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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第8章:最古の魔王
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第362話:お互いに気を遣っている


 ギリムは出店を回りながら、先程まで行っていた馬車で王都を1周していたドーネル王達の事を思い出す。義妹として紹介された麗奈の姿を見て、優菜と被った。まだ本人とは話せていないが、血縁関係者なのは見て分かった。


 黒髪に黒い瞳。

 透き通るような白い肌だかこそ、はにかんだような笑顔で染められた頬が赤いのはすぐに分かる。

 そして彼は見た。彼女の周りには大小の様々な精霊達がおり同じように喜んでいる。



(そう言えば、アシュプと契約した影響で全ての精霊とも仮契約が出来るんだったな。本人は何処までそれがどんなに凄いかはよく分からんのだろうが)



 ユリウスも自覚しているかは怪しいが、天空の大精霊であるブルームとの契約により彼の眷族であるドラゴン達を実質的に従える。空はブルームが総べり、地はアシュプが総べる事でこの世の均衡は保たれていた。

 その契約者となったユリウスと麗奈の2人がどれ程の価値を生んでいるか。

 サスクールとの戦いでその一端は既に見られた。


 滅んだとされたドラゴン達の存在が明るみになり、その彼等がブルームの命により従っていると言った。フォーレスがラーグルング国に協力を求めたのは、ドラゴンの存在とついさっきまで起きていた虹の空に関してだろう。



「全く……アイツは面倒な事をこちらに任せ過ぎなのだ」

「おっと、お兄さん。暗い顔はよくないねー。これでも飲んで気分を晴らしてきな!!」

「うむ。そうしよう」



 そう言って渡された酒を受け取り、代金を払った後で一口飲む。

 口の中に広がる甘さに驚き目を見開くと、店主が嬉しそうな顔をして説明してくれた。



「お、良いねその顔。実はね、3カ月位まで実りがなかった森が復活したんだよ。果物や薬草の質も上がって、今じゃあ名物になってるよ。ホント、あの方には感謝だよ」

「……感謝というと先程の?」

「おぉ、そうさ。それに王の兄妹は皆、亡くなっちまって前国王も既に死んでたなんてな。あの人の姿をかたどっていたとはえ、疑問にも思わないなんてな」

「だがそれは、敵の術中だったのだろう。そうドーネル王が初めに言ってのであれば、貴方方に非はないだろうし仕方がない事だ」



 ドーネルの即位式の時に、彼は全てを明かした。

 国王だと思っていた自身の父親は、魔王サスクールの部下により既に死亡させられた上にドーネル自身を追放したのだと。

 上級魔族になっていたユウキの潜入により、国王に仕えていたとされた彼は自身の思い通りになるように術を施した。

 嵌められた国王は傀儡にされていただけでなく王族の血を必要としていた為に亡き者にされる。そして、血を求めていたユウキはドーネルの母親だけでなく兄妹達をも魔物を使って死体共々術の材料とした。


 ドーネルが追放で済んだのは、国王の意識が一瞬だけ戻り生き延びて欲しいと思っての事。

 ユウキがこの国に目をつけたのは、この国はブルームの守護地になり魔法との繋がりが強いからだった。

 サスクールから魔法の無効化が出来ないかとされ、動いた結果として王族に血を利用する事を思い付く。魔法は創造主デューオの力により生み出されたが、その大半はブルームとアシュプによるもの。


 アシュプは既に守護地としてラーグルング国に定めた。

 そこに魔法の無効化が出来るかも知れいないとユウキは試した。ドーネルを除いた王族は全て殺し、その血肉を利用して術を組み上げるも成果がなかった。そこから試行錯誤する間、生き残ったドーネルは王を殺そうと動いていると報告を受ける。


 ドーネルの血により術式を完成させ、一部の魔法を無効化。

 その成果を確認したユウキは離脱し、囚われていたブルームの術を麗奈が解放。改めて、天空の大精霊がディルバーレル国の守護地として君臨しドーネルも王として国を導く事を演説した。


