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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第348話:ギリムの忠告


「それで……君達はすぐにこっちに来たのか。怪我を完全に治さないまま?」

「……」



 無言を貫くハルヒにギリムは呆れた。ミリーを密かに見れば、彼女からはヒシヒシと殺気に似た睨みを浴びせられておりランセも静かにしていたが、心の中では穏やかにはなっていない。



「……こちらにすぐに知らせようとしたのだろう。気持ちは分かるがラウルの言うように自身の体を労われ」

「情報は早い方が良いかと思って」

「リーム。すぐにハルヒを治療室に連れて行け」

「かしこまりました」

「へ、え、え……」



 戸惑うハルヒに構うことなく、ギリムとリームはさっさと連れて行く。

 一方でミリーはランセにある確認を取っていた。



「意思がある異世界人でも、今度の相手は残虐性があるようだな」

「はぁ、麗奈さんが知ったらショックを受けるだろうな。ゆきさん達も今日はゆっくりしないとダメだよ。ハルヒ君みたいに怒られたくないでしょ?」



 念を押すように、ランセが笑顔でそう言えばゆき達は無言で頷いた。

 そうしながらもハルヒを怪我させてしまった自身の行動から、咲は悪い方向へと考える事が多くなった。



「咲」

「あ……。ナタール、フィンネルさん」



 心配そうに顔を覗き込むのはナタール。

 傍にはフィンネルもおり、彼もナタールと同じく顔を覗き込んでいた。



「まだ自分を責めるのですか」

「だって……」

「今回は相手が特殊過ぎたんだ。これを機に行方不明者に関しての依頼はギルドではなく、騎士団が引き受ける事になった。これはセレーネ様だけの判断ではない。ギルドマスターや同盟国の王族とで決めた事だ」

「……」

 


 フィンネルの言葉を受け取りながらも、咲の頭の中ではハルヒだけでなくナタール達が死ぬかも知れない、という恐怖に取り憑かれた。



「ご、めん……。ちょっと1人にして」

「あ、咲……!!」



 引き留めようとしたナタールの手を振り払い、咲は逃げるようにして駆けた。



「ナタール。密かに様子は見ておけ。思い詰めて何をするか予想が出来ない」

「分かり、ました……」 



 そう答えつつ、ナタールは咲の後を追う。

 自身を責める咲に、出来る事はあるだろうかと考えながらナタールもまた考えが上手くまとまらないでいた。



====


「悪いが記憶から見るぞ。直接、顔を見たのは君が初めてだろうからな」

「え、だってラウルさんも見たと思うんですが」

「彼は一瞬だ。しかも魔物から人々を守りながらの戦いだから、見ていたとしても意識はない」

「逆にやられながらも、相手を睨む気迫を忘れないハルヒ君の方が凄いので」


 

 リームがそう説明すると、ハルヒはやられぱっなしは嫌いと理由を言う。その意気が凄いと褒められているのか、呆れているのか分からない声色で、言われてしまい更に困惑。



「コホン。早速、見るぞ」



 会話を遮るように、ハルヒの頭にギリムの手が置かれる。少し緊張したが、徐々に意識薄れていくのを抵抗する。



「抵抗するな。体も休ませろ」

「っ、でも……」

「君等は休め。こちらで頼んだ事だが、出来る事はある。ラウルの言うように、休む事を覚えろ」



 意識を失い、眠るようにして体の力が抜けていく。強制的なギリムに思わずリームは、クスリと笑ってしまった。



「なんだ、人の顔を見てニヤニヤと」

「いえ。世話好きもここまで来ると凄いなぁと」

「お前に言われたくはないな」

「そうですか?」

「そっちこそ向こうで行動を起こして変わったな。無関心を貫いていただろうに」

「……それはまぁ。ある人に会ったのが原因ですね」



 リームを見ると前よりも晴れやかな気分でいるのが分かる。

 ハルヒの記憶から神殺しを名乗った青年の容姿は分かった。が、リームと記憶を共有した所で互いの認識が違う事に気付く。



「用心深いですね。この時点で、既に認識阻害を行ってくるとは」

「共有した時点でこうなるのか。では、本当に顔を近くで見れたハルヒはラッキーだったと言うべきだな」

「これでは共有した分だけ相手の顔が違うとなると、情報での共有は今後は危険ですね」

「それよりも、実際に相手は姿形を変えてくる可能性も視野にいれておくか」

「ではもう既に……」

「あぁ。相手の方は既に、こちらの世界に牙を向いている。準備を進めよう」



 そう言ったギリムは、部下を何名か各地へと派遣。

 魔物の異常性という変化も含め、報告が上がるまではハルヒ達を休ませる事を優先。リームもその意見に賛成のようで、暫くは休養をしておくように説得する事になる。

 午前中はハルヒ達に休んでもらい、午後ギリムは被害を受けたとされる村の方へと行こうと考える。その時、彼等を誘えば少しは気分が違うだろうと考えた。


 咲が自身を責めているのは、ギリムから見ても分かりどうにかして少しでも元気になって欲しいと考える。



(まぁ、そこはあの子がどうにかしそうではあるが)

