第355話:再会する
キールは自身が契約している大精霊とバッタリと会い、お互いに報告する事に。
彼が感じ取れた魔力が、麗奈とユリウスのものだと分かり様子を見に行く。そこへ、魔物の大移動の様子を見に来ていたエミナスとインファルと再会。
精霊の見た目は、変わらないがそれでもキールとしては嬉しかった。
麗奈に協力するように言ったあの時、もしかしたら会えないとさえ思っていたからだ。
《キール!! アンタ無理してるんじゃないわよねっ》
「再会して確認するのがそれなの、エミナス」
《アンタ達2人はどんなに言っても直らないんだから。口うるさく言わないとダメでしょ》
《あんな事言ってるけど、再会出来たのが嬉しいだけだからね?》
余計な!! とエミナスはインファルの事を蹴り飛ばす。
この騒がしさを懐かしく思ってしまい、少しの間離れていただけとは言え体感的に1、2年位は離れている感覚でいた。それは創造主デューオと誠一達が対面した時に起きた。
彼等にとっては数分の時間しか経っていなかったが、後を追えなかったキール達はそこから3日待つ事に。そして無事に戻って来た時、アウラはハルヒに会った時に大泣きをした。
ヤクルも泣くのを我慢していたとはいえ、心配と焦りがあり普段通りになるのに時間が掛かった。
2人の無事を確かめようとして、デューオからの警告を受けたのだ。
あまり勝手に動くなら、再会するのを先延ばしにするという脅し。この件もあり、キール達はそれ以上の捜索を断念せざる負えなかった。
神を下手に刺激して、自分達が死んだ後に2人を返すというような事を平気でやりそうだった雰囲気もあり大人しくするしかなかった。
《……どうやら、離れている間に色々とあったようだね》
「え」
《なんか泣きそうな顔してる》
「……うん。まぁ、ちょっとね」
少し曖昧に答える。
創造主であるデューオがこの光景を見ているであろうと思い、下手に自分の意見を言えなくなったのもある。
《ま、そっちが静かなのは嬉しいけどね。代わりにあの子が色々と派手に動いてるし》
「簡単に想像がつくなぁ」
《私達全員との仮契約が済んでいるしね》
「……待った」
インファルの言葉にキールは理解が追い付かない。
頭痛を覚えるような感じに、あぁ自分がイーナスにしていた事ってこれかぁと実感する。しかし、それはそれとしておき再度インファルとエミナスの話を聞く。
麗奈に協力をした大精霊達は、そのまま彼女との仮契約をしている事。
実際、麗奈が4大精霊の魔法を扱った事があると聞き暫く無言になった。
《……でも今更でしょ?》
「あ、うん。それはそう……なんだけど」
《だって彼女は、私達にとって父親のような存在と契約しているんだ。子供である私達と縁を結べるのは当然の事だと思うけど》
やっぱり不味いのか、とインファルが言うもエミナスからすれば何もかも手遅れだと思っている様子。
最初の段階で麗奈がアシュプとの契約を成功させている。
例えそれが、サスクールの器として定められていた麗奈の経過観察だったとしても。
「いや、予想はしていた筈なんだけどね。……どこかでそれは有り得ないって勝手に決めて付けてた」
異世界人である彼女達は、魔力が多いと言うのは歴史が証明しているしその記録もある。
各国の認識としても、キールのような大賢者が出てくる事も普通にある。麗奈のしたことがあまりにも多すぎる為に、キール自身も考えるのを放棄していた部分もあったのだと思う。
「……はぁ。イーナスの言うように、国から出さないようにするのはもう難しいよね」
《無理でしょ!?》
《難しい、ね……》
即答するエミナスに、少し考えて答えを出すインファルの意見も同様だ。
ここまでくれば、麗奈の行動はデューオが許しているという意味合いが強まってきた。
彼は自由にさせる事での変化を好む。
破滅させるようなものなら最小限に抑え、周りに影響を与えるようなものならそれなりの範囲は許そうと行動を起こしている。
その対象として麗奈は標的なのだろう。
下手に麗奈を国から出さないようにすれば、恐らくはどこかしらでデューオの介入される。
それで事態が悪くなる位なら、今まで通りに自分達が傍に居て見守る方が被害は納まるのかも知れない。
(ヘルスは既にそれを見抜いているっぽいし、ユリウスは元から主ちゃん達の意思を尊重している。イーナスがブレーキ役になっているけど、それもいつまで保てるだろうか)
《あ、そうそう。魔物の大移動の様子を見ないと。ブルームお父様も久々に外に出て嬉しそうだし》
《そうだろうね。眷族のドラゴン達の気配も感じ取れるし、この騒動は彼等も処理するから終るのは早いだろうし》
「……」
エミナスの言うように、もう何もかもが手遅れなのだろう。
下手の止めるよりは、このままの方が案外良いのかもと思ってしまう。そうなると、自然と笑みが零れる。
「ふふ、主ちゃんは相変わらず周りを巻き込むよね。こっちが心配してたのだって、きっと分かってないんだろうなぁ」