 その協力者として麗奈だけでなく、隣国の魔法国家の事も話された事で今でも同盟は続いている。

 国を挙げての祭りな上、ようやく感謝が伝えられるとあって国民達は嬉しそうにしていた。そう語る主人の話しぶりにギリムも酒が進んだ。



「ま、これを機にお兄さんもウチの名物を堪能してくれると嬉しいね。質は保証出来るぞ」

「あとでその薬草の売り場も見てみよう。これでも医者なんだ」

「お、そうなのかい。今日の祭りを楽しんでくれっ!!」



 森の再生に関しては、ディークから報告を受けていた上にアシュプによる力が強いだろうと考える。もしくは、契約を得た事での効果かも知れないが。



「あ……」

「サスティスか。どうした」

「別に……」



 ギリムを見て気まずそうにするサスティスに、まずは一杯どうだと先程の酒を進める。 

 こうした1対1の対話はなかなか実現出来ない。今のお祭りの雰囲気を使い、サスティスを誘えば彼は意外にもすんなりと承諾。

 まさかそのまま相談されるとは、ギリムも思わなかった事だろう。



======


「それはお互いに気を遣った結果な上に、サスティスが珍しく拗ねたんだよ」



 一方でランセは、自身を探していたザジからある相談を受けていた。

 サスティスが突然拗ねた事。それが自分の発言が原因なのは、分かっているのだが逆にサスティスが拗ねる理由が分からずに気持ちが悪いのだと話す。

 その話を聞いている間、ランセは実に分かりやすいと答えを出した。



「……何で拗ねるんだよ」

「ふふっ、相棒として地位を脅かされると思ったんでしょ」

「はあ?」



 なんだそれ、と表情がものがたり余計に分からなくなる。

 ランセは1つ1つ説明していく。サスティス自身が言っていたザジの行動は良い傾向なのと同時に、本当は自身をもっと頼って欲しいのだという欲求。

 しかし、それを言うには自分は幼稚な考えだと思い頭を冷やしてくる為に離れた事。

 それがザジから見れば、突然姿を消したように見えしまい余計に拗らせているのだと言う。



「……。結局、これから俺はどうすれば良い」

「何もしなくて良いよ。サスティス自身が答えを出すにしろ、そうじゃないにしろね。いつものように振舞えばいいんだよ。下手に気遣われるのは向こうにとっても嫌だろうし」

「そういう、もんなのか……」



 むー、と納得しつつも心を理解するのは大変だと呟くザジにランセはずっとニコニコとしている。

 その雰囲気を見て、ザジはやっぱりサスティスと一緒に居るから似てくるのかと問えば「んー、どうなんだろう」と返される。



「確かにサスティスから、学んだ事は多いし恩もある。復讐もある意味では彼の為だったのかも知れないし、自分の目的と合わせたいのかも」

「これからはどうするんだ。目的は達成しただろ?」

「それについてはちゃんと答えは出しているよ。次を相手にするのはこの世界に牙を向いた者達だ。ギリムにもやり返すと言ったばかりだからね」

「神殺し、だったか」



 飲み物を口にしながら、ザジはデューオに言われた事を思い出す。

 神殺しの行動は予測は不可能だと。神である自分達を殺して、向こうにとってのメリットはなんなのか。不明な点が多い相手に、こちらが取れる対策はいくつかあるのかとも思う。



「麗奈さんが気に入っているんだよ。なのにそれを壊そうとするのは困る。君だって奪われたくはないでしょ?」

「当たり前だ。やっと一緒に居られるっていう願いが叶ったんだ。早々に壊されてたまるかよ」

「そうだろうね」

「あっ、ザジにランセさん!!」



 弾んだ声を出し手を振ったのは麗奈だ。

 ドレスから普段着になっていた。紺色の上着にクリーム色のズボンを穿()いており、ザジはいつもと違う麗奈の格好に驚いていた。



「麗奈さん、お疲れ様。さっきの見てたよ」

「うぅ、出来れば見て欲しくなかったです……」

「無理だよ。これでもヘルスに護衛を任されてるの。諦めて」

「はーい……」

「まぁそんなに落ち込まないで。さっき食べた串焼きが美味しかったから買ってくるよ。お腹も減ってるでしょ」

「う、すみません」

「ザジもいるかい?」

「貰うっ!!」

「はいはい。ちょっと待ってて」



 買ってくる間、ランセはチラリと2人の様子を見る。

 死神だったザジと交流していたからか、麗奈は普段通りに接している。楽し気に話しているのを見て、笑っている方が良いと改めて感じる。



「んっ、美味しいですっ」

「これも美味いっ」

(飼い主と飼い猫っていう関係を知っているからか。……こんなに似るものなのかな?)



 笑顔で食べ物を食べる姿は、親子のような姉弟にも似た雰囲気がある。

 楽しそうにしているのを見ると、ランセとしても嬉しい。ついつい物を与えたくなってしまうな、と思った時には既に実行した後。

 麗奈を見付けたユリウスとアリサが駆け寄ると、簡易テーブルには様々な料理が並べられていた。



「結構な量ですね」

「食べても平気ですか?」

「うん、良いよ。ユリウスが来てくれてホッとしてる」

「え?」



 どうしたのだろうと思っていると、ランセは小声で話していく。

 反応が可愛いザジと麗奈に、色々と物を与えてしまった後である事。歯止めが利かなくなりそうであったとして、ユリウスが来たのはタイミング的に良かったのだと。



「あ、これも美味しい」

「麗奈、これも良いぞ」

「……あー。あんなに嬉しそうにされると、何かしなきゃってなりますよね」

「ごめん、やり過ぎた」

(ランセさんも失敗するんだなぁ)



 完璧にやっていると思っていたランセの思わぬ失敗に、ユリウスは何だか嬉しくも思った。それだけ、ランセもリラックスしているのだと思い、生きて戻れた事の重要性を思わせる。

 アリサと並んでいる所を見ると本当の家族のような雰囲気に、微笑ましいと思うのは誰もが思う事。周りから温かい目で見られているのがその証拠だろう。


 周りも邪魔をしないように動いている辺り、ランセと同じく物を与えてしまいたくなるのかも知れない。



「ザジも人たらしの才能、あるね」

「そういう問題で良いのか?」



 その様子を見ていたサスティスとギリム。

 相談している内、ザジの覚悟を理解しているので自分が我慢すると結論を出し、探していると人が集まっているのが見えた。

 中心に居るであろう麗奈とザジの2人。

 楽しんでいるのが分かり、様子を見に来ていたドーネルは密かに成功したとガッツポーズをする。各々が楽しんだ祭りは成功を収め、後日改めてとしてお礼がラーグルング国へと届く。


 新種の薬草についてのデータだったり、復活した森の観察経過の報告を含め特産物になった果物やそれを使ったジュースやお酒の数々などなど。そんなお返しに頭を抱える麗奈と違い、ヘルスはお礼だから貰っても損はないとユリウスと共に説得をする。


 そんな彼女とどう接しようかと考えるリーズヘルトは、暫く観察を続ける事にした。

 ラーグルング国を訪れてから1週間。成果らしいものは上げられずにいるが、彼の勘は告げていた。麗奈と関わる事でフォーレスの未来が変わるのだと。




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