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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第2話:卒業式



 卒業式と立て看板が学校の正門に置かれる。後輩たちが卒業する先輩達に向けて手作りの花を付けていくのをぼんやりと見ていた。




(そう言えば、私達も作ったな……)




 そう懐かしむのは麗奈だ。彼女はゆきと登校しているが、2人で並んで歩いた事は今までない。彼女はここでは地味な女として認知されている。

 目立つことを抑え、影のある暗い女を演じているのだ。




「先輩、卒業おめでとうございます」

「どうも」




 素っ気なく答えるも後輩は、後ろから来た先輩の所に向かい同じ事を繰り返す。別に麗奈の態度に怒る事もない。

 そこに黄色い声と「先輩、おめでとう♪」と祝福に近い声に思わず振り向く。




(相変わらずの人気ぶり)




 土御門(つちみかど) ハルヒ。

 金髪に青い瞳の見た目。雰囲気は柔らかく、女生徒の間にはファンクラブがある位の人気ぶりだ。そしてゆきの彼氏でもある。




「あ、そんなに押さないで。怪我したら大変だからさ」




 見た目が外国人だが日本語は上手いのは父親が日本人と言う事らしい。麗奈は彼を見ると妙な胸騒ぎを覚えるが、気のせいだと思い距離を詰めないようにしている。

 だと言うのに、自分に近付く足音が聞こえまさかと振り向けば――。



「麗奈さん。僕達、卒業だね」

「……」




 無言で頭を下げ、急いで離れる。

 キョトンとなるハルヒはどうでもいい。その時、タイミングよくゆきが声をかけて来た。




「おはよう、ハルヒ!!」

「おはよう、ゆき。今日も綺麗だね」

「っ、もう!! 朝から変なこと言わないでよ」




 挨拶を返さない麗奈に対し、ハルヒを慕う者達からは「なに、あの態度!!」、「ハルヒ様が声を掛けてくれたのに!!!」などと聞こえるが無視した。




(はあ……疲れる。何であの時、見逃したんだか……)




 思い出すのは1年の入学式。

 同じクラスになった麗奈に嬉しそうに話すゆきに、彼が突然声を掛けて告白をしたらしいのだ。

 その時寝ていたが、周りから祝福される声に起きて……顔を赤くしたゆきとニコニコとするハルヒを見る。


 親友に彼氏が出来たのは麗奈にとっては嬉しい事であり喜ぶべき事だ。

 だが、麗奈は直感的に彼を好きではない。何故だかは分からないが……。




「九尾、何で殺気立ったの」




 靴を履き替え、教室に向かい際に小声で話す。

 肩には子ぎつねサイズの九尾が乗っており、清との喧嘩を終わらせてきた後だ。

 九尾はハルヒを見て『はっ』と鼻で笑い、麗奈にこそっと答える。




『最初から嫌なんだよ。昔、俺を封印した奴と被るし雰囲気がな。………殺したい位にイライラしてくんだ』

「ゆきが怒る」

『分かってる』




 短く返答をし、教室につけば誰もいない。

 静かに息を吐き九尾の愚痴に付き合う。この瞬間が好きであり、ハルヒの相手をゆきに任せつつ中を見渡す。




「前世に退治された時の陰陽師と被るのなら、契約しなきゃいいのに」

『ははっ、確かにな』




 尻尾をフリフリと揺らし、『あとで撫ででくれ~』とねだる九尾に小さく笑いそのまま撫でる。清もなのだが、どうにも麗奈に撫でられると癒されるらしい。


 彼女も癒しを貰っているから別に良いかと言う気分で、九尾と遊んでいた。


 その時、麗奈は知らなかった。


 ハルヒがゆきと話す中、彼はずっと九尾と麗奈に視線を向けていたのを。



======



 卒業式は午前中に終わり、部活動がある生徒は部員に別れの挨拶をしたり、高校で別れる友達と話したりしている。


 家に戻れば、怨霊退治に動く。だから急いで向かいたいのに、近付く気配に嫌気がさした。




「なにか?」

「よく分かったね」

「用があるので――」

「これから時間ある?」




 本日2度目。

 逃げたいのに相手は意に介さない。来るなと睨んでも、変わらずの笑顔でお願いだと言われる。




「ちっ」

「……驚いた。そんなに嫌い?」

「はい」

「はっきり、言うね……」




 少しだけショックを受けたように思うのは気のせいか。

 用件はなんだと言えば、一緒に帰らないかと言う答えが返ってくる。返事の代わりに彼の横を通り過ぎ、靴に履き替えているとある疑問が浮かんだ。




(人の気配が……ない!!!)




 すぐに距離をとり、数枚の札を取り出す。

 それを四方に投げ付ければ、一瞬だけ歪む空間。九尾にはゆきの護衛を頼んで居る為にこの場には居ない。




「どういうつもり。土御門」

「うわっ、そんな事言わないでよ。……もしかして聞いてないの?」

「だから――」

「結婚する話、だよ」

「は?」



 

 思考が鈍る。

 結婚? 誰と誰が……。自分と目の前のコイツが? 




