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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第8章:最古の魔王
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第361話:今を楽しむ


 ディバーレル国の王都ではある大掛かりな準備が行われた。

 ドーネル王の命により、国民を巻き込んでのお祭りする事を決めたのだ。即位式の時には、麗奈達の事は詳しく言えていなかった。


 サスクールとの戦いが控えているのもある上、休息をとってもらう為でもあったからだ。

 国民達から、国が無事に魔族達の脅威から払えたのもドラゴン達の加勢があったのも知りつつも、どうにか感謝を伝えられないかと王都を含めた各所から聞いていた。



「流石に隠し通せないから、ね。前は城での簡易パーティーだったけど、今回はこの王都でのイベントと表してるから。だから逃げないでね、麗奈ちゃん」

「うぅ、裏切り者ぉ……」

「それを言われるとちょっと傷付くんだけど……。あとで話したい事もあるしさ。我慢我慢」



 異世界人である麗奈の事は、ドーネルの義妹として紹介された事で国民達からも「麗奈様に感謝を!!」と熱い歓迎を受ける事に。今も王妃のスティ、ドーネル王と並んで馬車で王都を回っている。

 それを水晶の映像として見ていたラウルが微笑んだ。



「感謝される事に、これからは慣れてくれると嬉しんですけどね」

「どうかな。主ちゃん、ギルティスさんには感謝よりも逃げに徹してたけど。……慣れるのかな」



 ラウルとキールが居るのは、麗奈達が最後に帰ってくる王城だ。

 その一室で宰相のギルティスが降りキールの言葉に、むむっとしながらも嫌われるのは嫌だなと思っていた。



「私の印象が下がりまくるのは勘弁ですね。少々、強引過ぎたか」

「あれぐらいしないと、本人は表に出る気ないですし。そこは感謝しますよ、ギルティス宰相」



 ユリウスからの言葉に、ギルティスは感謝した。ヘルスは水晶に移る3人の様子に複雑そうに見つめるも仕事をしなければと切り替える。



「じゃあ私は戻るよ。イーナスを1人にしておくのも限界があるし」

「それなら」

「ユリィと麗奈ちゃんは、こっちでゆっくりしてて。まだフォーレスの対応も考え中だから」

「あ、でしたら……」



 ユリウスはヘルスに告げたのは、自分達が空から落ちて来た時の事。ブルームの姿、緊急事態だったとは言え麗奈の精霊召喚も見られている事を話す。

 ノームとは次の日に話そうと考えていたヘルスは、次の交渉では2人の事を話題にするのだろうとも予想がつく。



「分かった。イーナスにも情報共有しとく」

「お願いします」

「ヘルスお兄ちゃん、戻るの?」



 ドーネルと共に戻って来た麗奈はショックを受けたように沈んでいた。もう少し位、共に居られると思っていたからだろう。

 ヘルスはその反応から、嫌われていないのだと分かり少し安堵するように息を吐いた。



「ごめんね。夜はこっちでゆっくりして、朝には戻れば良いから」

「……」

「で? 横に居る君は何で拗ねてるのさ」

「違う……」

「は?」



 麗奈の横に居るドーネルはブツブツと何かを言っている。

 ヘルスは何を言う気だコイツ、と既に冷めた目で見ておりユリウスから見ると仲が良いのか悪いのか分からないでいる。



「親密度が、違うっ!!」

「……何の話してんの」

「だって。ヘルスと麗奈ちゃん、凄く親しいじゃん。私の方がヘルスと居るよりも長い筈なのに、何なのこの差は!!」

「君がしつこいんじゃない? あとは性格」

「うるさいからキールは黙ってて」



 キールの的確な言い方に、ギルティスは思わず吹き出してしまい「確かに……」と否定はしないでいる。味方をしてくれると思っていた幼馴染の裏切りに、ドーネルは涙目になった。



