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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第8章:最古の魔王
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第364話:泉の管理者


「……切られた」



 先ほどまで麗奈と話をしていたドーネルはそう言った。

 執務室で作業をしているギルティスは当たり前だとばかりに言い返した。



「麗奈様と同じ異世界人同士で会っている。そう彼女から連絡があっただろ。邪魔されたくない一心で、お前の話なんて切り捨てた、と言うことだろうな」

「えっ……!?」

「今までの事を思い返してみろ。話が簡潔に終わった事なんてあったか?」

「あんまりないわね」



 2人に紅茶を用意したスティがそう言い、ギルティスも同意するように頷いた。

 幼馴染でもある3人だけの空間。言いたい事は常に言っている。だからこそドーネルはいつも通りに、そのままらしさを出せている。



「で、でも」

「幼馴染のハルヒ様なら、容赦なく切るだろうな」

「必要じゃないって思ったら、すぐに行動してるものね」

「うぐぐっ、ハルヒ君めぇ」



 もう少しだけ麗奈と話をしたかったドーネルは、その機会を奪ったハルヒを恨めしくも思う。その隙とばかりに、ギルティスが追加の書類を置いていった。



「うっ……」

「少しでも良い所を見せたいなら、誠意を見せてみろ」

「はぁ……。話がしたい」

「現実逃避するなら増やすぞ」

「これ以上、増えるの!?」



 驚くドーネルに、スティはクスクスと笑う。そんな彼女に、王家に仕える影人がさっと姿を現した。

 用件を言い終えすぐに姿を消したが、ドーネルとギルティスも気付いている。



「報告よ、ドーネル。帝国の影は未だに国境を超えられず、手を出してくる様子はないって。ラーグルング国と繋がったからか、悪意がある時に弾かれるのは本当のようね」

「結界の影響だよね。うんうん。帝国から戻らなかったルーベン大佐とワクナリを探してるんだろう。消息を絶ったのがこの辺だから、調べさせるのも分かるけど」

「調べたくともここに入れないからな。調査不十分が続くだろ」



 ルーベンとワクナリは、ハーフエルフの里に居る。

 ワクナリがこの里の出身であり、外の興味から里から出るなと言われていたのに出てしまった。へルギア帝国の兵士に見付かり、逃げようとするも逃れられずに奴隷になった。

 見た目が美しいエルフの容姿を受け継いでいたから、手荒な事はされず観賞用として長い間自由を奪われていた。召喚士の適性もあり、平民から貴族になったルーベンと組まされてから変わった。


 帝国と同盟を結んだのは、ドーネルの父親だったが魔族のユウトの傀儡によるもの。

 ドーネルが王となってからは、すぐにその同盟を継続しないと帝国の皇帝に啖呵を切った。その後、何かしら調べてくると思い、警戒は怠らなかった。



「国から逃げて来た理由を聞いたら当然だとも思ったからね。こっちで協力出来るならやるよ。やっぱり家族と居る方が良いもん」

「そう言えば、ハーフエルフの里を守っていたのはドワーフの戦士だったか」



 書類を片付けながら、ギルティスが話を続けた。

 完全に手が止まっているドーネルと違い、宰相である彼の事務処理は早い。それを見ていたスティが、ドーネルはまた怒られるなぁと思いつつ話に耳を傾ける。



「そう聞いているよ。誠一さんが関わったから、今も様子を見に行っていると聞くし。その甲斐もあって、今はラーグルング国の森の中で暮らしてるってさ」

「そうか。ハーフエルフの存在は、我々は聞いてなかったしこれからは関われるようになるのか」

「うんうん。ラーグルング国の人達とも良好な関係を築けているから、ドワーフ達も普通に居るってさ」

「……そうか」



 ふと思い出したのは、麗奈とアルベルトの2人だった。

 仲が良くそのまま居るのなら、彼等の住んでいる所もいずれはあの国に移るだろう。森の資源を利用して生活している種族であるドワーフとハーフエルフ。


 必要とあらば、ディルバーレル国でも提供できるものがあるかもしれない。

 今からその算出をするギルティスに、スティが「妙に気合が入っているね」と聞く。



「今から出来る事を進めているんだ。麗奈様の父親だ。彼女に影響力があって、親にないなんて事は無いからな」

「ふふ、ギルティスもなんだかんだ言いつつ甘いよね」

「否定しない。命の恩人である同時に、感謝しているのも事実だ。面倒見るのは当然だし、引き受けられるものは引き受ける気でいる」

「……第2のお兄さんって感じね」

「ふっ、それも良いかもな」

「いやダメだしっ!!」



 バン、と机を叩きドーネルは否定する。

 ギルティスを睨みつつ、スティの第2の兄だなんて言われかなり動揺している。



「なんだ、いきなり」

「いきなりはそっちだよ。麗奈ちゃんのお兄さんは私なのっ!!」



 言い合いを始める中、スティは懐から小さな水晶を取り出す。

 ラーグルング国から渡されている通信用のものであり、魔力を込めれば映し出されるのは泉に居る麗奈達だ。

 影からの護衛は、イーナスに止めるように言われている。

 理由として挙げられるのは、その護衛にはランセが関わっている他に式神達の存在があった。

 陰陽師との契約で行使できる術の中で、麗奈が契約した四神はかなり特殊な存在。その内の1つである青龍は竜神の子供であり、彼が悪意を見抜く力に長けている。


 ランセが居る中で、その特殊な力を持つ者達が麗奈の護衛に就いている。更に、ディルバーレル国から影の護衛を出すのは過剰という判断だ。



(麗奈さんも承知している事だけど、あの子周りは本当に賑やかね)



