第374話:驚かされる事
「アルビスの創る魔物も、普通の魔物でも人間にとって相性の悪いものが存在している。毒や呪いの類に対策が取れない所にある。攻撃を2段階に分けるのも含めて、浄化能力を確かめたい」
そう提案したギリムに、ランセは(あぁ……)と納得しつつ、既に悟りを開いたように成り行きを見守る。それを見たディークは不思議そうに首を傾げており、お菓子を食する。ランセと長く居るティーラは笑いを抑えるようにしていた。
その行動を見てサスティスは、自分も経験したなと思い出していく。
同じく見守る姿勢に徹しつつ、ギリムの提案を麗奈達と聞く事にした。この世界で魔法に目覚める者が多くいるが、意外にも状態異常に関しての回復は殆どが自力なり時間が経つのを待つしかない。
その中で、一番厄介なものは毒と呪い。
毒は解毒薬があるが、薬草に詳しい者でないとまず作れない。大量に作るのにもコストと時間がかかり、それを扱う所にも地域によってバラバラだ。
魔法国家であるラーグルング国の場合、魔力の抵抗力は強くともこういった異常状態に対しての対策はそれほど取れていないのが現状であり課題でもあった。
「思えば呪いに関しても、麗奈達が早くに対策してくれたから忘れてたが……。呪いは簡単に防げるような事じゃなかったな」
「呪いの影響を一番に受けていた人物が言う事じゃないでしょう……」
ポツリと言ったユリウスの一言に、即座にジト目で返したのはイーナスだ。
イーナスに同意するように、ラウル達が無言で頷き兄のヘルスも口に出さなくて良かったとホッとしている。
こういった対策の話がされるのも、アルビスの創り出す魔物が強力であるのと同時に土地への被害を少しでも抑えたいのが目的だ。救援を欲しているフォーレスの事はもちろんだが、対峙する場所によってはその土地に慣れ親しんだ者達が居る。
居場所を奪うような真似は、なるべく避けたい。円滑に同盟を進めていく為にも、被害を減らす事への課題は必須になる。
ギリムが懸念しているのが、大型の魔物がワームだけで済むわけがないという所だ。
大型の魔物は多く居るが、その中でも土地への被害が酷いものを上げるとなるとヒュドラが来るのが高いと予想がつく。
9つの蛇の首を持ち、再生能力がある事で滅多に死ぬ事が無い。
葬る為には一撃で全ての首を切り落とすなりして、強力な攻撃を浴びせる必要がある。しかも、ヒュドラは再生能力の他に魔法抵抗もなかなかに強い。
生半可な攻撃をしては、逆に被害が広まるばかりである冒険者のクエストでもヒュドラの討伐は、高ランクであると同時にかなり厳しい条件付きだと言う。
「ヒュドラの攻撃は殆どが毒系統だ。奴が居るだけでその土地は枯れ果てる。洞窟を好む傾向だが、全てのヒュドラがそうではない。変種も居るので、ヒュドラは冒険者ギルドの間では災害級クラスの討伐対象になっている」
「アルビスが創りだした魔物はダンジョンと言う特殊環境の元で活動する。それが地上に出るだけで、殆どが変異種扱いになるでしょ。麗奈さんはウォームとの契約とは別に浄化能力が備わっているし、ゆきさん達に関しても問題ないよ。自分達で対処出来る位には能力高いし」
「……妙に評価が高いな、ランセ」
ギリムの説明を聞きつつ、ランセは麗奈だけでなくゆき達の能力は申し分ない位に高いと評価する。
ユリウス達は何度も助けられており、実感はしていたが毒への耐性も対処出来るのだと改めて知らされる。
「なら確かめれば良い。理由なんてすぐに分かる」
「こう言っているが、3人は良いのか?」
「平気ですよ」
「僕達の事はお気になさらず」
「まぁ、麗奈ちゃんと比べたら全然かもだけど……」
3人の了承を聞き、ギリムは別室で確かめる事にした。それを見送りディークはランセへと質問をした。
「ランセさん。さっき悟り開いてた?」
「あぁ、うん。そうだね」
「ちょっと悪い顔もしてた。ギリムさんの事、驚かせたいの?」
