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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第345話:悪夢を喰らう


「ん、んぅ……」



 パチッ、と寝苦しさを覚えたアリサは目を覚ます。

 隣を見れば、黒い子供の狼が気持ち良さそうにスヤスヤと寝ている。それに安堵するように息をしてから、静かに起き自分が掛けていた薄手のタオルをかける。


 ここは、ギリムの治める魔界。

 気候は安定しており、夜の方が少し涼しいと人間にとって環境的に過ごしやすい。それはギリムと結婚した者が人間だったのだと教えて貰い、彼が人間という種族に対して慈愛すら感じられる程の整えられた環境。



「……」



 ラーグルング国をふと思い出すのは、慣れた気候が魔界とよく似ているのもある。そして、いつもなら麗奈かユリウスと共に寝ているので人の温もりが欲しくなる。

 そう思ったからなのか、アリサは気配を消すように静かに寝室を出た。

 目が覚めてしまうと、次に来るのは好奇心。

 この薄暗い廊下を静かに歩く。ちょっとワクワクしている彼女は知らない。ひっそりと静かに、しかし確実に彼女の後を追う存在を――。



「だぁ~もう疲れた」

「早いぞ、ディーク」

「うぅ、僕はこういうの苦手なの」

 


 泣き言を言っているのは魔王ディーク。

 そしてそんな彼の傍にはギリムとミリーの2名が居る。ディークが何かを読んでいる、もしくは書き込んでいるのは書類らしきものを真剣に見ていた。

 アリサはまだミリーと面識がないので、いきなりの美人がここに来て驚き思わず「わっ……」と小さく驚きの声を上げる。



「……」

「どうした、ギリム」

「いや。何でもない」

「うぅ、何で2人はここに居るのさ。同盟の内容確認なんて、改めてしなくても良いじゃん」



 不満を口にするディークに、ミリーは言った。珍しくやる気になっているディークには、色々と学ばせないといけない、と。

 それを聞いてげんなりしたディークはまさかと思い、疑問を口にした。



「もしかしてあの人の代わりをしろって? うわー、最悪」

「そうとも言うな。人間との交流をしようと思ったんだ。これは良い兆しだと思われても仕方ないだろ」

「珍しくやる気なのはそっちもじゃん!!」



 ぶすっ、と子供のようなただをこねる。そんな彼にアリサはクスリと笑い、ディークの明るさや接し方を見て魔族への恐怖心が薄れていく感覚を覚えていく。

 この魔界に来て快適だと思えるのも、環境を整えるギリムの手腕もあるが彼の存在も大きいのだろう。

 こっそりと魔王である3人の様子を見ていると、気配なく後ろからポンポンと肩を叩かれた。



「っ……」



 怒れらる、と思わず目を瞑るも何も起きない。

 あれ? と思い顔を思わず上げるとクーヌが口に手を当て「そのまま静かに」と、小声で教えてくれる。コクリと頷くと、隣の部屋へと誘導されて静かに入る。



「驚きました。こんな夜に起きているのは珍しいですね」

「ごめんなさい、目が冴えちゃって……。その、お城の中も気になってたからちょっと冒険をと思って」



 言いながら目を逸らすのは、アリサの中で悪い事だと言う認識があるからだ。

 しかし、クーヌはその原因が彼女の不眠である事も理解している。そして、城の主であるギリムもその件に関して怒るような素振りもない。

 


「まぁ、私が怒る理由もないですしアリサ様の自由にされると良いですよ。ですが、道が分からなくなると大変ですから私なり坊ちゃんを捕まえてでも良いので」

「え、ディークお兄ちゃんも……良いの?」



 思わずコテンと首を傾げた。

 今、こっそりと見ていてディークは忙しそうにしていた。仕事中だと思っていただけに、そんな事を提案されるとは思わなかったのか驚いている。



「構いません。坊ちゃんは退屈を嫌いますが、次に嫌いなのは仕事なので……。今はどうにかギリム様とミリー様が見張っているからやっているだけですから。気分転換に連れて出して平気です」

「へ、へぇ……良いんだ。クーヌさん、その手に持っているのは一体」

「これは坊ちゃんへの夜食……。いえ、おやつですね」



 クーヌは小さく作られたドーナッツを5つのせた皿を持っていた。

 大人しくしているディークだが、暴れ出すかもしれない。そうでなくても、いつもはしない仕事をしてストレスを感じてるだろう。

 少しでも仕事に集中して貰う為に、とここ数日は夜食という名のおやつをディークに持って行っている。



「……夜に甘い物。太らない?」

「坊ちゃんはそう言うのとは無縁ですね」

「良いなぁ」

「それに自身で魔法を練るより、武器に魔力を通す方がコントロールが難しいので結構疲れるんですよ」



 クーヌの説明では、武器に魔力を乗せて戦う場合、威力が上がる代わりに武器にも耐久が必要とされる。通常の武器では、魔力を乗せた時点ですぐに壊れてしまう。魔力を用いる戦いでは、付加される力も強い為に耐えられる武器は自然と特殊性が求められる。



「武器の大きさに合わせて、自身の魔力を上乗せするので調整がより必要です」

「じゃあ、咲お姉ちゃんが苦労しているのもその所為?」

「咲様は……。そうですね、彼女はかなり特殊ですから説明が難しいです」



 アリサは咲が魔力のコントロールについてかなり苦労しているのを知っている。

 麗奈やハルヒ、ゆきと同じ異世界人なのに咲はかなり厳しそうにしているのを見ているからだ。同時に本人からもそれが悩みだと聞いているので、アリサが出来る事は少ない。

 しかし、話を聞くだけでも違うと教えてくれたのは麗奈だ。

 誰かに話を聞いて貰えるだけでも、心の中がスッキリしたり悩むのに疲れたりしないからだ。



「今までの行動を見る分に、あの方が自身の魔力に翻弄されているのです。ランセ様が教えてつつ、今は抑えられています。が、今度はそれを攻撃や防御に転じた時に崩れやすいそうなので」

