第357話:忘れていた事
一方でサスティスはザジと共に魔物の対応をしていた。
とはいえ、空から来たドラゴン達がすぐに狩った為にそんなに時間は掛からなかった。そこでふと懐かしい気配を感じ取り、その方向へと見上げる。
(これは……。あぁ、忘れてたし失敗したな)
魔王ギリムの気配に気付き、向こうも同じようにサスティスの気配は分かっただろう。
例え魔族としての気配でなくても、彼ならば簡単に分かる。
「どう、ザジ。生きてるって感覚してる?」
「……。死神の時とかなり違うのは分かってる。確かにちょっとした事で疲れるような体は不便かもな」
でも、と言葉を区切る。
サスティスから魔法の使い方を教えて貰い、そのまま魔物へとぶつける。今までの感覚にはないものだが、教え方が上手いサスティスのお陰で苦ではない。
何度も手を握ったり、感覚を確かめるのは自分が人間の体を与えられた時だったなと懐かしく思う。
「でも……いい気分だ。デューオの奴に頼んで正解だったな」
「そっか。それは良かったね」
「良いのかよ、お前は」
「何が?」
少しだけ不機嫌そうなザジに、サスティスは意味が分からないと言った表情で対応する。
ザジはある願いをデューオにした。その結果、今の実感を得られるがまさかサスティスが来るとは思わなかったのだ。
しかし、サスティスからはザジの所為ではないし前から考えていた事でもあるから気にするなと言われてしまう。だが、それでもすぐには納得は出来ない。
「別に、そこまで世話しなくたって」
「何度目なの、それ。私が勝手に行動しているだけだし、ザジが気にする必要もないってば」
「……」
むすっとした態度をとるが、サスティスは知っている。
ザジなりの心配の仕方なのだと。彼の人生は、麗奈を中心とした世界だった。彼女の笑顔の為ならどんな無茶であろうと苦ではないし、傍に居ると決めたからにはずっと居る気でいた。
魔王サスクールに殺された事で、全てを台無しにされた訳だが復讐を果たした。
その為に麗奈との思い出を消すようにと頼んだ。
家族との約束を守れない自分が、再び麗奈の前に現れる資格もない。そう思い、接触を避けて来たのに結局はデューオの良いように動かされた。
そして、記憶を消してほしいと言いつつも本心では麗奈との再会に喜んで色々とやらかした。
それすらも、デューオにとっては読まれていた行動なのだろう。
彼はそれを笑って許し、好きに動けと何度も言って来た。まるでそうするのが、ザジの願いに繋がるとでも言わんばかりに――。
「責める必要ないよ。本当はザジの事を見送る気でいたんだけど、彼女と会ったからかな。……最後まで守りたくなったんだ」
優しい表情で言い、本心を告げるサスティス。
そこに嘘はない。むしろ本気だと分かる。短くともサスティスと組んでいたザジはそれを聞けば十分だ。
「じゃあ、これからも付き合ってくれるのか」
「うん。当たり前の事を言わないで」
「そうか。……そう、か」
思わずホッとした。
1人でいいと思っていた。麗奈以外とは一緒に居ないと思っていたが、案外サスティスと居るのは気分が良い事なのだと実感してくる。
それでハッとなる。もしかしなくても、寂しかったのでは思い始める。だんだんそれが恥ずかしい事だと思い、サスティスから視線を外す。
「どうしたの」
「いい。何でもない」
「そう? なんかおかしくない」
「おかしくない!!」
ムキになればサスティスの事だ。すぐに理由が分かってしまう。
体を無理矢理に空へと向け、顔を見られないようにと必死で動く。そんなザジの心情を知ってか知らずはクスリと笑う。
「まずはあの子達との合流を目指そう。行くよ、ザジ」
「お、おうっ」
王城へと足を進めるサスティスに慌てて追いかけていくザジ。
麗奈にはまだ伝えていない事がある。まずはそれを伝えに行かないといけない。説明をすれば、麗奈はどんな表情をするだろうか。
喜んでくるだろうか。それとも自身を責めてしまうだろうか。
たとえどちらであっても、そうでない反応だったとしてもサスティスとザジには関係がない。
彼等は自分の意思で行動を起こし、この世界に降り立つことを決めた身。どんな結果だろうと2人の目的はただ1つであり行動理念にもなっている。
生きる意味を見出だしてくれた、たった1人の少女の為に――この命を捧げるのだと。
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「麗奈ちゃんっ……ユリウスっ……!!!」
一方で麗奈とユリウスは衝撃を受けていた。
イーナスから叱られ、キールの転移で来たのでさぞ怒られるだろうと身構えていただけに思っていた反応が違い戸惑いが目立った。
だが、その理由を麗奈は理解したのがすぐにユリウスにそっと理由を告げる。
(あの野郎、とことん邪魔しかしないなっ!?)
