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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第8章:最古の魔王
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第384話︰親子の共闘


『ストップ、主。それ以上はダメ』

「え……」



 突然の待ったに麗奈は困惑した。

 振り返れば黄竜が怒っている。手を組み、不機嫌な顔でいる彼に本気で分からないと反応を示す。


 それは密かに練習していた事だ。

 神衣は禁術とされている中で、膨大な霊力を消費する事とコントロールの難しさが上げられた。

 当時、これを作り出した行彦(ゆきひこ)はすぐに危険だと分かり、全てが伝わる前に自分の手で葬った。

 あれを時代に残すものでない。

 遺恨が残ろうとも、それだけはしなくてはと思った。そんな彼の意図をちゃんと汲み取れているのは、周りから異端だと言われいる朝霧家だけだ。



『主。……やっちゃダメだって言ったよね?』

「う……」

『麗奈。そういうのは、ちゃんと僕達に伝えて欲しい。気を使っているのは分かるが、僕達は既に死んでいる身だ。無茶は僕等で任せて――』

「やだ……」

『え』

「そういう風に……したくない」



 うつむきながらも、麗奈は意思を伝えた。

 黄龍が怒っているのは、無茶をしがちな麗奈を心配しての事。一見、大人しいと思われている麗奈だが、誠一と同じく頑固だ。

 自分が決めた事への意思の強さは、術の開祖でもあり初代の優菜譲りのものとも言える。

 一方で式神である黄龍は、優菜とは幼馴染でもあり初恋の人でもある。

 優菜が1人で抱え込む要因になったのは、周りを気遣うのもあるが霊力が極めて高かった事も上げられる。

 彼女でしか解決が出来ない部分もあったし、その力の差を痛感させられた部分もある。

 だから、黄龍は心配でしょうがない。

 そう言った部分を麗奈も持ち合わせている。周りを頼るようになったのは良い傾向にあるが、1人で無茶しがちな部分はどうしたって治しようがない。



『主も黄龍も、互いに気を使っているのは分かる。だから後はほんの少しだけ進めばいいよ』

「風魔……」

『そもそも主が練習している理由は、少しでも黄龍達の負担にならないようにする為でしょ? 黄龍が怒ってるのだって、無茶する主が心配で声を掛けたんだ。君も知ってるでしょ。彼女は生者も死者も、区別をするような子じゃないって』



 自分を下げた言い方は、返って麗奈の怒りを買うよ、と風魔は黄龍に言う。

 言われてしまったとばかりに、黄龍はハッとなる。見れば青龍達も無言で頷いている。



『悪かったよ、麗奈。こちらも死者だから、無意識に無茶していい思考になってた』

「ううん、私も……。相談してからでも遅くなかったのに、ごめんなさい」

『よーし、仲直りしたね。って事で、僕を撫でてて♪』

『おい、何故そうなる』



 ぴょん、と子猫となった白虎が麗奈へと飛び込む。

 ゴロン、と完全にリラックスモードになった彼に対し青龍はジト目で睨む。これには風魔も同意見と思うも、密かに自分も出遅れた事にショックを覚えた。


 麗奈は仕方ないね、と言いつつ白虎を撫でる。

 九尾と清の事を撫でて癒されてきた麗奈だ。実体化出来る白虎、風魔の事も暇があれば撫でてる。ユリウス達も承知な上、動物に好かれやすいのもあっていつの間にか彼女を中心に輪が広がる。

 今も、白虎を撫でている中でリスやウサギ達が今度は自分達もと主張をしてくる始末だ。



『……ホント、君には敵わないよ』



 ボソリと言った黄龍の言葉に、麗奈はキョトンと返すも鹿が頭を寄せたりと他の動物達との軽い争奪戦が始まった。しまいには黄龍の背を押したりなどが起き、巻き込まれるとは思わず驚かされてしまう。



『え、ちょっ……うわわっ!?』


 

 具現化している黄龍達は、動物達も触れられるので彼の服を引っ張ったり押したりして、踏ん張りがきかずに派手に転んでしまった。起き上がれば、今度は引っ張った事に対して謝ってくる始末。麗奈と黄龍に仲良くして欲しい、と言う理由から彼等は動いたのだ。

 

 反省した彼女達は、禁術とされる神衣と獣衣について意見をかわしあった。

 そこには、たまにラーグルング国に遊びに来るハルヒだけでなく術を作った破軍も参加しての話し合いがなされた。



『青龍が改善してくれたのは、霊力の量を加減してくれた部分が大きいね。当時は術者本人だけでなく、数人からも霊力を貰う必要があったからね。運用するのには危険があるとすぐに気付いたよ』



 懐かしく思いながらも、当時ではその運用で死者が出たのも少なくない。

 その危険性に気付いたからこそ、彼は術の開発に成功はしても使う事はせずに失敗作だと言った。だが、破軍である幸彦が亡くなってからこの術を多用する事が多くなったと言う。



『大方、私の弟子が目を盗んで書き写したんだろう。死人に口なしとはこの事だ。止める人間が居なくなれば、目先の名誉に目がくらむ。自分に酔いしれただろうね』



 はっ、と吐き捨てた破軍に麗奈とハルヒは何とも言えない表情をする。

 微妙な空気感に、黄龍が『おい』と言って破軍の頭を引っぱたく。



『こんな空気にしたくて相談してるんじゃないのっ。どうしてくれんだよ』

『うぐ、お前……ホントに加減ってものを知らないな。昔も今も』

『そりゃどうも』

『褒めてねぇよ!!』



 昔の幼馴染というのもあり、言い合いがすぐに始まる。

 いつもは丁寧な事を言う破軍も、黄龍と言う幼馴染の前では素になる。その関係性に、ハルヒは密かに羨ましく思いながらも、破軍との距離感を間違えると茶化してくるので微妙な気分にもなる。



