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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第8章:最古の魔王
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第360話:歓迎パーティーの始まり


 ドーネルは今から今かと待ちわびていた。

 彼が麗奈に渡したペンダントに反応があった。義兄妹の契りを結び、ディルバーレル国という後ろ盾を麗奈は得る。

 彼女が必要かそうでないと関わらず、ドーネルが勝手にやった事。1つの国を助けた功績としては、破格なものだろう。しかし異世界人である麗奈には、貴族なりのお礼の作法など分からない。領地や爵位を例に出しても、ラーグルング国に居るから要らないと言う。


 一国の主としてそれはどうなのか、と悩むドーネルが無理に推し進めたのがあの契り。

 国宝になるあのペンダントには、注がれた魔力がそのまま色となって表れる。

 麗奈は虹、ドーネルには風の緑色。これにより互いの位置を把握し、大体の場所すらも感知出来る。


 だからこそと言うべきか、そのペンダントが小さく光り出した瞬間にドーネルはギルティスに告げたのだ。速やかにお祝いの準備をしようっ!! と。



「ドーネル。気持ちは分かるけど、落ち着いて。体裁的には一国の主なのよ?」

「ちゃんと出来る相手、出来ない相手ってのが見極めてるんで無理しょうよ、王妃様。俺等はいつも通りに諦めに徹した方が良い」



 王妃となったスティが紅茶を飲みながら注意するも、近衛騎士団長となったグルムから暗に諦めろと言われてしまう。ドーネルも一国の主としての威厳はある。だが、それと恩人に会うのとではかなり態度が違う。


 スティは誰が相手でも、王としての威厳は崩さないで欲しいと願いつつ言った。しかし、相手が麗奈とユリウスであってはそれは無理であるのも理解している。一応の注意を言うも、幼い頃から自分達の事をよく知るグルムにとってはさっさと諦めた方が良いと結論を出した。



「分かってるけど……。はぁ、全くあの子が絡むと性格が変わるんだから」

「ははっ、違いねぇや」



 そんな話をしていると、ノックの音が聞こえすぐにドーネルが反応を示す。

 落ち着きがなく何度も歩き回っていたが、足を止めて扉の前へと急ぐ。いかに楽しみにしていたのかが分かる上に、自分が最初に会いたいのだというのが行動でよく分かる。



「待ってた――ぐはっ!!」



 出迎えたその瞬間、ドーネルを襲ったのは衝撃だった。

 顔面から思い切り来た衝撃により、一瞬だけ気が遠くなるのを踏み止まる。麗奈がこんな行動を起こす筈がないのは分かっているので、相手が誰なのかは大体分かる。



「うぐぐっ、何するんだよっ。ヘルスっ!!」

「見て分かるでしょ? 退治だよ、退治」



 冷めた目で言い放つのは、ラーグルング国の王になったヘルス。その後ろからラウルとキールの護衛役。その後ろからユリウスと麗奈が、ひょこりと顔を覗かせている。



「あの兄様。何で先に行きたいのかって、疑問に思ってたんですけど……ドーネル王を殴りたいからだったのか」

「えっ……。へ、平気ですか? 治します?」

「っ、是非お願い!!」



 まさかヘルスが殴ったとは思わず、麗奈はドーネルの軽く腫れた顔を治そうと動く。しかし、それをピシャリと断ったのは王妃であるスティだ。



「平気よ、麗奈さん。治癒は私だって使えるもの。敢えて使わないのは、ドーネルに反省させる為だから良いの。甘やかすのはダメ」

「え、あ……そ、そうなんですね」

「ひどっ!?」

 


 麗奈からの好意をあっさりと断るスティに、思わずドーネルは叫んだ。

 ヘルスに殴られたであろう左頬を抑えながらだったので麗奈は痛そうに見えたが、スティが笑顔で釘を刺してくるのでそっとするように空気を読んだ。



「ユリウス様、麗奈さん、こちらに座って。お互いに話したい事も多いから」

「はい。失礼します」

「スティさんが王妃になったのは驚きました。ドーネル兄……王が即位した時には確か居なかったような気がして」

「麗奈ちゃん、そこは兄様って言って良いんだよ!!」

「よし、黙れ。口を閉じろ」



 ヘルスが笑顔で指をポキポキと鳴らして戦闘準備を始める。ギョッとする麗奈だったが、ユリウス達はそこには触れずに席につく。止めようとする麗奈にユリウスがお姫様抱っこをし、その行動に驚いている内に席に座らされる。


