第342話:集う魔王
魔王リザーク。
攻撃魔法に特化した魔王であり、その行動から破壊魔と名付けられている。暴れたい時に暴れるので、その被害はとんでもない。
彼が通った後は焦土と化すのは普通の事。
そう、それが通じるのは魔界だからこそだと彼は知らないでいた。
「ギリムさんから何度も言われてるでしょ!? アンタの行動を容認出来るのは魔界だからだって!!」
「だが精剣は人間が扱う武器の中では、かなり珍しいのだ。力もそれ位強いものが備わってないとおかしいだろう」
「だからって人間社会にまで暴れるなっ!!」
怒りながら指摘するディークに、リザークは不思議な事を言うななどと言っている。
しかし衝突を繰り返しながらも、空気に振動を与え周辺への被害が凄まじいものになっている。ランセが瞬時にダリューセク全体を覆う結界を張る。
「な、何で特攻してるんですか。あの魔王は」
「趣味……みいたいなものだ」
「迷惑な趣味だな!!」
ハルヒの疑問に、苦し紛れに答えるギリム。結界を張りながら、ランセはリザークのある言葉に引っかかっていた。
(魔法国家よりはマシ……。って事は、ダリューセクよりも前にラーグルング国にも行ったのか)
だとするとラーグルング国の被害はどれ程のものになるのか。
いくら結界が強い国とはいえ、相手は魔王な上に攻撃特化。そして、彼の異名が破壊魔とされる所以を知っているランセは思わず聞かずにはいられなかった。
「リザーク。ラーグルング国に行ったようだけど、どれだけの被害を及ぼしたの?」
「軽く突撃して、着地点がズレたからな。国の結界? を管理しているとか言った老いぼれに一撃食らわしたぞ」
「「は……?」」
その瞬間、ランセとディークは怒りに火が付いた。
自分の発言が原因だと分かったリザークだが、何が2人を怒らせているのかが分からない。ギリムは頭に手を置き、小さく「馬鹿め」と言い狙いを定めようとした――が。
「まずは謝れっ!!」
「ぐげっ!!」
リザークの頭上から強烈な蹴りが入った。
ギリムが足場を作るようにして結界を張り、衝突したリザークは軽く目を回す。しかし即座に起き上がりギロリと蹴りを入れた人物を睨む。
「何をするミリー!! いきなりではないかっ」
「普段、自分がしている事と同じ事をしただけだ。これで少しはこっちの気持ちが分かると思ってね」
「うぐぐっ、ギリムもギリムだな。何だこの無駄に硬い結界は」
「そのまま落ちてきたら城が壊れる。防ぐのは当たり前だ」
パチン、とギリムが指を鳴らせばリザークによって破壊された部屋や物が元に戻っていく。
部屋が完全に元に戻る前にとリザークを蹴った女性は、急いで降りて来る。
「同じ魔王の者が申し訳ない事をした。魔界で許しているのを人間社会にでも通じるとでも思ったんだろう。あとできっちりと言い聞かせておく。だからディーク、ランセ。殺気は抑えろ」
「しかし……」
「ラーグルング国での被害から心配は無用だ。ウチの弟を行かせているし、部下達の協力もある。ウチのが優秀なのはお前も知っているだろ?」
「……そう、ですね」
そう説明され、ランセは纏う雰囲気をいつもの穏やかなものへと戻す。しかし、ディークは情報が入って来ないのは不安だと察しすぐにヌークへと確認に行かせる。
「ヌーク。僕に言ってない事あるでしょ?」
「……ギ、ギリム様から言われまして。すみません」
「ギリムさんも余計な事言わないでよー」
「次から気を付ける」
覚えがあるヌークはすぐに謝りつつ、ディークの機嫌を損ねない為にとラーグルング国へ急行。
ヌークを行かせた事で気持ちに一区切りをつけたディークは、剣を収めつつギリムの事を軽く睨んだ。
「来るなら来るって僕にも連絡が欲しかった……」
「正直、こんなに早く来るとは思わなかったんだ。次から伝えるよう気を付ける」
「急ぐに決まっているだろう。久々に夫からの呼び出しだ」
「夫っ!?」
あっけらかんと答えた女性に、思わずハルヒ達がギリムを見ながら同じ反応をした。
肩まで切り揃えられた紅い髪と紫色の瞳。そして黒のドレスを基調とした抜群のプロポーションの女性が、魔王の1人であるミリーだとギリムから紹介される。
思わず本当なのか、とランセに視線を合わせると彼はすぐに答えてくれる。
「そうだよ。ギリムとミリーは夫婦で、最強格の魔王だよ」
「え、じゃあラーゼさんってミリーさんとの?」
「いいや。ラーゼは最初の妻と出来た子だ」
「……へ?」
ハルヒ達が思わず目を丸くすると、説明忘れに気付いたギリムが恥ずかしそうにしている。
最初の妻、と言ったのでミリーは2番目になる。
そして、ラーゼは人間と魔族との子である事も伝えられ既に母親が居ない事も伝えた。
「人間と魔族とのハーフだが、ラーゼは余の魔力を強く受け継いでいるからな。今朝、リザークを追い出したのも見た」
「んなっ!? ギリム、居たのなら何でそのままにしておいたっ」
「騒がしいからに決まっているだろう。余が出る前にラーゼが対処した。余が出なくて良いなら楽が出来る」
「むむっ、楽を覚えても意味はないぞ」
「リザーク、まずは謝れ。ギリムが直したとはいえ、迷惑を掛けたのは事実だろ」
「うぐ……」
ギリムとミリーの睨みに、リザークは冷や汗を流しつつすぐに謝った。
こうしている内、ハルヒは密かに思った。
いつの間にか、魔王が集合しているの、と。
その後、ヌークからの報告によりラーグルング国への被害は軽くで済んだ事。リザークが一撃を喰らわされたとされる武彦も、ミリーの弟の働きや部下達のお陰で大事に至らなかった事と聞き、ディークとハルヒ、ゆきは安堵の息を吐いたのだった。




