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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第8章:最古の魔王
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第367話:救援要請


「スケルトンの次は大型の魔物、か。ここでドラゴン達に行かせたらますます混乱するだろうな」

《キュウ?》



 口いっぱいに果物を食べていたヴェルが自分の事かと、頭を上げてギリムを見る。

 ユリウスが落ち着けと言いながら、水が入ったコップを用意すれば彼はすぐの飛びついて飲み干していく。その後、満足したのかユリウスへとすり寄った。



「精霊の様子はどうなってるんだろう」

「ノームさんが言うには、無事に結界を作れているって話です。必要なら眷族達を飛ばそうか、と聞いてますよ」



 イーナスの疑問に麗奈は答え、協力してくれたアルベルトが元気よく手を上げた。

 フォーレスの国境付近に現れたスケルトンへの対策として、ラーグルング国が行ったのは光や聖属性の魔法の使い手を派遣するよりも精霊の子供を住まわせ様子を見る、という風にした。


 精霊が扱う属性が決まるのは住んだ土地の特徴を学習、最適化し成長へと遂げる。

 それは土地が荒れればそのスピードが早まる。大精霊が土地への干渉を促す存在なら、その下の精霊が行うのはあらゆる土地の情報収集となり、自身の力を上げる為のものにもなる。

 そうした事を繰り返す内に、強大な魔力を補えるようになり大精霊へと昇格していき、土地への影響を更に強めてくれる。



「ポー」

「はい、お疲れ様ですアルベルトさん。お礼のクッキーになります」

「フポポ♪」



 大地の大精霊であるノームが眷族を使って様子を見に行って貰い、その様子を麗奈に告げ彼女はそれをイーナス達に報告。日頃から麗奈の傍を離れないで行動しているアルベルトからすれば、お使いを頼まれた位の感覚だ。

 麗奈に協力的なのは、褒められたいからとお礼を貰えたらという下心からも来ている。



《全く君は……。働いてるのはこっちなのになぁ》

「お疲れ様でしたノームさん。何か必要なものとかありますか?」

《疲れてないから大丈夫だよ。アルベルトが幸せそうにしているのを見るも楽しいから》

「ポ……?」



 頬一杯にクッキーを詰め込み、キョトンと返すアルベルトにノームは《落ち着いて食べようか》とポンポンと頭を撫でた。視線を感じた麗奈が振り返ると、じっーと見ているディークと視線がぶつかる。



「沢山あるので、良かったらどうぞ」

「頂きますっ!!」

「……おい」



 溜息交じりでディークを呼ぶギリムの表情は呆れそのもの。

 ランセとサスティスは気付いていたが、敢えて言わなかった。注意した所で、ディークが行動を改めるとはとても思えないからだ。



「ふぁに、ひひむふあん」

「話すか食べるか、どっちかにしろ」

「……」

「心の中で訴えるな。そのまま黙ってくれ」



 頷くディークはアルベルトと分けながら、おやつタイムへと入り麗奈は他の物も作れば良かったかなと少しだけ後悔した。

 フォーレスからの救援要請が届いたのは、サンドワームの侵攻を受けて3日後の事。

 本国へ戻る際、ラーグルング国は緊急通信の手段としてリーズヘルトに通信用の水晶を渡している。


 ペンダントへの小型化。そんな道具を作ったのはキールの発案と実行に移した麗奈達だった。ヒントを得たのは、ハルヒ達が読んだ漫画や小説を元にされているものであり、魔道具のような小型なものがあるなら通信用にあったとしても不思議じゃないと言ったのがきっかけだ。


 ただそれを実現する為には、様々な障害があった。

 通信が出来るのは、魔力が込められている土地や物に限られていた。既に魔力が枯渇あるいは、何らかの力で魔力自体が生み出せない土地への通信をどうするのか、という課題がある。


 実験場所はニチリで行い、麗奈とゆきがそれぞれ魔石を作り魔道具として制作。

 ニチリも一時的に魔力が枯渇していたが、復活した場所でもある為に実験するには丁度良かった。フォーレスの問題の前に、前々からニチリに相談されていたのもあり、実験場所にぜひ使って欲しいとなり実験は成功。


 例え魔力が無い所であっても、使用する者に魔力が無かった場合であっても通信が可能になった。

 その理由として、魔道具に込められた魔石にあらかじめ魔力を込めた点だ。その魔石が壊れない限り、いつ何時、どのような場所であっても出来る代物になった。


 基盤は麗奈とユリウスを捜索する時に作り上げており、後はそれに耐えられる魔石を作る事だけ。流石にそれを行えるのは麗奈1人となっている為に、小型化の実現は遠のいていたがやり方を教わったゆきが作れる事、ハルヒと咲にも教えた事で一気に製作者が増えた。

 嬉しい事ばかりだったが、魔石を作るのは同盟国の同意を得てと言う形になった。

 魔石を作る行為そのものが、かなり希少な存在になる事と意欲的になっているハルヒ達の制止をする意味でもそうなった。


 これには、恩を返せると嬉しそうにしていた咲は少なからずショックを受けており、その様子を見たセレーネは心を鬼にして「無理は、良くないので……」と嘘までついた。ナタールとファルディールだけでなく聖騎士達全員の意思は固い。


