第353話:逸脱した召喚師
突然、創造主デューオから落とされてしまった麗奈達。
それに大きく舌打ちしたのはザジとサスティスの2人である。
「クソっ。やっぱりアイツはムカつく!!」
「あー、もう。殺してやりたい程にイライラする。でももう行けないし!!」
「い、言いたい事は分かるけど。麗奈の方を助けないとっ」
気絶して力が抜いているからか落下速度が速い。
自身の中に居るであろうブルームを呼ぼうとして、ふと気付く。麗奈の体から蒼い気が見えた次の瞬間、彼女は青龍によって抱えられている。
ユリウス達の速度に合わせて平行しており、思わずその見た目に驚いた。
前まではあったはずの龍の腕は、人間の腕となり顔にあった筈の鱗も綺麗に無くなっている。見た目は完全に人間になっていた。
「あ、え……。い、いつの間に?」
『ん? 何がおかしいんだ』
「いやだって、腕とか鱗とか……」
『見た目に変化があったのなら、主である麗奈に変化があったからだろう。式神は共に成長するものだと、優菜に言われた事もある。あとは――』
そこで言葉を区切った後で、青龍は憎々し気に舌打ちをする。
嫌いな人物を思い出しているのだと分かり、それが同時に誰なのかと予想は付く。
「アイツか?」
『あぁ、奴だ。奴しかいない。今頃は分身にでも殴られているだろう』
「もっとやってくれ!!」
「右に同じくっ。同意しかないんだけども」
全員が同じ顔を思い出す。創造主デューオに対して嫌な印象しかない面々なので、痛い目に合ってくれていいと言う考えだ。
そんな中、ハッとしたように麗奈が起き上がる。青龍に慌てないよう言われるも、彼の容姿の変化に気付いたのだろう。凄いと言いながら顔をペタペタと触っている。
「いつの間にこんなに変化してたの」
『麗奈が様々な変化を受け入れたからだ』
「え、私……?」
キョトンとした顔で返されるも、青龍はそれ以上は何も言わない。
思わずユリウス達の方を見るも、彼等も分からないからと首を振った。だが、麗奈はどんどん青ざめていく。
何で自分達が落とされたのかが全く分からないからだ。
「ど、何処に落ちてるのこれ!?」
「国って言ってたからラーグルング国だとは思うが」
「弟君。国境って可能性はある?」
「え、あー。どこの辺境伯だろう」
「怖い、怖い、怖いっ!!」
『平気だ、麗奈。何があっても必ず守るから』
軽く涙目になっている麗奈に、青龍は優しく頭を撫でる。自身が安心していた行動をそのまま麗奈に返し、ザジも見よう見まねで同じようにやる。
ホッとしたいのに出来ない。麗奈の表情からそう察し、ユリウスはもう1度ブルームに呼びかける。
自身の周囲に虹の魔力が纏い、ブルームが応えているのが分かる。ユリウスはこれはいける、と思い彼の姿を強く思い出していく。
「起きれるか、ブルーム!!」
纏っていた魔力が、徐々にブルームの姿を形成していく。
バサリ、と大きな翼をはためかせ目を閉じていた大精霊他は起きて状況を察した。
《……全くあの方は。我に大役などを任せるのか。それで、何で落ちているんだ》
「わ、分かりませんっ!! お礼を言ったら落とされたんです。それもいきなりです!!!」
涙目でそう訴える麗奈に、ブルームは少しだけ考えて答えを出す。
《異界の女の所為だろう》
「え、お礼を言って落とされるんですかっ」
《……まぁそこはあの人の分かりにくさ、なんだろう》
「いや分からなくていいし」
「理解しなくていい」
「理解しようとするだけ無駄だよ」
『麗奈。俺からも理解しなくて良いと思う、と言っておく』
ブルームの意見に、ユリウス、ザジ、サスティスがそれぞれ答え青龍からも理解しなくて良いと言われてしまう。それはどうなのだ、と思うも口を開けばユリウス達から拒否の言葉を言われるのは予想出来る。なので、無言で頷くだけにした麗奈にブルームは《大変だな》と一言告げる。
