第358話:やり返すと決めた
「何故逃げるんですっ!!」
「君が怖い顔をしているからだよ」
王城を駆け回るのを止め、サスティスは空へと上がる。
それをランセとティーラは追って行き、本当にあのサスティスなのかと確かめる。
「その気配、魔族ではない……。もしかして、ラーゼと同じか」
「っていうと人間と魔族のハーフって事か」
「はあ。そうだよ、アイツに色々と頼んだの」
諦めた様にサスティスは振り返る。
見た目は生前と同じではあるが、魔族と気配とは違うものを感じ取った。こうした質問を色々と言われると思い、サスティスは逃げに徹したが逆に言わなければいつまでも追って行く。
そういう性格だったと思い出し、先に白旗を上げる事にした。
「生き返りって訳でもないけど、生前で良いと言ったのは事実。もう覚えているのなんて居ないと思ってたから」
「私は1度も忘れた記憶はない」
「だろうね。……私なんかの為に、復讐を誓う位だ。あの時の事、相当にショックだったのが分かる」
「貴方はっ……。貴方こそ、死んでからも死神になっていて……予想していたとはいえかなり驚いているんですよ」
「……そう。予想をされていたとは驚きだ、と言いたいけど私はそっちに何回か接触したもんね。負ける訳にはいかなかったからだったけど、流石にやり過ぎたか」
それに関してはデューオは文句は言ってこなかった。
必要最低限の接触は、既に麗奈の時に果たされている。自由にしていいと言ったし、仕事もこなしてくれればいいのだ。
サスティスとしては死神に関する記憶は消される覚悟でいたが、ザジもその辺の事は忘れていない様子。何で消さなかったのかと疑問に思った。
「それを消せば、存在理由がなくなるからだ」
「貴方の正体にも驚きましたよ。まさかアイツに創られた存在だったとはね」
サスティス達を追って来たギリムからの言葉に、驚きつつもそう返した。考えてみれば当たり前だったのかも知れない。
デューオも人の心が読め、ギリムにも同じ力がある。
その元を辿れば、デューオの力の一部を授かった死神と似たような存在。かなりの強さを持っていた理由が分かりながらも、ギリムを通してデューオは自分達の事を見ていたのかと思えば腹が立った。
「それにしても驚いたぞ。サスティス、死神になっていたなんてな」
「それが種族を変えて生き返ったのは流石に驚いたでしょ?」
「やはり、な……」
この世界では、生き返りは出来ない。
それはデューオが許していないから。創造主の性格や恩恵によっては、別世界では生き返りは出来るかも知れない。デューオとエレキは、どんな種族でも命は1つだという持論を持っている。どんなに寿命が短くとも、その人の人生や命の使い方を出来るのはその人のみだとしている。
だから今回の場合、破格な事をしたとギリムは理解している。
「サスクールが死神だったのは驚いたよ。貴方はそれを知っていたの?」
「知っていたら先に処理している」
「ザジも言ってたけど、異界の神が混じっていたから気配が読めなかった?」
「あぁ。彼が気付かなかったら、余も分からなかった。それにあれだけ距離が近かったからこそ気付いたとも言える」
「異界の神、とはどういう事なの?」
ティーラは難しい話だと分かり、呑気に欠伸をしている中でランセはギリムの事を睨む。サスティスは視線で伝えてないのかと訴え、ギリムは「あぁ、忘れていた」と悪びれもなく言っている。
「……」
「そう怒るな、ランセ」
「いえ。もう怒るのも無意味なのは分かったので」
諦めた様に息を吐く。そうする事で、かなり緊張していた事にも気付いた。
死んだと思っていた人物が種族を変えてきた事、生前と全く同じだったのもあり動揺していたのだと自覚する。
ギリムにその気はなくとも、これで安心して話をちゃんと聞ける。思っていた以上に、自分の心の荒ぶる感情が抑えきれなかったのだと自覚する。
「――そう。サスクールの気配が感じられなくなったのも、その異界の神のお陰だと」
「余の感知を逃れる為と同時に、デューオからの監視を逃れるのが目的だな。あまり力の持ちすぎる神だとデューオから発見される。弱体化した異界の神か、同じ創造主だったのかはもう確かめられないが」
「ザジから話を聞いたら、青龍と何度か交流したから感知出来たみたい。だからアイツは、サスクールに協力者が居る上にそれが神殺しだと思ってるよ」