「味方しろよっ!!」

「あ、いや、すまない……」



 その状況を麗奈は少し離れた所で見ており、お腹をぐっと抑えている。

 今来ているドレスは、ギルティスによって着るように強制させられており彼の幼馴染である使用人の連携により、逃げる事が出来なくなっていた。

 早くドレスから普段の服にしたいなぁと思っていると、スティからサラダを渡される。



「もう少しの辛抱だけど、少しはお腹に入れときたいでしょ?」

「頂きますっ」



 スティと共にサラダを食べ、やっと事で食べられると思い笑顔で頬張る。

 彼等が居る一室には軽食として置かれているものが多く、ラウル達も戻るまでの間それらを食べて時間を潰していた。



「落ち着いて良いんだから、そんなに急ぐなよ」

「ふぁいっ!!」

「既に落ち着いてないな……」



 ポン、と麗奈の頭に手を置き優し気に見つめた。

 すると途端に大人しくなり、無言で謝っているのか何度も頭を下げた。ラウルの保護者のような立ち位置に、スティは笑って他の軽食も取りに行ってきている。



「うぐぐっ、お世話したい」

「するな、しなくていい」

「ヘルスが辛辣過ぎるんだけどっ」

「え、君に対してはいつもだったと思うけど?」

「く、キールも私に対する雑さが目立つな……」



 クイッ、と服を引っ張られユリウスが振り返るとアリサが少しむっとした顔をしている。

 しゃがみ込み「もうちょっとだけ、な?」と言うも表情は変わらない。拗ねるようにユリウスに抱き着き、意地でも動かないという意思表示を感じ取った。



「あー、悪い。麗奈、俺はアリサと先に行ってる。待ちくたびれてるみたいだから」

「え、あっ!? ごめん、アリサちゃん」

「ママが綺麗なのが嬉しいけど……。一緒にお祭り回りたいー」



 ぶすっとしながらも、ユリウスを抱きしめる力は強いまま。

 寂しい思いをさせたアリサと回る約束をしていたのに、このままだと機嫌が下がり切るのが分かる。そう思い、ユリウスが先に行っていると教えた。

 ドレスから普段着になるのに時間はまだ掛かる。ユリウスにアリサの事を任せのを見てヘルスは、親子みたいだねと言うと麗奈はすぐに顔を赤く染めた。



「なんか、自分が麗奈ちゃんとゆきちゃんに育てられた時の事を思い出すよ」

「あ、あれは……。うっ、今それを言われるのはキツイ」

「え、何で? あの時、嬉しかったんだよ。受け入れられないのを覚悟して行ったんだから」



 母親である由香里を死なせてしまった後悔が強かったヘルスは、せめてもの償いと思い彼女の遺体と共に麗奈の居る現代へと行った。

 罵倒される事も、拒絶される事も覚悟してきた。だが幼い麗奈は母の死を受け入れようとし、ヘルスの事を放っておけなかったのだ。あの時は、自分以上にヘルスの表情が痛々しかった。ヘルスは責められるのが当然とした態度に、麗奈は嫌だと思った。


 恐らくは、あの時の麗奈の心情としては誰も傷付いて欲しくないと思ったのかも知れない。

 幼い時の事を言われ、恥ずかしさで頭の中が一杯になる。そんな麗奈の反応に、ヘルスは愛おしさと同時に守らなければならないと思った。



「麗奈ちゃんさえ良ければ、いつも通りにお兄ちゃんって呼んで良いんだからね?」

「そんなのズルい。だったら――」

「ドーネルには頼んですらいないよ」

「辛辣だなっ!!」



 ヘルスが良くてドーネルはダメなのか。という2人の言い合いが始まり、スティは今の内に祭りを楽しむようにと言い離れるようにと告げた。



「ヘルス様の事は私達で対応するし平気よ。麗奈さん、少しはゆっくりしないとね」

「本当ならお礼はこんなのでは済まないのですが……。まぁ、それは改めてという事で」

(それはそれで怖いなぁ)



 ギルティスの不穏な言い方に麗奈は警戒を強める。

 ラウルの背に隠れたのは言うまでもなく、彼もそれを察してかギルティスの視線から麗奈を隠している。キールはそれを見ていて(無駄だと思うなー)と密かに思っていたのは内緒だ。



