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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第341話:少女ととある魔族の交流


「今日はよく眠れそう?」

「んー……前よりは、かな」



 ピンクのふんわりとしたワンピース型のパジャマを着たアリサが、ギリムの息子であるラーゼと話す。そんな2人の間には、ラーゼが影の魔法で作った子供の狼が見守るようにしている。

 


「クゥン……」

「うん。この子が居るから寝心地は良いよ」

「ウワンっ!!」



 心配そうに見ていたが、アリサが抱き抱えた途端に嬉しそうに尻尾を振る。

 かなり嬉しいのだろう。ペロペロとアリサを慰めるようにして舐めていると、途端に殺気に似たものを感じてピタリと止まる。


 不思議そうにするアリサは、お返しとばかりに頭と背中を撫でる。

 ラーゼが密かに睨み付けているのだが、それを感じ取ったのは彼に作られたからこそ。ラーゼ自身もよくないと思いつつも、自分よりも好かれているのを見てイライラしてしまったと反省する。


 不眠症になっているアリサをどうにか治そうとしているゆきからの相談であり、その原因は誰の目から見ても明らか。麗奈とユリウスの2人が居ない事での不安の日々に、アリサ自身も気付かない内に疲弊している。

 不安に思うからこそ何か行動を起こして気を紛らわせたい。

 麗奈のしていたお菓子作りを懸命にするのも、忘れたくないという思いが強いからだとギリムから聞いてはいた。

 

 ラーゼは少しでもこの不安の解消になるように、とアリサに護衛兼ペットとして自身が作った影の狼を傍に置いている。そして、彼自身もアリサが寝る前に調子を聞き少しでも彼女の不安を取り除けるようにと動いていた。



「あぁ、ここにおられましたか。アリサ様」

「あ、クーヌさん。……そのフワフワしたのは一体?」

「肌触りもよくフワフワとした感触で、心地の良い夢を……と思いましたが、狼に睨まれましたね」

「ウウゥ……!!!」



 警戒を強めるように唸る狼に、クーヌはしまったと失敗に気付く。

 ラーゼは彼に相談をしていた為、彼なりに安眠が出来る物をと用意したが逆に対抗心をつけてしまったらしい。

 要らないとばかりに唸り続けてしまい、持っていた綿毛の枕をさっと背に隠す。見えなくなった事で、嬉しそうにアリサにすり寄るので2人はこの案はダメだとすぐに察する。

 


「自分がそのフワフワ担当だから、それでやるな……って感じに思えるね」

「そのようですね。……ですが、裏を返せばラーゼ様の思いが具現化――失礼」



 ニコリ、とクーヌに笑顔を向けるラーゼだがその雰囲気からは「それ以上、言うな」と圧を感じすぐに謝罪をした。密かに冷や汗を流しているので、流石は魔王の息子だと思いさっと顔を逸らす。



「ラーゼお兄ちゃん? この子と同じで何で睨んでるの?」

「何でもないよ。ただこの羊のお兄さんが余計な事を言ったから、ちょっと注意しただけ」

「はははは、申し訳ない」



 未だに低く唸る狼の様子と、ラーゼの雰囲気が似ていると感じたアリサは思わず聞いた。だが、声を掛けられた瞬間に纏う雰囲気がすぐに柔らかくなる。しばらくの間、自身の毛並みを使いアリサを癒したからか彼女はウトウトとし始める。



「ワゥ、ワフゥ」

「んー。そうだね、眠く……なってきた」

「っと。だからと言って立ったままなのは危ないから、部屋まで送るよ」

「うん……。ごめん、なさい」



 そう言いながらもアリサは既にフラフラしている。

 ぽすっ、ラーゼに寄り掛かるようにして倒れるアリサにしょうがないという表情をしながらも何だか嬉しそうにしている。

 それを横目に見ながら、クーヌは静かにラーゼへと問う。



「必要であれば、私の魔法でどうにか出来ると思いますが……」

「それは最終手段に、かな。意思表示は必要な魔法だから、この子の意思を尊重したい。それに同じ属性だから、変に結びついちゃうと依存しちゃう点もある。もう少しだけ待っていて欲しい」

「坊ちゃんからの許可は得ております。念のため、ギリム様にも事情を話し終えておりますので」

「だとしてもね。彼女は魔族に恐怖心を持っている……。今、こうして無防備な姿を見せてくれる位には信頼してくれている、そう受け取るよ」



 だから、この信頼関係を崩したくない。

 ラーゼの表情からそう読み取れたクーヌは、それ以上は何も言わずに頷くだけにした。

 こう決意したからには、ラーゼが折れる事は殆どない。今は少しでも、安眠出来るようにと手伝える位だ。

 アリサが無意識の内に、ラーゼの事をギュっと握っている。離れて欲しくないのか、夢でも見ているのか彼の名前を呼んでいる。微笑ましい光景に、クーヌは焦り過ぎるのも良くないと学びアリサを寝かせる。