 麗奈からも何か新しい事や、精霊に関しての事は共有すると言われているので、監視というよりは見守りに近い。

 泉の管理は、麗奈は契約したツヴァイが担当していたが彼女は既に契約者を得ている。その間、泉を管理しているのは別の精霊だった。



======


《初めまして、お父様の契約者様。私はエリー、ツヴァイの居ない間にここを任せて貰っている》

「初めまして。エリーさん」



 ツヴァイが管理している泉は、透明な水でありながら光の反射によっては虹色にも見える。

 麗奈が泉を浄化した影響で、その魔力に染まっている。この虹色に見えるのは、あくまで魔力を持つ者にはそう見えるだけなので普通の人には影響はない。



《うぅ、放置してる気はなかったけど……。で、でも》

《慌てないでツヴァイ。理由は分かっているし、それも羨ましく思ってるから》

《う……。私の方がお姉さんなのに見た目も、性格もそっちがお姉さんっぽい》



 麗奈の肩で悔し気に唸るツヴァイに、アルベルトが隣で肩をポンポンと叩き慰める。

 ハルヒが「サラッといるよね」といつの間に付いてきたのかと不思議でしょうがない。そこをノームが説明していく。



《ほら、アルベルトは好きに印付けて転送するのが得意だからさ。たまにこの泉に来ては、里の果物や植物の栄養を貰いに水を貰ってるし》

「あぁうん。アルベルトのその魔法には僕もお世話になったし助かるんだけど……」



 そう言いつつチラッとアルベルトを見る。

 アルベルト以外に、同族であるフィフィル達がおり彼等も麗奈に会えて嬉しいのか飛び跳ねている状態だ。泉にはランセだけでなくサスティスも来ており、ザジがドワーフ達を見て遠くに行かないようにと動いている。



「いつも思うんスけど、ドワーフ達のテンションがかなり高い」

「仕方ねぇだろ。アイツに会いたくって頑張ってたんだ。お前だってまだ話せてないだろ」

「うぐ、それはそうだけど……」



 ブルトはそう言いつつ、麗奈の周りを囲うようにして動くドワーフ達を見る。

 無事な姿を見られるだけで良かった筈なのに、今では話をしたいという欲が強くなっている。その自覚があると感じつつ、ザジを見るとどうしても気まずくなる。



(やっぱりあの時の事、謝らないといけない……)



 麗奈が城で軟禁生活を送っていた時、ティーラに殺すよう促され否定したあの時の事を思い出す。否定しつつも、心のどこかでは実行した方が良いのではと迷った際に、麗奈を殺そうとした事があった。

 そこはザジが麗奈の体を一時的に乗っ取り、朱色の目を見た事で死神の存在を思い出した。

 そのタイミングで、麗奈がブルトにどうしたかと聞き咄嗟に嘘をついた。その事を謝りたくてタイミングを逃し続けている。


 しかも、今はハルヒも居るので余計に話がややこしくなるのが分かるでその所為でもある。



「今までありがとうございました。これから本来の契約者の元に返しますね」



 麗奈の足元に虹色の魔方陣が光だし、周囲に大精霊の結晶体が次々と姿を現す。

 それぞれの契約者の元に、結晶体が向かいそれらが姿を現す。濃い魔力の中に居るのに、誰1人として体調が悪くなる者は居ない。


 ランセとサスティスは、麗奈から離れた影響の他に彼女が虹の契約者としての力だろうと思っている。



《くあー、もう戻るのか。結構居心地が良かったんだが》

《文句を言うなシルフ。それでは麗奈に迷惑しかならん》



 シルフがあぐらをかきながら、だらけておりその態度にフェンリルは怒る。しかしそんな彼も、離れるのを良しとしないのか若干テンションが低い。



「麗奈ちゃんと居るの楽しかった?」

《それはもちろん。あ、いや、違う。咲が嫌とはそう言うのでは》

「分かってるよ。麗奈ちゃんの事、助けてくれてありがとう♪」

《う、うむ。……ただいま、咲》

「おかえりなさい、フェンリル。またよろしくね」 



 それぞれ交流をしつつ、契約者の元に返る。

 その大仕事を終えた麗奈は静かに息を吐き、ゆきたちが喜んでいるのを見てホッとする。



《あ、そうそう。イフリートとサランダーの魔力コントロールが良くなったから、苦労しなくなったぜ。これも親父殿の契約者のお陰だ》

《それに我々の魔法も、彼女のお陰で組み合わせも良くなった》

《えへへ、そうそう。あれは楽しいよな》



 シルフの報告と重ね、イフリートが自慢げに言う。ナルが嬉しそうにしているとゆきも、嬉しいが何をしたのかと聞くと大精霊同士の魔法を合わせたのだと言う。



《まさか自分達の可能性が広がるとは思わなかったから驚いてるよ》

《ノームがかなり楽しげにしてたからね》

《うぐ、だって実行してしまう麗奈さんが悪いんです。無理難題を言った筈が、それもこなすから》

「わ、私の所為!? ノームさんだって楽しげにしてたのに!!」



 不服だと言う麗奈に、ハルヒ達が何したんだとばかりに見る。

 アルベルトが気になると言うと、シルフがやるかと麗奈に承諾を得る。



「私は平気だけど、フェンリルさん……お願いしてもいいですか?」

《……。麗奈の頼みだから聞くんだ。そこは間違えるなよ、シルフ》

《へいへい。分かってるって》



 規模が凄いのだろうと察したエリーは、特殊な空間魔法である領域を発動。空間を切り離したこの場所でなら、何があっても外への影響はない。


 早速とばかりに、麗奈はシルフとフェンリルの合わせ技を披露した。

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