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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第352話:神様の祝福


「ほら君達、もう彼女の事を解放してくれ」

「えー」

「もうちょっと話したい」

「待て待て、増えてる。おかしい位に増えてるよ!?」



 そう残念がるのは、エレキとエレスの創造主の姉妹。間に挟まれた麗奈は既に疲労困憊であり、2人からの質問攻めにどうにか耐えたように見える。


 するとエレスから、自分の世界でのアイテムだからと綿毛の妖精を召喚。それを麗奈へと手渡し癒しを与えていた。姉のエレキも小さな光を1つ取り出して、麗奈へと手渡し妖精と共に周りを飛び回る。そして、その後ろから無言で立つ巨大な影があった。



「ヌオオ……?」

「あ、すみません。話を聞きたいんですけど、ちょっと聞く体力が……」

「ヌオ、ヌオッ」

「え、今度でも良い? 会う機会はあるだろうからって? でも、会うのはこれが最後のような気も」

「ヌオオ♪」

「そう、ですか? じゃあ……次の機会に、会えるのを楽しみにしてます」

「ヌオッ!!」

「嘘だろ……!! 何でそんな違和感なく居るのさっ!?」



 膝から崩れ落ちているのは創造主であるデューオ。そんな彼の様子を見ていたフィーは「ま、そうなるよな」と言いつつこうなると予想はしていた。現にフィーによって創られたラフィも口を挟まずに見守る姿勢を貫いている。

 彼は麗奈と過ごした上に世話をしていたのもあり、こうなる事であろうことは予想済み。

 見守る姿勢を貫きつつも、小さく何度も頷いていた。



「何で君達は無言でいられるの!?」



 文句と質問を同時に浴びせられたユリウス達は逆に何で分からないんだよ、と言った表情をしていた。愕然となりそうになって、デューオは気付いた。自分が一体、今まで何を見ていたのかを。



「あーいや、いい。何でもない……。そうだね、彼女だからって言うのが強いよね。うんうん」

「ふふ、私達の子供だもの。流石だって思う」

(由香里さん、凄く楽しそうだな)



 嬉しそうにしている由香里の様子にユリウスとザジは同じようにそう思っており、そんな2人の思考が簡単に読めるサスティスは微笑ましそうに見ていた。

 その視線に気付いたザジは気まずそうに顔を逸らす。逆にユリウスはその意味が分からず、キョトンとしているとザジから「見るなっ」と理不尽な怒られ方をされてしまった。


 

「デューオ」

「ダメだよ」

「まだ何も言ってないじゃん」

「互いに何を思っているかなんて、今更な事を聞かないでよ。ダメなものはダメ」

「……」



 むすっと睨むエレキにデューオは慣れているのか綺麗に無視している。

 その態度が腹立たしいと思いながら、チラッと麗奈の方を見る。彼女は今、妹のエレスの使者と軽く遊んでいる。

 遊ぶという表現だが、傍から見れば大きな影がそのまま麗奈の方へと飲み込まれている。慌てるユリウスだったが、フィーから気にするなと言われてしまい他の創造主達が慌てていないのを見てどうにか我慢。

 ザジも同じく動こうとして、ラフィに止められる。彼の説明から言えば、あれは彼なりの挨拶なのだとか。



「挨拶……? あれがか」

「異なる世界の法則が違えば、環境も違いますよ。エレス様の世界には、人間はおらず動物達や妖精達が居る世界だと聞いています」

「妖精……。あれが?」

「定義はそれぞれ異なるので、そこは理解してくれ……としか言えませんね」

「お、おう……。そう言う、事なら」



 どうにかして理解しようと務める。ユリウスも、妖精のイメージからかなりかけ離れた存在だと思ったが異なる世界だと説明されてふと思った。同じ妖精でも、創造主が違えばその存在も意義も違うのだろう。そうなると、彼等から見て自分達は一体どう見えているのか……。