「あ、知らないんだね。酷いなお嫁さんに知らせないだなんて」

「な、にを……。バカなこと言わないでよ!!!」




 ゆきとの交際をどうするのかと、声を荒げた。 

 彼はその反応に驚いた様子であり、どこか懐かしむ様な笑みに麗奈は分からないとばかりに首を振る。




「あれは遊びだよ?」




 その返答を聞いて、咄嗟に行動を移した。ハルヒの真横に雷が落とされたのだ。

 人に当てるつもりもなく、牽制の意味もない。ただの八つ当たりに近い攻撃にハルヒは動かず、変わらない笑顔で麗奈に向けて手を伸ばす。




「今なら怒らないよ。だから……僕と一緒に行こうよ」

「嫌だ」

「意地を張るのはよくないよ。……ゆきがどうなってもいいの?」

「っ、お前!!!」


 


 瞬間的にカッなり、すぐに冷静に努めようと思考を働かす。

 相手の思うつぼになるのは良くない。そう思い、睨んでいるとハルヒの前には既に数人の大人が居た。


 ただし、生きている気配のない式神だ。


 その証拠に顔の部分には面が付けられている。静かに後退する麗奈に、相手もまた追うように詰め寄ってくる。




(相手は……アイツと合わせて5)




 数秒の内、式神の1つが麗奈へと突進する。

 それを紙一重で回避し、顔を腕で庇う。ドッ、と横殴りにされながらも受け身をとり目を離さずに動きを見る。




(これで!!!)




 1枚の札に霊力を溜め、刀の形へと変化させ同様に武器を持っていた式神と切り結ぶ。1体の式神は同じく刀だが、もう一方は鎖鎌だ。




「へぇ……凄い。顔は狙わないから平気だよ。ちょっとだけ実力を見たいしね」




 唯一の救いはハルヒが手を出さない事。

 

 安堵はしないが、さばけるのも限界がある。ジャラと腕に巻かれた鎖に麗奈は結界で、式神ごと封じそのまま「滅!!」と攻撃の合図を送る。


 鎖鎌を持っていた式神は、結界の中で爆発を起こし形は残らない。

 刀に変えていたのを、札へと戻しすぐに霊力を溜める。


 


水柱・竜牙(みばしら・りゅうが)!!」




 竜を象るそれらが飲み込む。

 それだけに収まらず、ハルヒへと目標を定めて一気に距離を離した。今の内にと外に出れば、空は雨雲を呼ぶように黒く染まり異様な気を感じさせた。




「なにが、起きて」

『麗奈ちゃん!!!』




 空から清が降り、この異常に慌てて来たのだと告げるとそのまま空へと上がる。思わず人に見られないかと心配になったが、空を見上げるばかりで誰も気に留めない。


 その異様な光景。悪い事が起ころうとしているのだと感じ、急いで家へと急ごうと告げる。


 この現象を父なり、武彦が知っている可能性もある。同時に先に帰った筈のゆきがどうしても気に掛かった。




「ゆきは平気なの。いや、その前に結婚って何の話!!!」

『今の土御門家のアイツと麗奈ちゃんとの婚約をするように協会から言われている。そんなの誠一の奴は断ってきたし、学校の目もあるから向こうは手を出さなかった。……強制的に連れて行く気満々よ』




 この現象は全て怨霊の仕業だと聞かされ、驚いた彼女は再び下を見る。

 人々は皆、何かを待っているように空を見上げている。車もバイクも、何もかもが停止し同じように空を見上げている様子。


 ゾッとした光景に、胸騒ぎだけが募る。

 天候さえも変えるような力を持った怨霊は大災害指定となる。陰陽師、浄化師の総出で封じなければならない大仕事だ。

 



「ゆきは!? 怨霊に魅入られやすいゆきはどうなっているの」




 裕二は自力で力を見付けたが、ゆきはそうではない。

  

 襲われて以降、ゆきは怨霊が憑きやすくまた体を乗っ取られやすいという厄介な体質になっていた。


 それを本人は知らないし、伝えていない。

 知っているのは現場に関わった者と、陰陽師として修業をしていた麗奈。裕二が毎朝のように確認するのも、祓うと同時にゆきを守る為の手段。

 

 元々、屋敷には多重に結界を張っているしゆきは学校から戻ってから出掛けたりはしない。彼女を守る為の結界でもあり、怨霊に悟られないようにしていた。




『バカ狐はゆきちゃんの護衛してるから平気。………えっ』




 空中で走っていた清はピタリと止まる。

 九尾からの報告に段々と青ざめていく。それだけで、親友がどうなったのかを麗奈は悟る。




「……何をするにもまずは対策。急ごう清!!!」

「ダメですねぇ、それは」




 はっとした2人は、自身に結界を張る。

 同時に真上から降り注いだ雷が彼女達を襲う。




「う、くっ……」




 結界の強度には絶対の自信があった。

 特に麗奈は守る力が強いのだと言われ、それに特化した戦い方を積んでいた。だというのに、その雷は結界をも貫きダメージを残していく。




「ほう、意識があるのか。これはこれは……」




 いつの間にか後ろから声が聞こえ、反撃に転ずるもグラリと揺れる。意識が保てないと分かり下へと落ちる感覚。




『麗奈ちゃん!!!』




 プツンと糸が切れた様に、麗奈は気を失う。最後には誰かに支えられる感触だけが残った。

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