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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第8章:最古の魔王
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第376話:前より素直


 ユリウスからの報告で、イーナスとヘルス、そして宰相代理としているイディールは安堵したように息を吐いた。



「……まぁ、ランセ達が居るから心配はしてなかった。とはいえ、状況が聞けるのは良い」

「イーナスは最後まで反対してたよね。理由を聞いても良い?」



 ヘルスの質問にイーナスは少し考える。

 そして順を追って説明をした。今回の救援要請では、ギリム達が率先して行くのは同じ魔王であるアルビスが関わっていると思っていたからだ。

 もし、アルビス本人と接触が出来なくてもその痕跡は辿るつもりでいた。

 そうギリムから話を聞いていた。そして、もしアルビス本人が関わっていた場合大体の確率で麗奈は巻き込まれている。



「本人の自覚があるかは分からないんだけど……。今までの事を思い返すと、大体は彼女が関わって道が開いている場合の方が多いんだ」

「あぁ、そう言えばセルティルと会った時にもそうだった。息子のキールが放って接触しようとしなかったのに、あの子が関わったら途端に関わりだしたよ」

「セルティルさんが麗奈ちゃんの事を気に入ってくれたのは良いけど、だからって服をひっぺがえすのは良くない」

「……その事については、本人に謝罪させた。夫として妻の事を抑えきれなくて申し訳ない」

「まぁ、本人が許してるなら良いけども。それでイーナス。何を心配しているの?」

「恐らくギリムさんは、今回の詳細を告げる際にユリウスと麗奈ちゃんの2人を呼ぶだろう」

「うん。そうだね。こっちもそのつもりで編成しているし」

「……麗奈ちゃん、正装が苦手なんだよねぇ」

「ん?」



 コテン、と首を傾げるヘルスにイディールは「あぁ」と納得した様子で頷いている。

 どうしたのかと聞いてみると、隣国のディルバーレル国での麗奈の行動を話していく。正装だと気付いた彼女は、逃走を行い最終的にドーネルに捕まった事がある。



「堅苦しいのが嫌いと言うより、ドレスを着た事がないからくる苦手意識だと思うんですけど」

「へぇ。イーナス、ちゃんと保護者してるんだ」

「なんだ。ちゃんとって……彼女達の面倒を見ると言ったのは嘘じゃないんだが」



 睨み返すイーナスに、ヘルスはクスクスと笑うだけで返した。

 最近ではそういった苦手な事があっても、我慢出来るようになったと言う。しかし、理由として聞くとゆきと共に捕まっていた城での軟禁生活で否応なくだった。

 魔力によって保存が行き届いていた為、服や食料の鮮度もよくブルトがよく世話をしてくれたという。



「慣れた理由を聞くと、どう言葉を返して良いか分からないけど……。これも1つの経験になるだろうからと、2人からは聞いています」



 イディールは、ゆきと麗奈からこれまでの経緯を聞いてきた。

 記録として残すのもあるが、魔王との戦いで生き残った凄さもある。2人からすれば、ティーラとブルトが居なければかなり危うい状況だったと聞いている。



「……そう言えば、ランセの部下だって言うティーラさんは何でサスクール側に居たんだろう」

「あ、それランセに言わせると勝手に行動した結果なんだって」



 ランセが治める国はサスクールにより蹂躙された。しかも、自身の妹が兄であるランセと居たいが為に両親を含めた国民や領民達を葬るように願った。長い間、国が滅んだ原因を探っていた彼としては驚くべき事実だった。

 その事実を知らせたのは、死んでからも兄を想い続けサスクールと行動を共にしていた妹であるリグルト。ティーラも、ランセの行う復讐を手伝う気で居たが「来るな」と言い1人だけで行う気で否定したのだと言う。



「しかも、ティーラさんの事を半殺しにして「私の事は忘れて生きろ」だなんて言うんだよ。やられた側からすれば、大激怒するのに心中を察しながらも好き勝手に行動した結果――サスクール側に上手く潜り込めたんだって」

「……そう言えば、再会したのは騎士国家ダリューセクでの防衛だったと聞くね」

「敵同士としていたのに、結果的に良い方向に働いたんですか。長年の付き合いというのは羨ましいのもあり、怖い部分もありますね」



 ユリウスからの報告をまとめる為に、記録をしていたイディールはそう言いつつチラリとヘルスとイーナスを見る。魔族の長い付き合いと人間とを比べる訳にもいかないが、この2人もそれなりの年月を共に過ごしている。

 息子のキールが関わっているのもあり、迷惑を掛けているのが申し訳なく思う。ヘルスは面倒を見ると言ったらちゃんと見てくれるし、イーナスも文句を言いつつも実行しているので性格が正反対のように見えて、意外にも気が合うのだろう。

 キールはそういう部分を見るのも優れていると思っている。



「まぁ、ティーラさんも律儀だよね。ランセからの命令とはいえここを守ってくれている訳だし」

「そう言えば巻き込まれるようにして、ヤクルの事を構い倒しているって聞いたよ」

「あ、じゃあ……今現在も再戦でもしてるのかな」



 そのヘルスの言葉を証明するように、遠くの方で何か大きな爆発音が聞こえて来た。

 3人はそれぞれ顔を見合わせ「治癒が出来る人が多くて良かったね」と、キールのお陰で治療出来る者が増えた事を喜ばしく思う。



=====


 その一方で、王からの返事を待つ麗奈達。

 宴会後の彼等は、野営でもと思っているとアルビスから部屋を用意したから使えばいいと言われ転移で案内される。それなりの人数だったが、彼から言わせれば組み合わせるのが楽しいから別に問題はないという。