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一方のヘルスは、ギリムの転移でデューオの言う面白いものが見れるという伝言を聞きその場所へと着いた。要人として対応しているフォーレスの人達も居る事は既に聞いており、それだけでイーナスは胃痛を覚える。
「全くあの2人は……」
「私は良いと思うよ。元気でやっているって分かるし」
「そんなのを目安にしないでくれ」
今までも多方面に巻き込んでいた麗奈。止める係であるはずのユリウスも一緒になっているのでは、意味がないじゃないかとイーナスからは睨まれ、ヘルスは「まぁまぁ」と宥める。
イーナスには悪いが、連れ出されたレーグとフリーゲは(あの2人だしな)と口には出さずにそう思っていた。
ギリムも散々ハルヒ達から聞いていたが実際に体験するとは思わず一応の静観を貫く。
「あ、ダメだよ。そんなに走ったら転んじゃう!!」
《うぅ、うわあああっ!!》
「言った傍から事故が起きてるっ。麗奈の言う通りに大人しくしてくれ」
《パパー》
「それは俺じゃなくてブルームだろ。俺はパパでもないし、麗奈もママじゃないって分かって欲しんだけど!!」
《ママー》
《パパ―》
生まれたての精霊を必死で追い掛け、場を収めようとしている麗奈とユリウス。
初めて触れる大地や空気に喜んでいるのか、毛玉のような精霊達は転がっていく。それを危険と叫ぶ麗奈だったが、別の方向からやってきた精霊達とぶつかり大泣き。
宥めようと動くユリウスだったが、別の精霊がくっつき先程から《ママ―》、《パパー》と言って甘えてくる。
《悪化してんぞ、2人共》
「手伝ってくれませんかね!?」
面白そうに呟くシルフにユリウスは切れ気味に頼んだ。
やれやれと言った感じでシルフが傍に寄り、小さな竜巻を用意してそれを当てるとフワリと浮かび上がり風を操作してクルクルと回し始めた。
「シルフさん、それじゃあこの子達が可哀そうです」
《大人しくして欲しいんだろ?》
「やり方をもう少し考えて欲しいなぁ、と……」
《全体の数の把握はまだ無理だが、ダリューセクで世話をしてみよう》
「え」
シルフにのしかかるフェンリルがそう答えると、ウンディーネが同意するように頷く。
彼女の説明から、この精霊の子供達には土地に馴染んで貰い成長を促してく。そうすれば、その土地だけの精霊になり、いずれは大精霊へと昇格する事も出来るそうだ。
《簡単に言えば、荒れ果てた大地にこの子達を住みつかせればその土地に合わせた成長が出来るの。元の魔力量は、2人のお陰でかなり多いから再生能力にも目覚めていると思うし》
「そう、なんですか?」
《2人だから出来る事だって言っておくね。普通ならその能力は、成長していく過程で生まれて育てられるんだし》
「あ、なんかごめんなさい……」
《別に構わないだろう。麗奈に何かしらのお返しは必要だと思っていた。こちらに頼って貰って良いんだからな?》
「フェンリルさんっ……!!」
また余計な事をしてしまったか、とショックを受ける麗奈だったがフェンリルからの申し出の思わず涙ぐんで抱き着く。麗奈の真似をしてファンリルにくっつく小さな精霊は、毛並みが良いからか眠そうにしている。
《……このまま寝かせておいた方が良いかもね》
《そういう事なら私がやろうか?》
「ノームさん」
ウンディーネの言葉に反応したのは、領地の外れに位置する村々を守っていたノーム。彼はニコリと笑顔を向けると、魔物の大移動での被害は抑えた上で村への被害はゼロだと報告してくれる。
《こちらの様子が気になって来てみれば……。麗奈さん、また何かやったの?》
「うっ、いつもいつもって訳じゃ……ない。と、言い切れないです」
《まぁ良いけどね。アルベルトが麗奈さんと居るの飽きないって言う意味がよく分かったし》
「ううっ……」
言い返せない麗奈は、そのままフェンリルの背に抱き着き無言になる。
ウンディーネが軽くノームを睨むも、彼は涼しい顔をして無視を決め込む。と、そんな彼等に近寄る気配があり振り返ればフォーレスから来た者だと紹介した。
「私はリーズヘルト。先ほどの戦闘では助かったよ。折り入って頼みがあるのだけど、話を聞いて貰えるかな」
《西側諸国のフォーレス……だったね。貴方の風貌には見覚えがある。無論、貴方達の直面している問題も分かっているよ》
麗奈との間に入ったのはノームであり、これ以上は近付くなと視線で訴える。
これにはリーズヘルトだけでなく、ウンディーネ達も驚いた表情をした。すぐに切り替えたのはリーズヘルトの方だ。
「これは手厳しいね」
「すみませんが、彼女はラーグルング国の所属の者です。話し合いの場は改めて設けますので、それまで待って頂けますか」
ヘルスがリーズヘルトにそう言いながら、麗奈とノームの傍に立つ。
ユリウスもヘルスの姿を見て驚き、後ろからキールとイーナス、レーグとフリーゲが小さい声で「お帰り」と言い再会を静かに喜んだ。




