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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第33話:村、バーナント篇~アリサ~②

 バーナントと呼ばれる村。

騎士国家ダリューセクからは数キロ離れた場所ではあるが国の保護下とし、その周辺にある村々も同様に国の管理下に置かれている。作物が豊かであるが、野生の動物により作物を荒らされながらも静かに暮らすごく平穏なもの。



 その村を管理し領主として暮らすある少女が居た。銀色の髪をツインテールで揺らし、銀の瞳が嬉しそうに両親に向けられている。アリサ・バール・ディルナス10歳は、このバーナントに生まれたごく普通の娘。


 彼女達の家は村の奥にある大きな屋敷。代々領主として治めて来たディルナス家は、男手が少なくなってきた事で少しずつ衰退の一途を辿っていた。土地が豊かで作物が育てやすい環境として始めは水を引き、水路を作ろうと奮闘した。村人達は奮闘する彼等を手伝い、山から水を引けるようにと知恵を出し、畑を作りその畑で作った野菜や果物を売り生活の足しにする。


 そういった過程をする中で、まとめる者が必要だと誰かが言った。畑の取り合いから起こる作物の取り合いなど、いざこざが起こる中で仲裁し共に手を取るようにとしてきた。

 そうしている中で、まとめてくれる彼が領主として周りから認められやがてダリューセクにも足を運ぶ事が増えた事で収入を多く得るきっかけを生んだ。畑で育てた作物が好評だったのだ。自分の努力ではなく皆の努力でなったと言う彼に、周りは関心を示し男爵と言う爵位を授かるまでに大きくなった。



「よーし、これで冒険者になれるぜ!!」

「さっさと出て行って大金持ちになってやる!!!」



 今日も成人を迎えた少年達が村を出て行く。男爵として珍しがられたのももう何百年も前。ダリューセクで男爵としての位は珍しくもなくなり、下手をすれば冒険者を管理するギルドマスターの方が位が高いとして周知に広がっている。

 そのマスターになるのには相当な努力が必要だが、一獲千金を狙うような気迫で村を飛び出していく。魔物が増え、それらの討伐又は素材の収集などの需要が高まり比較的に手が出しやすく職がつく冒険者が人気の職としてこの村にも広がっている。



 元々、野菜や果物をメインにしていた為にどうしても男手が必要になる。冒険者と言うのが言葉として広がり、職として認知されるようになってからは成人をして早々に村を出て行く男達が増えて来た。お陰で、村に居るのは幼い子供や老人が多く若い人達が居ない始末。



「………良い所なのに」



 ぶすっとなるも誰もここ良さを分からろうとしない。自然が豊か、野生の動物達が作物を荒らしたりするがそれでもゆったりとした時間の流れ。その流れがアリサは好きであり、こうしてお茶を飲みながら会話をするもの好きであり少年達が「冒険者!!冒険者!!」と騒ぐ者達を睨む。



「アリサちゃん、これどうぞ」

「ありがとうございます♪」



 はむっと食べればパキンっといい音を立ててクッキーを食す。くまのぬいぐるみを持ち美味しそうに食べるアリサに、クッキーを渡したおばあちゃんは上機嫌。



「息子はもう来ないから、アリサちゃんが娘みたいで嬉しいよ」

「……やっぱりもう、来ないって思うの?」



 息子も今村を出て行った少年達と同じ成人してすぐに村を出た。冒険者としてダリューセクのギルドの行きそのまま連絡はない。手紙も出したのかと聞けば、書いても返事が返ってこない、と悲しそうに言う。




「…………」



 冒険者も魔物の討伐など命を危険に晒す任務などがある。安全に行くなら採取、運び屋などを行えば良いがその手の任務で貰えるお金は少ない。魔物が村を襲い、街を襲い一夜にしてなくなるのは珍しくない。どうしても魔物の討伐の方が賞金として高く一番稼ぎやすい。