《……このまま降りて良いのか。それとも国に行けばいいのか?》
「いや、ブルームのままで行くと止まる場所もないだろ。前にやった人の姿でとか出来るか?」
《面倒だ》
「そっちの姿の方が困るんだけどっ」
「んー。このままでも良いんじゃない? 丁度、野原だし」
《そうか。なら降りるぞ》
「ええっ!?」
驚く麗奈を余所に、ブルームは静かに降りていき青龍もその後を追う。
ブルームの隣に素早く降りた青龍は、そこから遠くを見て険しい顔をする。何があったのかと麗奈が聞くと、彼は魔物の大群が来ていると言った。
《確かにな。気配も感じる……。魔物の大移動にしては規模が大きいように思うが》
「方向は分かるのか?」
《ここから一番遠いのは我の正面。近いのは龍の子供が見ている方角。あと小僧、近くに人の気配がある。安全の為に連れて来るなら別に構わない》
「えっ……」
ブルームの提案にユリウスは驚きつつ、安全を守る為にもとその人の気配がする方へと足を進める。事情を説明するのにと麗奈も付き添い、青龍が2人の後を追っていく。残されたザジはサスティスは、ブルームの方を見て「優しいね」、「変わったな」とそれぞれ感想を言っていた。
「じゃあ、ザジ。ついでだから訓練しよう」
「は?」
「体を馴染ませないと、辛いからねぇ。魔法も使えるようになっただろうし、指導してあげる」
「……いい」
「遠慮しないで。ほら行くよ」
「断ってるのに!!」
抵抗をするザジを無視してサスティスは、引っ張り出して大移動していると思われる方向へと向かう。ザジの叫びを聞きつつ、ブルームは《魔王相手だしな》とポツリと言った。
「あ、あのっ!!」
一方でユリウスと麗奈は、人の気配がしたと言う方へと向かいその人物達と対面していた。
恐らくブルームが降りて来る場面を見られたとは思うが、今は緊急事態だと思い魔物の大群が近付いている事を告げる。
まだ距離はあるが、安全でなくなる事も言うと相手側は少しだけ考えた後で麗奈達の提案を受け入れてくれた。
「ところで、君達はこういった戦闘には慣れているのかい?」
「え」
「私達に説明してくれた大移動を疑っているのではないよ。ただ、こういった事に慣れているようにも思えてね。経験がないと対処も出来ないだろう?」
「ちょっとある位ですよ」
質問に驚く麗奈だったが、すぐにユリウスは簡潔に答えた。
時間も惜しいだろうから移動を優先しよう、と暗に感じた彼等は素直に従った。麗奈はそこで、興味深く見ている男性が気になっていた。
『悪意はない。あれば俺が気絶させる』
コソッとそう言った青龍に、麗奈は程々にと頼みブルームの居る所へと向かう。
ザジとサスティスの姿がない事に驚くも、ブルームから勝手に行ったと言われあの2人ならやりかねないと思い、何かあれば向こうから連絡が入るだろうからと深く追わないと決めた。
《麗奈さん、ここで私達を召喚していいよ。相手は魔物だし、精霊召喚は麗奈さんしか出来ないしね》
そこで、麗奈に脳内にノームの声が響く。
ユリウスにこっそりとそう教え、ブルームの方を見ると彼は無言で頷いているので派手にやって良いのだと思う。
「皆さん、協力をお願いしますね。ここに集いて、力を示せ――大精霊召喚!!」
直後、麗奈の足元と頭上から様々な属性の魔方陣が浮かび上がりゆき達が契約している大精霊達が姿を現していく。
10体以上にも及ぶ精霊達の召喚にも驚くが、それを1人で行っている麗奈を見てラーグルング国に尋ねていたリーズヘルトは思った。
(どうやら、私達が求めている物を持っているのは彼女のようだ)
しかし、そんな彼も知らないでいる。
その様子を見ていた創造主デューオはクスリと笑い、すぐにギリムへと連絡した。
探している者は国境に居る。面白いものが見れるだろうから、急いだ方が良いと告げると分かりやすく舌打ちで返事が返って来た。