 甘やかさないように、と団結した彼等は嘘をついてでも止めにかかった。

 作り過ぎた魔石の処理にも困る上に、悪用を恐れての事。現に作り過ぎた物は、ドワーフ達と魔王であるギリム達が管理するように整えた。


 そうした体制の中で、ラーグルング国はリーズヘルトに特別な仕様と告げている。

 まだ広く出回っていない通信手段は、フォーレスから見たらとんでもない物だろう。魔力が無い所での使用が出来る物なら同盟に加盟したいとなる、と言う狙いも込められている。



「確かに緊急用にと渡したので間違ってないですが、まさか救援要請がかかるとは思わなかったですね」

「だが妙だな。ワーム系の魔物は総じて大人しい性格だった筈。変異だったとしても、集団で行動を起こすような真似はしないぞ」

「ですが、嘘を言う理由は無いでしょう」



 不思議そうに呟くギリムに、ランセはある可能性を示した。



「アルビスの仕業とは考えられないの」

「神殺しの仕業か」

「あるいはアルビス自身の意思が封じられている、とは考えれないか」



 水晶に映し出され、意見を述べたのはギリムとディークと同じ魔王であるミリー。

 彼女はその可能性の方が一番高いとすら言った。



「ギリム。見抜けなかったとは言わせないぞ。どうせ1人で背負う気だっただろう」

「さて、どうかな」

「ふん、私を侮るなよ。部下達を使ってダンジョンへの入り口を探らせているのを知らないとでも思ったのか? 成果が無い所を見ると、奴自身かもしくは操られているからこそ入り口が見付からないのだろう。それでどうする。その場合、手を下せるのか?」

「……」


 

 皆の視線がギリムへと集まる。

 ディークはしょんぼりとしており、ギリムの決定には従う気であるが出来れば同じ魔王を討ちたくはないという気持ちが現れている。ランセも心配そうに見ており、サスティスはギリムの決定には従うというように何も言わないでいる。



「アルビスは……2人と同じ創造の担い手になる者だ。出来れば殺したくはない。余と同じ位に強いのに、簡単には切り捨てられない」

「ならばそれが狙いなのかも知れないな。正直に言ってどうなのだ? 同じ最古の魔王でぶつかった場合、どっちが勝つ」

「生け捕りにしようと動く余と本気で殺しにかかるアルビスだぞ? 躊躇している余が負けるだろうな」

「では死ぬのか?」

「余が1人ならば、な」



 そう言ってユリウスと麗奈へと視線を向ける。

 2人は頷き合い「もちろん協力します」と力強く答えた。その答えにミリーは何処か納得がいかないと言った表情をしている。



「下手をすれば、重要な戦力を失うんだぞ。要請に答えるのと、神殺しの為の戦力は置いておく必要があるだろうに」

「だがアルビスを正気に戻せれば、こちらの戦力が倍になるぞ」

「……それはそうだが」



 彼女もアルビスの実力を知っているのか、戦力になるならばと心のどこかで思っている。

 頼もしい限りだと思いたいが、同時にこれが神殺しの罠とも捉えられるとも言った。



「大人しい魔物であるワームの変貌は、アルビスの力による所が大きい。もしくは彼の創造で作り上げた偽物の可能性もある」

「……それなら本物よりも厄介だぞ」

「あぁ、それは理解している。精霊の結界が何処まで持つかは分からないが、土地の成長と合わせて自身の力を上げているのなら……少なくとも既に頭角を現している存在がある筈。そこに親であるユリウスと麗奈が行けば、更なるパワーアップが見込める」



 そうなれば、フォーレスが受けている魔力の枯渇の原因をもっと探れる可能性が出て来た。

 かなりの危険性を伴うが、大きな大陸が失うような真似になればそれこそ神殺しの思う壺だろう。魔界側では変わった所はなく、今は内側に当たる麗奈達の居る大陸の破壊を進めているのだろう。


 少しでも進展してしまえば、今度は魔界への侵攻が予想される。

 それを止める為にも、更なる戦力が欲しい為にもフォーレスを失う訳にはいかない。同じような国が増える前に、先手を打つ必要がある。



「分かった。こちらは引き続き、魔界への監視を続ける。ギリム、そっちは任せるからな」

「あぁ、無理を言って悪いな」

「ふふ、気にするな。夫婦なんだから、これ位の苦難は乗り換えないといけないな。丁度いい、息子達にも学ばせるいい機会だ」

「……程々に頼むぞ」



 息子達に厳しいのを知っている為に、思わずギリムはそう言った。

 ミリーは分かったと言いつつ、次にディークへと視線を向ける。



「ディーク。分かっていると思うが、今回のこの件にはギリムと共に取り組んで貰うぞ。外を知らないんだから、良い刺激になるし自身の成長にも繋がるだろうよ」

「はーい」

「その後、しっかり報告はして貰う。経験を積むと言うのはそう言う事だ」

「げぇ……結局やる事、変わんないじゃん」



 書類整理から解放されるかと思ったのに、と項垂れるディークにアルベルトが慰めるように頭を撫でた後でクッキーを手渡す。それを涙ながらに受け取り「うん、頑張る……」とギュッとアルベルトの事を抱きしめる。


 翌日の早朝、フォーレスの要請を受けた麗奈達が対処へと向かう。

 本来なら転移魔法を扱うのには、その土地のイメージ無ければ難しいがリーズヘルトの持っていた魔道具の魔力を頼り、1度も行った事がない国へと向かう事が出来た。



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