「まったく、何処で何をしてるんだか………一度くらい帰ってきてくれればいいのに」



 母親を残し、この村に嫌気がさして出て行ったと思われる息子。この村にも魔物の脅威はあるのもののダリューセクから派遣される駐屯騎士達が見回りをしている為、狙われても対応は出来る。



 そんなある日、悲劇は何の前触れもなく起きていた。


 アリサは両親と共にダリューセクに来ていた。父親の知り合いが娘の為にドレスを仕立ててくれた、と言うものでそれを取りに来たのだ。



「わぁ~~~人がいっぱい」



 正門から入り行きかう人々の多さにアリサは足を止め感動していた。国が大きいとここまで凄い迫力なのか……と呆けていると正門を守る騎士がにこやかに「初めてですか?」と聞き「うん!!!」と元気よく頷けばお礼にと飴をくれた。



「……良いんですか?」

「内緒だよ。いつも来る商品達はもう慣れているから……君みたいな素直に喜んで貰えるのが嬉しくてね」

「ありがとうございます!!!」

「楽しんで下さい。また縁があればダリューセクに遊びに来てください」

「お母さんたちにもそう言いますね」

「こらアリサ」



 いつの間にか話し込んでいたのか、母親が少し怒った表情でアリサを見ている。見張りをしていた騎士から、事情を聞くも「人が多いから離れないで」と言われてしまい2人して謝った。



「仕事中にすみませんでした。アリサ、行くわよ」

「はぁ~い♪」



 案内して貰ったのは装飾品を扱うお店。しかも、見た目も中で売られている物も高そうなものばかりで正直場違いでは?と思ってしまう。しかし、奥で父と母が話している物腰の柔らかい男性は嬉しそうに話を弾ませていた。



「………ドレス?」



 首を傾け疑問を告げる。10歳になったアリサの誕生日として、ここの店の主人がドレスを仕立てそして見せてくれた。紫のドレスには、肩や胸元の部分には大きな紫のバラがあしらわれていた。本物かと思って触ってみればフワリ、と手触りが良い思わず目を見開き何回か感触を楽しむ。



「気に入ってくれたかい?布で作った花でね、見た目も本物に仕上げるようにしたのが大変だったんだよ」



 喜んで貰えて良かった。と嬉しそうにしてくれるので「……着ても良いですか?」と聞けばニコリと笑い「誕生日祝いだもの、良いですよ」と試着室に案内され母親に着方を教わりながら奮闘する事30分。



「着れた!!」

「おぉ、アリサちゃんの髪に映えて良かった。お似合いですよ」

「………」

「こら、何呆けてるの!!!」

「…………」

「奥様、静かに泣いておられてます……」

「お父さん、だ、大丈夫?」



 と、娘に聞かれ思わず抱きしめ「お嫁に行かないでくれ!!!」とまだ先の事なのに……と呆れる母親と店の主人。遅くなる前に、と場所まで村まで送り届けている途中に村の方からか黒い煙が出ていた。



「貴方方は馬車から出ないで下さい。我々で様子を見て来ます」



 馬車と護衛の騎士達が居るだけでも破格な対応なのに、ここで火事なのかと思わず不安な気持ちが募る。お父さんは道案内として騎士達と共に行き、馬車には母親とアリサの2人だけが残った。




======



「っ、これは………!!!」

「すぐに警戒態勢をひけ、魔物の襲撃だ!!!」



 思わずむせ返る匂いと惨状に目を背ける。肉が焼けるような匂い、体を放り投げだされた後動かなくなっている子供、老人達。駐屯しているはずの騎士達の死体も見え、魔物の襲撃なのは明らかだった。



「っ、何故、こんな事に………」

「あら、またお客様?」



 ドシャ、と死体を無造作に置き佇む女性。黒いドレスを身に纏い、紫に瞳は面白い獲物が来た、と語りすぐに斬りかかった騎士の攻撃を苦も無く弾き返す。ズル、ズル、ズル、と何かを引きずるような音はあの女性から聞こえてくる。