 その翌朝の事。

 ラーゼはある魔力を感知した。父のギリムと同じく濃い魔力。これが何を意味するのか、何を指すのかが分かるからこそすぐに動く。



(相変わらず、あの人はいきなり来るな……)



 それが来るのはいつも突然。何の前触れもなく、いきなりだ。

 父ギリムが簡単に対応しているのは、その存在は彼と同じ()()だから。



「っ!? 珍しいな、お前が対応するのか」

「悪いですが、今日も特攻なんてしないで下さい。被害が酷いのは知らないんですか?」

「知っているが、仕方ないだろう。暴れたい時に暴れたいのが俺だ」

「それが迷惑だって言ってるんですよ」

「それに懐かしい魔力が居るのも分かるぞ。ランセが居るんだろう? だったら再会したいのが普通だ」

「……彼は貴方には会いたくないと思います」

「これまたはっきりと言うな。――通さない気か?」

「すみませんが、そうです。今日も帰って下さい」



 ニヤリ、と面白いとそう目が語っている。その瞬間、互いに魔法を放った。気の抜けない攻防にラーゼは集中を崩さないでいる。

 相手はギリムと同じ魔王であり、攻撃特化だ。守りに徹しているラーゼだったが、ふとある声が耳に聞こえた。



「ラーゼ、お兄ちゃん……? 何処?」

「っ……!!」



 アリサの声が聞こえた。

 ラーゼは殆ど反射だったとはいえ、魔王であるリザークに瞬時に詰め寄り思い切り投げ飛ばした。追撃にとばかりに攻撃力が強い魔法を何発か放つ。

 大きな爆発が起きるが、ラーゼはすぐに声のした方へと向かう。



(居た……!! 影を使って移動をしたのかっ)



 そこには眠そうに目をこするアリサがおり、髪が少しボサボサになっている。

 急いで向かいながら、息を整えいつものように優しく声を掛けた。



「アリサ。どうしたの、こんなに朝早くに」

「んー……隣に居なかったし、この子が寂しそうにしてたから……」



 そう言いながら差し出したのは、ラーゼが作った影の狼。だが、ぐっすりと眠っており起きているようには見えない。



「ふふっ、そうなんだ。寂しい思いをさせて悪かったね」

「ラーゼお兄ちゃんは何してたの?」

「ただの散歩だよ。珍しいのが居たからちょっと相手をしてた」 

「ん。アリサも散歩したい」

「歩いてて怪我をするといけないから、空の散歩でも良い?」

「お願いします」



 とてとて、と少し寝ぼけているがラーゼの方へと飛び込む。

 しっかりと受け止めた彼は、アリサを抱えて飛び共に朝日を見る。太陽の眩しさに目をこすりながらも、ゼーレをぎゅっと抱きしめる。

 ポン、と頭を撫でればアリサは嬉しそうに頬を染める。



「ラーゼお兄ちゃんの撫で方好き。ママとパパの事、思い出すし気持ちが良いの」

「それは良かった。じゃあ、もう少し空中散歩を楽しみながら屋敷に戻ろうか」

「はーい」



(咄嗟とはいえ魔王であるリザーク様への攻撃が容赦ない。……いや、坊ちゃんも同じような事はするでしょうが)



 クーヌはディークの世話係である為に、いつも早起きだ。なのでさっきの攻防を見ており、ラーゼの潜在能力の高さを見て驚くばかり。そんな彼の背後にギリムが「何か楽しい事でもあったのか」と優し気に聞く。



「あ、いえ……その」

「リザークの気配を感じたんだが、ラーゼが対処したのか。ん? あの子と一緒なのか」

「は、はぁ……。よく眠れない日が続いている、との事でして」

「あまり焦らせるのも悪いだろう。リザークには後で言っておく。突然来て暴れていくな、とな」

「申し訳ないです」

「それにそろそろあの2人にも協力を要請するかも知れないしな」 

「――え?」



 ギリムの呟きに思わず聞き返すが、彼からは「まだ秘密にしておいてくれ」と言われてしまいディークに言えずに終わる。

 そして、その日の昼頃にダリューセクへと突っ込んでいくという事件が起きてしまいディークにその辺の事を問いただされるのだが……この時のクーヌはまだそうなるとは知らないでいた。

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