第343話:魔王達との協定
「武彦さん、無事でよかったよ」
「すまないね、心配かけちゃって」
ベットに横たわる武彦だったが、フリーゲの報告から軽い打撲で済んでいるという。
ヘルスが酷い所を先に治したのも大きいだろうとも言われ、思わず体が動いたからだと言った。
「それでヘルス君。飛び込んできた彼は一体何者なんだい?」
「あぁ、それは……。ランセと同じ魔王らしくて」
「ランセ君と同じなのかい?」
「敵対の意思はない、と同じ魔王のミリーさんの弟さんから話は聞いています」
「そう。君も仕事があるだろう? 私の事は清が見てくれるから大丈夫だ」
「はい。そうしますね」
『主様を傷付けた魔王、絶対に許さないっ』
怒りに燃える清だが、今は武彦の状態を安定に向かう為だからと抑えている。
武彦に撫でられて満足気になりつつも、尻尾は怒りに向いているのかかなり逆立っている。ヘルスは清に任せて、イーナスが居る応接間へと急ぐ。
「すみませんでした。お待たせして」
「いえ。こちらが迷惑をかけてしまったので」
ヘルスにそう丁寧に対応した青年は、キリッとした軍服に近い服を纏い立っていた。
イーナスは何度か座るように伝えるも、彼はなかなか座らないでいたという。
「えっと、理由を聞いても?」
「姉様と同じ魔王であるリザーク様の行動は、そのまま我々への評価に繋がります。魔界は土地が広い場所も多く、これまであの方が暴れようとも気にしていませんでした。が、人間社会ではそうはいきません。多くの国がに密集しているだけでなく、集落なども多いと聞きます。魔界と同じ行動をここでもされたのです。……止める手立てを作らなかった我々の落ち度、と認識しております」
思わずヘルスとイーナスは顔を見合わせた。
確かにハルヒ達から魔界の広さについては聞いていた。その内側とされる自分達の国もなかなかに広いと思っていたが魔界はそれ以上なのだと思わされる。
その後、リザークの行動原理を説明されても上手く処理が出来なかった。
暴れたいから暴れる。それが出来るだけの広さが魔界にあり、そして焦土と化しても平気だったのはその環境でも生きられる生物が居るからだ。
だが、人間はそうはいかない。
それを放置して来た自分達も同罪だと言わんばかりに、彼は反省の為にずっと立っていたのだと言う。
「言いたい事は分かりました。でも、被害は軽度で済みました。知人も無事の確認も取れています。それでもまだ許せない、と?」
「中には許さない者も居るでしょう」
「そうですね。私達の国は、結界が強くその魔王の攻撃にも耐えれたが他はそうはいかない……。これからの為にも、話し合いをしたいと思いますのでどうぞ座って下さい」
「……。では、そうさせて頂きます」
少し考えた後、彼はすぐに着席した。
短い紅い髪に、黒と紫色の瞳を持つ魔族の男性の名はレファル。魔王ミリーの弟であり、彼の他にも部下が何名か派遣されていると聞く。
「姉からは、この国の結界の修復と被害報告。足りない物があればなんでも要請して欲しい、と命を受けています」
「……結界の修復は既にしていますし、足りない物は今の所ないですよ。魔王が落ちた場所も、森であった事から王都への被害もなかったので」
「そう、ですか……」
出来る事はないと伝えると、声色からシュンとしているのが分かる。
仕事が好きなのかな、と思うヘルスは彼に質問をした。
「でしたら話をしましょう。貴方の姉について……。魔王、なんですよね?」
「姉様の素晴らしさならお任せくださいっ!!」
話題を変えようとしたまでは良かった。が、ヘルスとイーナスは知らなかった。
弟であるレファルは、シスコンである事を――。
その後、ミリーの部下達が止めに入るまで3時間。ほぼノンストップで魅力を伝えるレファルに、家族が好きな人なんだと2人は割り切る事にした。
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一方でリザークの特攻により、城の一部破壊が起きたダリューセク。しかし、ギリムの魔法により元に戻った。
それでも被害が全くのゼロなのかとセレーネは確認を急がせた。確認が取れたのか、安堵した様子のセレーネにハルヒ達もホッとする。一方のリザークは、ギリムとミリーに怒られた事で反省しているのかしょんぼりとしていた。
「く、俺はただランセに会おうとしただけなのに」
「避けているのに迷惑です」
「うぐぅ……」
バッサリと言い切るランセにリザークは悔し気にしている。
ゆきがランセを除く魔王達を見て、仲が良いのかなと思っている。その視線に気付いたディークがキョトンと見つめ返す。
「どうしたの?」
「あ、いえ……」
「そうそう。前に言ったと思うけど、僕がここに空中に現れたのは主にあの人の所為ね。さっきの見たでしょ? 暴れるから、それを止めるのに大変なの」
「ディークは何もしてないだろ」
「いてっ……」
パシッ、とミリーがディークの頭を軽く叩いた。
暴れん坊であるリザークが大人しいのも、ギリムとミリーという2人が居るからこそだろう。ギリムも面倒見のいい魔王だと感じたのも、ミリーという妻が居るからかなぁと思い、ゆきは微笑ましく見ている。
「あの良かったらどうぞ」
そう言ってゆきがディークに渡したのは、用意されていたお菓子だ。
咲の好きな物でもあるマフィンだ。甘い物が好きなディークはすぐに食いついた。
「良いのっ⁉」
「ディーク君のお陰で被害が抑えられてるし、今度アレンジしようかと思ってて」
「ももっ、ふももっ、ふぉふぉ」
「本当に好きなんだね、甘い物……」
食べながら話を聞くディークの笑顔を見たハルヒは思わずそう言った。
咲も不思議とディークには物を渡したい衝動に駆られるのだとか。
「……。魔王として良いのか、それ」
「愛嬌があるって言って欲しいな」
ドヤ顔のディークに、ミリーはもうツッコむのを止めてギリムへと確認を取る。
「前に言っていた、人間の国との協定すると言う話はどうなっているんだ?」
「これから話そうと思っていたんだ。その前にリザークが来たのがいけない」
「成程、そういう事か」
「俺で遊んでないだろうなっ!?」
リザークは暴れようとするのを、ランセが睨みを効かせて大人しくさせる。
この関係を見たハルヒは、ディークを末っ子。リザークを暴れん坊の3男としランセを長男としたら魔王達を家族のような構成にすると面白いな、と密かに思った。
そうこうしている内、セレーネはギリムからの提案である協定を受け入れる形になった。
麗奈とユリウスを探すのも含め、彼女は魔王サスクールが去っただけでは不安は取り除かれないと感じていた。
その予感は正しく、ギリムから神殺しの件を話された。
創造主の死は、自分達の死を意味する。
そんな話を聞かされ、セレーネは咲が巻き込まれてしまうのを申し訳なく思う。しかし、サポートすると決めたからには最後まで付き合う気でいる。
その後、ダリューセクを含めたラーグルング国、ディバーレル国、ニチリの3国も正式に魔界を治める魔王達との協定を結ぶ事になった。
「む、それでは俺が暴れらないではないかっ」
「次にやったら、リザークの国の半分を燃やすぞ」
「そうなる前にギリムを倒せばいい」
「……そう言って、なん百回も挑まれるのも迷惑だ」
頭痛を覚えるように、頭を抱えるギリムに対しリザークは今にも戦闘態勢。
すかさずミリーが「まだ賠償金が全て終わってないのだが?」と、言った瞬間にスッと大人しくなる。これ以上、お金を払うのは嫌だと思ったのかピタリと暴れようなどとは思わなくなった。