「ふふっ、弱い弱い。人間なんてみーんな弱い生き物♪」



 その引きずった場所から魔物達が現れ襲い掛かるように命令を下す。そこからは早かった。騎士達は対応する為に立ち向かうも、女性から伸びた影に刺され絶命していく、狩りを楽しむ様なその仕草に恐ろしさと同時に娘と妻を馬車の中に置いてきたのを思い出し危険を知らせようと動く。



「探してるのは………この子かしら?」

「お父さん……!!!」

「っ、アリサ、フェル!!!」



 何故、と疑問が湧いた。しかしその疑問に答える前にフェルと呼ばれた妻はピクリと動かずに放り投げだされる。思わず追いかけ抱き抱えれば「ア……リサ………」と娘の名前を残し絶命してしまった。



「お母さん、お母さん!!!」



 泣き叫ぶ娘は影に捕まり動くことも出来ない。何故、何故……と何でこんな惨状が起きたのか妻を奪われたのか……疑問が尽きない。しかし無残にもそれに答えを得る前に、父親も黒い槍が降り注ぎそのままピクリとも言葉を発する事もなく死んでしまった。



「あ、あああぁ……」



 バチッ!!と影を弾き、自由を得たアリサはそのままお父さんとお母さんの所に行く。2人共、血に濡れ動かない。何度揺らしても起きる事無く、ドレスが汚れるのもお構いなしに揺らし続ける。



「な、んで……何で!!!」



 ドクンッ、と大地が唸るような強い力。アリサの足元に紫色の魔方陣が浮かび上がり魔物達に向けられる。跡形もなく消え去る魔物に、目の前の女性は目を見開き「魔法か……!!」と警戒を強めた。

 その瞬間、女の体は吹き飛びアリサは強く睨む。奪った者に、村をめちゃくちゃにした魔物に、そこに慈悲もなく手加減もない。




「こわれちゃええぇぇぇぇ!!!!」




 その日を境に村は消滅。焦土と化しそこに住む生き物達は全て居なくなった………はずだった。




========



「今、の………」



 黒騎士から感知したと言う強い力。そこに向かうまでに魔物達の妨害があったが、ユリィと黒騎士の連携で苦も無く進めた。黒騎士が何もない場所に剣を突き立て空間を歪ませる。

 歪んだその先に入れば、自分達を襲ってきた少女が居た。紫色のドレスを身に纏いクマのぬいぐるみを大事そうに抱え、眠るように動かない少女の周りには黒い蛇が佇みこちらを睨んでいる。



「っ、あの子の……記憶、か」



 ガクリ、と膝を折るユリウスに麗奈も立ち尽くすしかなかった。蛇に睨まれた瞬間、アリサと言う少女の記憶を全て見た。村で起きた悲劇、自分の誕生日祝いとしてしたててくれたドレスが今は血に濡れている。綺麗だと、嬉しそうにしていた少女に起きた突然の悲劇。



(ランセさんが言ってたコントロールの難しさは……この事だったのか)



 魔方陣が浮かび、村を消滅させたあの力は間違いなく闇の力。魔法協会が暴走の危険度を示すのも頷ける。そして、その力は自分にもあると思い改めて力の扱い方に恐怖した。



(っ、弱気に、なるな……。まずはあの子を助ける!!!)



 自身に活を入れ、双剣に魔力を宿し蛇を切り倒す。ギシャ!!!と、様々な方面から攻撃してくるのを、札で強化した結界に全てを阻まれる。黒騎士も同じように動き数を減らしていく、ピクリ、と瞼が揺れ反応する少女の動きを麗奈が見逃さなかった。



「アリサちゃん!!!」



 寝ている少女に大きな声で呼びかける。ユリウスと黒騎士が、闇を纏った刃で全ての蛇を切り倒しアリサの所に向かう。触れる寸前、黒騎士がユリウスの前に移動したのと弾き返されたのは同時だった。



「ぐはっ……」

≪っ、魔族……≫



 広い空間に壁はないはずなのに、2人は叩きつけられ球体に閉じ込められる。見れば寝ているアリサと同じ、少女の姿がこちらを睨んでいた。顔を少し傷付けられているが、その傷よりもここに麗奈達が居る事の方への警戒を強めていく。