ゆきの嬉し涙だけでなく、皆の反応からも相当の心配を掛けていたのだと分かる。
思っていた反応とかなり違い、どう処理しようかと思っていると後ろから衝撃が来た。見ると、アリサと風魔が勢いよく抱き着いた。
「ママ、パパ……」
『契約しているから大丈夫だって分かるけど、でも……それでも、会えるのは嬉しい』
アリサと同じ位の背丈の少年になり、風魔がそう訴えた。
麗奈がゆきを抱きしめ、ユリウスはアリサと風魔を抱き寄せて安心させるように何度も頭を撫でた。
「ゆき。その、何度も心配かけさせてごめんなさい……。ラウルさんから聞いてるよ。私達の事を探すのに、色々と大変な思いもしたって」
「うん。うんっ……。でも良いの。無事な姿が見られて嬉しいの!!」
「れいちゃん!!」
横からの衝撃にビックリしていると、ハルヒが怒りつつも嬉しそうな複雑そうな顔をしていた。ハルヒの後ろから咲とアウラが入ってきており、2人は涙を流して再会を喜んでいた。
「クポー!!」
「フポポー!!」
「ポポー!!」
「あうっ、ごめんなさい。一杯ごめんなさいっ!!」
麗奈の両肩、頭上、足や腕にドワーフ達がひしっと抱き着く。その筆頭であるアルベルトは定位置の肩ではなく、今が頭上を陣取っている。皆、再会を喜んでいるのと何で無茶をするんだと軽く怒られる。
「……なんつーか、アイツはいつもあぁなのか?」
「え、嬢ちゃんの状況の事言ってるならそうだ。としか言えないな」
魔族のティーラは思わずそう口にし、セクトはあっけらかんとした調子で答える。ティーラは後で麗奈と話そうと考え、主であるランセにそう教えようとしてふと彼が驚いた表情でいる事に気付いた。
「……どうしたんです?」
「何で、ここに……」
しかし、ティーラの質問に答える余裕がないのかランセはある一点を見ていた。
その視線を追ってみると、2人組の男が転移魔法で現れていた。1人はミントグリーンの長髪にオレンジ色の優し気な雰囲気。もう1人は黒髪に黒目の目つきが悪い男がおり、麗奈とユリウスの状況に少しだけ驚いていた。
ティーラはランセが驚いている理由を知り、同時に何故ここに来れたのかという疑問が浮かんだ。
「人気者なのは知ってたけど、ここまでとはね。……ザジ、君の存在が脅かされてるよ」
「うっせぇ。お前にも同じ事を返すわっ」
「麗奈さんっ、また知らない男を連れ込んで来てるっ……!!」
「なっ、ベールさん。連れて込んでないですってば」
顔を真っ赤にしてベールの文句を否定する麗奈。
そこでふと麗奈とユリウスは疑問が浮かんだ。ザジとサスティスの姿が見えているのではないか?
その疑問にサスティスがさらっと答えた。
「ごめん、言い忘れてたけど。私達、もう死神じゃないから。実体があるから、これからよろしくね♪」
「え、ええぇ!?」
「……」
「ザジ。後は頼むね」
「は? え、あ、おいっ!!」
じゃ、と言いながら逃げるサスティスに思わずザジはどういう事だと怒りをぶつける。そのサスティスを追って行くのはランセとティーラ。そこで、知り合いが居たのかと小声で言いながら、そう言えば魔王だったなと今更ながらに思い出した。
その後、フリーゲやブルト達と再会を喜びつつ死神だとはっきりと告げたサスティスの発言に驚きつつ、彼等2人をどう処理するかと頭を悩ませるイーナスにヘルスは「頑張れ」と言いつつこっそりと見る。
(次の機会にするか。あれではちゃんとした話も出来ないし)
ギリムはユリウスと麗奈に話そうと思っていた事が多々ある。
だが、今は2人の帰還を喜んでいる者達の邪魔をする気はない様子。ヘルスはそんな彼に、色々と報告があって大変だよねと話すとニヤリとなる。
「だろうな。まさか魔王と国交と結んでいるとは流石に思わないだろうし、これはデューオが進めて来たものでもある」
「と、言うと……他の種族との交流を持て、という事ですか?」
「それもある。神殺しに対処するには、こちらの場合全ての種族が力を合わせなければならん。種族間の連携も大事になるしな。ま、その課題に一番に対処しないといけないのは我々魔族なのだろう」
複雑な表情をするギリムに、ヘルスは協力は惜しまない事を告げる。せめて、助けて貰った恩くらいには返さないと気が済まないと言うのが理由だ。その言葉に、ギリムは初代国王を思い出し優菜の未来は繋げていける、という言葉に改めて思い出させた。
「2人のお祝いパーティーを開く予定なので、ギリムさんも是非参加して下さい」
「そうだな。……まずは、ランセの問題を片付けて来る。そのパーティーまでには終わらせて来るさ」
死神と告げたサスティスと、彼の死をきっかけに復讐すると決めたランセ。
まずは幼馴染に近いであろうこの2人の関係の修復に尽力しようと、すぐに魔力を探知して駆け足で向かった。




