第365話:虹の効果
領域を実行したエリーは内心でとても驚いていた。
膨大な魔力が必要とされる領域は、扱えるのが大精霊と格が高いものに決まっていた。そして、彼女はツヴァイの代わりにディルバーレル国の泉を管理しているに過ぎない。
だと言うのに、ツヴァイの契約者ありながら、原初の大精霊と呼ばれるアシュプとの契約もしている麗奈にただただ驚きを隠せなかった。
彼女から流れる魔力は、確かに自分達が父と呼べる存在でありその力の象徴が虹の魔力。
初めまして、と言葉を交わしたのは事実。今日、初めて会った上にその存在を直に見て理解した。自身の持つ魔力量が増えた上に、それが仮契約でなしているのだと。
「シルフさん、フェンリルさん。準備は良いですか?」
《おうよっ!!》
《こちらも平気だ》
《あ、そうだ。俺、コントロールは無理だから。調整はそのまま投げるぞ》
「はい。それは別に」
《良くない。麗奈に丸投げをするなっ!!》
面倒くさがりなシルフは、いつも放つ魔法は大雑把。
4大精霊の1つを担っていると言うのに、本人はそれを嫌がりやりたいようにやる性格だ。彼の性格は扱う魔法にそのまま移ったかのように、暴風が吹き荒れる。
いい加減な性格であるシフルと規律を重んじるフェンリルとでは相性は最悪だ。
「大精霊同士の魔法の組み合わせかぁ。その精霊と契約するのだって大変だから、組み合わせようだなんて誰も考えないよねぇ」
そう楽し気に呟きながらも、どんな魔法が繰り出されるのかとワクワクした気分で居るのはラーグルング国の師団長であるキール。そんな彼の様子に、ハルヒとゆきは「そう言えばそうか」と納得した様子。
咲はフェンリルとシルフの仲を心配しており、あんなに仲が悪くて大丈夫なのかと別の所を気にしている。一方でアルベルト達は、ザジの頭や肩を利用して既に座ったりピタリとくっつたりしている。ある意味では異様な光景なのに、ザジが嫌がらないのは麗奈と仲良くしているからなのか、既に諦めの境地として何も言わないかのどちらかなのだろう。
「大丈夫ですよ、フェンリルさん。イフリートさんとサラマンダーさんの炎の要領でやれば平気ですし。力の調整は私が得意としている事なので」
《だが……。頼る前に自身でコントロール出来る方が良いだろうに》
《む……すまない。俺も上手く出来なかった》
《に、兄さん。シルフは最初から諦めているが、我々はコントロールしようと努力してきました。スタートから違います》
人任せにしている事にイフリートが反省していると、すぐに弟であるサラマンダーからは理由が違うとばかりに説明される。シルフは仲間が出来るかと思ったばかりに、その期待も高かった。サラマンダーの所為で、コントロールが出来ない者同士という枠作りは出来なくなったが。
ウンディーネからは当たり前だと言われ、ノームからはやる気なしと散々な言われよう。
適当に返事をしつつ、シルフは麗奈へと魔力を譲渡しフェンリルも自身の魔力を譲渡。麗奈がその魔力を受け取り、再びその魔力をシルフとフェンリルへと戻す。
すると、虹の魔力がシルフとフェンリルを包み込み魔法を繰り出した。
《《グラセ・ラファル!!》》
瞬時に大地が凍り付き、続けて衝撃波が放たれる。
風と氷が纏い、嵐のような破壊力を生む。その風と氷には、虹の魔力が感じ取れこの現象にキールとラウルには見覚えがあった。
(そうか。私とラウルにも、主ちゃんが魔力を譲渡した時に一時的に虹の魔法を扱えた。その感じで大精霊同士の魔法をこんな感じで組み合わせた、か)
《魔物用に使ってるから、派手に散らかるんだが……。やっぱ力の調整が上手いと威力もそれなりに抑えられるのな》
《ふざけるな。俺と麗奈がコントロールしてるんだぞ。そっちが力の微調整を覚えていれば、もっと広範囲で行える》
《ま、そこはフェンリルに任せるわ》
《だから丸投げをするなっ!!》
喧嘩が始まり、フェンリルはシルフに向けて氷の粒を放つ。
すぐに周囲に風を纏い、その攻撃を無意味な方向へと導く。挑発するように煽れば、フェンリルは更に怒りを増す。
「わーわー、ストップ。ストップです。フェンリルさん、落ち着いて」
フェンリルに抱き着いて止める麗奈に、咲が正面から頭を撫で落ち着かせる。
途端に冷静になるフェンリルは《悪い》と言いシュンとなる。すぐに分身体が駆け寄り、スリスリと顔を寄せる。
《ガウ、ガウ》
《平気だ。もう落ち着いた》
《ウゥー》
麗奈と同じく体全体を使って動きを止めつつボフッと寄り掛かる。
自分が落ち着きたいだけなのだと分かり、フェンリルは仕方ないとばかりに体を下ろした。
《ふぅ、もう怒る気も失せた》
「無理を言ってすみませんでした。休んでて大丈夫です」
「フェンリルは広範囲の魔法が多いから、風と合わせるとあんな感じなんだね」
「ウンディーネさんとノームさんの魔法も凄いですよ。森の復活に一役買ってくれますし」
「へぇ。凄い……」