 視界の端ではドーネルとヘルスの殴り合いにも似た暴れよう。思わず案内をしてくれた騎士達は、入って来ないのかと呟く麗奈にその疑問にスティが答えた。



「ギルティスが事前に通達していたの。これからドタバタと暴れる音がするけど、ただのじゃれ合いだから気にするなって」

「そ、そういうもの……ですか」

「私を含めて、ヘルス様の事を知っている人は多いから。昔から交流あるのも知っているし、ドーネルと会うのも久々。言いたい事の1つや2つはあるでしょう」



 スティの視線がドーネルとヘルスへと合わせられる。麗奈はそれを見て軽い殴り合いから、文句の言い合いに変わっている事に驚いた。

 キールから2人は仲が良く王族でも言い合うのが普通だと教えられる。



「イーナスの事も知っているしね。まぁ、私もドーネルの事は雑に扱っている」

「それが出来るキールさんの方がおかしいんですよ」



 呆れた口調で言い返すラウルに、ユリウスは無言で頷いている。

 少なくともユリウスは同じ王族を雑に扱う気はない。しかしここで言い返しても、無意味だと分かっているので敢えて言わないだけだった。



「ここでゆっくりしていて。2人の為に色々と準備をしているの。お土産のお菓子もあるのよ」

「え、良いんですか?」

「良いも何も私がしたいからじゃ、ダメだった? ギルティスは今、別件で手が離せないから彼の分も合わせてなの」

「うっ……それを言われると、弱いです」



 実はお菓子が気になっていた麗奈はチラチラと見ていた。

 全員が察していたが敢えて傍観を決め込んでいるだけ。ゆっくり出来なかったのも事実だった上、少しだけお腹が減っていたのもある。

 そう思ったからなのか、グ~ッとお腹が鳴り咄嗟に抑える。だが全員に知られており、笑いを噛み殺しているのに必死。涙目になる麗奈だったが、1つのマフィンを差し出した。



「大丈夫。麗奈だけじゃなくて俺も減ったから」

「うぅ……」



 目の前に出しつつ、空いた手でマフィンを食べている。受け取って、口にしつつも恥ずかしさで一杯な麗奈は味が分からないでいる。



「どうかな。薬草と混ぜたものだから、本来の味とは邪魔にならないようにしたの。少しでも疲労回復になればいいわ」

「スティさんの自作なんですか?」

「えぇ。ゆきさんとアリサちゃんから教わっててね。でも、2人が口を揃えて麗奈さんの方が絶対に美味しいよって教えてくれたの。今度、時間が合う時に教えてくれる?」

「わ、私で良いなら……」



 プレーンのマフィンの色にしては、少し薄緑色がありつつも味は甘くて美味しい。薬草の効能をお菓子にも使えるのだと思いつつ、自分達の世界にもハーブを使った料理やお菓子はあった事を思い出す。

 淹れられている紅茶には、果物の香りが漂いディルバーレル国の物を使っていると聞く。



「麗奈さんが泉を浄化してくれた事があったでしょう? その時から、森に変化が起きていて今では荒れていたのが嘘のように戻っているの。完全に戻るのには時間が掛かるけど、数カ月もすれば以前の森になるから感謝しているの」

「あ、じゃあこの子達にも協力して貰おうかな」



 麗奈が転移魔法で、精霊の子供を呼び出す。ヘルスから事前にそれらについての報告を聞いてたスティとグルム。綿毛のような小さな存在の精霊に、儚いと感じつつも秘められている魔力の大きさに驚いている。



《これなにー?》

《いい匂いするー》

《フワフワする》



 スティの自作のマフィンに精霊の子供達が集まってくる。

 土地の特徴に合わせた成長をするとウンディーネの説明通りなら、この子達にも森の再生に役に立つ筈だ。

 ふんわりとした毛並み達が、仲良くマフィンを分け与えているのは麗奈にそう教わったからだ。皆で情報を共有すれば成長の糧になるだろうと予想をつけての事。ブルームの魔法によって一気に精霊の子供が生み出された事とその魔力に麗奈とユリウスの力が備わっている事も話していく。


 虹の魔法については分からない事だらけであり、今まで扱えてた者は居ない。

 土地の再生に協力すると言ったスティに子供達は聞き分けよく言う事を聞いてくれた。麗奈とユリウスとは会う機会が少なくなるだろうと、説明すると途端にションボリしたのには罪悪感が沸いた。



《離れる……》

《パパ、ママと……》

《うぅ~》

「一緒に居る時間は短くなるけど、なるべく様子を見に行くからさ」

「定期的に各国の様子を見に行くのも含めて、絶対に会いに行くから」

《んっ!! 助けになるならがんばるっ》

《がんばるー》

《だっこ~。だっこして~》



 契約者である2人に飛びつく様子を見て、微笑ましいとさえ思う。

 するとギルティスからスティに通信が入り、パーティーの準備は出来ているという内容。グルムの方を見て、彼はラウルとキールに目配りをする。



「さて、と。少ししたら場所を移しましょうか。2人に会いたいのは私達だけじゃないから」

「あまり長居はしないですよ。この後、ニチリとダリューセクにも行く予定ですので」

「まぁそう言わずもう少しゆっくりしていて下さい。おもてなしの準備も出来ましたので」

「……おもてなし?」



 不思議そうな顔をするユリウスと違い、何故だか麗奈には悪寒が走った。

 ギュッとユリウスに抱き着く麗奈に、ある程度の予想はつけられたかと予想するスティ。そこへギルティスと彼に仕える幼馴染が現れ、更に警戒心を強めた。



「はぁ、流石です。麗奈様、私が現れた瞬間から既に警戒するなんて」

「前例がありますから」

「それは認めますが、前回も今回も貴方が主役なので悪いとは思ってないです」

「……あぁ、そう言う事か」



 ユリウスの傍から離れないのは、せめてもの抵抗だろう。

 前にもあったなと思いつつ、ラウルとキールへと視線を配るとただただ笑顔を返された。上手く嵌められたと思いながら、ユリウスは麗奈の説得を始める。


 パーティーで着飾るのを嫌う彼女は逃亡した過去がある。

 帰還を祝うものだと言われてしまえば、居なくなった事で迷惑を掛けていると思っている麗奈は強く出れない。

 いつの間にそんな準備をしていたのか。そう思う疑問もあったが、ドーネルの行動を思い返すと何をしてもおかしくないと思ってしまったのがまた不思議だった。



 

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