「まさかここに来るんてね」



 あの時もそうだった、と言い放ち真の姿を現す。黒いドレスに紫に瞳、足元から魔物を呼び出すそのやり方はアリサの村を襲った魔族そのものだった。



「貴方、村を襲った魔族。何で、何でこんなことを」

「何で……?おかしなことを言うな、女。今のを見て分からなかったのか?このアリサと言う少女、闇の力を保持していたんだぞ。使わない手は無いだろうよ!!!」



 消滅した時、魔力の消費で倒れたアリサ。体を乗っ取りギリギリで生き残った魔族である自分は回復に努めていた。万全になった時、乗っ取った少女を殺しそのまま若い体へと成り代わるはずだった。



「最後の最後で抵抗し、体だけは渡さないようにしていた。だから見た目だけコピーしもう一度村を作り出した。領域まで広げられたのだから、この人間には感謝しないとな。アハハハハハハハ!!!」



 それを聞いて麗奈はキレた。魔族に黒い雷を放ち、水と風を複合させた術で足元に出て来た魔物を倒していく。風魔がバキン!!と見えない壁を食い尽くし、眠っているアリサを助け出す。



「人の心を弄んで、調査に来た魔法師さん達まで殺して………。こんな女の子に一生消えない傷残して………どういうつもりよ!!!!」



 そこでひと際、大きな雷が魔族を直撃しユリウスと黒騎士が囚われていた球体にもヒビが入っていく。これなら破れる、と確信した彼は真下から振り下ろされた氷によって完全に脱出する。



「ラウル!!!!」

「遅くなってすみません、陛下」

≪君も平気か?≫

≪………すま、ない≫

「グリムゾン・アロー」



 魔族の足元に魔方陣が浮かんだと同時に無数の矢が降り注がれる。フワリ、とした浮遊感に驚きつつも知っている声に安堵した。



「お待たせ主ちゃん」

「キールさん!!!」

≪あ、よろしく。貴方名前は……?≫

「えっと、麗奈です。お馬さん」

≪お馬……≫

「ふっ、あははっははは!!!!ちょっ、主ちゃん!!!お馬さんって…………彼等これでも神聖ある力の強い精霊なのに………そ、それを………」

≪叩き落とすわよ!!!!≫



 急に笑い出すキールにキョトンとなる麗奈。ラウルは感動していた一角獣達をお馬さん、と同じ馬として一括りにしてくる麗奈に頭を抱えた。ユリウスも初めて乗せて貰った一角獣に「悪い、麗奈は……精霊をあんまり知らないから」とよく分からないフォローを入れた。



≪いやいい。面白いお嬢さんだな……キールの奴が構うのも分かる≫

≪降りろこの年下趣味!!!≫

「君等精霊も同じようなものでしょ!?」


 

 振り落とそうとするエナミスにしがみつくキール。風魔は麗奈とアリサを乗せ下を見る。未だ炎が辺りを包むこの空間に不穏な気配を感じ辺りを見渡す。自分を見る視線を感じ振り向けば、蛇がこちらを睨み影が集まっていく。息を切らしながら麗奈達を見る魔族は憎々し気に声を荒げる。



「おのれ、人間風情が………我が領域を汚すな!!!!!」



 大きな闇の力が辺りを包む。空間が歪む中、ズルリと足を引っ張られる風魔。蛇が絡みつき下へと引きずり込もうとしている。それはアリサを抱き抱えている麗奈にまで及び、ズルズルと下へ下へと底なしの沼に誘うようにしていく。



(アリサちゃんが狙いか……!!)

「麗奈!!!」



 風魔を巻き込まれる前にと、考えていると蛇に絡みつかれ下へと落とされる。穴へと落とされる瞬間、ユリウスは反射的に体が動いていた。嫌な予感を感じていた彼はそのまま麗奈とアリサを、追いかけようにして沼へと自ら飛び込んだ。




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