その後、ウンディーネとノームの魔法を合わせた《ナチュール・リナーシタ》は大樹を生み出し多くの自然を生んだ復活の魔法。その規模に、キール達は乾いた笑いしか起きず逆にドワーフ達は溢れる自然に大喜び。
イフリートとサラマンダーは同じ煉獄の魔法を強化させた《フラム・サンクチュアリ》。サラマンダーがよく使う炎の盾が、攻守に優れ攻撃を跳ね返す性質が備わっていた。しかもその跳ね返されたものには、炎が纏い更なる被害が予想された。
《彼女が兄さんと合わせて出来るようにと、魔法を作ったんだ。凄いだろ、ヤクル》
「あぁ。元々、防御も頼りにしていたのに凄い成長だな」
そう話しつつ、サラマンダーはイフリートの自慢をしたいのか尻尾をブンブンと振っている。まるで犬のような反応に、周りが和みつつイフリートも弟が嬉しそうにしているのを見て喜んでいる。
(似た者同士ですね。今まで離れていた分の反動が凄い事に……)
フーリエはイフリートの様子からそう判断し、兄弟である彼等が共に戦えるのを見て魔道具を作った麗奈のお陰であると再確認。その後も、大精霊同士の魔法を組み合わせた新たな魔法の数々に驚くばかりになり、領域から戻されたのは夕方頃にまでなった。
チョン、と麗奈の服を引っ張るのはラウルと共に居ると言ったフェンリルの分身体。
目線に合わせるようにしゃがむと、壊れた魔道具をまた作り直せないかと聞いてきた。
「それは考えていたのでちゃんと作りますよ」
《ガウ♪》
「あーごめん。主ちゃん、それはちょっと待って」
「え」
魔石は麗奈が作れるので、他に必要になるのは付与する為のアクセサリーだけになる。
だがキールから止められ、麗奈よりも分身体の方がショックを受け耳がションボリと落ち込む。
「えっと理由を聞いても良いですか?」
「主ちゃんが自分で魔石を作れるのは分かってる。でも、主ちゃんの魔石に耐えられる物を作るのには少し時間がいるから」
《ウゥ……》
「で、でも。キールさん達に渡したのだって、普通のアクセサリーや水晶ですし」
「私達の扱い方が良かっただけで、今後も壊れない保証はないよ。長く使ってもらうなら、それなりの耐久がないとね」
《ウゥ~》
キールに向けて恨めしそうに唸る。そうなるとは思っていたが、予想よりも遥かに殺気立った睨みに意地悪をしているようにしか見えないでいる。すると、アルベルトがその道具は自分達で作ると名乗りを上げそのアピールの為かフィフィル達がキールの周りを飛び跳ねる。
「キール。了承しないと、彼等はずっと続けるよ」
「ずっとテンション上がってるからね。それだけの体力はありそう」
ランセとサスティスにそう指摘され「うっ」と言葉に詰まる。
ぴょんぴょんと飛び跳ね、懸命に作るアピールをされキールとしても判断に迷うが最終的に根負けし、ドワーフに依頼をする事になった。途端に嬉しそうに尻尾を振り、アルベルト達を背負って走り回るのを見て相当嬉しいのだと分かる。
「……調和による魔法の創造と、領域が可能な精霊が増えた、ね」
「ユリィは全体強化に加えて、ドラゴン達が扱う魔法の一部の行使。それに魔力の流れが見えるようになった目だったね」
その日の夜、イーナスとヘルスの他にランセとサスティスの2人。そしてギリムがキールの書いた報告書を見つつ話し合いを始めていた。
「その2人の魔法の特徴として、この世界で創造された全ての精霊達に当てはまるのだろう。でなければ、仮契約が成立しないからな」
「うわぁ、精霊だけでなくドラゴン達も仲間に入りますね」
キールがそう唸るも、ギリムはもう1つの可能性を出した。
「虹の魔法の元は奴だ。デューオは創造に長けた創造主だからこそ、2人が願えばある程度の願いや力は行使出来るのだろう。泉以外の森の復活も、アシュプが浄化を得意としているが彼女と契約して更に能力が伸びた筈だ」
「……そうか。麗奈ちゃんの家系は巫女の力から来るもの。浄化能力が飛躍的に上がったとしても不思議じゃない、か」
「そしてユリウスの場合、その創造主との適性が一番高いと」
ギリム、ヘルス、イーナスが分かった事を言う中でサスティスは「そう言えば」と、創造と聞いてある人物の事を思い出した。
「そう言えば、連絡は出来たの? 彼、殆どこっちに出てこないけど」
「応答がないからな。何度か呼びかけてはいるんだが」
「他の協力者が居るんですか?」
「居る、と言うよりは余と同じ最古の魔王だ。名はアルビス」
同じく創造の魔法を扱い、彼が使う魔法は天を総べるとも言われている。
攻撃系統の魔法が多いが、防御も得意としておりギリムと並んで強力な魔王とされている。しかし、彼は滅多な事では表側には出てこないらしい。
何故なら、彼は自身の創ったダンジョンにずっと引きこもり開拓を続けている。
かなりのんびりとした性格で、表側に出て来るのは彼が興味を惹かれた時にだけ。ギリムからの呼びかけに最近では答えない事も多く、何をしているのかがさっぱり読めないらしい。