「魔力に……」

「強すぎる力を無理に抑えると、体への負担が大きいですから。大精霊フェンリルのコントロールが上手過ぎたのも原因ですかね」



 体の負担と言われて思い出すのは、自分が魔族に体を乗っ取られた時の事。

 同時にその時の恐怖を感じたのか、ギュッと自身の体を抱きしめる。



「アリサ様……?」

「あ、うん。大丈夫……」



 そう答えたアリサの様子が気になり、近付くと少しだけ冷や汗をかいているのが見える。

 ポンポンと優しく頭を撫でれば、少し迷い気にこちらを見るアリサと目が合う。何か伝えたいのだろうと思いながら、クーヌはアリサの言葉を待った。



「あの、クーヌさん」

「はい。何でしょうか」

「私、この頃上手く寝れなくて……。クーヌさん達は違うって分かるのに、魔族って聞くとどうしてもお父さんとお母さんを傷付けた魔族の事を思い出して……怖いんです」

「……」

「それに、初めて魔法を使った時に力が溢れすぎてて……よく覚えてないの。何だか、それが怖くて……また、誰かを傷付けちゃうのかもって、思ってて」



 今までの不安を思わず零した。

 誰かに話を聞いて貰う。それすらも、アリサには勇気がいる事だった。ゆきやハルヒ、咲には話せないと思ったのは忙しくしている彼等の邪魔をしたくないから。

 気遣いをする小さな女の子に、クーヌは夜食のお皿をテーブルに置く。そして高く抱き上げた後で「偉いです」と褒めた。



「え、偉い……?」

「アリサ様。よく話してくれました。そんな恐怖と今までずっと戦っておられていたのに、胸にしまっておくのは苦しかったでしょう」

「あ……」

「そう見られても構いません。ある意味では同族でありますが、我々は恐怖を与えようとしている存在ではないのです。坊ちゃんやラーゼ様を見て、少しでも違うと思ってくれたのなら嬉しい限りです」



 言葉をそこで切ったクーヌは、アリサを下ろしてある提案を告げる。



「そのお詫びと言っては何ですが、その恐怖が夢に出てくるのであれば取り除きましょう。私の魔法は悪夢を喰らうものですから」

「悪夢を……?」

「アリサ様の不眠は、根本的に言えばそこから来ています。魔族は怖いものだと無意識の内に思っている。その不安を取る事を許可して頂きたいのです」

「夢……。確かに、見るかも」



 はっきりと夢の内容は覚えていないが、嫌な気分で目が覚める事が多いのも事実。

 いつもはラーゼが作ったあの狼の子供が傍に居る。その子が居る居ないでは、眠りの深さが違うのを実感してきている。



「良ければ私の手を握って下さい。必要なのは、アリサ様自身の魔力。私はその魔力を読み取り、貴方の恐怖を抱いているもの、あらゆる存在を排除しましょう」

「……」



 ゴクリ、と思わず唾を飲み込んだ。

 解放されるかもしれない。もしくは、これを機に少しでも魔族に対しての意識を変われるかも知れないという期待があった。



「お、お願いします……」



 クーヌの手を取り、そこからアリサの魔力を読み取る。

 そこではアリサがこれまで体験してきた事、村での悲劇も含め自身を助けてくれた麗奈とユリウスの姿や行動が走馬灯のように流れ込んでくる。



(アリサ様が寂しがるのも無理ないですね。お優しい2人に出会い、ここまで来たのですから)



 アリサの額に手が置かれ、淡く小さな緑色の光が漏れ始める。

 それらが全身を覆うようにして薄い膜となったのも束の間、すぐに自然と消えていった。どうなったのか知りたいアリサはじっとクーヌの事を見つめる。



「――完了です。今夜はぐっすり眠れるでしょう」

「ありがとう、ございます。クーヌさん」



 えへへ、と晴れやかに笑うアリサにクーヌも嬉しそうに頷いた。

 その時、バンッ!! と大きな音を立てて扉が開けられた。ビックリしたアリサは、体が硬直していたがクーヌは(ヤバい)と本能的に察する。



「クーヌ!!」

「坊ちゃ――ぐえええっ!!!」



 大砲のように突撃するディークにどうにか返事をした。



「遅い!! お腹減ってたんだけどー」

「や、夜食を……お持ちしました」

「流石じゃん♪」

「喜んで頂けたのなら、良かったです……うぐぅ……」



 ドーナッツを食べるディークに、クーヌはそう答えつつ気絶。

 呆れるミリーは思わず「倒してどうする」と言っているが、ディークは聞こえていないのかキョトンとなる。



「あ、あわわわ、クーヌさん!!!」

「平気だ。これ位では死なないから」

「そ、そういう問題なんですか!?」



 青ざめるアリサはギリムによって助け出されており、そのまま部屋を出ていき寝室へと送る。クーヌの事が気になるアリサは当然眠れる訳もなく、ギリムが強制的に魔法で寝かせる形をとった。

 翌日、ラーゼがアリサを起こしに行くと目覚めが良いのかスッキリとした様子で居る。その変化にクーヌが関わったのをすぐに察した。


 だが、起きてすぐに涙目になるアリサに驚いていると昨晩何が起きたのかと詳細に聞き、2人で見に行くと言うドタバタとした朝を迎える事となったのだ。

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