「じゃ、馬鹿やってる2人は置いといて。僕の方も破軍とやった時、霊力を消費が凄かったよ。奥の手として使いたいけど、場面を間違えると一気に不利になる。どうにか持続時間を延ばせれば良いんだけどねぇ」

「そ、そうなんだ。でも、私は風魔とやった時にはそんな感じは無かったんだよね。違いは何だろう」



 ハルヒの馬鹿発言に、黄龍と破軍から猛抗議がきた。

 それをポセイドンが体を張って守る。手足が10本ある彼は、数に物を言わせてすぐに彼等を拘束にかかった。

 風魔は術の豊富さだけでなく、結界も張れる万能型だ。

 コツを聞いてみると、彼は麗奈に力を貸す前に自分自身に結界を張っておくのだと言う。

 理由として挙げられるのは、自分の霊力と術者の霊力との反発を防ぐ為なのだとか。



『誰に教わったでもないんだけど、僕自身は反発を少なくしたいなって思ったんだ。まさかこんな効果を生むとは思わなったな』

「成程。結界を張るのなら、いつも僕達がやってる作業だから難しいもんじゃないし練習する価値はありそう。破軍はいつものように、力を調整してくれればいいかな。他は期待しない」

『ねぇ、主!! 上げて落とすのは止めて!!』

「空気を変える為にやったんだ。感謝して欲しい位だよ」

『え、どう捉えろって……?』



 そこで始まった神衣の練習。

 麗奈は四神と契約している為に、候補が多い。なので、今すぐに戦力として使えるものとして青龍との神衣を進める事にした。青龍自身が呪いの浄化が出来る点もあり、対抗する手段を多くする為だ。



『じゃあ、その間の結界を維持するのは僕がやるよ』

「お願いするね、白虎」

『うん、任せて!!』



 術の効率化も含めて、ハルヒとよく夜遅くまで話し合いと練習をした。

 その度に、帰りが遅くなる2人を心配するユリウスとアウラに迷惑を掛けてしまう結果になった。ラウルとイーナスは、陰陽師と言う人達は仕事熱心になると時間も忘れるのだろうという認識をして対策をする形を取った。


 彼等だけにしておくのは、絶対にダメなのだと皆の意識を変えるきっかけになった。

 それ以降、ラーグルング国から騎士を1人、ニチリからはハルヒの部下を1人を付け見張りと連絡係を作る事となるなど、この時の麗奈とハルヒは思わないだろう。



====


「麗奈!!」

「うんっ」



 誠一の呼びかけに麗奈は即座に反応する。

 新たな脅威として青龍と麗奈の事を認識した呪いは、標的を彼女へと変える。娘の前へと出た誠一は、結界を張り呪いの突進を受け止める。

 今まで弾き返してきた結界だが、今度は数十秒も持たずにひび割れる。


 それを意に返さないのか、最短距離で最速で呪いの核へと詰めた。核への防御をしようと再び、黒い手が周囲を覆うも青龍が一瞬で具現化しその全てを消し去る。復活や他への憑依を懸念して、青龍がその核に対して結界を張り動きを止めた。



「これで――」

「終わりだっ!!」



 親子の振るう刀が十字を切り、核への直接なダメージとなって黒い霧や手が徐々に色が剝がれるかのようにボロボロとなる。

 やがて、3つ首の1つであろう竜の首が現れて虚ろな目で対処した2人を見つめる。すぐに青龍が目の前へと移動し、竜の精霊の目を見つめた。



『それだけの苦しみと痛みによく耐えたな。守り神としての意地か……分かる部分がある』

《……》



 何かを発しよとしている。

 だが、上手く言葉には出ない。青龍がその精霊の額を撫で『あとは任せろ』と言うと安心したように目を閉じていく。

 青龍が送った浄化の力が精霊の体を覆い、光の粒子となって空高く昇っていく。



「今のは……」

「上空にいる本体に戻ったんだと思う。3つ首の竜なのに、強い呪いの地点にそれぞれあったのは核を抑える為だと思うから」

「すぐに上に戻るだろ。あとの処理はやっておくから行きなさい」

「え、でも……」

「大丈夫だ。九尾に働かせるから」

『は……?』



 これ以上働くのかよ、文句を言う九尾を黙らせる。

 その光景を見て麗奈は幼い頃の怨霊退治を思い出す。誠一と九尾は喧嘩する程に仲が良いが本人達にはその認識がない。

 伝えようにも、互いに違うの一点張りで認めようとしない頑固さがある。

 そんなじゃれ合いにも似た空気に、ホッとする麗奈だがすぐに頭を次の呪いへの対処として切り替える。



「ごめん、お父さん、九尾。あとはお願いね!!」

『嬢ちゃんのお願いなら良いぜ』

「結局はやるんじゃないか」

『主人はいちいちうるさいんだよっ!!』



 青龍と共に再び上へと向かう麗奈に、いつもの調子で送り出す誠一と九尾。

 強力な呪いを1つ浄化し終えるも、彼はチラリと呪術師達の様子を見る。自分達と実際の呪いの力の差に愕然となっている様子に、彼は武彦にあるお願いをした。



「ふふ、世話好きになったな君も。娘に影響されたか」

「えぇまぁ……お陰様で」



 振り回したりもされたが、子猫のザジや幼いハルヒだけでなくゆきも預かって来た経験がある。それに、彼等が来る前には裕二が朝霧家に居て良い手筈も整えて来た。

 行動力がある妻の影響を、自分はかなり受けて来たと自覚している。呪いの後処理をする為に、彼は放心状態になっている呪術師達にある1つの提案をした。


 全てが終わったら、互いの呪いについての情報交換をしないか――と。



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