかったように元に戻り一安心したユリウスと麗奈はペタリと座り込む。風魔が『主、平気?』と心配そうに覗き込み、帰って来ないのを心配したゆきがフーリエと共に部屋を見てどうしたのか、と思いラウルに聞く。
彼もどう説明をしていいのか分からずに「ちょっと、な……」と歯切れの悪い返答をする。
「ほれ、もう掃除は終わりじゃ。大体片付いたのだから国に帰っても平気じゃろ?」
「なら主ちゃん達だけでお願い。私はまだ残る」
「防衛の為に戻らせてもらうよ。宰相に怒られるのは嫌だしね、行くよガロウ」
≪はい≫
≪ガウ、ガウ≫
「はいはい、お前は麗奈さんの所に居たいんだろ?」
狼の方はブンブンと嬉しそうに頷き、そのまま麗奈にダイブすれば風魔が防ぎにかかる為に尻尾を使って妨害をし始める。急に始まった攻防にフーリエは「何の奪い合い、ですか?」とゆきに聞けば「人気者なので」と言われますます分からないと言った表情をされる。
協会にはキール、レーグの2人が残り麗奈達はラーグルング国に戻った。その頃には既に夜になり帰りの遅い、と泣いていて大変だったターニャが疲れた表情をし「パパ~ママ~!!」と2人の元に駆け寄るアリサはそのままダイブする。
「遅いよ!!」
「わ、悪い……」
「ママもだよ!!!」
「ご、めん、なさい」
ターニャはゆきに「あんなまり懐かれなかったぁ~」と泣かれる始末。ラウルは少し近付くだけで後ずさりされるので、もしかしたら魔族に操られた時の記憶が残っている可能性がある。
そう思ったラウルは今度何かを作って謝るか、と今からお菓子は何を作ろうかと色々と考える。
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翌日。
麗奈はぎこちなくクルリ、と周り姿身を確認する。後ろでゆきがウンウン、と嬉しそうに頷き風魔が『主、可愛い~』と褒めて来る。
「っ、ゆき。やっぱり、スカート……はかないとダメ?」
「ダメ。制服もスカートなんだから慣れるね」
「それと、これとは……なんか違う気がする」
うぅ~とうな垂れる。今の麗奈は薄緑色のワンピースを着ている。上着は白、そして大きな帽子をかぶり「こ、こう?」と小首を傾げて向ければゆきは風魔と共に「良い!!全然良いよ♪」と全力で肯定した。
「っ、なんか緊張してきた」
「陛下とデートだもんね。そう言えば、城下町をちゃんと見てないんだよね?良いじゃん、案内しながらデートって事で」
「………」
『僕、応援する~。だから付いてく』
「ダメだからね、風魔君」
『よし麗奈ちゃん、男共が近付いたら自動的に燃える用に札を渡すぞ』
「清さん、それ陛下も対象になりますから」
『あぁ~~~嬢ちゃんが、デートねぇ~~~~~』
「っ、少し黙ってよ九尾」
『デーーーートかぁ!!!』
冷やかしなのか清が本気で札を渡していき、九尾は尻尾を大きく振りながら尾を開けて大声で言う。見回りをしていた兵士達は最初は驚いていたが、九尾が麗奈に連れて行かれ叱れる声を聞き(また始まりましたか……)と、いつもの光景に微笑む。
と、部屋をノックする音が聞こえビクリ、となる麗奈。ゆきと風魔が今だに動かない麗奈の背を押して無理矢理に扉の前に立たせる。深呼吸をし、震えるてを何とか落ち着かせて静かに扉を開ける。
「あ、麗奈。良かったら」
「何でお前なんだよ!!!!」
「ぐほっ……!!」
ヤクルが何か用があったらしいが、すぐにユリウスにより蹴り飛ばされる。思わず、ヤクルが心配になり「へ、平気……?」と言うがリーナが「すみません、ヤクルはもうだめなので」と説明しそのまま退場していく。
その流れがあまりにも自然過ぎて暫く見てしまった。コホン、と咳ばらいをするユリウスを改めて見る。綺麗な顔立ちをしているが、キリッとした雰囲気は鋭い目がそうさせている。
だが、今の彼は少しだけ気まずそうに視線を逸らしている。見れば黒いズボン、きっちりと着こなした上着にいつも見ているのに……雰囲気が違う感じがして思わずフイっと顔を逸らした。
(あ、あれ………なんか、いつもと雰囲気、違う………?)
「……似合ってる」
「え」
「だ、だから!!……麗奈に似合っててよく合ってる。ゆきと一緒に選んだのか?」
「う、ううん………じ、自分で選んでみた、の」
「俺の為………?」
じっ、と見られ恥ずかしさで俯くのを我慢しコクリと頷く。それを、どうとったのかユリウスはふっと柔らかい笑顔をし「そっか、ありがとうな」と言われて自然に抱き寄せられる。
「お二人さーん。それはここじゃない方がいいですよ」
うっ、と同時に気付き慌てて離れるも手だけは繋いでいる。麗奈は深く帽子を被り「じゃ、じゃあ……行ってきます」と言い「楽しんできてね~」と送り出す。風魔は『じゃあね~』と手をブンブン、と大きく振り清と九尾はずっとユリウスを睨んだままだった。
「ゆき。2人は行きましたか?」
「あ、リーナお疲れ。……ヤクルは?」
「すまん、麗奈とユリウス何か用があったのか?」
「「デートだから」」
「………蹴られる訳か」
はぁ、と自分の入ったタイミングにユリウスが起こるのも頷けると反省したヤクルは、いそいそと用意を始めるゆきに疑問を持った。
「今日の見回りはないはずだが」
「何言ってるのヤクル。麗奈ちゃん、初めてのデートなんだから心配だもん」
「悪い輩に邪魔されたら退治する係です」
『あ、そうなの。僕も行く行く』
笑顔で言う2人に、付いていく気満々か。と止めさせようとするも、何処からそんな力があるのか引っ張り出された挙句、そのままついて行ってしまう自分に腹が立った。
(すまん、ユリウス!!!あまり見ないようにする………土下座するから許せ!!!!!)
止めたいが、親友のデートとなればちゃんと出来ているのか気になる。決して楽しむ訳ではない、と自分に言い聞かせ自分達も城下町へと向かったのだった。