「どうしましたか、ギリム」

「いや……。悪いがハルヒの事を頼むぞ」

「分かりました。午後出かけるのでしたら、仕事は終わらせて下さいね」

「思い出したくない事を平然と……分かった。早めに終わらせよう」



 一方、ナタールを避けるようにして逃げた咲は走っていた足を止め周りを見る。

 城の中を無我夢中で走ったからか、自分が何処に居るのかが分からないでいる。思わずしまった、と迷子になったと気付き途方に暮れているとアリサが手を振っているのが見えた。



「咲お姉さん、お帰りなさいっ!!」

「あ、アリサちゃん。……うん、ただいま」

「どうしたの? 何か元気ないよ」

「え、はは。ちょっと……ね」



 2人が話しているのを遠くから見えたナタールは、付かず離れずの距離を保ちつつ咲に見付からないように隠れる。丁度、その様子を見ていたラーゼが不思議そうに首を傾げていると視線が合いナタールは黙って置くように、と軽く説明をした。


 ハルヒ達が帰って来た事を知りつつも、何が起きたかまでは知らない。

 何かがあったのだと察しラーゼは静かに頷きそっと同じように見守る。と、そこにクーヌがルンルン気分で入ってくる。

 アリサと共にお菓子作りをしようとしていた為、その準備が出来た事を知らせる。



「おっと、これは咲様。失礼しました、気付かなくて……」

「良いんです。私も知らない内にここに居たって感じで」

「もし時間があるなら、一緒にお菓子作る?」

「へ……」



 突然のお誘いに咲は思わず迷う。

 アリサはワクワクした目で見ており、断り辛いなぁと思いクーヌを見るも彼はルンルン気分が抜けていない。来てくれると嬉しいなぁという感じで見ており、そんな期待で見られてしまえば咲は断ると言う選択は元からない。


 思わずラーゼが場を読めと言わんばかりに、クーヌに向けて睨む。

 その殺気に近いものに、彼はビクリと体を震わした後で思わず周りを警戒。魔物の侵入は有り得ないが、万一にも思い見てるとラーゼと視線があった。



(あ、ラーゼ様からの睨みでしたか……)

「あれー。どうしたの、アリサ」

「あ、ディークお兄ちゃん。今からお菓子を作るんだけど、お兄ちゃんも一緒にどう?」

「え、何それ。参加するする!!」

「坊ちゃん、まだミリー様から頼まれた事が――」

「案内してアリサ。僕もやりたい」

「はぁ、もう聞いていない……。坊ちゃん。全力で拒否ですか」



 聞いていないフリをするディークに連れられ、咲も参加する事になった。

 人数が増えたにも関わらず、全員分のエプロンや三角巾があるのはクーヌの用意が良いからだろう。それと彼から言わせれば、ただ何となく人数が増える気がした。という勘もあるかもしれない。


 久々に誰かと共に作ると言う作業をした咲は、少しずつだか心が晴れていく感じになる。

 サボっていたのがミリーにバレたのか、すぐにディークを追い掛けていき外が騒がしくなる。チラリとクーヌを見ると彼はもう「ささ、気にせず、気にせず」と切り替えている。


 良いのかな、と思いつつ咲は悩みがありつつもアリサと共にお菓子を作る作業を続ける。

 簡単なクッキーではあるが、咲からすればかなり久々。しかもクッキーの型抜きは麗奈がこの世界に転移された時に持っていた物を使っている。


 そこで、咲は麗奈がお菓子が作るのが好きだったのを思い出しちょっとした事なのに助けられているのだと心が軽くなる。



(あぁ、ゆきちゃんが言ってたのはこういう事か)



 ゆきは一番近くで麗奈と共に過ごしてきた。

 そんな親友は、麗奈の何気ない仕草やちょっとした事で救われた事があると聞いた事があり――今まさに、自分がそんな感じになっていると気付く。



(……うん、そうだよね。いつまでもくよくよしてたら駄目だよね)

 


 あとは焼くだけとなり、焼き上がるまでの間に咲はさっきまでの自分の事を話す。

 クエストでの自分の失態、ハルヒに負担を強いてしまった事。今は少しずつ前を向いて行こうと思えると話すと、アリサは「私も応援するね」と答える。


 誰かに話を聞いて貰うだけで、随分と自分の心が軽くなるのが分かる。

 元気になった咲は、休憩したハルヒ達を誘いゴブリン達に攫われた女性達の様子を見に村に行くことにした。


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