「見慣れ過ぎてて怖いけど、麗奈さんを基準にしたら駄目だって事。ゆきさん達も十分に規格外だから」
「確かに」
「それは……。まぁ、その、否定出来ないですね」
ユリウスの同意にラウルがフォローしようとして、最終的に諦めた。周りも同じ意見なので、「まぁ、うん。確かに」、「まぁ、嬢ちゃん達だし」と口にした。
一方で残った麗奈は、逃げ場がないのでザジにくっつき顔を合わせない。そんな彼も、麗奈達の異常を見ているので大人しい。ポンポンと何度か頭を撫で、麗奈を落ち着かせる事に徹した。
「ランセ。よく彼女達と行動をしていて、派手に動かずに出来たな」
数分後、ギリムが少し疲れた様子でランセにそう聞いた。
彼の予想を超えて、ハルヒ達の浄化能力はかなり高かった。しかも、土地の浄化と言う点においてはかなりの効果が期待出来るとまで言われた。
「あ、予想を超えて来るのが多いとそうなるよね。……まぁ、彼女達が自ら行動を起こそうとしないのもだし、目立とうとして動く事はしないから」
「ふむ、そうか」
チラリと麗奈の方を見るも、彼女は未だに顔を上げずザジにずっと抱き着ている。アルベルトが頬を撫で、大丈夫と言い聞かせるようにしていた。ハルヒ達は、役に立てると知りホッとした様子でおり麗奈の負担が減らせる事に各々で喜んでいた。
「これなら毒の浄化だけでなく、汚染された土地や作物に対しても有効だ。あとはアルビスと接触出来れば良いが……そこは本番でぶつかるしかないな」
準備をして救援へと向かえば、ギリムの予想通りにヒュドラによる毒の影響が広がっていた。
土地はやせ細り、木々を不毛の地へと変えていく災害級の魔物。浄化により、ユリウス達が活動できる範囲が少しずつ広がっていく。
(まぁ、あの黒猫が居ない時点でれいちゃんの方に居るのは明白。それにギリムさんも居ない所を見ると、向こうに付き添っている感じだろうし)
最初はユリウスを睨んでいたハルヒも、状況的に仕方ないと諦め居ないメンバーを考えて自分のすべき事をする。自身の契約した精霊で、ヒュドラの動きを封じ、ゆきの聖属性魔法と煉獄による合わせ技を放つ。
再生をするヒュドラだったが、それが痛みを伴う行動になりうめき声を上げる。
魔法を放ったゆきを狙うも、ハルヒの結界により閉じ込められ動きを封じられた。
「ゆき。大変だろうけど、このまま頼むよ」
「うんっ!!」
《むっ、咲。前に出るなっ!?》
「へ……きゃうっ!!」
フェンリルと浄化を行っていた咲が、範囲を広げようと前に進んだ瞬間にミノタウロスが襲い掛かる。ベールが防ぎにかかるが、力が強いのか押し負けて吹き飛ばされる。咲は寸前の所で無事でいたが、尻もちをついており動きが遅れる。
「ブオオオッ!!!」
「させないよっ」
動きが止まる咲に一撃を放とうと動くミノタウロス。しかし、その手に持つ斧はディークの斬撃により両腕ごと切り裂いた。
「終わりだよっ!!」
一瞬だけ怯んだミノタウロスへ、ディークの容赦ない風の斬撃によって切り裂かれ絶命。しかし、すぐに別方向から湧き出て来るも今度はベールによって防がれる。
「さっきの、お返しです!!」
大剣を盾にし、瞬時に風を結界のように包み込んだ。その結界で少しずつ切られており、力任せに破ろうとした所を頭上から大剣を振り下ろして真っ二つに処理。頭から血を流してはいるが、深刻な怪我は負っていない様子だ。
「あ、ありがとうございます。治療しますね」
「えぇ。すみません……」
ベールの治療を行っている間にも、魔物は溢れ続けランセとディークが処理をする。ユリウス達は、ゆきとハルヒが張った結界内で出て来た魔物達を次々と退治していき、活動範囲を広げていく。麗奈達が駆け付けたのは、それから1時間後。
アルビスの命令により、復活を繰り返した魔物達はプツンと糸が切れた人形のように動かなくなった。
それを見て、魔物がこれ以上増える心配はないとギリムがはっきりと告げたのだった。