「潜入している時にも、サスクールが直接指示を出しているような様子ではなかったしね。行動を起こさなかったんだと思ったけど、行動をしたその瞬間にギリムに感知されるから逃れる為だったのか」
「奴が警戒していたのは余だったのは、戦って分かったしな」
「そりゃあ警戒されるでしょ。創造主から創られた魔王ってだけでも死神と同じ位に嫌われるって……」
死神であったサスクールがどうして創造主に対して牙を向いたのか。
不思議そうに話すサスティスに、ギリムはあの時の感じ取れた事を話していく。
サスクールは結局変わらなかったと話していた。
その呟きに疑問を感じ、ギリムは考えた。デューオに与えられた役割を嫌がったか、嫌気が差したのか。もしくはそうなるように彼を動かされたのか、と。
「……まぁ、確かに繰り返す仕事内容だし嫌なのは分からなくもないね。私とザジがやれてたのだって、サスクールを必ず殺すっていう目的があったから出来た事だし」
「なら、やはりサスクールは利用されていたと考えるのが妥当か。波紋を広げる為の役目、とでもいうべきか」
「波紋を広げる……?」
ランセの呟きにギリムは答えた。
サスクールがサスティスを殺す行動を起こしたからこそ、ランセはその復讐を誓い故郷さえも失った。ティーラはランセの要請で、サスティスが治めていた国を調べるにあたり主であるランセの危機に駆け付けられずにいた。
彼が戻った時には、既にランセの治めていた国は滅んだ後。主である筈の姿も気配もなく、途方に暮れながらも奪ったであろうサスクールの許せずにいた。だから、彼はランセが生きていると仮定し仲間を集い探し続けた。
その中で、無差別に村や街を襲われた時にブルトと出会った事。
起こされた内容を述べている内、彼等は気付く。全てはサスクールが行動をおこした事での変化だと。
麗奈を中心として奇跡を起こしているように、サスクールを中心として出来事が大きくなっている事に気付いた。だからこそギリムはデューオの調査で分かった事を告げる。
「神殺しのやり方は、世界の基盤を壊す事。創造主の弱体化を狙うには、彼等が作った存在から弱らせていくのが効果的だ。災害や人災、それこそ世界が真っ二つになるような大きな戦いでも起こして創造主に直させる。それを繰り返していけば、いくら神と言えども疲弊するのは確実だ」
「サスクールは戦いを起こさせる為のトリガーだった、という事か。……だったら私達全員が、上手く踊らされた訳だ」
「うわぁ、ムカつくなそれ……。じゃあ、全部が神殺しの手のひらだったって事?」
納得していけば、後に広がるのは悔しさだ。
サスクールを殺す事に執念を燃やしていたサスティスとランセは、その感情すらも誘導されていたのだと気付く。
そうなれば、必死で状況を打破しようとしていた麗奈達にとってもいい気分ではない。全てが用意されていた舞台装置だったなんて、どうして許そうと思えるのか。
「それでどうする? このままやられっぱなしなのは嫌だろ……」
「「当たり前でしょ……!!」」
確認しなくても分かり切っているだろうに、ギリムは敢えて聞く。
用意されていたというのなら、全てをぶち壊す。思い通りになんてさせてやらないと言わんばかりの表情に、笑いを押し殺すティーラは思った。
(あぁ、こりゃあ……まだまだ楽しめそうだな。踊らされたのはムカつくが、この世界を壊そうとした報いは受けてくんねーと割に合わない)
「さっきヘルスから、2人の帰還祝いにパーティーをすると言っていた。余は参加するように言われたが、勿論お前達も来るだろ?」
「え、何それ行きたいっ!!」
「ちょっ、サスティス。さっきの勢いは何だったの⁉」
「それはそれだよ。種族を変えてまで、こっちに戻ったのは麗奈ちゃんの為なんだから。あの子の幸せを壊す存在は、私にとっては敵認定も当然だってば」
ザジも同じ気持ちだからこそ、デューオに無理を言ったのだ。
2度目の人生は、きっかけを与えてくれた麗奈に恩返しをする。その目的の為、自分達の感情すらも利用した神殺しは絶対に許せない存在。
それでもまずは休息が必要だ。
麗奈とユリウスの帰還を喜ぶ空気を暫くは味わいたい。そうする事で、あの2人がどれだけの人達の影響を与えて来たのかが分かるから――。