 聞いてみたい気もしたが、要らぬ地雷を踏みそうであり質問はしないで置こうと考える。



「ヌオ、ヌオ」

「なんというか、真っ暗なのに不思議と暖かい感じがします。優しい性格なんですね」

「ヌオ♪」

「……あの度胸も凄いからね。君が動こうとしてるのは間違ってないからさ。今まで見て思ったけど、彼女は本質を見抜く力が強いんじゃないかな。ありのままを見ても、見た目だけに囚われないんだと思う」



 サスティスからの説明で、前にエレキに言われた事を思い出す。

 麗奈は生者にも死者にも気に入られているのだと。麗奈が褒められているのが余程嬉しいのだろう。由香里はずっと笑顔であり「娘だもん、可愛いもんっ」と褒めちぎる。



「ま、まぁ……。俺も初見でやられたら、慌てるのに麗奈が慌ててないので危険はないなって思いますけど。あ、いや、だからか……多方面から気に入られるのは」

「だからって最速過ぎる!!!」



 既に麗奈の起こしている行動に慣れているユリウスはそう結論付け、デューオも分かっていたが言わずにはいられない。その間、黒い影はズズッ、と引きずるような音を立てながら離れていく。視界が急に明るくなったから、麗奈はその眩しさに顔をしかめる。


 だが、すぐにまた暗くなった。あの妖精が自身の体を使って大きな壁となったのだ。目が慣れて来るまで回復した麗奈はすぐにお礼を言った。気にしないで欲しいと言っているのか、軽く体をユラユラと揺らす事で意思を伝えている。



「そう言えば、何で麗奈は言葉が分かるんだろう。俺は雰囲気でしか捉えられないけど」

「……それも凄いですが。恐らくは使者から会話の許可を得られたのでしょう。普段はその世界での言葉で発するので」

「あ、そうか。ラフィさんは心の内が読めるから会話に困らない、と」

「その許可を得られるのも、本来であれば無いに等しいのですが」

「あぁ、うん。麗奈だしな」

「苦労なさっているようで、何と言って良いやら」



 振り切ったように肯定したユリウスに、ラフィは思わずそう返す。

 デューオもそれを理解しているからこそ、麗奈の行動を監視するようにザジとサスティスに頼んだ。全てとは言わなくとも、麗奈を起点に変わっているのも事実。

 だというのに、更に使者と関わらせようなどと思うも既にその壁を突破している。あの姉妹は、自ら進んで麗奈に自身の世界での使者と関わらせている。


 いくらデューオがダメだと言っても、もう止まる気はない。

 フィーも「分かってたろ?」と言われて、それにも仕方なく頷く。そして、更にと言うべきかエレナとエレキからある施しが行われていた。



「私、即死魔法の無効化を捧げるわ。何かと狙われて大変だもの。ちょっとでも守る術として自由にしていいからね」

「あら、エレナ。そう言ったものは姉の私に譲るのよ。即死系の魔法は私の方が多いんだから」

「あ、そうだった。でももう上げちゃった♪」

「仕方ない、エレナだから許す。じゃ、こっちは呪い系統の魔法の無効化を捧げるわ。元々、呪術について扱っていたのなら対策はしてると思うけど、念には念を入れてっと」

「え、え、え……!?」



 どんどん話を進んでいくのもだが、女神からの授かりものに顔を青くする。思わず助けを求めるようにデューオを見るが、フィーと共に「諦めて」と言われてしまいされるがままになった。これにはユリウス達はそっと同情するように視線を送るしか出来なかった。



「じゃあね、麗奈。お父さんの事、お願いね?」

「うん。……あ、そうだ。デューオ様に確認がしたくて」

「え? 何の確認かな」



 そうしてデューオに耳打ちをし、ある内容を確認する。少しだけ考えた後で、デューオからは平気だと言われホッとしたように息を吐いた。ユリウスの方も両親と会話を交わし、兄のヘルスを支えると約束をする。

 他に伝言は無いかと聞くも、両親からは兄弟が元気でいてくれればそれだけで良いと言われ、少しだけ寂しそうにしている表情が気になった。そこでユリウスは、1度も出来なかった事をした。生前では出来なかった事――両親に抱き着いたのだ。