=====


「兄ちゃん、この焼き串もどうだい?」

「こちらの飲み物もどうでしょうか」



 ザジは勧められる食べ物や飲み物を貰っていると、サスティスが代金を支払う。これを繰り返し、両手一杯になった時点で王都の噴水の所で休む事にした。



「ザジ。勧められた物だからって全部買って下さいって訳じゃないんだよ」

「え、じゃあ何で勧めて来るんだ」

「それはね――」



 死神から人間へとなったザジも、ドーネル達が通った馬車を見ており麗奈も恥ずかしそうにしながらも習っているのを見ていた。

 サスティスから教わりながら、この世界についての情報を少しでも知っておきたい。そう思っての行動だが、腹が減っては動けない。だから食べ物をと探していると、出店を出している所では色んなものが勧められる。



「勧められても、もしかしたら食べられなかったり味覚に合わないかもしれないんだからそこは考えないと」

「ん。でも、全部美味いよ」

「あーうん。ザジが満足してるんなら良いよ、してるならね」



 何だか疲れたような表情をしているサスティスに、ザジは疑問に思いながら口の中一杯に食べ物を詰め込んでいた。

 一応楽しめているのだろうと思っていると、ザジがサスティスにある事を告げた。それは元々、目標にしていた事で言わなければと思っていた。



「俺……あのギリムって奴の所で戦い方を学ぶ」

「え」

「あの時、一時的とはいえ一緒に戦ったが今思えばうまく連携が出来たのはアイツが居たからだ。俺が文句を言いながらだったのに、普通に合わせて来た。まだ少ししか話してない奴なのに、ちゃんと連携が出来たんだ」



 サスクールとの戦いで、ザジは疲弊していたユリウスと麗奈を守る為に対峙していた。

 相手が死神だったとしてもザジには関係がなかったが、直感で自身の力だけではダメだと感じ取った。それが、彼の中で感じたサスクールの中に存在していた異界の神の力。


 ギリムはかなり弱っていたと言っていたが、死神にとってはそれが邪魔をしている。

 精霊、魔王と種族に関係なく死神が倒せるのはあくまでデューオが居るこの世界だからだこそ。同じ死神であるサスクールは、存在を曖昧にしながらも死神への対策として神の力を宿していた。


 死神同士ならどうにか出来たとしても、異界の神が居ては死神の力は通じない。別世界の神の力はそれだけで、対策になってしまう。その時の事を痛感しながらも、ザジはあの場で上手く出来たのはギリムのお陰である事も理解している。



「学ぶ事も大事だと思って、自分の目で見て肌で感じて答えを出したい。そんで、お前の傍に居ても良いって思えるように頑張る。だから……って、どうした」

「別に」



 何だかムスッとしているサスティスを不思議そうに見る。

 お腹が減っているかと思い、食べ物を渡すも「違うって」と言いつつ貰う。しかし、サスティスの表情は晴れないままだ。



「……俺、なんか間違えたか?」

「そんな事ない。ザジの考えは分かるし、そう思っているのは良い事だと思う。……思うけども」



 なおも表情はぶすっとしている。

 そんなサスティスの様子に、何かを間違えたのかと思わざる負えないザジは目を泳がせる。話すタイミングを間違えたかと思っていると、不意にサスティスは立ち上がった。



「悪い。ちょっと1人にして」

「えっ」



 理由を聞く前にサスティスはその場から消える。

 あまりにも鮮やかに消えるものだから、最初からこの場に居なかったのかと思う程に。呆然としたザジは自分の発言が原因なのだ思い、ある人物を探そうと試みる。



「気配はサスティスと似た感じだし、多分あの人だったら……」



 そう思い行動を開始したザジは、サスティスと同じ魔王であり麗奈達が頼りにしているランセを探す事にした。一方でランセは、自分に舞い込んでくるであろう何かを察し手早く食事を済ませた。


 長く生きているとこういう妙な勘が働く上に当たる。

 復讐を終えたランセは次にどうするかと考えていると、ザジの姿が見えた。隣に居る筈のサスティスの姿がない事で何か相談事だと察したランセは、まずは落ち着かせようとザジに飲み物を勧めたのだった。


 

 

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