 そして、アルビスの身の保証は同じ魔王のギリムが見張りをするという事でリーズヘルト達からの同意を得られている。



「ふぅ……。昨日はかなり食べちゃったな」



 翌朝、足湯を済ませ顔を洗った麗奈は反省していた。

 まさか自分の好物がここで出て来るとは思わず、あの時の自信の行動を悔いていた。だが、そんな彼女の様子をニコニコと笑顔で見つめている者が居る。

 式神の契約をしている黄龍だ。



『ふふ、良い事じゃないか。昨日の主は可愛かったね~』

「……青龍」

『あぁ、殴る準備ならとっくに出来ている』



 既に黄龍の隣には指をポキポキと鳴らしながら、戦闘態勢に入っている青龍がいる。だが、黄龍はこれで退く気はないのか態度は変わらない。



『君だって昨日の主は、実に微笑ましい行動だと思っていただろうに。その部分に関してはどうなの』

『答える義理はない』

『義理はなくとも、同じように思っていると思うんだが』

『……』



 舌打ちはせずに、ただ黙っている青龍に黄龍はずっとニヤニヤしている。

 するとその会話を聞いていたのかベールが「そうですよね」と参加して来た。



「べ、ベールさん……」 

「すみません。耳が良くて」

「うるさかった、ですか?」

「いえ、全然。麗奈さんが足湯を楽しんでいる所なんて、そんな最初からなんて見てないです」

「ちゃっかり全部見てるんですね……」



 呆れ顔の麗奈にベールは変わらない対応を取る。

 青龍が『殴るか?』と聞いてくるので、ここではなく外でと思い場所を変える。朝日が照らす辺境の地には、畑仕事の為に起きている者も居る。



「前よりも素直になりましたよね、麗奈さん」

「え」



 ふと、そんな言葉をかけるベール。振り返る麗奈は、少し考えた後で「隠し事、してましたか?」と恐る恐る聞く。しかしそうではないとベールは否定した。



「いいえ。最初の時も可愛らしい反応をしてましたよ。ただ……どことなくですが、ぎこちなさはありましたね」

「そう、でしたか」

「具体的に言うと……今の麗奈さんは心から楽しんでいるのは分かる、という事です。最初の時はこちらの世界に来ての戸惑いと思いましたが、今にして思えばずっと母親である由香里さんの事を引きずっていたんですね」

「あ……」

「ご自分でも気付かない程に、最初と今の麗奈さんの態度は違いますよ。……由香里さんとはきちんと話せたのですか?」



 ベールの言葉と態度は、麗奈を気遣うものだ。

 そして彼に指摘されるまで、知らず知らずの内に気持ちを押し殺す事に慣れている事に気付いた。何処か欠けていた記憶に、何故だか母親が死んだのは自分の所為だと思っていた。


 理由が分からずにいたが、ザジとヘルスが記憶を消す細工をしてそれらが全て解けた事で納得した。

 黒猫のザジの死も、母親の死もずっと自分の事を責め続けていたのだ。



「ユリウスも自分の呪いの事で、かなり追い込まれていました。それを助けてくれた麗奈さんは凄いのですが、自分を顧みない所があって怖かったんです。今の2人には、そうした無理を感じないので私としては嬉しいのですがね」

「……すみません、気を遣わせてしまい」

「そういう所ですよ」

「へっ」

「もう謝らなくて良いんです。お礼を言ってくる方がこちらとしても嬉しいので」

「あ、えっと……ありがとう、ございます?」

「ふふ、良く出来ました」



 この場でのお礼で良いのか疑問に思いながらも、ベールとしては良いと受け取っている。不思議そうな顔をする麗奈の頭を撫でようとして、「おい」と低い声で脅すザジに蹴られてしまう。



「居ないと思ったら外に居るとは……」

「君、何で私の事を敵視するんです」

「アンタはアイツと同じで、警戒しろって俺の勘が告げてる」

「はぁ、ハルヒ君と並べられる程にとは」

「あとはラウルって奴が、アンタには要注意しろって言ってた」

「え、理不尽な……」

『まぁまぁ、ザジもそんなに責めなくても良いじゃないか。主の裸を見ちゃった者同士、これからは仲良くしようじゃないか』

「んなっ!?」

「ほぅ……それは初耳ですね」



 クルっと麗奈へと視線を向けると、彼女はその時の事を思い出したのか瞬時に顔を赤くし自分の体を抱きしめるようにしてしゃがみ込んだ。即座に青龍が移動し、ベールの事をキッと睨み返す。



「麗奈さんからは聞けそうにないですね。では、ザジ君。何があったんですか?」

「べっ、別に……。あの時のは悪気はない……ってかアンタには関係ないだろうがっ!!」

「では質問を変えます。全部見たんですか?」

「う、うるさいっ!!」



 黙らせようと攻撃を仕掛けるザジに、ベールは避けながら「うっかりなら許して貰えそうですかね」と言っていると黄龍から『もう無理でしょ、それ』と呆れられる。青龍が黄龍と共にベールも、電撃を浴びせザジからの強烈を蹴りを喰らう事となった。


 その一部始終を見てしまったランセは、即座にサスティスへと確認しに行き麗奈への謝罪と反省をさせる。それ以降、ベールの事を警戒する麗奈の態度が猫っぽい所であり、愛らしいとも思っているので反省は全くしていない。



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