「俺はもう寂しくないです。周りに恵まれましたから……。一時は居ない方が良いと思っていたのも事実ですが、もう暗く考えるのを止めます。俺を生んでくれて、愛情を注いでくれてありがとうございます」

「「っ……」」



 そう宣言する息子に、驚きに目を見開く。特に母親の方は、別れが来るのを予想していたのにも関わらず早くに涙を流していた。関われた時間は少なくとも、ユリウスを支えてくれる人達はあんなにも大勢に居るのだと改めて実感した。

 もう母親に甘えていた幼い息子ではないと感じ、その成長を嬉しく思いながらも少しだけ寂しい気持ちも抱いた。



「後は頼んで良いか」

「はい。王族の1人して、1人の男として頑張ります」

「うむ……。成長は早いな」



 自分が死んだ時、ユリウスはまだ幼かった。そんな彼を残して、そして1人で背負わせてしまうであろうヘルスにも申し訳がなかった。しかしここから先は、生き残った者達の戦い。既に死んでしまった自分達に出来る事は応援する事だけになる。


 それを悔しく思いながらも、そうする事しか出来ない自身にも苛立ったが見送らないといけないと思い切り替えた。



「あんまりゆっくりしていると、合流するの遅れるから。少しは急ごうか」

「合流って……何処に?」

「自分達の国にだよ。当たり前でしょ」

「どっか適当に飛ばすかと思ってたので驚きました」

「何で喧嘩売られてるのかな、ホント」



 すぐにデューオと喧嘩になり、その光景が面白くてフィーはずっと笑いを堪える。一方でラフィは麗奈へと改めてお礼を言っていた。



「ここまでの時間を過ごす事が出来て良かったです。良い経験になりました」

「私もラフィさんと過ごせて楽しかったです。治療も力を扱う授業も、改めてありがとうございました。お陰で皆さんの事をちゃんと戻せそうです」



 麗奈に協力してくれている大精霊達の事を指していると分かり、ラフィは命を受けただけだと言う。それでも麗奈は、変わらない感謝をしてくれる。お互いに握手を交わせば、次に影の妖精と光の妖精、綿の妖精にも同じことをする。

 その際の彼等の反応は、新鮮なのか嬉しいのか舞い上がったようにはしゃいでいる。



「喜んで貰えた……みたいですかね」

「言葉を発しない代わり、全身を使っての表現が多いです。彼等にもとっても貴重な体験でしょう」

「えへへ、だと良いな」



 デューオが帰還させる為に転送魔法の準備に入る。

 優菜は麗奈に抱き着いた後で、破軍達の事を任せるのと同時に最後まで迷惑をかけてしまった事への謝罪をする。

 麗奈はそれを抱きしめ返しながら返事をした。



「優菜さん。最初に来たから、私もここに来れたんです。アシュプさんとも契約をしたのだって、最終的には自分の意思です。絶対に目覚めさせます」

「うん……お願い。アシュプはずっと責めてるだろうし……」

「早く再会出来るように、私も頑張ります。デューオ様!!」

「どうしたの?」

「事情はどうあれ、この世界に来れて嬉しいです。勿論、デューオ様にも会えて嬉しかったですし感謝してます」

「……そう」



 そう返した瞬間、大地が消えた。

 支えられる筈のものがいきなり無くなり、麗奈と優菜は「え」と発するので精一杯。気付いたユリウス達が追うように動こうとして、同じく地面がなくなっている事に気付く。



「んなっ……」

「てめ……!!!」

「あー、クソっ。こうなるのか……」



 事態に追い付けないユリウス。ザジとサスティスは、それぞれデューオへの文句を言いながらも睨み付けるのを忘れていない。

 フィー達から呆れられる視線を送られるも、デューオはいつものように無視。手をヒラヒラと振り「さっさと戻れ」と言い彼女達をラーグルング国へと落とす。


 真下へと落とされ、そんな急な方法で落とされるとは思わず、麗奈は叫ぶのも忘れて気絶してしまった。





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